第十話:決闘
結局、エリシアはどこかに行ったまま、朝になっても帰らなかった。
恐らく、俺に会わないためだろう。
・・・もうすぐ試合だ。
俺は、<アウロラ>、<シルフィード>、<アイテール>を装備し、
広いとは言えない控え室の天井を見上げ、立ち上がった。
何の為に戦うのが正しいのか?
結局、答えは見つからなかった。
「さぁて!交流戦、個人戦部門もついに準決勝!
なんと!両者皇国出身にして、兄妹対決!
まずは、貴公子とエルフを退けた銀の雷!
アルネア――ッ、フォ――ラスブルグゥ――ッ!」
俺が入場し、会場に歓声が轟く。
だが、俺は反対側の入り口を見据えた。
「ここまでの試合は全て瞬殺!焔翼の魔術士!
エリシアァァ―――――、フォ――ラスブルグゥ――ッ!」
白い髪に赤い瞳のエリシアが入場した。
ある程度の距離をとり、フィールドの真ん中で向かい合った。
・・・話しかけたかったが、おそらくは無駄なことなのだろう。
エリシアの何も浮かべてはいない瞳と目を合わせ、開始の合図を待った。
「両者、構え!」
俺は、<アウロラ>と<シルフィード>抜き、構えた。
・・・あ、シルフに何も言ってないじゃん・・・
『シルフ、ちょっといいか?』
『・・・大丈夫ですよ、聞いていました』
『・・・なにゆえ?』
『エリシアさんは魔声を使っていましたから。魔力の刺激で起きました。
ご存知でしょうが、決闘に召還は違反ですからね』
『・・・ああ』
『・・・私は何も言えませんが、勝てばいいんじゃないですか?』
『・・・そうだな』
「――――試合、開始!」
――――魔力全開。
『<サンダーボルト!>』
『撹乱結界、<蜃気楼>』
俺の手から銀の雷が放たれるが、エリシアの姿がゆがみ、消えた。
――――んな!?
俺は、咄嗟に魔力探知と視覚の両方でエリシアを探すが――――
――――バキッ
「――――ガハッ!?」
――――ガキィィィン!
突如、目の前に現れたエリシアに腹を思い切り蹴飛ばされ、
一気に端まで吹き飛ばされ、結界に弾かれ、落ちた。
『・・・そんなものですか?死にますよ?』
剣すら抜いていないエリシアが冷たく言い放つ。
速い・・・ノエルよりも。
無詠唱リヴァイブで一気に治癒しつつ、俺は立ち上がった。
『まだだ・・・地を駆けろ雷!<アース・サンダークラッシュ!>』
俺は<アウロラ>を地面に突き刺し、そこから一気に銀の雷が会場中の地面を駆ける。
『燃えろ、<ヴォルケイン!>』
エリシアが手を振ると、一気に白い溶岩が噴出し、雷を飲み込む。
・・・白い溶岩って何だよ。
溶岩の勢いは一向に衰えず、一気にこちらに押し寄せる。
『風巻け疾風、奏でるは破壊の唄!<ハリケーン!>』
竜巻が溶岩を巻き込みつつ、一気に―――――
――――ガキィィン!
再び、エリシアが気配を消して、今度は右から接近し、
今度は<エルディル>で突きを放ってきていた。
俺は、なんとか察知し、<アウロラ>で切り払った。
そして、<シルフィード>で反撃――――
――――エリシアに斬り付けるのか?
――――手を抜けば死ぬぞ。竜族が魂を賭けて挑んだ決闘を侮辱するのは許されない。
――――それでも、俺は―――ッ!
俺は、シルフィードの腹で打撃を放った。
が、エリシアは魔力を纏った拳で迎撃する。
―――――ガキィィン!
「―――――ぐっ!?」
俺の左手が痺れ、<シルフィード>は、壁際まで弾き飛ばされる。
『アルネア・フォーラスブルグ・・・!
貴方は私如きに本気を出す気はないと?
私にそんな価値などないと言うのですか・・・!?』
『うるさい馬鹿!本気で戦えると思ったほうが馬鹿にしてるな!
勝てばいいんだろ!勝手にやらせろ!』
『・・・そうですか、なら本気でなくば、今度こそ死にますよ』
『全く本気じゃないエリシアには言われたくないな!』
『・・・<エナジーブラスト!>』
『――――!?<サンダーブラスト!>』
エリシアの手が白く輝き、純粋な魔力の塊が放たれた。
俺のサンダーブラストを一瞬で飲み込み―――
――――ドガァァァァン!
「――――うぐっ!?」
俺の腹に直撃し、俺は、再び結界まで吹き飛ばされた。
「――――ガハッ」
内臓がやられたのか、口から血が飛び出した。
俺は、なんとか無詠唱リヴァイブで回復を図るが、
エリシアが膨大な魔力を集めていた。
『全てを滅し、全てを生み出す始祖の焔、此処に顕現せよ!<イクリプス!>』
エリシアの前に、ありえない魔力の塊が出現し、こちらに物凄い勢いで向かってきた。
あんなのが直撃すれば、跡形も無く消し飛ぶだろう。
『我が盟約の剣よ!銀雷によりて、天翔ける雷となり――――』
『虚空を切り裂け!< 四源の雷砲!>』
俺は、咄嗟に<アイテール>も抜き、一気に三つの<サーマルブラスト>を発動させた。
『<ヴォルカニック・アロー!>』
――――――ドガァァァァン!
俺は、再び壁に叩きつけられた。
息が詰まる。
・・・腹が熱い。
左手の感覚が無かった。
術同士の激突で押し負けて吹き飛ばされ、
エリシアが時間差で放った、焔の矢を防げず、俺の腹に風穴が開いていた。
だが、まだ・・・まだ、まだ戦える・・・
試合を止められては敵わない、見かけだけ完全に傷を治癒する。
立ち上がるのもままならないが、絶対に諦めたくなかった。
が、エリシアが再び魔力を集めていた。
このままだと、これの繰り返しで負ける・・・
幸い、剣は3つとも俺のすぐ近くに落ちていた。
辛うじて動くまでに回復した左手も使って、集めた。
『―――――ッ、<イクリプスッ!>』
どこか苦しそうなエリシアの声が聞こえた。
眩い白い焔が見えた。
こんな左腕じゃあ、<サーマルブラスト>は使えない。
なにか、手はないか・・・
――――ない。このままだと死ぬ。
――――なんだ?全てを守るのではなかったのか?
――――・・・俺が間違ってたよ。結局、俺は自分のことしか考えてなかった。
自分が傷つきたくなかったんだ。
――――そうか、ならどうするのだ?諦めるのか?
――――俺は・・・すぐには無理かもしれないけど、きっと俺自身も・・・
――――なら、この決闘は負けられないな?
私が力を貸しても微妙だろうが、特別サービスだ。
貴様の魂とあの者の魂。どちらが強固なものか見せてみろ・・・!
コロシアムに極光が煌き、俺は、再び立ち上がった。