第一話:馬車の旅
*話の長さが足りなかったので、校内戦の残りは、
決勝戦の中にくっつけてあります。ごめんなさい!
読んでいらっしゃらない方は、お手数ですが先にそちらをどうぞ!
・・・さて、今日は三国魔法学校交流戦が開催される、エディメア共和国に出発する日だ。
ここから、共和国の首都・ディグリスまで、馬車で5日間(あくまで予定)だ。
・・・やっぱり世界って広いんだなぁ。
ちなみに、大会が始まる3日前に着くように出発する。
学校が馬車とか色々用意してくれるが、個人で行ってもいい。
まぁ、そんな面倒な事をするのは上位貴族ぐらいだが。
一応、俺の家も、そんな上位貴族の筆頭だったりするが、気にしない。
まぁ、俺とかエリシアの場合、飛んだ方が速いのだが、魔力消費がきつい。
いや、ドラゴンに変身したエリシアに乗れば・・・
まぁいいや。せっかくだし、旅行気分で楽しもう。
が、問題発生。
なにやら、貴族の女の子と先生がもめてる。
「いやです!これは全て、私の大切な荷物です!絶対に置いてゆきませんわ!」
「だからな、荷物が多過ぎて乗れない奴が出るんだよ!」
・・・どうやら荷物が多過ぎるらしい。
はぁ、面倒な。
同じ馬車の予定だった人も災難だな。
ちなみに、俺と同じ馬車なのは、荷物だ。
一応、説明しておこう。
俺は、交流戦で個人、チーム、軍団戦に参加する。全部だ。
ふざけんな!って感じだが、代わりに出場選手に対する配慮として、
馬車は軽く荷物が積んであるだけ。気楽だ。
あ、御者の人はちゃんといるぞ?
で、御者の人が交代で休む馬車もある。
さすが皇立学校か。
なら、荷物用の馬車あんだろ?って感じだが、あの荷物の量はおかしい。
と、エリシアとリリーがこっちに歩いてきた。
・・・何故か荷物付きで。
「お兄ちゃん、乗せて!」
・・・何を言うのか、この妹は。
寝泊りするんだぞ?この馬車。
「・・・意味がわからん」
「だって、乗れなそうだから。知ってる人で馬車を一人で使うのは、
全部出場する、お兄ちゃんとローラさんくらいだし・・・」
「ローラに頼め」
「え~!?お兄ちゃんの薄情者!嫌だよ!気詰まりしちゃうよ!」
「俺にも配慮しろ!」
「いいでしょ!兄妹なんだし!」
ああ・・・まだ言ってなかったっけか・・・・
「リリー、俺とお前は本当の兄弟じゃないんだ」
――――空気が、凍った。
「え、嘘でしょ・・・お兄ちゃん?」
「いや、ホントホント。」
「・・・軽すぎない?」
「え、そうか?まぁ、別にいいかな~と。」
で、軽く事情を説明。
「・・・リックお兄ちゃんとエリーは知ってたの?」
なんだかすごく疲れた顔で聞くリリー。
「あ~、エリシアは合宿の時。兄さんはけっこう前。」
「・・・もう!?面倒だから、お兄ちゃんって呼んでいいよね?」
「あ~、いいぞ~」
最早混乱してヤケクソなリリーに俺はあっさり許可。
まあ、これで問題あるまい。
と、思ったが、エリシアが勝手に荷物を積んで乗り込んでた。
「・・・エリシア、何のつもりだ?」
「アル・・・お願いします!アルしか・・・頼める人がいないんです・・・!」
エリシアが上目遣いのキラキラした目で見てくる。
――――やめろ!そんな目で俺を見るなぁぁぁぁ!
「って、その手には乗らないぞ!ダメだっ!」
「・・・アル、前に約束破りましたよね?」
エリシアがにっこり微笑む。可愛いが、怖い。
「・・・なんの事かな?」
俺は往生際悪く、とぼける。
「合宿の時に、他の人を余裕で助けられるようになるって約束です。
ずっと保留してましたけど、ゴーレム戦は危なかったですよね?
あと、ユランの爪で背中にケガしてました。
破ったら何でも一つ、私の言うことを聞く約束でしたよね?」
「なに言ってるんだ、余裕だっただろ?」
「アル、いいじゃないですか。馬車に一緒に乗るだけですから。」
むぅ、確かに物凄いお願いとかされるよりいいけど・・・
・・・仕方ないか。
「わかったよ!はぁ・・・」
気疲れしそうだ。すごく。
「わーい!ありがとお兄ちゃん!」
どさくさに紛れてリリーも入ってくるが、もう何を言ってもきくまい・・・
さて、こうして馬車の旅が始まった。
・・・暇だ。
すご~~~く、暇だ。
これは一人じゃなくて良かったかもしれん・・・
俺は、剣の手入れをしつつ思った。
まぁ、魔法剣と精霊剣なので、磨くくらいしかすることないが。
明日になると、なんか街につくらしいが・・・
前世で新幹線とか乗ってた身としては、暇なこと著しい。
ドナドナ~って感じには既に飽きた。
以前みたいに馬車をブーストするには、数が多過ぎる。
エリシアは本を読んでる。リリーは・・・寝てた。
すごい分厚い本だな、古そうだし。広辞苑か?
「エリシア、何読んでるんだ?」
すると、エリシアは顔を上げ、言った。
「これですか?魔道書です。」
「へぇ~・・・魔道書かぁ」
俺は、少し寝ようかと思い、横になろうと・・・
「魔道書!?」
「市場で売ってた骨董品です。ホンモノかは分からないですよ?」
「・・・俺にも見せて!」
・・・・さて、この魔道書には問題があった。
「読めない!」
「暗号ですね。私も古代語の勉強はしてるのに・・・」
この魔道書は暗号で書かれていた。
実は、ただの筆記体の英語だが(この世界的には古代語)、字が汚い!
「私は全く読めないです・・・アルはどうです?」
「エリシア、これ、字が汚いだけ」
「え!?」
「ほらここ、『実態化した精霊のエネルギーによって』って書いてある」
俺は、せめて若干キレイなところを指差して教える。
「ほ、ほんとです!?」
「だろ?」
「・・・アル、読んで下さい!」
「え~・・・音読かよ」
「え~と。タイトルは・・・『伝説とされる魔法について』アトラス・リーヴェルシア著」
「・・・なんだか凄そうなタイトルです!」
「まぁ、タイトルはな?え~と、精霊憑依術について。
精霊憑依術とは、実体化した精霊が、体をマナ変換し、術者に憑依する術である」
「・・・アル、マナって何でしょう?」
エリシアでも分からないらしい。珍しい。
俺も、魔力とかと似たような不思議エネルギーってイメージしかないな。
「悪い、俺もよくわからん。というわけで・・・シルフ~!」
『よばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン?おはようございます、ご主人様♪』
半透明のシルフが現れる。
なんか、いつも元気だよなぁ・・・
「シルフ、精霊憑依術と、マナについて知ってるか?」
『憑依ですか?ある程度以上の力の精霊がつかえる奥義ですね。
使用者の能力は短時間のみ、大幅に強化しますが、反動も大きい捨て身の技です。
マナとは、魔力を変換して作るエネルギーですね。
その方が強力なのですが、人間には不可能と言われています。』
「へぇ、どうやってやるんだ?」
『憑依は私を実体化させて頂ければ使えますが・・・
マナは魔力を圧縮する感じでしょうか?』
さっそくやってみるが・・・
無理だった。
圧縮しようとしても反発が凄い。
エリシアもできないみたいだ。
『マナはエルフの熟練魔術師ですら、できるのは稀ですから・・・
ドラゴンでも、特に強力な固体でなければ使いません。』
むぅ、悔しい。
「なぁ、シルフ。マナの利点って他に無いのか?」
『えっと、そう!高濃度魔力ですから、短い詠唱で高威力の魔法が使えます♪』
「・・・めちゃくちゃ強いじゃねぇか!?」
そのあと、俺とエリシアと、起きたリリーで、夜までマナ精製の練習をしたのだが、
全くうまくいかなかった。晩飯はちゃんと食べたが。
「おにいちゃん・・・魔力の練りすぎで頭いたい~・・・」
「・・・俺もだ」
「大丈夫です?」
エリシアは平気そうだ。さすがドラゴン。
俺は疲れた。
「んじゃ、俺寝るから。おやすみ」
俺は、布団を敷きつつ言った。
「あ、お兄ちゃんお休み~」
「おやすみなさい」
俺は、布団の周りに、荷物でバリケードを作って寝た。
理由は推して知るべし。
この日は若干寒かった。
のだが・・・
「・・・アル~・・・寒いので入れてください~」
寝ぼけたエリシアが乗り越えて来た。
「ふざけんな!帰れ!」
「アル~・・・寒いです~・・・」
エリシアは全く話を聞いていない。
勝手に布団に潜り込んで、俺の腕に抱きついてきた。
・・・やわらかい・・・じゃなくて!
俺は、エリシアを早急に回復させるべく、肩をゆする。
「起きろ、エリシア!寝ぼけるな!寒いならリリーのとこに行け!」
「・・・アル~?女の子どうしで抱き合って寝たら変ですよ~?」
「ええい!男女のほうがまずい!お~き~ろ!」
「アル~、男の人同士を想像すれば、そのまずさが分かります。やめたほうがいいです~」
「確かに絶対アウトだな」
「ですから~、わたしはアルとねます~・・・くぅ・・・」
エリシアはそう言って、目を閉じた。
「・・・はっ!?おいコラ!起きろ!」
が、エリシアは起きない。物凄い幸せそうな顔で寝てやがる。
くっ、エリシアの体が柔らかくて気になる!
もう、なんかヤケになった俺は、エリシアを抱き枕にして寝た。
よく寝れた。意外といいかもしれん・・・
――次回予告――
♪~チャラッ、チャラララ~
「リリー!今日は起きてる!大丈夫だ!問題ない!」
「お、お兄ちゃん!?なんでそんなに強硬なの!?」
「よし、ちょっくら飛んでくる」
「あ、ずるいです!」
「・・・はぁ、やっぱりこういうのもあるのか」
次回、銀雷の魔術師、第三章・魔法学校交流戦編・前編の第二話!
『散歩は波乱を呼ぶかもしれない』
「アル、長いです!?」
「ふっ、長いほうが楽しくないか?」
「お兄ちゃん、めんどくさいよ!?」