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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
帝国侵攻編 Ⅱ
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エピローグ




「ただいま~」

「お邪魔いたします」

「…お邪魔します?」



 フォーラスブルグ家の屋敷の中庭に、俺とローラ、フィリア、そして俺に抱えられたまま寝ているエリシアが降り立つ。


 結局、帝都から皇国に帰る途中でフィリアたちに合流。

 レジスタンスによって帝都が落ちたことを帝国軍に伝え、帝国軍は持っていた通信用魔術具でそれを確認すると降伏した。


 ついでに朱雀の自爆に巻き込まれた父さん(マッチョだった)がけっこう重症だったのだが、エリシアを起こして頼んだらサックリ治してくれた。

 で、父さんは一応指揮官なので帰るのはもう少しかかるらしい。

 フィリアは……無理に残ると体調を崩したりすると大変なので帰ることになった。一応まだ学生だし。



 そんなこんなで夜中に突然帰ってきた俺たちだが、母さんと使用人の人たちが出迎えてくれた。




「お帰りなさい。ご飯は作ってあるから温めなおすわね」




 母さんはにっこり微笑むと小走りで去っていき、腹が減っていた俺たちはありがたく頂くことにした。





………………




 さて、そんなわけで寝ているエリシアを除いて俺とローラとフィリアはご飯を食べ、風呂に行ったのだが、ローラとフィリアはエリシアに気を使って一旦席を外してしまった。

 ……起きたエリシアが勝手に帝国に行った俺に何を言うやら全く予測できないのだが、ローラとフィリアに言わせると―――。



『……自業自得?』

『が、頑張ってくださいね!』




 ゆ、憂鬱だ……。

 かといって、エリシアが起きたときに俺がいないと更に事態が混迷を極めそうである。

 



「……んぅ、アルぅ~……」



「ね、寝言か……」



 毎度の事ながら起きてるみたいな寝言はやめてほしい。心臓に悪いから。

 何の夢を見ているのか、エリシアは顔をだらしなく緩ませつつ枕に抱きついて幸せそうだった。……そんな無防備な寝顔を見せられるとこう、俺の悪戯心がふつふつと湧き上がってくるんだが。



 とはいってもエリシアは病人。なんかいい感じの悪戯はないものか…。

 ……いや、待てよ。アウロラのアレがあったし、ほぼ回復してるのか。

 その上、インパクトある悪戯で起こせば俺の独断行動の印象も薄れるかもしれないしな! ならば遠慮はいるまい、どうしてくれようか……。




 そんなわけでエリシアの寝顔を観察してみると、なんとなくエリシアが枕をさも大事そうに抱いているのになんとなくイラッときた。しかも頬擦りしてるし。

 おのれ枕め、エリシアに抱きつかれるとは羨ましいにもほどがある!

 よろしい、ならば戦争だ!



 俺はエリシア奪還作戦を発動。とりあえずベッドに侵入し……たのはいいものの、枕をエリシアから引っぺがすのはエリシアが可哀想だし……枕に穴あけて中身を引きずり出せばいい感じに取れるか?



 というわけで哀れな枕に手を伸ばした瞬間、エリシアが寝返りを打った―――と思った時には既にエリシアが俺の腕に抱きついていた。

 しかも目がパッチリ開いてるし、可愛らしく微笑んでいる……目が笑ってないけど。




「お、おはようエリシア……?」

「アル、おはようございます……」




 こ、これはもしかしなくてもマズいのではなかろうか。

 逃げることも一瞬だけ検討したのだが、エリシアが俺の胸に抱きついてきたので断念。これを無理矢理剥がそうとすると俺の胴体ももってかれかねない。

 



「えーと、いつから起きてたんだ?」

「今です。……アル、大事な話があります……!」



 決死の表情のエリシアに見つめられつつ言われ、俺の背筋を冷や汗が流れ落ちる。

 まさか縁を切るとかは言われないだろうが、これはまさか相当に怒っているのではなかろうか。……な、なにかエリシアを宥める方法は…っ!?


 普段ならキスするなり頭を撫でるなりで誤魔化せるのだが、エリシアが俺に抱きついて押さえ込んできているこの状況ではそれどころか身動きもままならない。

 そして――――。




「……そ、その……えっと……」


「……エリシア?」



 てっきり言葉の猛攻撃を仕掛けてくるかと思われたエリシアは、何故か頬を染めつつ何かを躊躇っているような……?



「―――アルっ!」

「な、なんだっ!?」






「わ、私……っ、赤ちゃんができました……っ!」

「…………へ?」




 なんだろう、上手く頭が働かない。

 こういうときって、なんて言えばいいんだ?

 と、とりあえず…。



「おめでとう、エリシア?」

「あ、ありがとうです?」




 ……いや、待てよ。ということはまさか――――。



「ひょっとして、体調不良って妊娠してたからか?」

「……ごめんなさい」



 エリシアを責める意図は全くなかったのだが、目に見えてエリシアが凹んで俺は慌てる。

 ……というかそうだな、吐いたり、いつもより眠そうだったり、魔力の枯渇とか色々全部妊娠の初期症状でしたといわれてみると納得できるような……。



「……って言っても、あんなに魔力枯渇するもんなのか? 危なくね?」

「……えっと、竜族は普通は100歳くらいまで妊娠とかしないからです?」




 そういえば普通は妊娠するまで最低でも何十年もかかるんだっけか……。

 つまりその間に蓄えた魔力が本当はあるはずだけどそれが無いからあんなに魔力が枯渇して大変だったと。



「ちなみに、いつ気づいたんだ? というか本当に妊娠してるのか?」

「寝ている間になんとなく、です? あと、お母さんに聞いたら『え、妊娠してるんでしょ?』って言われました……」




 母さぁぁぁん!? 気づいてるなら教えてくれよ頼むから!

 なんでも、竜族の子どものできにくさを知らない母さんとしてはあれだけラブラブだったらいつ妊娠してもおかしくないなーと思っていたらしい。

 ちなみに魔力を使って妊娠してるかどうかは簡単に分かるらしく、もうバッチリ妊娠してるらしい。


 が、散々エリシアを心配した俺としては愚痴を言わずにいられない。




「妊娠に何十年もかかるって話は何だったんだ……」

「……えっと、その……愛が強いほど早くできる、です?」



「いやいや、迷信だろ」

「……でも、竜族の場合は実際にあまり愛し合ってないと子どもが絶対にできないらしいです」



「……そのこころは?」

「体内の異物は自動的に排除されます。……それで、その……相手のことを自分と同じかそれ以上に大切に思ってないと……です?」




 ははぁ、つまりエリシアは俺をそれだけ大切に思ってくれてると。

 ……お互いに大切に思ってることはなんとなく分かっていたけど、こうやって真正面から言われると……嬉し恥ずかし。




「ま、まぁアレだ。……俺もそれくらいエリシアのこと、好きだよ」

「~~~…っ」




 超至近距離で微笑みかけて言うと、エリシアが悶えた。

 そんなエリシアも可愛いと思う俺は完全に末期だな。



 そんなこんなでしばらく二人でじゃれ合っていたのだが、エリシアの瞼が重たくなってくるのにそう時間はかからなかった。



「はふぅ………」

「っと、赤ちゃんのためにもちゃんと寝ろよ?」



 可愛らしい欠伸をするエリシアの頭を撫でてやると、エリシアはまた俺の枕を抱きかかえて眠そうに微笑んだ。



「アルのにおいです~…」

「……なるほど、そんな意味が。というか俺より枕がいいのかエリシア!?」



 俺は枕に負けたのか!? と愕然とする俺の唇に、エリシアの柔らかい唇がそっと触れた。



「アル、もう眠いです……。だから、アルはローラとフィリアと……ぁふぅ」




 そう言ってまた欠伸をしたエリシアは、目を閉じて枕に顔をうずめた。

 ……もしかしなくても完全に気を使われたのか。

 かといってエリシアを放っておくのは躊躇われ―――そうだ、竜族ハーフの力を見せる時がきた…っ!



「《イミテーション・シャドウ》!」




 魔力を一気に解放し、平時黒髪になってしまった俺の髪が銀色に輝く。

 そして俺の影が一気に盛り上がり、色つき、アッという間に俺がもう一人できあがり。しかも意識を共有している上に能力や体の構造も俺とほぼ同じという優れもの。




「「―――というわけで、枕ごときがエリシアに抱きつかれるなんて羨ましいから断固却下! エリシアに抱きつかれるのは俺だっ!」」




 するとエリシアは枕から少しだけ顔を上げ、泣きそうな顔で呟いた。




「……アル、私といっしょに寝ても、何もしてあげられないです…。楽しくなんか、ないですよ……?」


「「……まぁ確かに溢れる若さはあるけどさ、かといって今のエリシアをほったらかしにするほど薄情じゃないぞ。あと、楽しくなくてもエリシアと一緒なら幸せなんだよ。心が落ち着く? それにせっかく便利な術があるんだから有効活用!」」




 おおぅ、自分でも気味が悪いくらいハモるのな。

 ところで『ハモる』って『ハーモニーする』の略でいいのだろうか。

 とか無駄なことを考えていると、エリシアがベッドからジャンプして俺の胸に飛び込んできた。何かあっては大変だと、俺は慌ててやんわり受け止める。




「ぐすっ……アルっ、好きです、だいすきです……っ!」

「「……ああ、俺もだよ」」



 でもとりあえず飛び跳ねたりするのは当分禁止にしようと思う。

 せっかくの俺とエリシアの愛の結晶……自分で考えててものすごい恥ずかしいな!?

 

 とりあえず、エリシアが俺の本体のほうを的確に見極めて抱きついてきたので影のほうは退散しようと―――。




「あっ、アル! 私が影のほうでいいです…!」

「「へ、そうか? 別にどっちでも変わんないと思うだが……ってか、本気でどっちがどっちか分かってるのな!?」」




 俺としては割と本気で驚いていたのだが、エリシアはグッと拳を握って熱弁した。




「アル、女の子にとっては些細なことでも大切なんです……! 初めてが影だと、寂しいです…っ!」

「「な、なるほど……。って、何が初めてなんだ、何がっ!?」」




「えっと、フィリアです」

「「……いや、うん。そうと決まったわけじゃないんだけども?」」




「アル、それは逆にフィリアが可哀想です…!」

「「そ、そうなのか?」」




「私だったら『魅力がないのかな……』って落ち込んじゃいます! ちょっとくらい強引な方がアルはちょうどいいです…っ!」


「「な、なるほど……で、とりあえず寝ようなエリシア?」」




「ご、ごめんなさいです……」

「いや、気にするなよ。……っと、そろそろ俺は行くな」

「よし、寝るかエリシア」




 とりあえず落ち着けと目で語りかけると、エリシアはシュンとなって大人しくなった。

 で、本体の方が扉に向かい、影のほうがエリシアをベットに運んでから一緒に横になる。エリシアは影のほうを抱きしめると、俺に手を振って微笑んだ。



「アル、おやすみなさい。です」

「おやすみ、エリシア」






……………………





 さて、部屋を出るとローラとフィリアが待ち構えていた。

 俺はとりあえず扉を閉めてから仏頂面で話しかける。



「……で、何で部屋の前で待ち伏せしてるんだ?」


「……ん、ご懐妊おめでとう」

「ご懐妊おめでとうございます!」




「まぁ、ありがとな。で、何で待ち伏せしてるんだ?」



 もう一度聞きなおすと、ローラは微笑んで、フィリアは申し訳なさそうに答えた。



「……乱入してみようかなと思ったんだけど、そんな空気じゃなかったから待ってた」

「ご、ごめんなさい。好奇心を抑えられなかったんです……」




「……おいコラ、乱入って何に乱入するつもりだったんだ、何に!?」


「……私も、アルと共同作業がしたいな…って」

「ロ、ローラっ!?」




 恥じらいも何もないローラの返答にフィリアが耳まで真っ赤になる(怒ってるのではなく恥ずかしがっている)。っていってもよくよく見るとローラの顔もほんのり赤い。恥ずかしいなら止めればいいと思うのだが、『鈍いアルにはこれくらいしないと』ということらしい。



「ローラ、とりあえず俺が悪かったからその直球な物言いは止めてくれ……」


「……じゃあ、一緒に寝たいな…?」

「そ、そんなっ……羨まし―――わ、私もお願いしますっ!」




 フィリアまで吹っ切れてしまった…っ!?

 とりあえず俺は、もう一度しっかり気持ちを伝えておきたいと、そう思った。

 エリシアの言うように、些細なことがきっと大切なのだろう。





「……ローラ、フィリア。あとエリシアもだけど、3人ともそれぞれ良いところがあって、俺はそれが好きだ。だから……えーと、なんだ。………今更だけど、絶対に幸せにしてみせるから。俺を信じてくれ」



「……最初から信じてるよ、アル」

「私も、アルを幸せにできるように頑張りますから…!」

『……アルといっしょにいられるだけで、しあわせです』




 ローラが笑顔で抱きついてきて、フィリアもそれに続く。

 扉の向こうでも聞こえていたのだろうエリシアも魔声で囁いて。




 俺は胸の奥がとても暖かい何かで満たせれるのを感じて、どんな魔法でも叶えられないほど幸せだと、そう思った。








これにて本編終了です。

あとはこれまでご希望のあったシチュエーションを後日談として投稿するほか、もしかすると子どもたちの話を書くかもですが。


とりあえず、ここまで読んで下さった心の広い読者様方のお陰でなんとか書き終えることができました! ありがとうございました! 打ち切り状態でしたが気にしちゃ駄目!


っと言っても後日談はザクザク書く可能性がありますし、少なくともフィリア・ローラともイチャイチャさせときたいんですが。


でも、本当にありがとうございました!

ひとまず完結、です!

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