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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第1章:輪廻の魔迷宮Ⅰ
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プロローグ:フィリアのお仕事





 ラルハイト城――――ここ、アイリア大陸でも歴史のある国としてそれなりに有名なラルハイト皇国の中でも、建国当初からある由緒正しいお城だ。


 白亜の魔法岩を使って積み上げられた壁は雨風は勿論、大抵の魔法や寒さなども無効化するという非常に素晴らしいもので、古代の技術が使われているので現在では修理するのも困難だ。幸いにも壊れたことは記録上一度も無いのだが。



 そんな立派な城の廊下を、輝く金髪の少女が上品ギリギリの早歩きで歩く。

 傍から見ても急いでいることは明白だったが、表情を見ると少しだけ満足げに見えないことも無い。


 そんな少女――――フィリア・ラルハイトは、城でも最も奥まった場所にあり、なおかつ奇妙な紋章の描かれた壁の前に立って一息ついた。




「………ふぅ。これで最後ですね」




 額に浮かぶ汗を、どこからか取り出した上品なハンカチで拭う。

 すると腰につけた神々しいまでの黄金の剣から、フィリアにしか聞こえない声が響く。




『……フィリア。急ぐ気持ちは分かるが、油断はするな』





 フィリアは精霊シリウスがわざわざ警告してきたことに驚きつつ、何か忘れていることがないか念のため声に出して確認してみる。




「ここに保管されているのは主に用途不明の魔法具でしたよね? 先ほどの<Sランク宝物庫>では何もおっしゃらなかったように思うのですが……こちらの方が危ないのでしょうか?」



『得てして人間の創るものというのは、常人には理解できぬものの方が危険性は高いのだ。それに、Sランク宝具といえども起動させねば何も起こらぬ。しかし、用途不明品の中には手を触れただけで発動するものもあるのだ』




 厳かに注意を促すシリウスにフィリアは頷き、念のために聞いてみる。




「ところで、ここで以前何か起こったことはありますか?」

『うむ。右側の棚の奥から2番目の宝具は<手を触れた者の服だけを切り刻み、その姿を記録魔法で保存する>という非常に悪趣味な―――――』



「帰りましょう」





 一応しっかり注意しておこうと思ったシリウスだがフィリアは即座に踵を返し、シリウスは慌てて引き止めようとする。



『―――ま、待てフィリア! 魔法具放置しておくと悪影響がある可能性があり、早期発見が大切だと説明したはずだが!?』


「……それはそうですけど! どうしてそんな悪趣味なものが宝物庫にあるのですか!」




 そう、そもそもフィリアが今しているのは『皇族専用の宝物庫の点検』だ。父である現ラルハイト皇が倉庫めぐりをするのは問題だし、後継者である兄・フィリスも同様だ。他の面々も色々と忙しく、今動けるのがフィリアしかいなかったという経緯はあるが。



 で、冬休みに入ってから皇女としての公務を分刻みスケジュールで蹴散らしてきたフィリアの最後の仕事でもあり、これが終わったら近年目覚しい活躍のフォーラスブルグ領に視察に行く――――という建前でお泊りにいく、ついでにアルに街を案内してもらう約束をしているフィリアとしてはサクッと終わらせたい仕事であった。



 しかしそれでも、アルにすらほぼ見せていない肌を誰かに見せる気などさらさらない。

 とはいえ、フィリアとしても仕事を放り出すのは嫌なのだが――――。




『……フィリア、アレは仕事を放り出して喜ぶ男ではないと思うのだが?』

「……そうですが。でも、私が服を切り刻まれて喜ぶ人でもないと思います!」



『うむ。男ならば自分で切り刻みたいとは思うかもしれんが―――』

「……シリウス、しばらく物置で過ごしますか?」



『なっ!? 満更でもなさそうな顔をして何を言うのか! あのような場所は二度とごめんこうむるぞ!』

「ならアルの性癖を勝手に決めないで下さいっ! ………後でエリーに聞いておかないと…っ」









 フィリアはそう呟きつつも、皇族専用の用途不明宝物庫の点検に赴き―――そして姿を消した。









―――――――――――――――――――――――――――――





 その後、夕食の時間になってもフィリアが戻らなかったことを心配した皇様は即座に自ら宝物庫に向かおうとし―――しかし重鎮たちの決死の阻止で踏みとどまる。


 そして、同じく兄のフィリスも宝物庫に突撃しようとして阻止され。



 しかし皇族が段違いの力を持つこの国ではフィリアが帰ってこられないレベルの異変というのはかなりヤバイ。それも念のためにシリウスを携帯していたにも関わらず、だ。

 ぶっちゃけシリウス憑依状態のフィリアなら皇様にもギリ勝てるくらいだし。



 そんなわけで、皇様の執務室ではなんとか突撃したい皇様と阻止したい重鎮の戦い(肉弾戦)が勃発していた。






「うおぉぉぉっ! やはりフィリアを探しにいく! そこをどけぇぇぇぇっ!」


「ぐはぁっ!? 落ち着いてください、皇様っ!」

「くそっ、気絶させてでもお止めしろ!」

「ど、どなたか皇族で動ける方はいらっしゃらないのか!?」




「俺が皇だ! 俺が行く! そこをどけって言ってるだろうがぁぁっ!」


「ごふぅっ!? 皇であるからこそ、待ってくだされというのです!」

「くっ、ダメです! 皆様公務の最中かと思われます……」

「ならば、一番の実力者を――――」




「――――俺が最強だぁぁぁっ!」


「ぐあぁぁっ!? って皇様、先ほどから私ばかり殴っていらっしゃいますよね!?」

「実力者ならば、フォーラスブルグ家のご当主は!?」

「ご当主は流石に動けな――――いや、適任がいるではないか」





 どういうわけか洒落にならない強さを持ち、非公式ながらフィリア皇女と交際(結婚を前提に、ということになっている)しており、ある意味皇族みたいなものだと言えないこともないのが一人。



 即座にフォーラスブルグ邸に魔法通信が送られ、何故か通信に応じたのがやたらとテンションの高いメイドだったりしたが、「ああ、フォーラスブルグだもんな」と思われて深く気にされない。


 というわけで、アルに『フィリア行方不明』の急報が伝えられ―――。










―――――――――――――――――――――――――――――







「――――よく来てくれた。アルネア君」

「――――はっ。アルネア・フォーラスブルグ、ただいま参上いたしました」






 というわけで俺は、一緒に連れて行けと駄々をこねるエリシアという非常に珍しい光景を脳裏に焼きつけたり、なんか良くわかってないけど周囲のマネをして「いってらっしゃーい!」と手を振るアリアに和んだりしつつも、ちょっと魔法でブーストをかけたり最近出せるようになったエリシアと同じ翼とかを活用して、報告を受けてからものの5分くらいという、世界新記録がもしあったら審査員が真っ青になりそうな速さでラルハイト城の執務室に到着していた。



 ……何故か皇様の息が上がってたり、宰相さんの頬に殴られた痕っぽいものがあるけど気にしたら負けなのだろう。

 ごく自然に帯剣している俺も何も言われないし。





 とはいえ、皇様は厳かに口を開き―――。





「既に聞いていると思うが、今回来てもらったのは他でもない……フィリアが皇族用宝物庫の点検に向かったきり帰って来ないんだぁぁぁっ! 探しに行ってくれ!」


「場所は?」





 俺としても時間を無駄にする気はサラサラ無い。

 いや、別に皇様の話が無駄とは言ってないぞ?

 簡単に説明を受けると、即座に飛行魔法で急行し――――。












「………ここ、か」




 目の前には奇妙な紋章が扉のかわりに口を開けているという、なんとなくダンジョン臭い入り口。どうやらワープゾーンになっているようだ。

 とはいえ、呟いてみてもいつもは隣にいて何かコメントをくれるエリシアがいないので何となく虚しくなっただけだった。





「まぁ、アリアが危険な場所に来るのはマズイしな」




 本当は万全を期すためにローラあたりもいてくれればよかったのだが、状況が分からない以上は迂闊なことはするべきじゃない。もしかすると1分遅れるだけで事態が悪化するかもしれないのだ。


 そう考えた俺は、特に何も考えることなくワープゾーンをくぐり――――。







 魔力の奔流を感じる。


 白い光に包まれ、大規模な魔術が発動する。


 俺は一瞬、「宝物庫に何でこんな面倒くさそうな魔法が?」と思わないでもなかったが、焦っていたので特に気にすることも無く――――。






 気が付くと、一面の草原に立ち尽くしていた。






「………は?」













 


次回予告!



―――行方も分からぬ恋人を求め、さまよう少年。

しかしそこは、思いも寄らぬ場所で―――。



次回、『ワープゾーンを抜けても雪国じゃなかった(正式タイトル未定)』

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