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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
帝国侵攻編 Ⅱ
143/155

第五話:拠点の攻防

前半はアルとローラとレジスタンス。

後半はフィリアもいる国境の砦の話です。




今回の話の忘れてそうな登場人物


アルベルク・フォーラスブルグ:アルの父さん。血は繋がっていない。









「これが城内の見取り図です。恐らく皇帝ベルティスはこの部屋を使っていると予想されます……あくまで、これは予想ですが」



 レジスタンスの拠点の中、酒場のように大きなテーブルが並ぶ部屋で、サティナと俺とローラとレジスタンスの重役たちで会議を行っていた。

 皇帝さえ倒せればエリシアを助けられる……ハズだ。

 絶対に負けるわけにはいかない―――。




「そして、今回の作戦において最も重要なことですが――――」



「……アル、あ~ん」

「あ~ん……って、会議中なんだが」



 「そんなの知らない」とばかりの満面の笑みでローラが俺の口に朝食のハムを運ぶ。周囲からの視線が痛い……。



「……だいじょうぶ、食べないと力が出ない」

「いや、『あ~ん』ってやる必要性はないよな」



「……そういえば、これって『あ~ん』以外に言い方ない?」

「あー、言われてみれば確かに」



「アァ~ン?」

「不良だな」



「あはぁ~ん?」

「似合わないぞ」



「うっふ~ん?」

「棒読みで言うセリフじゃないな」



「アル、大好き」

「……いや、うん。ありがとな」



 ちなみに「あはぁ~ん」とか言いつつもハムを口元に運んでくれてるので大人しく食べる。いつの間にか周囲からの「何なんだコイツら」という視線は「駄目だコイツら」に変わっていた。


 おかしいな……ローラってこんな感じだったっけ?

 でもまぁ、酔ってるローラがこんな感じだった気がするから、遠慮してないとこんな感じになるということか。




「というか、どうして急にこうなった……」



 俺の心の底からの呟きだったのだが、ローラは拗ねたように少し唇を尖らせつつ言った。



「……アル、責任とって」

「―――何が!?」



「……もうお嫁にいけない。具体的に言うとアルの○○○が私の×××に△△△で―――」

「―――ちょっ、待て!? そうじゃなくてどうしてそれで「あはぁ~ん」になったんだよっていうこと! 急に性格変わっただろという!」



「……そっち?」

「そっち! こんな場所でそんなとんでも発言するなよ!」



 一体何がどうなってるんだ。

 若干白い目でローラを見ると、ローラは少し考えた後、呟いた。




「……アルが好き過ぎてどうにもならない」

「なんか平坦な口調で言われるとそんなに恥ずかしくないような気がしてきたかもしれない不思議」



「……うぅ~。お酒ください」

「―――止めろよ!? この戦いが終わってからにしろ!」



 正直、今のローラが酔ったらどうなるのかとか考えるのも恐ろしい。

 地味に俺が死亡フラグを立てたのは気にしないことにする。



「というか、マジで家に帰ってからにしてくれよ……」

「……エリーの前でやるとエリーが泣きそう。怒ったりヤンデレしたりしないのがエリーのいいところだけど、世界の終わりみたいな顔してるエリーを見ると罪悪感で私もあんまり楽しくない」




「まぁ、それはな……」

「……というわけで、会議どうぞ」



「話の脈絡なさすぎる上に一番邪魔してたの俺たちだよな!?」

「……そこで『一番邪魔してたのお前だよな』って言わないアル大好き。でもやっぱりエリーとフィリアも一緒に4人でアルを弄―――アルに可愛がられたい」




「もうキャラが迷子になってるぞ!? というか俺を弄るつもりなのか!?」

「うん。エリーに【元気になる薬】を盛ったら楽しそうかなって」



「それはなんというか……全くどうなるのか想像できないな」

「……アルがいかがわしい想像してる」



「……」

「……」



「「…会議どうぞ」」



 周囲からの視線とか無言の圧力とかが、なんとも言えない領域に達していた。

 幸いにも、サティナが何食わぬ顔で(顔が赤かったけど)再開してくれたので助かったのだが。



「そ、それでは侵入するグループですが、これは以前話しあった通り皇帝がどこにいるか分からないので、既にいくつかのグループに分けています。ただ、アルネアさんとローラさんをどこかに入れないといけないのですが……」




 このタイミングでその話!?

 完全に「あんなの入れたくないよ」的な空気が漂っていた。

 まぁ、さっきまであった美人なエルフのローラに対する嫌な視線の類がかなり減っていたのでよかったとしよう。そうでも思わないとやってられない。


 そこでローラが一言。



「……アルとふたりっきりがいいな?」

「エリシア助けたら二人っきりでもなんでもいいから真面目にやろうな!?」








 結局、一番皇帝がいそうな場所に向かうグループに混ぜてもらった。騎士団長らしい頭が後退気味のオッサンが文句ありげだったが、ローラが全力で魔力を放ったら大人しくなった。エルフの魔力量は人間の比じゃないからなぁ。

 作戦内容としては、複数のグループで複数ある隠し通路から一斉に侵入。それぞれ皇帝がいそうな部屋に突撃し、皇帝を発見したら通信用の魔法具で即座に連絡。

 そして、作戦の決行は今夜―――。




「それではみなさん、作戦の成功を祈ります……王国再興のために!」

「「「「王国再興のためにッ!!」」」」



「……アル、作戦が無事に終わったらまた一緒に寝よ?」

「エリシア助けてからな」


「うん、もちろん。……3人がかりでアルがどこまで耐えられるか楽しみ」

「はぁ……エリシアは病人なんだから巻き込むなよ」




 やっぱり空気を読まない俺とローラに冷たい視線が殺到する。でもあれだよ、きっと過度な緊張はしなくてすむんじゃないか? ストレスは溜まりそうだが。

 騎士団長のオッサンの頭の後退具合は心配だな。



「……でもまぁ、ありがとな。ローラ」

「……何のこと?」




「俺が暗い気分にならないようにしてくれてるだろ」

「……き、気を遣ってなんかないよ?」




 ……言いよどむローラって珍しいな。

 俺としてはちょっと気を張りすぎてたから、ローラのお陰で適度に気が緩んでよかったと思う。もっと別の方向性にしてほしかったけどな!






…………………







 夕暮れ時の皇国と帝国の国境付近。

 帝国軍はついに砦に押し寄せ、決死の防衛戦が始まろうとしていた。

 万一、ここが落ちれば皇国内に甚大な被害が出るのは間違いない。

 押し寄せる帝国軍を迎え撃つ皇国軍、その砦の外壁に立って指示を飛ばすフィリアの姿があった。




「―――第一魔術隊、『火炎』用意! 第七魔術隊、『地崩し』放てッ!」



 魔力を込めた声は、確実に味方に伝達される。

 同時に敵の魔術師にも聞かれる可能性はあるのだが、敵が対応するほどの時間は与えない。あらかじめ魔力を込めておいた地面を落とし穴に変える『地崩し』によって足場が崩れた帝国兵は、なす術なく穴に落ていく。

 当然、この期を逃す手はない。



「――――第一魔術隊、撃てッ!」



 いかに訓練された兵といえど、灼熱する炎を浴びせかけられてはひとたまりも無い。皇国の魔術部隊から一斉に炎が放たれ、体勢を崩していた帝国軍の動きが更に乱れる。

 が、それだけでは終わらないのだが。



「――――シリウス、お願いします…!」



 その声と共にフィリアの眼前に巨大な魔方陣が展開され、皇国最強と謳われる星の精霊<シリウス>が顕現する。

 そして目にも留まらぬ速さで帝国軍に突っ込み、その巨大な顎で、爪で、牙で、次々と切り刻み、屠っていく。

 


 だが、帝国兵もそれだけでは終わらない。

 体勢が完全に崩れていた前線こそ崩壊したものの、皇国の倍はあろうかという兵力が形勢の不利など瞬時に巻き返す。


 無数の槍の壁に阻まれ、大量の魔法の集中砲火にあってはさすがの<シリウス>といえども強行突破は厳しいのである。……あくまで単騎では、だが。




「――――皇女殿下、助太刀する! このお義父さんがな…ッ!」

「止めろ馬鹿。私が魔力で遮断したからいいが、それはまだ機密だろう」




 そう言って飛び出したのは、お義父さんことアルベルク・フォラースブルグと、呆れ顔の学園長である。フィリアは慌てて止めようとしたのだが、そんな暇さえない特攻と見間違えそうなほどの勢いだった。



 が、もちろん特攻ではない。

 アルベルクはリックに精霊剣<ハマル>を継承し、精霊の助けはないのだが、そんなものは関係ないとばかりに爆発的な光を放つ魔法剣を掲げて走る。

 これは《ソード・イグニッション》と呼ばれる固有魔法であり、効果は単純明快。



 アルベルクが帝国兵の放った複数の魔法弾を剣で迎撃する―――爆発する。

 槍部隊に突っ込み、剣を地面に叩きつける―――地面が大爆発して帝国兵が数十名纏めて吹き飛ばされる。

 度肝を抜かれている帝国兵に剣を振るう―――やはり爆発する。



 そう、剣に触れたものを爆発させる固有魔法である。

 それだけを聞くと大したことはなさそうだが、一つだけ大きく通常魔法と異なる点がある。体内の魔力ではなく、大気中の魔力を使っているのだ。


 よって魔力の枯渇はありえない。

 さらに、戦場では使用済みの魔力の残滓が溢れている。

 よって火力も天井知らず、弾数無限の悪魔が誕生する。


 もしもこれを倒そうとすれば、それ以上の火力で押し切るか遠距離からの狙撃でもするしかないだろう。が、爆炎を纏った歴戦の猛者はそんな隙など見せはしない。





「――――うおぉぉぉぉぉっ! 皇国のため、そして私の家族の平穏のため、そしてクリスとの明日の為に―――爆ぜろ、帝国軍…ッ!」


「おい、戦場でまで惚気るとはどういう用件だ。というか息子にソックリだな! 文化祭でもイチャイチャしていたぞ、お前の息子は!」




 テンションがマックスで狂戦士と化したアルベルクの横、爆炎が吹き荒れる中で平然と並んで剣を振るうのは学園長。長い黒髪を殆ど揺らしもせず、平然と歩いているように見える―――が、よく見れば腕が消えているかのように見える。


 そして、学園長が剣を振るうたび、明らかに剣の射程を超えた遠方の敵兵が倒れていく。爆炎よりは一度に倒れる数は少ないものの、その正体不明の攻撃に帝国兵も思い切った行動には出られない。



 こちらも《ソニック・エッジ》という単純な固有魔法なのだが、やはり体内ではなく大気中の魔力を使って発動する。効果は『振るわれた剣に同調して真空波を飛ばす。ついでに空気抵抗0で剣を振るうことができる』というもの。

 これに学園長の磨き上げた剣術と身体能力強化魔術が加わると、『見えない無数の斬撃。さらに障害物がなければ超ロングレンジ』という恐怖の攻撃となる。



 アルベルクも自分を棚に上げつつ、学園長を呆れたような目で見つつ呟く。



「相変わらずえげつない……というか腕痛くならないのか?」

「お前の息子の嫁ほどではないだろう。攻撃を跳ね返す結界を使っていたぞ。正直に言うと私でもあれは破れる気がしないな」




 戦闘中にもかかわらず、学園長は肩を竦めてみせる。

 アルベルクも意外そうな顔をしつつ敵を薙ぎ払う。



「ん、エリーか? それは私も見た事が無いなぁ……」

「アルネアからして規格外だがな。……そういえば見ていないが、どうかしたのか?」




「そういえばフィリア――様に欠席届を出してもらったとは言っていたが、説明はしてないのか。エリーがちょっと寝込んでてな、アルも看病してるはずだ」


「……なるほど、そういうことか。まぁ、あの様子では無理もないか」




 そう言って、学園長はやれやれとばかりに首を振る。

 ちょうど敵が押し寄せてきたので余裕はなくなっていたのだが、アルベルクは慌てて学園長に声を掛ける。




「―――ちょっと待て、何か知ってるのか!?」

「む? それは―――うおっ!?」




 巨大な魔力の接近を感知した学園長は慌てて飛び退き、学園長が立っていた場所にアルベルクが放っていない爆炎が着弾する。

 しかも只の炎弾ではなく、凄まじい爆発で直撃を避けた学園長が吹き飛ばされる。



「―――大丈夫か、レティナ!」

「おい、アルベルク! その名前で呼ぶなと言ってるだろうが!」



 どうやら無事なようで、レティナ・アルマーダ―――何事もなかったかのように軽やかに着地した学園長は腹いせを込めて周辺の帝国兵を纏めて薙ぎ払う。……既に二人の突撃で付近の帝国兵はズタボロだが。



 アルベルクも攻撃のチャンスかと突出した帝国兵を纏めて爆破しつつ、しかし油断なく炎弾の飛んできた方を見据える。

 不幸なことにアルベルクの撒き散らした爆炎のせいで非常に視界が悪かったのだが、煙幕の向こうに感じる強大な魔力は、紛れもなく精霊のもの。



 そして今度は炎弾ではなく、もっと巨大なものが突っ込んできた。

 真紅の炎に包まれた巨鳥・朱雀がその強靭な翼の巻き起こす突風で煙幕を切り裂いて現れる。その背には赤毛の、幼いと言っていい少女が乗っており―――。




「――――さぁ、お祭りを始めましょうか」




 その少女は可憐な顔を愉しそうに歪め、戦場に降り立つ。







あー、戦闘って難しいですね……。

そしてローラはもうちょっと大人しくしてて! シリアス終わるまででいいいから……。

とりあえず父さんの無双っぷりが伝わるといいなぁと思います。

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