第一話:Encount
俺の名前は天城 誠司。
ただの高校生だ。
まぁ、この状況だと若干・・・2つほどの語弊があるがな。
さて、俺の視界は真っ暗だ。
そして、心地よい温もりに包まれている。
・・・勘のいい方は、お察しだろう。
「お兄ちゃん、起きろーーーー!」
妹の理香が俺の布団を引っ張る。
「はぁ、なんで朝はやってくるんだろうな?」
「お兄ちゃん!なんでもいいから起きてッ!」
やれやれ、健気な妹だ・・・
「理香、今日は俺は病気だ。突発性・布団出たくない病だと学校に電話してくれ」
「嫌よ!?何その恥ずかしい病名!?お兄ちゃんより私が恥ずかしいよ!」
「え~、いいじゃんか~。誰もが一度はかかるだろ?」
「そんなので始業式を休むのはお兄ちゃんくらいですっ!」
そう、今日は俺と理香の入学式なのだ。
別に幼馴染に兄と呼ばせている訳じゃないぞ?
正真正銘、血の繋がった兄妹だ。
こんなんでも双子なのだが、二卵性なので似てない。
「始業式なのにこんなに寒いのが悪い!」
「ひっさ~つ!ドロップキーック!」
いきなり理香が俺にとび蹴りを放ち、俺は轟沈した
「ぐはぁぁぁぁ・・・」
「さあ、いくよお兄ちゃん!」
「ぐおおおっ、寒い~~!嫌だ~~~!」
俺は理香に引きずられてリビングへ行き、朝食をとった。
まぁ、俺も流石に入学式を休むのはまずかろうと思っていたので、
ちゃんと準備を始める。
♪~~ブー!ブー!ブー!
『緊急事態発生、始業式の時間が接近!総員、第一種戦闘配備、急げ!』
『―――お兄ちゃん少佐、始業式の時間が接近しています!迎撃を!』
『了解!誠司少佐、出撃準備に入ります!』
『お兄ちゃん少佐!外は冷気が激しいです!手袋の着用を!』
『こちら誠司少佐、了解だ!さらにマフラーの着用を許可してくれ!』
『そんな!?マフラーまでですか!?・・・そんなに・・・手ごわい相手なんですか?』
『ああ、だが理香、必ず帰ってくる。応援していてくれ』
『・・・分かりました。必ず・・・帰って来てくださいね』
『おう!』
『第一ゲート、オープン!進路クリア!オールグリーンです!』
『靴、セットOKだ!』
『戸締り、火の元、オールグリーン!』
『弁当セットOK!マフラーの感度良好!』
『発進、どうぞ!』
『フルアーマー・誠司、いきま~す!』
という感じで俺は出発した。
え、伝わらない?
・・・じゃあ、重装備ってことだけ伝わればOK!
さて、そんなわけで、俺と理香は学校へと歩く。
今日から俺が通う、暁ヶ丘高校は、俺達の家から歩いて約十分。
町の中にある高校で、住宅街を通っていく。
と、長い黒髪の女の子が、男三人に囲まれてるのが見えた。
「あ、理香、先行ってて」
「お兄ちゃん・・・うん、頑張ってね」
「おう!」
とりあえず、近づいて話を盗み聞く。
勘違いだと最悪だしね?
「ねぇ君~、かわいいね~。ボクらと一緒に遊ばない?」
「・・・学校があるんですけど?」
「いいじゃんか、学校くらいさぁ~」
とりあえず、女の子が嫌がってるのを確認。
さて、どうするかな・・・ま、いっか、いつもので。
「Oh~! I thought where are you! Nice to meet you!」
直訳:(お~! どこにいるかと思ったよ! お会いできて嬉しいです!)
俺は、発音だけ流暢に英語を話しつつ、三人の男の間をすり抜け、女の子に話しかけた。
「Very Sorry! My friend gave you trouble!」
直訳:(とってもごめんなさい!俺の友人が迷惑をかけた!)
俺はそのまま、華麗に撹乱しつつ、少女の手をとって逃げようと―――
「まてや、コラ!なんだてめぇ!」
「Hi! I`m Jack Smis! Oh my god! It`s high time to go to school…Good Luck!」
直訳:(やあ!ボクはジャック・スミスだよ! おお、神よ!
もう学校にいかなくてはならない時間だ!・・・幸運を祈る!)
したのだが、不良の一人に肩を掴まれた。
「ふざけてんじゃねぇぞ!どう見ても日本人じゃねぇか!」
「ちっ、面倒な。我は汝らと関わる気ナッシングデ~ス!じゃあな!」
俺は、肩を掴んだ不良を足払いで撃沈し、少女の手をひきつつ逃げた。
「まてや、コラ!」
追ってきた。
とりあえず、角を曲がりつつ逃げる。
「どうして助けたの?」
少女が走りつつ聞いてきた。
「ん~、助けたかったから。助けないことには理由が必要だが、
助けるのに理由は要らないってのが俺の信条なんだ。
それに・・・まだ助けきれてないし・・・お、ココだココ。」
後ろから追って来る三人は、まだ追いかけてくるが、
ここまでくれば俺のもの!
「なにかあるの?」
少女が、そのただの家にしか見えないのを見つつ、言った。
「この庭にな。」
若干戸惑う少女を連れて、庭に入る。
これで諦めてくれれば良かったのだが、不良達も乗り込んでくる。
「オラオラ~!行き止まりだぜぇ~!」
はぁ、仕方ない。
「我が贄を糧に・・・顕れよ!地獄の番犬!<ケルベロス!>」
俺は、カッコよく呪文を唱え、懐からひき肉を取り出す。
その匂いにつられて、『暁ヶ丘のケルベロス』こと、グルちゃんが背後から現れる。
グルちゃんは、ラブラドール・レトリバー (飼い主談)の黒犬なのだが、
ラブもドールも皆無だ。通常の3倍の巨体を誇り、しかし引き締まったボディ。
太ってるのではなく、デカいのだ!ムキムキである。フサフサでもあるが。
ちなみに3倍は若干誇張である。
更に、その顔は怒っていなくとも子どもが泣き出し、
戦闘モードになると、失神すらさせる悪鬼の顔と化す!
のだが、甘えてくると意外にも普通に可愛い。
しかも、勝手に吠えることなど皆無だ。
懐いた相手の命令には絶対服従。異議など唱えない。
俺と飼い主さんにしか懐かないが、そんなことは関係ない。
グルちゃんの優しさを知る子どもには大人気だ。
なら、何故『暁ヶ丘のケルベロス』などと呼ばれるのか?
・・・全ては俺のせいだったりする。
俺は、ひき肉(軽く焼いてあります)をグルちゃんにプレゼント♪
「グルちゃん、敵&飯だ!ゴー!」
「グガァァァァ!」
「「「ぎゃあああぁぁぁ」」」
閑静な住宅街に、男の悲鳴が響いた。
きっとみんな、ああ、また天城んとこの小僧だな。と思ってる。
そう、俺がグルちゃんで人助け&自己防衛 (過剰だが)
をいつもするために、こんな称号が付いた。
が、グルちゃんの飼い主の大貫さんは、グルちゃんと同じくいい人で、
「人助けならバシバシやれ、気にするな」とのお墨付きを貰っている。
で、撃退完了!
「よ~し、よ~し!さすがグルちゃんだ!グッジョブ!」
俺は、グルちゃんを撫でてやりつつ、追加でソーセージをあげた。
「・・・かわいい」
少女がぽつりと呟く。
「おおっ、そうだろ!グルちゃんは可愛いんだ!君もソーセージあげてみる?」
「・・・うん」
少女がおっかなびっくりソーセージをあげ、グルちゃんがおいしそうに食べる。
グルちゃんは尻尾を振って甘えている。
おお、なんて珍しい。
「おお、グルちゃんが懐いた!おめでとう!これで呼べば助けに来てくれるぞ!」
そう、懐けば、グルちゃんは呼べば来てくれるのだ!ものすごく賢い。
だが、その駆けつける姿を子どもが見ると怖がるので、
なるべく呼ばないのが好ましい。
「・・・?リードは付いてないの?」
少女が不思議そうに言う。
「平気。グルちゃんは他の犬より強く、賢く、そして優しい!
信号は青を待ち、落とし物は交番へ。迷子も優しく交番へ。
お年寄りの荷物を持ち、そして不良を撃退する!」
「―――すごいわ・・・!」
「そう、だから絡まれたら呼べば・・・・う~ん、この街なら大抵来てくれる」
「・・・声が届かないんじゃない?」
「まあ、そうなんだが・・・」
そう言いつつ、俺は懐から三本の笛を取り出す。
「これが、グルちゃん召還の笛だ!」
これは、お手製の犬笛・・・人には聞こえないが犬には聞こえる周波数の音を出す・・・
であり、相当遠くまで響くのだ!
近くで吹くと、犬が迷惑そうな顔をするので、やめよう。
「んで、一本あげるよ」
「・・・いいの?」
「ああ、グルちゃんが懐いたのはまだ三人目だからな」
「・・・ありがとう」
少女は、そう言って微笑んだ。
笑った少女は相当に可愛かった。絡まれるのも納得。
で、笛を一本あげて、大貫さんに軽く挨拶したのだが・・・
「おい、誠司、学校はどうした?」
大貫さんはおっしゃった。
俺は少女を見た。
少女も同じ制服だった。
登校時間は、もう、すぐ。
俺は少女を凝視。
背は低いし痩せてる。相当軽いだろう。
「ちっ、仕方ない!おやっさん!グルちゃん借りる!」
「へっ、まあ女の子の為ならしかたねぇ。グルちゃん!誠司に力ぁかしてやれ!」
「・・・どうするの?」
俺は、驚く少女を抱え上げ、グルちゃんに乗せた。
「ヘィ!タクシー!三丁目の学校まで!」
「――――アォォォォン!」
少女を意に介さず、グルちゃんは、猛スピードで街を駆け抜けた。
俺も、足の速さには自信がある。
俺と、少女を乗せたグルちゃんは、凄まじい速度で街を駆け抜け、ギリギリ学校に着いた。
「よし!サンキュー、グルちゃん!」
俺は秘蔵のビーフジャーキーをグルちゃんにあげた。
「ありがとう、グルちゃん。」
少女がグルちゃんの頭を撫でるが、時間が惜しい。
俺は、少女の手を引いて張り出されたクラス票を見る。
俺の苗字は天城だから見つけやすい!
「あった、A組か!・・・っと、そういえば君の名前は?」
「―――私は天川 灯です」