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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第八章:帝国侵攻編 Ⅰ
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第十話:戦いへ



「はぁ……」




 エリシアがローラとフィリアと話したいとかで追い出された俺は、屋根の上で溜息を吐いた。なんというか、寂しい。影のほうも魔力切れで消えたし。

 すると、いきなり背後から声がした。




「どうしたんですか? こんなところで」

「ああ、桜か。俺はちょっと孤独を噛み締めていたところ」




 桜はいつぞやの黒ローブ(顔は隠してないが)で、俺の隣に腰を下ろす。

 そして、ぽつりと呟いた。




「……不思議なものですね」

「……何の話か知らないけど、確かに世の中は不思議で溢れてるよな」




「ふふっ、そうですね。……私、今まで竜族とは戦場――というほど大げさなものじゃないですけど、常に戦いの中でしか会ったことがありませんでした」


「それは……キツイな」




 そんな状態だったら、相手を一体どんな風に思うのだろう?

 戦場以外で会ったからと言って、戦わないことができるだろうか?

 特に、この世界では。




「だから、もう戦う気なんて無くなってしまいました。……元々、私は出来損ないだったので戦う気なんて無いも同然だったんですけどね」


「……じゃあ、これからどうするんだ?」




「そうですね、東の………お母さんの故郷を見てみたくなりました」

「そっか。いいんじゃないか? ……まぁ、ちょっと残念だけどな」




「……えっ?」

「ん、行くアテがないなら一緒に学校にでも行ったら楽しそうだなー。と」




「……ふふっ」

「……なんだよ、割と真面目だったんだぞ」




 人が真面目に考えてるのに笑うとか酷いだろ!

 ……行き場が無いってのは辛いから、真面目に心配してたというのに。

 楽しそうに笑っていた桜は、唐突に遠くのほうを見て呟いた。




「……もっと、早く会えていればよかったと思います。竜族にも、アルやエリシアさんのような人がいると――――」




「………へっ?」

「………えっ?」




 何か、妙なことを聞いた気がする。

 逆に桜は「ヘンなことでも言いましたか?」というような不思議そうな顔だが。




「桜、俺は竜族じゃなくて人間だぞ」

「……えっ、嘘っ!?」




 桜が慌てて俺の顔を覗き込んでくる。

 それで何が分かるのか果てしなく疑問なのだが……。




「あっ、確かに人間みたいなのが混じってますね……」

「……ちょっと待て、何で竜族の方が割合多めみたいな言い方なんだ!?」



「だって、7割くらい竜族ですよ?」

「………7割?」



 ちょっと待て、エリシアは半分って言ってなかったか!?

 あれか、竜族魔力のほうが強いから半分ずつでも多く感じるよ~みたいな感じか。



「ちょっと待て、じゃあエリシアはどんな感じに見えるんだよ?」

「確か、やっぱり7割くらいだったと思いますけど」



「……そういえばフードの男に俺もハズレ臭いとか言われた気はする」

「ヘイズにですか? なら、そちらが正しいと思います。私と違って純血ですから」



「へー、あのフード男はヘイズって言うのか。……って、純血って何だ?」

「純粋な魔族のことです。私は混血ハーフなので、能力は基本的に低いということになっています」




「………ハーフ? 本当に?」

「はい。お母さんは人間……巫女だったんです。お父さんが一目惚れして誘拐したらしいですね」




 これは、エリシアに話したら喜ぶんじゃないか(エリシアは種族が違うと子どもができないのではないかと心配していた)―――そう考え、気づいた。俺はエリシアと違って歳を取る。けれど、俺の魔力が半分竜族なら……?




「なぁ、桜。元が人間でも魔力が半分竜族なら、歳を取らないかな?」

「………いいえ。私のお母さんも魔力混じりになっていましたが、80歳で亡くなりました」




「……ごめん」

「これでおあいこ、ですね」




 桜は楽しそうに微笑み。俺もなんとか微笑んだ。

 結局、エリシアと俺の時間は食い違ったままらしい。

 ローラも、きっと歳を取らないんだろうなぁ……。

 フィリアは俺と同じだと思うけど。




「桜は、いつごろ東に向かうつもりなんだ?」

「そうですね…。明日にでも」



「って、早いな」

「……あまり迷惑もかけられないですし、魔族の仲間に引き止められても面倒ですから」



「……そっか。また機会があったら、会おうな」




 俺が手を差し出すと、桜も笑顔で手を差し出してくれた。




「はい、また機会があれば」







―――――――――――――――――――――――――――








 ラルハイト城、謁見の間。

 西の帝国からの突然の使者の訪問を受けていた皇は、渡された文章を見て溜息をついていた。



「父上、十二貴族に招集をかけますか?」

「……ああ、頼む。やれやれ、嫌なものだな。宣戦布告されるというのは。せっかくフィリアが警告してくれたから準備をしておこうと思ったが、結局1日分しかできてないしな」




「仕方がありません。帝国は周辺の国々を飲み込み、急成長しているのです。民たちも父上に非がないことは分かってくれます。それに、父上は1日でもかなりの準備をこなしたと思いますよ」


「……理解してくれたとしても、最も苦しむのは民だ」





「そう、ですね……では、私は伝達して参ります」

「おっと、フィリアに一度戻るように言ってくれ」





「……私が、ですか?」

「ああ、フィリアには悪いが<シリウス>は旗印としてはどうしても必要だ」




「な、なんて伝えればいいんですか、父上……?」

「ん~? 旗印になってくれ! でいいんじゃないか?」




「そんなことを言ったら<シリウス>だけ突き返されますよ!」

「……って、言われてもな。もう継承したから俺が使えないのはフィリアも知ってるし、帰ってきてくれはするんじゃいのか?」




「……そもそも、どうしてフィリアは学校に欠席届を出してあの男の家にいるのですか! 父上はどうするおつもりなのですか!?」


「仕方ないだろ、フィリアが出奔も辞さないと言うんだ。出奔されたら<シリウス>の継承権はお前に移る。フィリアは反対されたら二度と帰らない気だぞ」




「それなら、今帰るように言ったら出奔してしまうのでは……」

「なら、結婚を認めるから一旦帰って来いといえばいいだろう?」




「そ、それを私に言えというのですか……?」

「俺が言ってもフィリアは信じてくれないしな。国のためだ、頑張れ」




「……嫌です。フィリアを側室にするような男など……!」

「フィリアがそれでいいって言ってるんだからいいだろ。それよりお前こそ結婚しろ。跡継ぎだろう」




「むぐっ……」

「ただ、最近は見合いを受けなくなったよな。怪しまれないように数を減らしてるが。もしかして好きなヤツでも――――」




「――――そ、それでは伝達に行ってきます!」

「……ほぉ~、分かった分かった」




「父上……」

「大丈夫だって、既に諜報部に調べさせておいたから」




「―――んなっ!?」

「そりゃぁ、アル君が憎くもなるよな~、ベッタリだもんな~」




「―――そ、それでは、失礼します!」

「………おお、鎌かけたら当たった」








――――――――――――――――――――――――






 というわけで、急にフィリアに帰還要請が入った。

 実はウチにも(比較的)小型の通信魔法具があり、国内なら通話できるのだ。


 で、フィリアのお兄さんから通信が来たらしいのだが、最初はフィリアも不機嫌だった。<シリウス>だけ送り返すとか、出奔するとかいうのが聞こえたりしてハラハラしていたのだが――――。




『……分かった! なら結婚を認めるから戻ってきてくれ…』

「―――本当ですか、お兄様!?」



『……言い出したのは父上だ』

「はい、分かりました。なるべく早く戻りますね!」





 というわけで、フィリアはご機嫌で帰宅の準備を始めた。

 おかしいな、俺はとりあえずお付き合いからのつもりだったのに、いつの間にか結婚するのが既定事項に……。



 で、翌朝。

 フィリアをエリシア以外のみんなで見送りすることになった。

 桜はいつの間にかいなくなっていたが。





「お義父様、お義母様、お邪魔いたしました!」

「……ふっ、お義父様か」

「お義母様ですって♪」



 父さんと母さんもノリノリだし!

 ついでに言うと他のみんなもノリノリなのだが。

 リリーとか。



「もしかして、フィリアお義姉ちゃんって呼んでもいい!?」

「はい、もちろんですよ」




「―――って、リリーは何で帰ってきてるんだよ!? 学校は!?」

「んー、非常事態だとかで学校がお休みになって、シルフィーが迎えに来てくれた!」

「ふっふっふ、命令ナシでも動くのがデキるメイドの条件ですよ♪」




 ただ、ローラはちょっぴり不満そうだったが。




「……私だけ仲間はずれ」

「――あー、もう! 分かったよ、今度の戦いが終わったらローラの家にも挨拶に行く!」



「―――ほんと!? アル、ありがとう……」

「これでローラお義姉ちゃんだねっ!」




 なんか、更に取り返しがつかなくなった気がするが…。

 まぁ、いっか。

 結局、3人とも上手くやってくれそうなのは分かったし。




 というわけで、俺はフィリアを抱きしめて囁いてみた。




「……俺も、俺なりに戦ってみようと思う。フィリアも頑張ってくれ」

「はい…っ!」




 フィリアはとても嬉しそうに微笑むと、おもむろに顔を少し上げて目を閉じた。

 ……まぁ、いっか。

 俺はフィリアとそっと唇を合わせ、そのまましばらく抱き合っていた。




「……それじゃあ、気をつけてな」

「はい……アルも、気をつけてくださいね。<シリウス>!」




 眩い閃光と共にシリウスが実体化し、フィリアは魔力を込めた跳躍で背中に飛び乗った。



「――――行ってきます!」

「「「行ってらっしゃい!!」」」




 空を軽々と駆けるシリウスの背中から、フィリアが見えなくなるまで手を振っていた。

 戦いという、慣れない言葉が俺たちの心を重くしているのを感じつつ――。

 とかしんみりしていると、ローラが俺の袖を引っ張った。




「ん、何だローラ?」

「……私にも、キスして……」




 しんみりな空気は何処へ!?

 



「―――っていうか、フィリアとキスしてすぐだぞ!?」

「……大丈夫。舐めとって味わって飲み込んでからキスして」



「……なぁローラ? それだと俺が変態だよな。完全にアウトだよな?」

「……ずるい、私はまだ一度もキスしてない…」




 ローラはそう言って微妙に泣きそうな顔になり……。



「あー、もう! キスすればいいんだろ!」

「うん、お願い……」



 なんか嵌められた気がする……。

 しかしここで引き下がるわけにもいかず、俺はローラを抱き寄せ―――。



「………んっ」

「―――んなっ!?」



 いきなりローラのほうから抱きついてキスしてきた。

 しかも、ローラはすごく楽しそうだし。



「……ふふっ、ファーストキス♪」

「……なぁローラ? 今俺にキスさせようとする意味なかったよな。完全にそっちから来てたよな?」



「うん。でも、不意打ちされたアルの顔がすごく可愛かった」

「………帰る」




 なんか、可愛いとか言われると死ぬほど恥ずかしいので即座に退散。

 俺は自分の部屋に逃げ帰るのだった……。





……………





 戦争。

 前世でも、今までも縁がなかったもの。


 それでも、父さんや母さん、兄さんや学園長。ローラにフィリアもいる。

 俺も、前世のときとは違って力がある。


 だから、負けるはずなんてない。そう思っている。

 勝って、そうしたらきっとエリシアの体調不良も治って、いままでみたいにみんなで暮らせると――――。





 自分の部屋に戻ると、胸騒ぎがした。

 慌てて扉を開けると、立ち込める血のにおい。



 部屋の真ん中で、エリシアが血を吐いて倒れていた。





「……エリシアっ!?」








これにて第8章は終了です。

長かったので、残りは分割して9章……でも終わらなかったら10章までいくかもしれないですね。



アル  「ちなみに、エリシアは症状が悪化しただけで死んでません」

エリシア「…えっと、アル? ネタバレしてもいいんです?」


アル  「いいんだよ、これくらい」

リリー 「そうそう。とりあえず読者さんをハラハラさせればいいってものでもないしっ!」


アル  「次回の更新とか未定だしなぁ~……」

エリシア「夏休みまでには更新したいです……!」

リリー 「でも、筆者さんの夏休みって8月5日からなんだよね?」


アル  「あー、しかもあの馬鹿は夏休みにも授業入れてたな……」

エリシア「……私、ずっと倒れたままです?」

リリー 「お兄ちゃん、エリーが動けないからってヘンなことしちゃダメだよ?」


アル「……とりあえず、適当におまけでも投稿するかもです」


リリー 「あ、なんかネタ提供もしてもらってたしね?」

アル  「まぁ、とりあえず次回は未定!」

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