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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
帝国侵攻編 Ⅱ
140/155

第二話:帝都の少女

ふと思ったんですけど、私って戦闘書くのがものすごく下手かもしれないですね…。

というわけで、もうなんか色々面倒なので伏線をザックリ処理しつつ後はアルの好きにやらせてみます!



「……シルフ、後は任せる」

『はい、了解しました。気をつけてくださいね、ご主人様』




 リリーもついてこようとしたものの、魔法で眠らせておいた。

 エリシアを置いていくのは非常に不安だが、シルフを残しておけば、いざというときでも多少はなんとかなるだろう。

 ローラに見つかるとどうなるやら予想できないので、とりあえず置手紙だけしておく。




『あとご主人様、これもどうぞ。ご主人様のほうが必要だと思います』

「……ああ、ありがとな」



 シルフが精霊剣<シルフィード>を分離し、姿が半透明になる。

 俺は<シルフィード>を鞘に収めると、姿を消しているアウロラに声がかける。



「アウロラ、サイラスってのにはどこで会えるんだ?」

『……残念だが、私にも分からない。とりあえず帝都を目指してもらおう』



「……で、<アウロラ>を見せたら協力してもらえるのか?」

『……いや、むしろ引渡しを要求されるな。見せないほうが良いだろう』




「……ちょっと待て、別に関係を聞くつもりはないけどな、それならどうやって協力を取り付ければいいんだよ。バカ正直に皇帝暗殺手伝いますなんて言って信じてもらえるわけないだろ」


『……なんとかなるだろう。それでは、国境付近までは飛行魔法。それ以降は見つからないように徒歩で移動だ』





 ……なんて勝手な。

 しかし、色々と借りもあることだしエリシアを助けるのに協力する対価となれば仕方がない。さっさと終わらせてエリシアの作った美味しいご飯が食べたい。



「疾風の翼よ、この背に! <ウィング>!」





―――――――――――――――――――――――――――







 帝都・グランディール。

 近年、周辺諸国を統合して急速に発展した帝国では、身なりが立派な者とみすぼらしい者の二つに分かれてしまっていた。

 主に元々帝国に住んでいた者たちと、敗戦国から奴隷としてつれてこられた者たちである。

 当然ながら、必ずしもそうとは限らなかったが。




、どうして、こんなことになってしまったのだろう。




 久々に帝都に戻ってきたというのに、なぜこんなにも……。

 通りには首輪と鎖に繋がれた奴隷。

 そしてそれを引き連れる悪徳そうな者たち。


 かつての帝国の姿は最早どこにも見当たらない。




 フードを目深に被った少女は、拳を握り締めつつ踵を返した。

 これ以上は、見ていることに耐えられそうになかった。

 しかし、その時路地の方から悲鳴が聞こえ、少女は足を止めた。




「いやっ……離してください…! 誰か、助けて…!」



 確かに、助けを求める声。

 しかし道行く人々は気の毒そうな顔をするだけ……いや、それならまだいい。

 薄ら笑いを浮かべている者さえいるではないか。



 ……限界だった。

 たとえ騒ぎになろうとも、助けに行こうと決意した。




 路地に駆け込むと、15歳くらいだろうか。ボロボロになった服を着た少女が三人の男に押さえつけられて必死に抵抗していた。

 ……男たちは、そんな少女の必死の抵抗を楽しむかのように嘲笑っていたが。




「……その子を離しなさい」



 コートの下に忍ばせた剣に手をやりつつ、私は男たちを睨みつける。

 男たちは驚いたようだったが、私が女だと分かると嫌な笑みを浮かべて言った。



「離すのは別に構わねぇけどよ、俺たちだって困ってるんだよ。お前さんが代わりになってくれるってんなら、コイツは見逃してやるぜ?」



 一人の男が少女を押さえつつ、二人の男が徐々に私との距離を詰めてくる。

 しかし、私が剣を持っていることに気づいたのか男たちは一瞬動きを止め―――しかし、小馬鹿にしたように笑って剣を抜いた。



「クックック、止めとけよ。俺たちァ軍の人間だぜ? 無駄な抵抗しなけりゃ、あんまり痛くせずに可愛がってやるから、さっさと諦めて剣を捨てな」



「……軍も堕ちたものね」




 私は吐き棄てるように言ってから、剣を引き抜いて構えた。

 剣は暗い路地の中で不自然に赤い光を放ち、男たちの目が驚愕に染まる。




「―――その剣、まさか…!?」

「今更気づいても遅いわ」




 まるで全く重さが存在しないかのように、凄まじい速度で剣が男たちを狙う。

 そして――――。





「ぐぁぁぁぁっ!」

「テッド!? て、テメェ…!」




 一人目の男が首を切り裂かれて倒れ、怒った二人目が飛び掛ってくるものの、後ろに跳んで回避しつつ、鎧をあっけなく貫通して男の心臓を貫く。




「う、うわぁぁぁっ!?」

「――――っ、待ちなさい!」



 三人目の男が慌てて逃げ出し、追いかけようとするものの少女を置いてはいけない。

 呆然としている少女を助け起こしつつ声を掛ける。



「あっちに逃げて。早く!」

「は、はいっ!」




 あの男を取り逃がすのは非常にマズい。

 本当に軍の関係者なら私はお尋ね者だし、この少女だって私の目撃者として、知りもしない情報を吐かせるためとロクでもない目に合わされるかもしれない。



 少女はあっさりと男を切り殺した私にも怯えているようだったけれど、駆け出す寸前。小さな声だけど確かに言ってくれた。



「あ、ありがとうございました…!」

「…次は助けられないから。気をつけてね」



 これだけでも、十分に報われた気がした。

 私は、逃げた男を追って少女とは反対側に駆け出した。






…………




 通りを抜けてすぐ。

 小さな広場のような場所のに出た瞬間、私は失策を悟った。


 広場には数十人の兵士がいて、一斉に私に向けて剣や槍が向けられたのだ。



(……しまった、巡回兵に合流された…!)



 帝都の規律を守るための部隊、巡回兵。

 今では帝国に反対する人間を弾圧したり監視したりするためのものになっているが。


 慌てて背後の路地に戻ろうとするが、路地に突然上から少年が降ってきた。

 黒髪黒目。さして特徴のない顔立ちだが、嫌味な笑みを浮かべ、左手に付けているのは、豪華な金の装飾が施され、圧倒的な魔力を放つ盾の神器―――。




「残念だったね、僕がいたのが運のつき。大人しく投稿しなよ」

「……神器<玄武>。まさか、四天王…!」



 私の呟きを聞き取って、少年は楽しそうに笑う。



「知っているなら話が早いですね。それで、帝国に歯向かう愚かなお嬢さんは半殺しと全殺しならどちらがお好みですか?」

「……どちらもお断りさせてもらうわ!」




 兵士たちのいる広場を突破するべく、剣を引き抜きつつ突っ込む。

 四神の相手をするくらいなら、こちらのほうがマシ―――!

 背後で少年が嘲笑ったが。



「まぁ、判断としてマシですかね。どちらにせよ詰みですが。」



 少年が手を振り上げ、その合図で今まさに兵士に切り掛かろうとしていた私に、屋根の上から数本の矢が襲い掛かり、激痛が走る。



「あぐぅぅぅっ!?」

「ふふっ、僕の魔力なら弓兵を屋根の上にあげるくらい余裕なんですよ。さて、投降すれば命だけは助けてあげますが? どうしますか?」




 きっと、命を助けると言ってもロクな目には合わされないだろう。

 そう確信する私は、剣を握りなおして兵士の列に突っ込み、せめて一人でも道連れにしようとした。



「ああ、やっぱり止めましょう。捕まえて死んだほうがマシだったと思うような目にあわせてあげますよ」



 私は剣で殴りつけてきた兵士を二人切り殺し、しかし数には勝てず、地面に引き倒されて手を踏みつけられ、剣を手放してしまう。

 その赤く輝く剣を見て周囲に驚きが走ったが、私を押さえつける手が緩むことはなく。



 少年はとびきり楽しそうな顔をしながらゆっくりと地面に押さえつけられている私の前までやってきてフードを剥ぎ取る。



 フードに隠れていた長く青い髪が露わになり、周囲のざわつきが更に大きくなる。



「青い髪に紫水晶の瞳……これは大物ですね。まぁ、僕としては知らなかったことにして兵士に任せてみたらどうなるのか知りたいですけどね」



 周囲から嫌らしい視線が向けられ、体を震わせるものの、地面に押さえつけられている私にはどうすることもできない。

 咄嗟に舌を噛み切って死のうとするが、少年の手が光ると、体の自由が利かなくなってしまい、それすらも叶わなくなる。




 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 私はどこで間違えたのだろう。




 少年が「牢屋に連行して、その後は好きにしなさい」と告げたその時だった。



「……いきなり何をするんですか?」



 突然少年が背後に盾―――神器<玄武>を掲げ、バリバリと魔力がスパークする音が広場に響き渡る。

 茶色い魔法剣を持った金髪に緑の目のコートの少年が突然空から降ってきて切りつけたのである。



 コートの少年がそのまま蹴りを放つが、<玄武>がいきなり巨大化してそれを防ぐ。しかしただの蹴りにもかかわらず、何かが爆発したかのような大きな音が響いた。



「……人間の脚力じゃないですね。殺りなさい」



 あっけにとられていた兵士たちが、一斉に槍や剣をコートの少年に突き入れる。

 逃げ場がない。殺されてしまう!

 私は声を出そうとするもののそれも叶わず、目を背けようとしたのだがそれは杞憂だった。少年はいきなり助走もなしに数メートルも垂直に飛び上がってみせ、右手を振り上げて叫んだ。




「<サンダーボルト>!」




 視界が真っ白に染まり、全ての音が消えた。

 私が思わず閉じた目を恐る恐る開くと、周囲に痙攣する兵士たちが散乱。

 広場には<玄武>の少年だけが立っており、コートの少年が落下の勢いをそのままに切り掛かる。



「……こんなところで会うとは奇遇ですね、アルネア・フォーラスブルグ。前回の借り、ここで返させてもらいましょうか…!」





――――――――――――――――――――――――――




 さて、面倒なことになった。

 俺としては不意打ちで決めたかったのだが、コイツはなかなかいい反応をしている。



 <アルザス>と<玄武>とやらが激突し、再びスパーク。

 しかし<玄武>のほうが強力らしく、俺は弾き飛ばされつつ言った。



「俺はお前みたいなヤツは知らないんだけど。人違いじゃないか?」

「……そうですか? 私は君を殺したくて殺したくて仕方がないんですよ!」



「うわぁ、なんか危ないヤツだな……」



 俺は心底嫌な気分になりつつ<アルザス>を左手に持ち替え、右手で<天照>を引き抜き、その銀の刀身が黒ずんでいるのを見て胸が痛んだ。

 <天照>は仕組みは分からないものの、エリシアとシンクロしているらしい。

 要するにこの黒ずみは、エリシアの不調をそのまま反映している。



「どうしたんです、ご自慢の<天照>は不調ですか?」

「……そうかもな。《イクスティア》…ッ!」



 俺は銀の光と残像を放ちつつ突進。

 構えられた<玄武>に構うことなく、腕がブレて見えるほどの速さで双剣が叩きつける。



 爆音。鼓膜が破れそうなほどの魔力のスパーク音を響かせて、<玄武>ごと少年を吹き飛ばし、俺は拘束魔法を受けて倒れている青髪の少女の前に立つ。



「戒めを解除せよ。<ディスペル>!」




 拘束魔法が解除されると、少女は即座に落ちていた剣に飛びついて拾い上げ、俺の方も油断なく警戒しつつ、<玄武>の少年に向けて剣を構える。

 まぁ、俺だって信用できるかどうか向こうとしては分からないだろう。俺は少女は無視して、<玄武>を持って顔を憎悪に歪める少年のほうに剣を向ける。




「……またしても、よくもやってくれましたね」

「言っとくけど、俺はお前の名前すら知らんぞ」




「……僕の名はディル・マーティス。君を殺す者の名ですよ!」




 少年―――ディルの左手の神器<玄武>に急速に魔力が集まる。

 しかし、集まりきる前に俺はまたしても残像を残しつつ突進。

 同時に術を発動させる。



「<不落盾>!」

「<白夜>!」



 ディルの前に透明な魔力の盾が出現。そこに俺は白い光を放つ双剣で凄まじい速度で突きを放ち、しかしあっけなく弾き飛ばされた。




「――――つぅ!? 硬過ぎだろ!」

「ハハハッ! 今日は弱いですねぇ。<玄武>!」




 ディルは、ここが街中であることを気にもせずに玄武を召還。

 巨大な亀のような精霊が現れ、ディルはその上に飛び移る。

 俺は心底面倒だと思いつつ呟く。



「面倒だな……。街への被害に援軍の可能性……一旦退くか。あー、そこの人? 早く逃げたほうが良いと思うぞ!」



 少女に声を掛けると、少女は驚いたような顔をしていたが一瞬何か考え、それから逆に聞き返してきた。



「貴方は、どうするんですか……?」

「……ん、ちょっと色々やることがあって。面倒だからこのまま来る敵全部相手してみようかなーと」



「なっ!? ダメです、私に逃げるアテがあります! 一旦退きましょう!」



 ……逃げるアテがあるのなら、信じてみるのも悪くないかもしれない。

 しかし、その時ディルが呟いた。




「おや、そういえば周囲に常に侍らせてる女たちはどうしたんですか? もう飽きて捨ててしまいましたか?」

「……生憎だな、みんなお前なんかに見つかるほど隠蔽が下手じゃないんだよ」



 俺は頭に血が上るのを自覚したが、それは無視して逆に小馬鹿にしてやる。

 しかしディルは、嫌味ったらしい笑みを浮かべて言った。



「そうですか? こちらの情報を総合すると、エリシア・フォーラスブルグは死んだのではないかという説もあるのですが?」





 頭が灼熱した。

 相手の思う壺だと思うが、それは感情の激流に押し流されて消える。

 俺は怒りに任せて玄武を素手で殴りつけ、凄まじい爆音が広場に響き、その巨体を吹き飛ばして民家に叩きつける。

 何故か、それができると分かっていた。



 しかし玄武は平然と起き上がって空へ舞い上がり、ディルもその上に平然と笑っている。



「玄武を殴り飛ばすとは恐れ入りますが、それだけ怒るってことは真実ということでしょうかね?」

「……黙れ。それとも永遠に黙らせてやろうか」




 とりあえず消す。俺の手に膨大な魔力が集まっていく。それに対抗するかのように、ディルは神器<玄武>に魔力を集める。

 


「<ゾディアック・タウラス>!」

「玄武、防ぎなさい!」




 俺は地面を陥没させつつ矢のような勢いで突進。

 その周囲を黒い魔力が取り囲み、まるで巨大な黒い槍のように突っ込む。


 ディルも玄武の上から飛び上がり、玄武は見るからに頑丈そうな甲羅で迎え撃つ。

 しかもその甲羅が緑の光を放ち、膨大な魔力が集まっていく―――。




 再び爆音が響き渡り、あまりの衝撃に帝都全体が震えているのではないかとさえ思う。しかし玄武は未だに健在で、俺の剣は根元まで玄武に突き刺さっているものの、貫けてはいない。



「アハハハッ! 前回キミにやられてから、僕も色々と強化したんですよ。どうですか、前回貫けたものに防がれる気分は!?」


「……それなら、防いだと思ったのに貫かれたらどんな気分だ?」






「<ゾディアック・サジタリウス>」




 一閃。黒い光が瞬き、ディルの右腕が消し飛んだ。



「……あ?」




 ディルは呆けたような顔で無くなった自分の右腕を見て、目を見開く。

 血が勢いよく噴き出し、ディルは口をパクパクと開閉させていた。



「……僕の…右手……が…」

「次はその神器とやらと一緒に左腕を吹き飛ばしてやるよ…!」




「<ゾディアック・サジタリウス>!」




 しかし、今度はディルの体が消し飛ぶことはなかった。

 放たれた<サジタリウス>の正体である黒い雷の矢を、割り込んだ黒いローブの巨体が受け止めていた。




「……邪魔すんなよ、俺はその軽口男を消し飛ばす」

「……それは、困る。これでも一応、我々の表の戦力なのだからな」



 そして、更に現れる黒いコートが二人と、いつか見た巫女服の<青龍>使い。

 巫女服がディルを治療し始めるのを見て、俺は<アルザス>を<シルフィード>に持ち替える。





「……面倒なんだよ。侵攻とか暗殺とかよ……。俺がお前らをここで皆殺しにする! それで全て終わらせてやるよ!」




 このまま終わらせる。

 そして、またアイツらと――――。


 俺を迎え撃つ3人の黒ローブ。

 その人間とは思えない魔力量など、俺にはどうでもよかった。






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