いろいろごめんなさい
「………変装はカンペキ」
「ふっふっふ、これで私たちにはだれも気づけないね!」
「ど、どうでしょうか……」
どうやら探偵とかも憧れてたらしいローラとリリーは、いかにもなジャケットとかサングラスとか帽子を大通りにあったお店で尾行しつつお買い求め、「探偵or不審人物!」といった風情を醸し出していた。
……まぁ、万が一警備隊とかに目を付けられてもフィリアが名乗ったら土下座して帰ること間違いないので多少は問題ない。というかフィリアは帽子を被っただけなので、よく観察すればすぐにフィリアだと分かる。
で、やっぱりアルには即バレだった。
「……あ。アルと目が合った」
「えー、お兄ちゃん気づくの早いよー」
「とりあえず、帽子取りませんか? お店の中でそれはちょっと……」
ローラとリリーがアルに気づかれて凹んでいたが、フィリア的にマナーの方が大切だった。帽子を取ると周囲がザワつくが気にしない。「お、皇女様!?」とか「なんでこんなところに!?」とか騒ぎになるけど気にしない……気にしちゃだめだ。
―――――――――――――――――――――――――
さて、俺は人生初の合コンをしていたのだが、なかなか困ったことになった。
なんか皆で一つずつ質問していって、それに異性は全員順番で答えるという方式だったのだが、下手を打つと後で修羅場になりそうな質問がいくつかあったのである。
「それじゃあ、好きな女性のタイプを教えてください!」
なん……だと…。
普通に考えるとベタな質問だ。ベッタベタだ。しかし考えてほしい。俺は今現在いわゆる三又状態であり、例えば「胸が大きい人が好きです!」と答えたとしよう(そんな答えは絶対にしないが)。すると、後で万一エリシアにバレると大変なことになる。
逆に、「胸は小さいほうが!」とか答えるわけないけどそう仮定すると、フィリアが大変なことになる。
つまり何が言いたいのかと言うと、あの三人が適度に当てはまり、かつ誰か一人だけ優先されたりしないような絶妙な回答が必要なのである!
ちなみに俺の前6人の回答はこんな感じだ。
「可愛い子が好きでーす!」
「キミが、好きだぁぁぁぁ!」
「家庭的な人かな」
「明るい子」
「ふっ、私のように美しい女性が好きです」
「俺が好きになった女がタイプだ!」
……って、なんだこのカオスな状況は!?
こんなんなのか!? 合コンってこんな感じなのか!?
しかもいつの間にか俺の番になっていて、俺は咄嗟に閃いたことを口走った。
「りょ、料理が上手い人がいいな!」
うん、手料理大事だよ。手料理。
なんかフィリアのいた辺りからグラスの割れる音が聞こえた気がするけど平気だよな!
少なくともこの中ならマトモだと信じたい!
「そーいえば、アルネアさんって結局誰が本命なんですか?」
「あ、それ私も気になる!」
「俺も!」
「言っちまいなよ、ユー!」
え、ちょっと待って。マジでなんだこの面子。
全員+フィリアとローラの熱い視線を受けた俺は、若干冷や汗をかきつつなんとか答えた。
「い、いや、あの3人だけ全員好きというか……」
「そんな優等生な答えは求めてないぜ!」
「よっしゃ、飲ませろ! 吐かせるんだ!」
「私も入れてほしいなー!」
「ねぇねぇ、もう女装しないの?」
「ちょっ、待っ!? ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
店に俺の叫びが響いたが、酔っ払いたちの騒ぎに飲み込まれて誰にも届かなかった。
ただ、途中からフィリアとローラとリリーっぽい人物が乱入して好き放題やられた気がするのは気のせいだろうか……。
…………………
数時間後、学生寮。
「………やばい。何か色々とやばい」
一応、アルコール酒と違って魔力酒は禁止されていないからお咎めはないのだが(アルコールの方が酔いやすくて悪酔いするとか?)、酔いの症状は似たようなものなので、浴びるほど魔力酒を飲まされた俺はふらつく足で自室の前に立った。
知らなかったとはいえ合コン行ってきた帰りで、しかも酔っ払いだ。
……なんと言い訳するべきか。一応、手土産は買ってみたのだが…。
数秒無言で立ち尽くし、意を決して鍵を出そうとしたところ、勝手にドアが開いた。
「うおっ!?」
まさかエリシアから来ると思わなかったので動揺して立ち尽くした俺に、ドアを重たそうに両手で押さえたエリシアはちょっと楽しそうな顔で言った。
「おかえりなさいです。………アル、お腹減ってないです? それともお風呂にしますか? ちなみに、くさいです」
な、なんで笑顔なんだ? あれか、怒りが限界を超えて笑いになったのか!?
というか、エリシアに「くさい」って言われた…だと……!?
俺は本気で楽しそうなエリシアに戦慄し、しかしなんとか返事をした。
「……お風呂に行かせていただきます」
…………………
「~~~♪」
「…………」
エリシアが用意していたらしいカレーライスを食べながら、俺は冷や汗をダラダラと流していた。何故かエリシアの機嫌がいい。椅子に座って笑顔で俺を眺めつつ、床に届かない足をパタパタさせながら鼻歌を歌っている。ちなみに前世でヒットしたアニメソングだと思う。
「ア~ル? お味はどうですか?」
「―――あっ、ああ! 美味いよ、美味い!」
やっぱり外食より手料理だなーと思うのだが、エリシアが不気味すぎる。
早く謝らねば、とタイミングを計るのだが阻止されてしまう。
カレーを食べ終えたところで切り出そうと口を開き―――。
「な、なぁエリシア――――」
「おかわり、食べますか?」
「……頂きます」
「はい、どうぞです!」
ならば、と再び食べ終えた俺は先に「ご馳走様」と言ってから口を開き―――。
「あ、お皿下げちゃいますね?」
「い、いや、そこは俺が……」
「ダメです」
「……はい」
……ほんとにどうしようか。
珍しくエリシアにバッサリ切り捨てられた俺は「先に寝る」という緊急回避を検討するが、それで寝ている間にエリシアにグサッとやられて「アルは私のものです……っ」的なヤンデレ展開になったらどうしようもない。
ヤバイぞ、誰も幸せにならないぞそんな展開!?
そんな風に戦々恐々としていると、お皿を水に漬けて戻ってきたエリシアが堪え切れなかったように笑い出した。
「……ふふっ、ア、アル? すごい顔してますよ?」
「い、いや、その……実は―――」
もうここで切り出さなければチャンスはない。そう悟った俺だったが、残念ながらエリシアのほうが少しだけ早かった。
「ぜんぶ、フィリアとローラとリリーから聞きましたよ?」
「うぐ…っ」
エリシアは相変わらず楽しそうで、全く怒っている気配はないのが逆に不気味だった。
もしや、フィリアが何かフォローしてくれたのか…? という俺の期待は一瞬でぶった切られた。
「モテモテだった。って聞きました」
「……ごめん」
笑顔が怖い。もう謝るようり他に道はない。
俺はただ頭を下げてエリシアが判決を下すのを待ち―――。
「じゃあ、どんな罰でも甘んじて受けてくれますよね?」
「……ああ――――って、んなっ!?」
返事してから気づいたのだが、エリシアの声に似せてるものの、どことなーくローラっぽい声だった。慌てて振り返ると、笑いを必死に堪えているローラとリリー。そしてちょっと申し訳なさそうなフィリアが。なんでクローゼットの中から出てくるんだよ…。
「……ローラ、私はもう満足したんですけど…」
チラリと俺の目を見て申し訳なさそうにエリシアは言ったのだが、ローラは拗ねたような声で呟いた。
「……ダメ。私とフィリアだってアルの合コンには不満がある」
うぐ。それを言われると強く出れない……。
で、フィリアもちょっと不満げに呟いた。
「えっと、否定はできない……ですね」
「お兄ちゃん、修羅場にこそ男の人の真価が問われるらしいよ?」
とりあえずリリー、どこで聞いたんだそんな話。とか思って現実逃避してみたのだが、その隙にローラとフィリアに両脇から抱えられてしまった。
「……それじゃあ、とりあえず皆で寝よう?」
「そ、そうですね!」
「頑張ってね、お兄ちゃん~♪」
「えっと……アル、朝ごはんは精力のつくものにします…っ!」
リリーは手を振って退散し、エリシアは参加しないのか「ファイトです!」と拳を握りつつ言ってくれたのだが助けてはくれないらしい。
「ちょっ、ローラ、エリシアは別にいいって言ってるぞ!?」
「うん、お許しが出たね?」
「そっちじゃな――――うぁぁあ、エリシアヘルプ! ローラ、お前さっき魔力酒飲んでただろ!?」
ズルズルと寝室へローラに引きずられ、フィリアもそれに便乗してくる。
平時ならともかく、酔ったローラは何するやら全く想像できないので逃げたいのだが…。
「……そうだ。アルに可愛い服を着せたい」
「――――やっぱりかよ!? エリシアーーーっ、鞄の中に――――ごふっ?!」
俺は連れ去られた。
―――――――――――――
アルがローラに連れ去られて数分後。
なにやら暴れる音とか瓶が割れる音とかを聞きながらエリシアは皿洗いを終え、ちょっと反省した。
「やりすぎました……」
ローラたちから「合コンしてた」「アルは浮気していなかった」との報告は受けていたので、もともと怒ってなどいなかったのだ。ただ、「ちょっと懲らしめるから協力して」と言われたので快く引き受けただけ。
強いて言うなら、珍しくアルに言いくるめられたりせずに主導権を握れたのは楽しかったけれど。
「だって、いつもアルに好き放題されてますし……」
なんとなくつぶやいてみたけれど、むしろ罪悪感が増してきた。
困惑してるアルが可愛いかったのが悪いです。とか思うと、よくアルに「エリシアが可愛いのが悪い!」とか言われたときに「理由になってないです!」と思っていたのを思い出してなんとも言えない気分になる。
「……あ、鞄です」
アルの鞄がおきっぱなしになっていた。
そういえばアルが鞄の中身がどうとかと連れ去られる寸前に言っていたような?
エリシアは勝手に鞄を開けていいものか逡巡したが、アルが言っていたのだからよかろうと納得し、鞄を開けてみた。
「………あっ」
中に入っていたのは、なにやらいい匂いのする包み紙。
開けてみるとクレープが2つ入っていて、もしかしなくてもお詫びの品だったのだろう。
「………ぅー。ずるい、です」
もっと早く言ってくれればよかったのに。
まだ温かいから、二人で食べたらきっと美味しかっただろう。
「……これだと、言いつけを破った私が悪いみたいです」
アルの「料理禁止令」を無視してカレーライスを作って、でもそれをすっかり忘れて美味しそうにカレーを食べるアルに満足していたのに。アルの合コンと私の言いつけ破りでお互い様だとすると、このクレープの分だけ私が悪い。というよりアルの合コンは故意ではなかったようなので、むしろアルが私に怒っていいと思う。
「―――…どうしたら、『すき』って気持ちは伝わるんです……?」
アルはひどい。
料理も、洗濯も、掃除も。アルのためならなんでもできるし、やってきたと思う。
でも、足りない。
まだまだ、これくらいだと全然伝えられない。
お陰で四六時中アルのことを考えているのに、これ以上どうしろというのだろう。
好きだという気持ちに押し流されて、ロクに怒りも湧いてこない。
なのに、もう何もしてあげられることがないから気持ちを伝えられない。
アルは駄目男じゃないから、気持ちが落ち着くこともない。
いや、今はアルとローラとフィリアと……。
「…………ちょっと、冷めたかもです」
と言ってみたりしても、罪悪感が増しただけで。
後悔するくらいなら、最初から「私だけを見て」と言えばよかったのだ。
……そんな恥ずかしすぎるセリフを言ったら当分顔も見れない気がしますけど。
……実際、素直に言ったらアルはどうしたのだろう?
決してあの時も素直じゃなかった訳じゃない。けれど「私だけ」を選んでほしいと言って、自分が捨てられる可能性を考慮しなかっただろうか? 「3人ともがいい」と言えば自分が捨てられることは無いと、考えていなかっただろうか?
「……そういえば、妊婦さんはブルーになりやすいんです?」
私らしくない。そう思う。
でも、でも……。後は素直に口で伝えるくらいしかできないのではないだろうか?
「……すこし、だけ」
少しだけ、素直になってみよう。
私がアルを好きなように、アルも私のことを想ってくれていると信じよう。
だから、今は――――。
「――――アル! いっしょにクレープ食べた……い、です?」
寝室の扉を勢いよく開けると、どういうわけかアルによく似た女の子が制服を着てローラに羽交い絞めにされていた。フィリアは何やら女の子の髪の毛を弄っていて、アルは見当たらない。
いや、本当はわかっているのだ。
「アルとよく似た」なんて言っても実際はほとんど原型を留めていない。
前回までとは気合の入り方というか何かが違う。これがアルだと分かる人はそうそういないだろうし、なんというか……。
「か、かわいい……ですっ!?」
「――ぐはっ!? エリシア、お前もか……」
若干泣きそうなアルはどんな魔法を使われたのか声まで変えられていて、しかも何を入れたのか、胸が……胸が私よりおっきいです…っ!
「……いい仕事した」
「エリー、アルの髪の毛ってサラサラですね!」
何かいろいろ言いたいことがあった気がするけれど、アルを可愛がるのも愛情表現の一つでは…? と思ってしまった私はローラとフィリアに加担して、そのまま心行くまでアルを可愛がりました。幸せでした。
後日、アルの仕返しが待っていたのはまた別な話。
ごめんなさい。いつものことですがふざけすぎました。
収拾がつかなくなってこんなかんじに。
あと、次何か1話挟んだら新章やるかもやらないかもです。
新章だとローラかフィリアともイチャイチャできたらいいなーと思いつつ、果たして本当に新章が始まるのか……。
ちなみにアルが女装すると可愛いのは竜族の仕様です。
決してアルが女装好きなわけではありません。あと、ローラもアル以外の女装には興味ないのでアッチ系の人ではありません。
竜族恐るべし(という便利設定)。
なお、パソコンを変更して引継ぎが大変なのでおまけはお休みです!
はい、ごめんなさい!