第二話:戦いの刻
1
さて、落ち着こう。
俺の魔法属性は珍しい<雷>だった。わーい。
しかし、俺の<サンダーボルト>の光と音に驚いた妹・リリーが怯えてしまう。
俺はリリーに気づかれず、また、魔術の練習とバリエーション強化のためにこっそり特訓することにした。
しかし、<サンダーボール>を撃つところをリリーに見られてしまったのである。
「おにいちゃん、なにしてるの?」
リリーは言う。
選択肢 1、ごまかす
2、あやまる
3、にげる
ここはもちろん――
「えーと、まじゅつのとっくん・・・ごめんね、リリー。
さっきのかみなりは、おにいちゃんのまじゅつだったんだ・・・」
謝るしかないじゃないかっ!
「そう・・・だったんだ・・・」
・・・やばい?
「もぅ、おにいちゃんがかみなりで、おケガでもしたらたいへんだとおもって
しんぱいしたんだよ・・・」
妹は心が広かった!
とりあえず、謝ったらリリーは許してくれた。なんてできた妹なんだ。
ただ、「おにいちゃんだけずるいっ」
とのことでリリーも父さんから魔術を教わる。
なんと得意属性は<治癒>で珍しい・・・とはいっても母さんも<治癒>属性らしい。
同じ属性だと、なんとなく感じるとのことで、すぐ判明。
あと、得意属性は2つ以上ある場合もあるらしく、母さんとリリーは<水>も得意だった。
「リリーだけずるいっ」
俺も言ってみたものの、<治癒>は特殊属性のなかでも抜群に多いらしい。
(それでも四大属性と比べれば圧倒的に少ないのだが)
その後、リリーがいないときに、雷のほうが珍しいといわれた。
十二貴族でも雷持ちはいたようないなかったような?という感じらしい。
少なくとも、今はいないとのこと。
さて、問題はリック兄さんである。
リック兄さん不遇じゃん!
そう思ったのだが、父さん曰く
「あー、じつはリックは<火>じゃなくて<炎>だからな」
いまいち違いが分からなかったが、要は強力らしい。
さすが兄さんだ!
あと、属性は魔法を使い込むことで上級属性になったり、特異属性に変化するらしい。
で、<火>の上位が<炎>と。生まれつきは珍しいらしい。
って言いつつ、父さんも<炎>属性で、兄さんもリリーも思いっきり遺伝である。
俺の<雷>はこの家ではでたことが無いようだが・・・
転生の影響だろうか?
―2―
さて、俺は朝起きるのは得意じゃない。
今は二の月3日目、つまり2月3日。まだ寒い。布団が恋しい。
季節とか、月とか、曜日まで前世と同じ。俺の誕生日は一の月の6日目。
昨日、二の月2日目の朝は・・・
「ふはははは――我が鉄壁の布団ディフェンスを打ち破れるものなどいないっ!」
俺は、戦っていた。
「むむぅ、おにいちゃんの<おふとんでぃふぇんす>がやぶれないわ!」
相手はリリー。
「おおっ、アル、リリー楽しそうだなっ、俺も参加だー!」
兄さんも参加。
「むぅっ、だがたとえリック兄さんでも我が布団ディフェンスは破れまい!」
俺の布団ディフェンスは伊達じゃない!
「はっは~、このリック兄さんをなめるな!ヘイ、リリー!」
が、策のあるらしい兄さん。
「あ、わーい!」
リリーが喜ぶ声がする。なんだろう、俺の直感が危険を訴えている・・・!?
「くぅっ、布団ディフェンス中は外が見えないのが欠点か!」
俺は、布団しか見えなかった。
「「ひっさーつ!リリーばくだん!」」
本気で危険を感じ、布団の外を覗くと・・・
空中に舞うリリー・・・というか兄さんに投げられてこっちに飛んでくるリリーの姿が――
「――ぐはっ!」
兄さんによってリリーは的確に俺の腹の上に着地。
俺は悶絶するしかなかった・・・
さらにリリーが申し訳なさそうに見てきたら怒れるハズも無い・・・
「や、やるな・・・リリー、そして、兄さん・・・がくっ」
という微笑ましい?感じだったのだが、
今日、二の月3日目は・・・
「おにーちゃん、あさですよー!」
今日もリリーはやってきた。
「ふっ、リリー。真っ暗じゃないか。まだ夜だろう?」
そう、俺の周りは真っ暗だな。
「むぅ、おにいちゃんが<おふとんでぃふぇんす>してるからでしょ!」
うん、お兄ちゃんは布団から出たくないのさっ、リリー!
「ふははは――この鉄壁の布団ディフェンス、破れるものなら破ってみよ!」
俺の布団を奪えるものかーーー!
「わかりましたっ、おにいちゃんでもようしゃしませんっ!」
リリーは受けてたった!
戦いの火蓋が切って落とされた――!
――布団ディフェンス――
布団に潜り込み四隅を内側に引き込み、それを体重で押さえ込むことで鉄壁の防御を実現。
弱点は、防御力は1布団ポイントしか上昇せず、外が見えないため、反撃できない。
よって、チャージ技や、高威力の攻撃に弱い。
だが、リリーは攻撃力が低いので破るのは難しい。
「えいっーーーー!」
リリーが布団を引っ張る!だが男の・・・兄の意地で負けられない!
兄のプライドを守るため、俺は全力で布団に引きこもる――ッ!
「うおおおお―――ッ俺の布団は守り抜いてみせるーーー!」
「そんなっ、おにいちゃんのどこにそんなちからが!?」
リリーの愕然とした声が聞こえる。
「負けないぞリリー!あと5分・・・あと5分だけでもッ!」
俺は惰眠を貪るんだーーーー!
「ううっ、さすがおにいちゃん・・・!
でもっ、リックお兄ちゃん、じきでんのあのわざなら・・・!」
リリーは何かする模様。
俺は直感した、あの・・・恐怖の必殺技の再来を・・・
「えいーっ!リリーばくだんっ!」
ベッドに乗り込んだリリーが足に力を溜め、空へ舞い上がる――!
このままではやられる――ッ!
「うおおおッ!なめるなぁぁぁ!」
俺は魂の咆哮をあげる!
布団の四隅をつかみ、布団を死守する布団ディフェンスでは、布団の守備を貫通し、
俺にダメージを与える<リリー爆弾>を防げない――!
コンマ一秒で判断した俺は賭けに出る――!
四隅が完全に内側に潜り込み、奇岩のようだった布団が一瞬で姿を変える!
「うおおおっ――!<布団バリヤー!>」
布団を横に引っ張り、張り詰めさせることで布団の限界を超えた防御を可能にする――!
だが、この代償は大きい
「ぐあああぁぁッ――!寒い!冷気がぁぁぁ!」
俺は、冬の冷たい空気で大ダメージ!
そう、寒いから布団を被っていたのに、その守りがなくなるのだ――!
「むうっ、そんな<おふとんばりやー>でとめられるとおもうのっ!?」
リリーが滞空しつつ話す。
よく考えたらすごい飛んでないか?
「ふんっ、この守りを破ってから言ってみせろ!」
俺は布団に全てを懸ける!
リリーが布団と激突する――!
ドガァァァァン!(想像上の音です)
「そ、そんな・・・」
リリーの声が布団の向こうから聞こえた。
リリー爆弾によって布団バリヤーは、もはや原型をとどめていなかった・・・
クレーターのように中央が凹んでいる。だが・・・
ほぼ全て――推定90%の威力の減衰に成功。
俺へのダメージはほとんどなかった。
「ふはははは・・・はっくしょん!――くっ、寒いぜ・・・だが・・・!」
俺は布団を被って再び布団ディフェンスを展開する――!
「この布団ある限り、俺は負けない!負けられないんだぁぁぁ――ッ!」
俺は、布団のために戦う!
「わたしだって・・・ぜったい、おにいちゃんをおこすんだもん!」
リリーの何かを決意したような声がする。
――奇妙な感じがする
以前の<リリー爆弾>の時とは、また違う。
――これは・・・魔力!?
「おおいなるみずよ、おにいちゃんをおこして!<うぉーたーぼーる!>」
リリーは魔法を使った!
――まずい!極限まで集中――!
思考を加速させる――!
どうすれば――!?
1、魔法で迎撃
2、布団バリヤー
3、にげる
――駄目だ!攻撃魔法しか持ってない!
<サンダーボルト>なんて撃ったらリリーが死んでしまう!
――布団バリヤーで<ウォーターボール>は防げない!
防いだら布団がびしょ濡れ―ッ!悪夢だ!
事実を言ってもリリーが俺を庇ったようにしか聞こえないだろう―!
――ならこれしかない。
「うおおおおおおっ――!」
俺は必死の雄たけびをあげ、
布団ディフェンスを解除!ここまでコンマ三秒――!(俺主観)
そのまま跳ね上がるようにベッドの外へ――!
「きゃっ」
布団の向こうからリリーの声。
「――ッ!しまった!」
俺は迂闊だった。
焦っていたようだ。
最後に布団ディフェンスを使った時、リリーがいた場所は?
リリー爆弾を使った後、そのまま俺の上に乗っかっていたのだ。
重さで気づけよって俺も思ったが、リリーは軽い。俺は焦ってた。
エラー!布団ディフェンス、解除できません!
リリーが期せずして布団をホールドしているため逃げられない――
――バシャアァン
痛みは、無かった。ちゃんと弱めに撃ってたらしい。さすが我が妹。
だが、どうしていいのか分からなかった。
寝巻きと布団がびしょ濡れなのだ。
転生したといっても、周囲からすれば俺は5歳児・・・
そんな子どもの布団が朝びしょ濡れだと・・・
――うおおおおおっ
どうしていいのか、分からなかった・・・
結論からいうと、俺は助かった。
あんまり遅いので、兄さんも起こしにきたのだ。
で、扉をあけると、俺が<ウォーターボール(威力控えめ)>を喰らったとこだった。
んで、
「炎よ、布団を乾かせ――!<ファイヤ!>」
兄さんが火の呪文を使う。
――ボオオオオォッ
「さすが兄さん!これで大丈夫だー!」
兄さんはドライヤーから溶鉱炉まで完璧のようだ。
んで、リリーは・・・
「おにいちゃん、ごめんなさい・・・」
申し訳なさそうなリリー。
「おう、大丈夫さ!兄ちゃんも全然起きなくてごめんな」
「うん!」
リリーと仲直り完了。
よし、ご飯~♪ご飯~♪
おっと、寝巻きのままだった。
ご飯を食べたあと、父さんに体術の稽古をしてもらった。
そして――
父さんの突然の宣言。
「よし、リック、アル、リリー。みんなで村に出かけるぞ」
こんな作品を読んで下さって、ありがとうございます
描写追加しました。