第二話:散歩は波乱を呼ぶかもしれない
凄く、よく寝れた気がする。
いつもより頭の中がすっきりしてる気がする。
腕の中の温もりが心地良い。
・・・ん?
俺は、珍しく自主的に目を開けた。
布団を被って寝ているらしく、あたりは暗い。
が、俺は何かを抱きかかえて寝ていた。
「・・・すぅ~・・・」
・・・そうだ!エリシアを抱き枕にしたんだった!
早急に証拠隠滅せねば!
別に何もしてないし、こっそりエリシアを本来の場所に戻せばOK!
俺は、エリシアを引き離そうと――――
「・・・んむぅ~~・・・アルぅ~~」
♪~~デデ~ン!この抱き枕は呪われていた。装備を解除できません♪
「なん・・・・だと」
「お兄ちゃん!起きろーーー!」
リリーが来た!?
え、なにこれ。やばくないか?
エリシアは俺に抱きついたまま寝てる。断固として離れない。
「リリー!今日は起きてる!大丈夫だ、問題ない!」
「・・・え?ほんとだ?って、布団被ったままでしょ!?」
「いや、ほんとに起きてるって!ほんと!」
「・・・なら、布団から出て」
「・・・・」
無理だ。エリシアが離れない。
「せぃやーーー!」
「うおぉぉぉ――――ッ、<布団聖域!>」
布団を引っ張るリリーに対して、俺は魔力装甲全開で、布団を強化。
布団が眩い銀の光を放つ!
「お、お兄ちゃん!?なんでそんなに強硬なの!?」
「いや、ほんとに起きるから!大丈夫だから!」
「・・・揺れる水の刃は、硬きものも容易く切り裂く!<ウォーターブレード!>」
リリーの手から、高水圧カッターが出る。かなり危ない。
「・・・おい、リリー?」
「お兄ちゃん。何か隠してるでしょ」
「なんのことだ?」
「・・・・教えてくれないのね、お兄ちゃん。なら、力ずくでも――――!」
リリーがブレードを振り下ろし、<サンクチュアリ>と衝突する
――――ガキィィン!
俺は、リリーの連続攻撃を必死に防ぐが――――
「・・・んぅ~~・・・」
俺の腕に、エリシアの胸があたって集中が途切れた。
「たぁぁっ!」
結界を切り裂いたリリーが熟練の技で布団を剥いだ。
で、
「・・・・お兄ちゃんに・・・エリー?」
俺と、俺に抱きついて眠るエリシアを見られてしまった。
「・・・エリシアが寝ぼけて入って来た。」
「そっか・・・」
リリーは放心状態で去っていった。
助かった。
・・・まさかとは思うが、変な誤解はされてないよな?
と、エリシアが身じろぎした。
「んぅ~・・・」
エリシアは、ぼんやり目を開けた。
「・・・おはよう」
とりあえず俺は、朝の挨拶をしておいた。
「はい、おはようございます・・・アル。・・・アル?」
エリシアが急速に覚醒し、状況を確認――――
どんどん顔が真っ赤になる。
「アル・・・その・・・どうなってるんですか?」
「エリシアが寝ぼけて入って来た。」
きっと、怒られるんだろうなぁ・・・
エリシアが本気で怒るのって見たことないが、
普段温厚な人ほど怒ると怖いっていうし・・・
「・・・ごめんなさい、迷惑でしたよね・・・」
が、エリシアは非常に申し訳なさそうだった。
「・・・普通、何故か俺が怒られるところだと思うんだが?」
「アルは、こういうときは嘘はいわないです・・・」
というか、日ごろの尋常ならざる鈍さから、俺の無罪は皮肉にも証明された。
が、俺にはそんなことは分からなかったので、素直に喜んどく。
「・・・そっか。迷惑じゃなかったよ。良い抱き枕だった」
「アル、ありが・・・って抱き枕です!?」
「あ、やべ」
口が滑った。
「――――も、もういいです!朝ごはんにしましょう!」
で、エリシアは着替えてないことを思い出したらしく、
荷物の陰に隠れた。
俺も着替えて朝ごはんかな。
今、馬車は開けた草原でキャンプしている。
魔獣もいるかもだが、ちゃんと見張りもいるし、引率の先生もいるので平気だ。
合宿の時と違って、一箇所にいるしな。
引率の人の一人として来ていた、学食の料理長から朝ごはんを支給してもらい、食べた。
再び馬車の旅が始まる。
することは魔道書の解読・・・なのだが、疲れた。
「よし、ちょっと飛んでくる」
俺は空の散歩に行くことに。
こんな馬車の大所帯なら、離れても見つけるのは容易い。
魔力もたくさんだしな。
「あ、ずるいです!」
どうやらエリシアもついてくる模様。
「・・・いいなぁ。いってらっしゃい」
いまだに魂が還ってこないリリーに見送られ、俺は御者の人に軽く説明し、出発。
「自由に飛びたいな♪<ウイング!>」
「<シルフィード・ウィング!>」
俺はいつもの術で空へ舞い上がり、
エリシアはシルフにもらった指輪で羽を生やして、飛び立つ。
魔法の翼なので、普通の翼より強力だったりする。
まぁ、ドラゴンの翼の方がすごいらしいが。
さて、一気に上空100メートルくらいまであがり見渡す。
「お~、少し山が多いな。」
今は、皇都からそこそこ離れ、大分田舎だ。
まぁ、大きな街道があるのだが、田舎に変わりは無い。
辺りは山が多くなり―――あくまで空から見るとだが。
俺たちがいるのは、のどかな丘陵地帯だ。
「あ!アル、あっちに街が見えます!」
「お、ほんとだ」
馬車の進行方向に、ちいさく街が見えた。
今日は空気が澄み切っていて、遠くまで良く見える。
まあ、この世界は星も遠くも、前世より圧倒的に見えるのだが。
「風が気持ちいいですね・・・」
羽ばたきつつ、ご満悦のエリシア。
どうでもいいが、ホバリングできる翼ってすごくないのか?
・・・あれ、エリシアって白いワンピースをきてるけど、
下から見たら何か見えちゃうんじゃないのか?
と、思ったが、馬車から見て左の山の中に、何か小さく光るのを見つけた。
・・・魔法の光?
「エリシア、9時の方向、魔法光だ」
9時の方向は、真左のこと。魔法光は魔法発動時の光もしくは、単に魔法の光を指す。
「・・・ほんとです。どうしますか?」
「もちろん見に行く」
「ふふっ、言うと思いました」
「シルフ!」
『はい、了解です♪』
即答するシルフ。え、なに?呼ばれてないときは見てないんじゃないの?
思わず聞いてみると・・・
『ご主人様が戦闘モードになってましたので、話をうかがっておきました♪』
なるほど、なんて有能なんだ・・・
・・・ということは、<サンクチュアリ>を使った朝の出来事も知ってる、と。
「まぁいいや!いくぞ、エリシア、シルフ!」
「『了解です!』」
俺たちは、シルフの風と、飛行魔法で、一気に空を翔けた。
<サンダー・ミグラトリィ>は、目立つからやめた。
敵か味方かも分からないときは、こっそり近づくべきだ。
「・・・はぁ、やっぱりこういうのもあるのか」
翔けつけると、商人らしき一団が盗賊に襲われ、
商人の一団の中の、フードを被った少女が無詠唱で魔法を連打することで
なんとか耐えているが、数に押されて、今にも負けそう・・・
といった感じだった。
「アル、いくんですよね?」
エリシアは、もう決定事項のように聞いてきた。
・・・まぁ、そうなんだが。
「よし、盗賊を殲滅、商人の一団を救助・・・のつもりで行こう。
ただし、状況が分からないので、真っ当な商人か。本当に盗賊か確認する」
そう、もしかするかもしれないし。前世で一回間違えたことあるし。
まぁ、エリシアもいるから余裕だろう。
俺とエリシアは急降下。
で、とりあえず戦いを止めねば。
盗賊?が20人くらいに、商人が7人くらいか?
おそらく、戦い始めたばかりのようだ。
どちらも重傷者はいない。
「双方、剣を引けぇぇ――ッ!
私は、十二家が一つ、フォーラスブルグ家の者だ!
貴様たち、一体何を争っている!」
商人?達は驚いて一旦さがり、盗賊?達は、イラついたような雰囲気だったが、
俺の隣のエリシアを見て下品な笑みを浮かべる。
エリシアが若干俺の後ろに隠れる。
・・・とりあえず、こいつらは締め上げよう。
「で、お前たち盗賊が、商人を襲ったということでいいのか?」
俺が問いかけると、騙せるとでも思ったのか、盗賊のリーダーらしき人物が前に出た。
「いえいえ、とんでもございませ―――――」
「<スタン・ブレイク!>」
俺の手から、高電圧、低電流の雷撃が飛び出す
原理はスタンガンと同じ。死なないが、大ダメージだ。
ちなみに、スタンガンと違って、射程は50メートルなら気絶させられる。
「――――ギャッ」
そのリーダーらしき人物は、一撃で昏倒、痙攣している。
「て、てめぇ!何しやがる!」
一気に盗賊?が殺気立つ。
が、殺気立ってるのはこちらも同じだ!
「うるさい!女の子が怖がるくらい下品な目で見るなど万死に値する!
気絶しただけだ、感謝しろ!」
一気に俺から膨れ上がった気迫―――(というか魔力)に恐れおののく盗賊。
が、
「てめぇら、たった二人増えたくらいで何びびってやがる、
貴族のガキとお嬢ちゃんも捕まえてウハウハだぜ!」
何を想像しやがったか、一気に盛り上がる盗賊。
・・・よし、手加減いらないな。100%、こいつらは盗賊だ。
「おら、喰らえや!燃え盛る弾丸!<ファイヤボール!>」
盗賊の中のボロいローブが、ファイヤボールを放ち、
一気に他の盗賊も距離を詰めてくる。
俺は、<シルフィード>を抜き放った。
『<ストーム・ディフェンサー>、発動です。黄色い線の内側に下がってください♪』
俺の周囲に暴風の壁が球状に出現。
ちゃんとエリシアも中に入っている。
黄色い線などもちろん無い。
シルフの陽気な声とは裏腹に、暴風の壁は容易く<ファイアボール>を弾き、
前に出ていた盗賊が、巨人に平手打ちを喰らったように吹き飛ぶ。
強力な術は防げないが、雑魚相手なら余裕だ。
オマケもいっとこう。
「疾風と雷、此処に交わる!喰らえ!<テンペスト・ディフェンサー!>」
暴風の壁が一瞬白く発光し、怒涛の勢いで雷撃が放たれる。
――――ズガガガガガァァァン!
見事に盗賊を狙い撃ち♪
全員痙攣している。
さて、唖然としてる商人さんにも、一応話を聞くか。
「あ~、すみません。大丈夫ですか?多分平気だと思いますが、流れ弾とかは?」
俺の言葉に、商人のリーダーらしき中年の男性が仲間を確認。
「は、はい!大丈夫です。ありがとうございます!なんとお礼を言っていいか・・・」
「お気になさらず。むかついたので焼いただけですし。
あ、一応今後のために事情を伺っても構いませんか?」
そんなわけで、軽く事情を聞いた。
荷物は一応確認したが、普通に食料とか工芸品とか毛皮とか。
村から街に売りに行くところだったらしい。
で、いきなり襲われたと。
で、どんなルートか聞くことで、自然にどこの村から来たのか聞き出した。一応。
「なるほど、ご協力ありがとうございます。っと、こいつらどうしましょうか?」
俺は、のびてる盗賊・・・(商人の人たちに縛ってもらった)を見つつ言った。
「街に持って行けば賞金があるかもしれませんが・・・」
「ああ~、俺はいらないです。こんなでも貴族ですし。
貴方方が持って行って頂けると助かるのですが・・・」
「・・・すみません、ありがとうございます」
盗賊退治の賞金は意外といい額だ。こいつら20人もいるし。
きっと村の生活の助けになるだろう。
まぁ、盗賊に襲われるなんて不幸な目にあったんだし、それくらいいいだろう。
・・・まぁ、七人しかいない商人が勝ったなんて怪しいかもしれんから、
後で街に着いたら、軽く説明して圧力でもかけとくか。
実は準皇族である十二家の権力は伊達じゃない。
まぁ、ギルドは独立した機構だから、あんまり大きな圧力は無理だし、
するつもりも無いが、今回みたいなのならいいだろう。
その後、俺とエリシアで軽く怪我人の治療をして、
恐縮する商人たちから逃げるように、俺とエリシアは馬車に帰った。
んで、夜。
エリシアがまたしても侵入してきた。
「おいこら、帰れ」
「アル・・・今日は寝ぼけてないですよ?」
「もっと帰れ!」
が、エリシアは帰らない。
「・・・こわかったんです。すごくいやだったんです。あんな目で見られるのが・・・」
エリシアは少し震えていた。
・・・あの盗賊どもめ・・・すこし生ぬるかったか・・・
俺は、あの程度?で済ませたのを若干後悔した。
「だから・・・その・・・アル、一緒にいてください」
「・・・わかったよ」
俺は、エリシアをそっと抱きしめた。
―――次回予告―――
♪~~チャラッ、チャ~ラララ~
「よし、街だー!」
「お買い物です!」
「お兄ちゃん!?どこいくの!?」
「市場さ!」
次回、『市場』!
「短いッ!?お兄ちゃん、短いよ!?」
「いや、どうよ?」
「コメントしにくいです」