第六話:約束
私、エリシアは巨大な魔力と、それと戦ってるらしき先生の魔力を感知して、
急いでその場所へ向かおうとした。
遠くの方で雷の音がして、私は飛行魔法を唱え、空へ舞い上がり、そこへ急行した。
しかし、あと数十秒で到着するかという時に、先生の魔力がぶれて、
私は先生の敗北を悟った。
間に合わない。
そう思った時、ワイバーンの近くに他の魔力を感知。
そう、アルの魔力だった。
(―――たしかにアルは強いけど、一人でワイバーンと戦うなんて!?)
別に、アルなら絶対助けるだろうとは思うし、止めても聞かないだろう。
でも、アルがケガをするのは嫌だ。
私は、更に急いで飛び、そして、見た。
『無数の鉄よ!銀雷によりその身を弾丸と化せ!<微細なる四源の雷砲!>』
無数の砂鉄が銀の流星となって、ワイバーンを穴だらけにするのを。
そして、アルが墜落するのを。
「――――――アル!?」
―――――――――――――――――――――――――――――――
俺は、薄れる意識の中、誰かの叫びを聞いた。
「――――――アル!?」
エリシアの声だ。あいつが驚く声を聞いたのは、あのとき以来か・・・
空中でバランスを失った俺は、木々の枝にぶつかって勢いを落としつつ、
しかし、それでもかなりの勢いで背中から地面に落ちた。
『――傷つきし者を癒す聖なる力――』
『――汝、未だ輪廻転生の刻にあらず――』
『――汝、未だ冥府の門を叩く刻にあらず――』
『――蘇りて、その天寿を全うせよ――!』
『―――<リヴァイブ!>』
急に体の痛みが取れて、意識がはっきりした。
目を開けると、目の前に、すこし涙目で、目が真っ赤なエリシアの顔があった。
「・・・えっと、おはよう?」
うん、やっぱり挨拶って大事だよな。
が、エリシアはホッとした顔から、拗ねた顔になってしまった。
若干怒っている気がする。
「アルの馬鹿」
ちなみにエリシアの目が真っ赤なのは、元の目の色が出てるからだ。
白い髪に赤い目は目立つので、偽装魔法で金髪緑目にしてるのだが、
全力を開放すると、溢れる魔力で偽装が流されてしまうのだ。
「いや、人助けの為だったし」
とりあえず人助けをアピールして、エリシアの怒りを静めよう。
「あんな短い詠唱で無理に膨大な魔力を詰めたら体にダメージが来ます・・・!」
「え、そうなの?」
そんなのは本で読んだこと無い。
「アルは、人間とは思えない魔力量を持ってます。人間の書いた本は役に立ちません」
転生した影響だろうか。とりあえず・・・
「そうか、治してくれてありがとうなエリシア」
お礼を言うが、エリシアに無言で見つめられる。
「えっと・・・、エリシア?」
「アル、他に言う事があるんじゃないです?」
そう言って無言で見つめてくるエリシア。
・・・え、なんだろう?
「もう無茶しません。すみませんでした」
そう、俺は無茶した事を謝ってなかった。
「違います」
・・・エリシアにバッサリ切られた!?
そんな!頑張って考えたのに!?
こう、「あんまり無茶しないで下さい」って流れだろう!?
「・・・アルは困ってる人がいたら無茶しないことはできないです」
・・・そんなことは・・・ない・・・とは言いきれない!?
なんか俺は自己嫌悪に陥ってしまった。
そんな俺に、エリシアは言った。
「だから、余裕でほかの人を助けられるくらい、強くなって下さい。アルならできます」
「・・・わかった」
俺は、エリシアの真剣な表情に押されて、頷いた。
「約束ですよ?」
「ああ、わかった」
俺が、そう言うと、エリシアは微笑んだ。
「じゃあ、もし約束を破ったら、なんでも一つ、私のお願いを聞いてもらいますね」
「・・・んな!?エリシア、そんなのは承諾しないぞ!」
どんな目に遭わされるのか、考えるのすら恐ろしい!
「そうですか?代わりに一年間一度も大怪我しなかったら、
私がアルの言うことを何でも一つ聞きますよ?」
そう言って天使の微笑みを浮かべるエリシア。
落ち着け俺!これは悪魔の囁きだ!
「何でも?」
思わず聞き返した。うがー!?俺の馬鹿!?
「お互いに、何でもです」
・・・勝ったら天国、負けたら地獄ということか!?
「・・・・わかった」
俺は、殊勝な態度で頷いた。が、
「アル、鼻の下がのびてます」
「なんだと!?」
「・・・アルの変態」
エリシアは、じと~っとした視線を浴びせてくる。
や、やばい。話を変えねば!
「そ、そうだ!エリシア、どうしてリヴァイブ使えるんだよ!?」
「・・・話を逸らしましたね。私は、この体に受けた術を吸収、再現する能力があります」
じと~っとした目のまま説明された。
あれ、それって・・・
「強くね!?」
「だから、初めて会った時に、私は危険ですって遠まわしに言ったじゃないですか・・・」
「ははー。想像以上だった」
俺は笑ってごまかした。
が、エリシアは急に真剣な表情になった。
「・・・今からでも、まだ、遅くないですよ?」
さすがにムッときた。
「エリシア、もう一回言ったら、俺の変態技フルコースだからな」
「・・・!ごめんなさ・・・って変態技ってなんです!?」
「え、知りたいの?」
「・・・知りたいです・・・って言ったらどうするんです?」
「ええぃ、俺の負けだよ!冗談だよ!」
くそっ、何故かエリシアには勝てない・・・
まあ、重い空気は払拭できたし、いいだろう。
小さく、「アルの馬鹿」って聞こえた気がするが気のせいだろう・・・
・・・ん?何か忘れてる?
「あ~~~!<アウロラ>が無い!」
「あ、ほんとです」
と、アウロラを探そうと、魔力探知を始めて・・・
周囲の魔力が乱れていた。
「――――!?これは、昨日と同じ!?」
「アル、隠蔽魔法です?」
エリシアも、同じ何かを感じたらしい。
なにか、魔力の乱れがあり、そこから<アウロラ>の気配がある。
「とにかく、見に行ってみよう」
「了解です」
さて、<アウロラ>の気配を探っていくと、見つけた。意外と簡単に。
「なんじゃこりゃ」
「なんです?コレ」
おもわず二人で顔を見合わせる。
<アウロラ>は、空中で見えない何かにぶっ刺さっていた。
なかなか理解し難い光景だ。
「・・・エリシア、やるか?」
「はい、そうですね」
「我が手に白き雷を!虚空を切り裂け!<サンダーボルト!>」
「白き焔よ我が手に!虚空をも燃やせ!<ヴォルカディア!>」
俺の手から白い雷が、エリシアの手から白い焔が飛び出す!
――――ガキィィィィン!
「うわ、なんだこれ」
「・・・すごいです」
なんか一瞬、巨大なドームの端らしき何かが見えた。
どうやらこれは結界のようだ。
が、今の攻撃でなんともないのは結界の常識の範囲外だ。
まぁ、二人ともそんなに強い術は使ってないのだが、
普通に考えて、これは隠蔽用結界だ。
結界の主な種類は3つ、防御、隠蔽、強化だ。
防御結界ならまだしも、こうまで何かを隠蔽する結界がこの強度はおかしい。
どれか一個の効果しかもたない結界が普通だからだ。
つまり、ものすごい魔力を持つ存在が結界を張ったか、
もしくはものすごい技量の存在が結界を張ったか、
土地的な例外の三つの可能性が考えられる。
いずれにせよすごい事なのだ。
「どうする?エリシア」
「アル、顔に気になるって書いてあります」
エリシアに呆れられたが、気になるものは仕方ない。
「というか、刺さってる<アウロラ>でなんとかなるんじゃないか?」
やっと気づいた。なんか、アウロラが刺さって結界がバチバチ言ってる。
「そうですね・・・」
エリシアが頷いたので、俺はアウロラの柄を握って思いっきり――――!
切り下ろす必要もなく、意外とあっさり切れた。
「・・・アル、切れ味良すぎじゃないです?」
「そういえば、磁力で引っ張れなかったんだよなぁ・・・」
ワイバーン戦を思い出しつつ、首をかしげる俺。
「磁力で引っ張れないんです?しかも結界を切り裂く・・・?」
と、結界が塞がろうとしてるのを発見。
アウロラで咄嗟にさらに大きく切り裂いた。
すると、アウロラの魔力の輝きが若干増した。
「なんだこれ?」
「それは、魔力吸収能力!アル、それは魔法銀製です!」
ミスリルって言うと、あの定番のアレか!えっと、強いヤツ!
「おおっそれはすごい!」
「アル、それってものすごく貴重なものですよ?国が買えるかもです」
国・・・?冗談だろ?
「・・・お父さんも、どうしてそんな物を持ってたんでしょう・・・」
う~ん、なんて言いつつ珍しく唸ってるエリシア。
そういえば、まだ話してなかったな。
「これは、俺の本当の母さんの形見なんだ」
俺は、エリシアの目を見て、切り出した。
「・・・・え?」
エリシアが固まった。珍しい。
「だから、俺の本当の母さんの形見。俺の母さんは、俺が赤ん坊の時に死んじゃったの」
「じゃあ、リックお兄さんとリリーは?」
そう聞いてくるエリシアに、リックはお兄さんなのかよ、と思いつつ俺は答えた。
「ん、あの二人は母さんの子どもだよ。」
「・・・アル、リックお兄さんとリリーは知ってるんです?」
エリシアが、聞いていいのだろうかという表情ながらも、聞いてきた。
「兄さんは知ってるけど、リリーには言ってないなぁ。機会がなかったから」
俺は正直にそう答えたが、エリシアはなんともいえない顔をした。
と、小さく「まずいかもです」って聞こえた~気が~した~
♪~~チャラッ、チャ~ララララ~
―次回予告―
「ついにエリシアに明かされた俺の過去!」
「リリーがどんな反応をするのか不安です・・・」
「さて、次回は結界の中に突入だ!」
「アル、がんばりましょうね!」
「銀雷の魔術師、第二章七話:『誰が為に』
みんな!絶対見てくれよな!」
「リリーには負けないです!」
「え、なんか勝負してるのか?」