第六話:馬鹿は治癒魔法でも治せない
俺たち、個人戦に出るラルハイト校の生徒は、学園長に集められていた。
A~Dブロックのどれかによって、大分時間が違うために、
どのブロックかは発表されるが、誰と戦うかは直前発表という面倒なシステムのせいだ。
なんでも、対策が練りにくいように、とのこと。
ならブロックも直前に発表しろよって感じだが、
お目当ての選手の時間がしりたい貴族に、昔ねじ込まれたらしい。
やれやれだ。
「第一回戦の相手がケイネスだと!?」
俺は思わず叫んでしまった。
「ああ、そうだ。何かあったのか?」
不思議そうな学園長に事情を説明。
「・・・ちっ、グノーシアめ、なんて馬鹿息子だ。私があとで圧力をかけておく!」
が、学園長!かっこいいよ!
・・・ん?共和国議長に圧力?何者だよ!?
「学園長先生・・・おねがいします」
エリシアがなんか憔悴してた。
・・・まさか、ケイネスに絡まれたのか?
「・・・悪い奴じゃないのかもしれんが、面倒すぎる!
というかエリシア、奴に遭ったのか?」(これは誤字ではありません)
「・・・私のほうが相応しいんだとか、よく分からなかったです・・・」
・・・奴の相手は疲れるよな。
「ちっ、悪いなエリシア・・・あの程度じゃ止まらなかったか・・・」
「おい、アルネア。お前ケイネスとやらに何かしたのか?」
学園長が不穏な響きを聞きつけたのか、聞いてきた。
「まぁ、エリシアに相手がいるということにすれば止まるかなー、と。」
「・・・まさか、大丈夫だと思うが、押し付けてないよな?」
学園長、俺はそんなに無責任じゃないですよ・・・
「無難に俺が相手ということに」
「え!?」
エリシアが驚いて顔を上げた。
「いや、少しはマシになるかと思ったから、エリシアは俺のということにしてしまった。
悪いな。全く効果なかったみたいだ。」
いやー。怒られるかな?
エリシアが真っ赤だ。
怒ってるんじゃなく、恥ずかしがってることを祈っておこう。
「・・・アル、せきにんとってください」
「おう、任せとけ!必ず勝って諦めさせてみせる!」
「・・・ぐすっ」
「アルネア、お前馬鹿か?」
学園長に呆れた目で見られた。
黙って聞いてたリリーも呆れ顔だ。
何ゆえ!?ちゃんと責任とって勝つってば。
・・・完全には治癒させてないしな。
待てよ、そんだけ金持ちなら専属治癒術士とかいそうだな。
「・・まぁいい。アルネア、時間だ、そろそろ行け」
「了解です。んじゃ、エリシア、行ってくる」
「アル・・・勝ってください」
「お兄ちゃん、叩きのめしてあげなさい!」
「おう!」
「さーて、始まりました三国同盟、魔法学校交流大会!
実況・解説は、共和国立・エディメア校3年のリーザス・グレイサスです!」
コロシアムに魔法で拡声した実況が響く。
―――わぁぁぁぁっ
・・・観客はノリノリだ。
はぁ、気が重い。
「さぁぁて!Aブロック初戦を飾りますは―――――――
共和国の貴公子!ケイネェェェス!グノォーーーシア!」
「「「ケイネス様――――!」」」
すごい歓声だな。
ま、うらやましくも無いが。
「対するは、実力未知数!皇国筆頭十二貴族の次男にして、
ラルハイト校最強とも言われる白き雷!
アルネアーーーー!フォーーーラスブルグ!」
「「「「アルーーーー頑張れーーーー!」」」」
・・・みんなが声援をくれた。
・・・すごく嬉しかった。
「さぁーーーて!?両選手、なにかコメントはありますか!?」
実況者はそういって、俺たちに拡声魔法をかける。
―――!?なんて面倒なことを!?
案の定、ケイネスが口を開く。
「アルネア殿、確かに私が間違っていた。この交流戦で貴公に勝てばいいのだ!
私が勝って、エリシアさんは私が貰う!」
「「「け、ケイネス様―――!?」」」
観客の悲鳴がハンパじゃない。
「・・・いい加減にその口を閉じろ・・・エリシアの相手はエリシアが決める!
しつこいんだよ、お前は!」
「・・・確かにそうだ。だが、私の恋は止められんのだ!」
「おおっと!?まさかの色恋沙汰だぁぁぁ!?
あの貴公子が!信じられません!では、両選手、構え!」
実況が、横からせっつかれて構えの指示をようやく出した。
俺は、<アウロラ>と<シルフィード>を抜く。
ケイネスは精霊剣の大剣を両手で構えた。
一気に魔力の熱が発生する。
――――<火>系統か!
確かに、コイツ無駄に暑苦しいしな。
「――――――試合、開始!」
―――――魔力、全開!
『我と契約せし風の精霊よ!我が魔力を糧に顕現せよ!』
「我が麗しの運命の女神よ!我が魔力によりて顕現せよ!」
『<シルフィード!>』
「<アトロポス!>」
『シルフ!』
『はい、サクっといっちゃいましょう♪』
「いくぞアトロポス!絶対に勝つ!」
『ふふっ、すべては運命しだいですから。勝てないかもしれないですよ?』
・・・お互いに雰囲気ぶち壊しそうな精霊だった。
が、絶対に負けられないので、消耗は考えない。
シルフィードは完全に実体化し、アトロポスは8割程度。
アポトロスは黒髪に碧眼の美女だった。
・・・シルフィードは迷宮から開放されてから殆ど日数が経ってないため、
魔力の絶対量が少なく、完全に実体化していても、勝てるかは分からない。
『引き付けるは不可視の力!<マグネティション!>』
「紅蓮よ、大地を赤く染めよ!<ヴォルケイティア!>」
俺は砂鉄を集め、
ケイネスが手を振り、一気にケイネスの前から溶岩の波が飛び出す!
『<ストーム・ディフェンサー>、発動です。駆け込みはおやめください♪』
暴風の壁が溶岩を弾く!
俺は砂鉄を上空に集め――――
『集いし鋼鉄の欠片よ!銀雷により弾丸と化せ!<四源の雷砲!>』
銀の隕石と化して襲い掛かる!
『灼熱の運命より、汝、逃れえぬ。消滅せよ!<ヴァニッシュフレア!>』
アトロポスの手から凄まじい熱の塊が飛び出し、一瞬で砂鉄を溶かす!
その間に、ケイネスが突っ込んで来た。
「はぁぁぁっ!我が剣を受けろ!<スマッシュ・ブレイク!>」
ケイネスが剣技を発動し、高速で突っ込んでくる
俺は、<アウロラ>で迎え撃った。
『雷剣!<スタンブレイカー!>』
――――ガキィィン!
「―――――ぐぅぅっ!」
「―――――ぐぁぁっ!」
俺は、凄まじい衝撃に顔をゆがめ、
ケイネスは剣の電流に身を焼かれた。
一瞬で離れたが、今のは有効打だったはずだ。
が、ケイネスが再び打ちかかってくる
「うおおっ、<ディスティア・スラッシュ!>」
「風巻け烈風!<風車!>」
ケイネスの剣が凄まじい輝きを放つが、遅い!
俺は、その場で回転切りを放ち、それと同期してカマイタチが放たれる。
―――――ガガガガガキィィィン!
咄嗟に大剣を盾にしたケイネスが弾き飛ばされ、
およそ50メートル吹っ飛び、
ステージ端の壁に激突する。
「――――がはっ!」
シルフが上空で相手の精霊を抑えてくれている。好機!
『天空の神の怒りをその身に受けよ―――!』
『我が剣よ!銀雷によりその身を弾丸と化せぇ―――ッ!』
『<サンダーブラスター!>』
『<銀雷纏いし四源の雷砲!>』
俺の左手から雷のレーザーが飛び出し、
<アウロラ>が流星と化して襲い掛かる!
―――――ズガァァァァン!
ケイネスは煙に埋もれて見えない!
「おおっと!?なんということだ!?もう決着か!?」
実況者はそう言うが・・・まだだ!
『我が風の盟約の剣よ!銀雷によりて、天翔ける雷となり――――』
『虚空を切り裂け!< 疾風を司る四源の雷砲!>』
『――――ケイネスッ!』
アトロポスの悲鳴が聞こえた。
――――――ズガァァァン!
シルフの猛攻を防がず、左腕を犠牲にしたアポトロスが割って入った。
――――くそっ!?やりにくい!
『乱れ飛ぶ雷の矢!<ガトリング・サンダーアロー!>』
俺の手から計48発の雷の矢が放たれ、砂煙を切り裂き、爆発させる。
「な、なんという猛攻だぁぁ!?貴公子は無事なのか!?」
『其は風の旋律――ここに顕現し全てをなぎ払え!<テンペスティア!>』
シルフが駄目押しで竜巻を叩き込む。
――――が、
『―――精霊憑依』
ケイネスがいた場所から金と赤の光が放たれ、
竜巻を弾き飛ばした。
――――ッ!?
ケイネスが凄まじい速度で突っ込んでくる!?
俺は、咄嗟に<アイテール>で迎撃する――――。
――――ガキィィン!キィィン!カァァン!
凄まじい勢いで連続攻撃を放つケイネス。
魔力装甲が凄まじい光を放つ――――。
――――ダメだ!?コレじゃあ攻撃が通らない!?
いくらなんでもおかしい!力と魔力が強過ぎる!
それに・・・斬撃が単調すぎる!?
『ご主人様!その人と精霊は暴走しています!』
『暴走だと!?』
『体のダメージを無視して憑依し続けます!死ぬまで止まりません!』
――――馬鹿野郎!?くそっ、なんて危ないことしやがる!
『止める方法は!?』
『気絶させるか、契約具の破壊、もしくは浄化です!』
こんな剣を破壊するのは無理だ!
つまり気絶!くそっ、無茶振りだ!
『こっちも憑依するか!?』
『ダメです!マナの暴走に巻き込まれます!』
――――――ガキィィィン!
凄まじい一撃が襲い、なんとか防ぐが、骨が折れそうだ!
シルフが詠唱を始める。
俺は、無詠唱マグネティションで<シルフィード>を引き寄せ―――
――――ギィィィィィン!
――――やはり貫けない!?
背後から当てるが、効かない。
『グガァァァ!』
――――ドガッ
「がはっ!?」
――――ズガァァァン!
俺は、ケイネスの蹴りで弾き飛ばされ、咄嗟に後ろに跳んだが、壁にあたった。
ケイネスが追い討ちをかけようと―――――
『破滅の風!<イリフィーディア!>』
詠唱していたシルフの術が発動。
上空から超高密度圧縮をかけられた風の砲弾がケイネスに――――
―――――ドガァァァァァァァン!
客席の前に張られたバリアが歪むほどの衝撃が発生した。
――――だが、
『グガァアァァ!』
ケイネスはまだ立っていた。
『そんな!?このままでは・・・!』
――――くそっ!
俺は、あることを思い出した。
――――空気がキレイになる。状態異常回復ができそうだな。
――――くそっ!一か八かだ!
俺は、<アイテール>に魔力を込める!
『紺碧の空に瞬け銀光!貫け銀雷!清浄なる大気の輝きによりて、邪悪を祓え!
<アイティール・サーマルブラスト!>』
雷を流すと、<アイテール>は一気に刀身が魔力―――――
いや、マナで包まれ、さらにそのマナが拡張することで光線剣のようになる!
刀身は伸びていないが、マナがダメージを与えるため、これなら長い刀身と同じ―――。
「うぉぉぉぉっ!」
<アイテール>は銀の閃光となってケイネスに突き進む。
―――――ガキィィィン!
『グガァァアァァ!』
『そんな!?受け止めるのですか!?』
ケイネスは、なんと魔力を纏った手で受け止めていた。
『だが・・・想定内だ!』
俺は、<アイテール>の能力を信じた。
『あの剣!まさかマナを浄化している!?』
ケイネスを包む、荒れ狂うマナが収まっていく。
『グアァァァ――――あぁぁぁ――――』
そして、完全にマナは浄化され、ケイネスは倒れ、
役目を果たした<アイテール>はそのまま落下した。
はぁ、疲れた。
「な、なんという戦いだぁぁぁぁッ!激闘を制したのは、アルネア・フォーラスブルグだ!」
『ご主人様、流石です、かっこよかったです♪』
「おう、危なかったけどな・・・」
俺は、魔力をおさめつつ言った。
『はい、どうぞ♪』
「お、ありがと」
シルフが剣を3本回収してくれた。
ケイネスは治療部隊に運ばれていった。
どうやら、介入寸前だったらしく、共和国の騎士団の姿が見えた。
精霊憑依の暴走か・・・
――次回予告!――
♪~~チャララッ、チャラララ~~
「・・・フードの中ってどうなってるんだろうな?」
「お兄ちゃんだし、中は可愛い女の子じゃないの?」
「アル・・・」
「私は―――――」
「お前は――――!?」
『あらあら♪』
「うわぁ・・・やばいかも?」
銀雷の魔術士、第七話:『顔を隠した魔術士』