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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
帝国侵攻編 Ⅱ
139/155

第一話:望むもの

うー、けっこう前の私が立てたプロットなので色々と滅茶苦茶かも…?

改訂版と平行して、不定期で更新していく予定です。

まぁ、改訂版の更新ペースの方が早いと思いますが。


改訂版ももしよろしけば読んでください!

暇だったらでいいので!

――――痛い。



 体が焼けているように痛い。

 フィリアを見送ろうと立ち上がったものの、なすすべなく床に転がる。


 もしかして、このまま死んでしまうのだろうか?

 そんな恐怖に苛まれつつ、声を絞り出す。



「――――ア…ルっ」



 痛い。苦しい。辛い。

 それよりも、何よりもアルにいて欲しかった。


 きっと、勝手に立ち上がったことを怒られるだろう。

 でも、アルの顔をもう見られないなんて、考えたくもない。



 死ぬことは良く分からない。

 ユキとして死んだときも、気がつけば記憶をなくして生まれ変わっていた。


 でも、アルに会えなくなるなんて認められない。

 そうなったらきっと、私は生まれ変わっても何一つ楽しくないだろう。




 ユキの時だってそう。

 白い髪に赤い瞳。人見知りも激しかったユキには友達なんていなかった。

 むしろ、苛められる……いや、それ以上に怯えられるのが辛かった。

 近づいて子どもに泣かれたり、石を投げられたこともあった。

 ユキの態度も悪かったと今なら思うけれど、そんなものをあの頃の……友達がなんなのかすら良く分かっていなかったユキに求められても困る。



 アルが……誠司がいてくれなかったらどうなっていただろう。



 誠司に誘われて二人で公園で遊んでいると、いつの間にか子どもが集まり、大人数でサッカーが始まっていた。

 運動なんて階段の上り下りがせいぜいだったユキはド下手だったけれど、いつの間にか子どもに好かれるようになっていった。

 情け容赦なくゴールを決めまくる誠司と違って、ユキとならいい勝負だったのも要因の一つだったかもしれないけれど。




 私もそう。

 私はそもそもアルがいてくれなかったら殺されていたのだけれど……。



 アルに『俺のどこが好きか?』と聞かれたとき、本当は私も困った。

 笑顔? 笑ったアルは本当にやさしくて、いつまでも見ていたい。


 でも、怒ったアルだって好きだ。

 ……だって、アルはいつも誰かの為に怒ってくれるから。



 私がどんなに我侭を言っても、アルは私の為に怒ってくれることはあっても煩わしいとか、面倒だからという理由で怒ったりしなかった。




「……アル…、あいたい、です…」




 焼け付くような苦痛は、永劫に続くかのように感じられる。

 そんな中でもアルに会いたいと、抱きしめてほしいと願ってしまう。

 私は、アルをどれだけ束縛すれば気が済むのだろう。



 アルがほんの数分離れただけでこんなことになって。

 今の私では、アルに何もできないのに。

 掃除もできない。洗濯もできない。料理もできない。

 立ち上がれない。アルを抱きしめることも、自分からキスするもできない。





―――それでも、アルに傍にいてほしいと願ってしまう。





 そんな私がいるから、アルは私に付きっ切りになってしまっている。

 どんなにアルが優しくしてくれても、今の私に返せるものは何もない。

 今の私の想いなんて、アルにとっては枷にしか、錘にしかならない。

 なのに、それなのに――――。




「―――アル、いや…です……いっしょに、いて……」




「――――エリシアっ!」




 あれ、声が聞こえます……。

 幻聴? アルの声なら、幻聴でも嬉しい……。


 そんな混濁した意識の中で、泣きそうな顔のアルが見えた。



 ……泣きそうなアルなんて、はじめて見たかもです…。

 でも、アルがいてくれるなら。例え幻覚でもいいです……。



 アルの顔が一気に近くなり、唇から暖かなもの……魔力が流れ込んできて、体の痛みが和らぎ……私はそのまま意識を手放した。






………………




 左手が、温かい。

 何か温かいものに包まれている。


 

 私はぼんやりとした思考の中で、その温もりをもっと感じたい。左手を握り締めたいと思った。



(……あ…れ…?)



 動かない。左手がぴくりとも動かない。

 なら右手をと思うものの、やはり動かない。

 だから、必死になって名前を呼んだ。



「……ア…ル…」




 すると左手の温もりはそのままに、私の頭を温かいものが撫でた。

 そして少しホッとしたような、でも怒っているらしいアルの声が聞こえた。



「動くなエリシア。封印術をかけた。大人しく寝てろ」



 動くなといわれても、封印術をかけた?

 どうして……?


 すると、アルの呆れたような声が聞こえる。



「無理して倒れるからだろ。当分はしゃべるのも禁止だ」



 しゃべるのも禁止? それなら一体どうすればいいんです…?

 それに、目も開けない。



「大人しく寝てろって言ってるだろ。何で目を開けようとしてるんだよ」



 ……もしかして、アルに思考を読まれてます?

 魔術的に?



「顔に出るだろ、エリシアは。俺が傍にいれば何もいらないんだろ。傍にいるから大人しく寝ろ」



 確かに思ってましたけど、そんなこと言ったことないです…!




「……図星って顔してるな。ちなみに無駄な抵抗をすると、ずっと一人寂しく寝てることになるからな」




 ……アル、怒って……ますよね。

 逆にアルが体調悪くて無理をしたら、私もきっと怒る。




「……なんでそんな悲しそうな顔してんだよ。好きだから怒ってるんだぞ」




 ………えっ?

 ひょっとして私は耳までおかしくなってしまったんです…?

 それともこれはただの幻聴です…?




「……あのなぁ、エリシア! そもそもお前が自分を卑下し過ぎるからこうやって素直に気持ちを伝えてやろうと……あー、もう知らん! 二度と言わない!」




 ちょっとだけ、拗ねたアルが可愛いなんて思ってみたり―――。



「……エリシア~?」



 い、痛いですっ!?

 アル、ほっぺは引っ張っちゃだめです……!




「動けないくせに生意気なことを考えてるみたいじゃないか……」




 アルが悪役っぽいです…!?

 しかもかなり楽しそうです…!



「何されても抵抗できないもんな。足の裏を羽でくすぐってやろうか?」



 い、嫌です! それだけはダメです……っ!



 すると、アルが満足げに笑った。


「ふふん、なら大人しくしてろよ?」



 必死で頷こうとするものの、やはり動けない。

 が、アルの手にやんわりと頭を撫でられた。




「……余計なことで悩むなよ、エリシア。治ったらたっぷりと支払ってもらうから覚悟だけしとけよ」




 そう言ってくれたアルの声と手はとても優しくて。

 いつの間にか私は眠りに落ちていった……。





――――――――――――――――――――――――




 エリシアは静かに寝息を立て始め、規則正しく胸が上下している。

 体中に書かれた封印術のせいで異様な感じがするが。




 エリシアが倒れてから丸2日。

 ようやく意識を取り戻してくれて本当によかったと思う。

 今度は穏やかに眠ってくれているし。



 異常なレベルの魔力枯渇に陥ったエリシアの何処からか魔力が漏れ出しているのではないかと思い、封印術を使った。

 それと同時にエリシアの動きや思考を制限することでエリシア自身の魔力消費も抑える。


 しかし、全身をくまなく封印術で覆ってもエリシアの魔力減少は止まらなかった。

 ただ、多少は消費魔力が減ったので効果がないというわけではないのだが。

 ここまでくると、竜族に特有の難病か何かではないかと思う。

 ……もしくは、前世と同じでどうしようもない病だという可能性もあるが。




「……ティルグリム、か」



 あそこにいけば、何かヒントがあるかもしれない。

 しかし、俺が訪れるのはリスクが高い。


 以前、エリシアの両親に仕えていたという老竜・ディグリスなら話を聞いてくれるだろうが、あそこも端のほうとはいえティルグリムの中。

 もしもグリディアに見つかればどうなるだろう?

 前ならともかく、今では7割方竜族―――いや、エリシアの魔力を持つ俺が。



 そして何より、こんな状態のエリシアを放っておきたくない。





「……お兄ちゃん、ご飯…食べないの?」



 部屋の外から、リリーが遠慮がちに聞いてきた。

 2日間も何も食べてないのだが、俺に混じっているという竜族の魔力のせいなのかそこまで苦しくない。そんなことよりエリシアが心配だった。



「……ありがとうな、リリー。でも今はいい」

「……お兄ちゃんが倒れたら、エリーもローラお義姉ちゃんもフィリアお義姉ちゃんも悲しむんだよ。……私だって……」




 リリーの辛そうな声で、俺はようやく自分の馬鹿さ加減に気づいた。

 飯は食べないと俺はそのうち倒れるのだ。

 エリシアが倒れたのは俺のせいじゃないかと思い、自分に罰を与えたいような気分になっていたのだが、俺が倒れたらエリシアが、みんなが悲しむのは目に見えている。




「……ありがとうな、リリー。わかった、今から食べに―――」

「ううんっ! 持って来るからお兄ちゃんは待ってて!」




 言ってる途中でリリーが元気よく走り去ってしまったようだ。

 ……まぁ、せっかくの好意だしありがたく受け取ろう。




 なんとなく眠っているエリシアの額に手を置いてみると、エリシアが眠ったまま嬉しそうに微笑んだ。




「寝てる…な。まったく……」



 手を置いたら微笑まれると、起きてるんじゃないかと思う。

 どうやら寝てるみたいなのだが、本当にエリシアは……。



『……すまないが、少しいいかな?』



 俺の背後に、唐突に緑の光……オーロラが集まり、人の形になる。

 なんとなく、何の用件なのかはわかっている気がした。

 俺はエリシアの顔を眺めたまま振り返らずに答える。



「……ああ。久しぶりだな」

『……私としてもこんな時にとは思う。しかし状況は予断を許さない』





「……アウロラ、エリシアは治せないのか?」

『……こればかりは彼女の生命力次第だろう。治す治さないという問題ではない。それよりも、いつぞやの約束を果たしてもらわなくてはならない』





「……そうか。で、何をやればいいんだ?」

『―――帝国の皇帝、ベルティス・ユーグラリアの暗殺だ』




「…………挨拶?」

『暗殺。アサシネーション』




「アサメシネーヨン?」

『……わかってて聞いてるだろう』




 ちょっと待て。暗殺? 帝国の皇帝の?

 おかしいな、エリシアを救ってもらう代わりになんか協力するとは言ったものの…。




「……アウロラ、俺、暗殺どころか人殺しもしたことないぞ?」




 どう考えても人選ミスだろ。と思ったのだが、呆れたような声を返される。





『残念だが、既に暗殺者を返り討ちにしているぞ。あっけなく、な』

「……は?」




 全くもってそんな記憶はない。

 しかし、こういうことについてシルフに警告されてもいた。




『――ご主人様、精霊との契約破りは洒落にならないので止めたほうがいいですよ。ダダを捏ねたりすると何されるかわかりませんから。ちなみに私だったらご主人様にメイド服を着て皇都を一日中散策していただきます♪』




 とりあえず、ヤバイとは思う。シルフはともかく、本来かなり危ないものだというのはいつもと比べて真剣なシルフの眼からもわかった。

 それでも―――。





「……皇帝は魔族だって聞いたんだけど? 俺で勝ち目があるのか?」


『正直に言えば、無い。が、皇帝を倒すべく動いているレジスタンスもある。彼らは力ではあるものの、四神には勝てない。まぁ、皇帝暗殺はできたらする程度でいい。主目標は四神の撃破およびラルハイト陥落の回避だ』




「……最初からそう言ってくれよ」



 四神だかなんだか知らないが、撃破するだけでいいなら暗殺なんかよりずっと気が楽だ。

 ラルハイトの陥落回避は言われなくとも協力する。

 





『皇帝を倒せばそれなりの見返りは用意するがな。そこの娘の生存確率向上のための協力も惜しまない―――』


「アウロラ、皇帝を暗殺する作戦とかあるのか?」




『……いいのかそれで? 暗殺だぞ?』

「戦争ふっかけるようなヤツの命とエリシアの命を天秤にかけると思うか?」




 考えるまでもない。

 流石に罪もない一般人の命なら自制もしようというものだが、何もしてないラルハイトに過去の恨みだかなんだかで戦争ふっかけるような相手だ。それも千年前の。しかもラルハイトが魔族相手に虐殺したとかそういうわけでもないのに。




『一番望みがあるのは、レジスタンスではないが単独で皇帝の排除に向けて動いている者だ。その者は強力だが……』

「だが、何だよ?」



『……勝てない。一人では。その男は黒髪黒目で、恐らく偽名はサイラスという。会えばすぐにわかるだろう歴戦の魔術師だ』


「……というか、なんでそんなの知ってるんだよ」




『……私の、以前の知り合いだといっておこうか』





 こうして、皇帝暗殺計画は動き出してしまった。






エリシアのためなら暗殺でもこなすつもりのアルです。

……実際にそんなことになったら平然とこなせるのかは甚だ疑問ですが。

なんでアウロラがそんなことを頼むのかはまたそのうち。

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