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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第八章:帝国侵攻編 Ⅰ
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第九話:清潔って大事



「それでさー、結局竜に変身するところを見たことないんだよな……。召還するのは見たんだけど。あと俺も召還もできるけど」

「……そうなんですか? すごいですね」




 さて、帝国が攻め込んでくるという情報を即座にフィリアに伝えた俺(影のほう)は、しかしエリシアの方は寝ている上に本体がついてるので特にすることがなく、磔少女と世間話をしていた。

 ちなみに、シルフに磔の解除を打診してみたのだが、それだと魔力封印が上手くいかないので脱走されてもいいなら。と言われた。

 ごめん、シルフの趣味だと思ってたよ。




「確かにエリシアは強いからなぁ……」

「いいえ、そうではなく。私も、なるべくならあんな姿は見せたくないと思います。もし、好きな人がいたら」




「……そういう、ものなのか?」

「恐らく、ですけど。ちなみに磔も見られたくないですよ」



「ドンマイ。なんか魔力封印の関係で磔じゃないとダメらしい」

「そうですね。こんなに魔力が練れないのは初めてです」




 言いつつ、少女が軽く魔力を集めようとすると即座に魔力が霧散する。

 うわぁ、俺は絶対やられたくないな。




「……そういえば、名前聞いてないな。俺はアル、よろしくな」

「私は、そうですね……ちょっと発音が難しいんですけど、西宮 桜です」



「……日本人?」

「……? いいえ、母が極東出身なので珍しい名前なんですが……」




 ということは、別に転生者ってわけじゃないのか。

 残念なような、ホッとしたような。




「そっか、よろしくな。桜」

「……えっ?」



「あー、悪い。西宮さんのほうが良かったか?」

「発音も完璧だし、さん付けまで……もしかして、アルさんはほうの出身ですか!?」



「峯って……国の名前か? ホゥ! とかじゃなくて?」

「……すごい、国の名前だって分かったのもアルさんが初めてですよ」




 俺の『ホゥ!』は完全にスルーされた。

 というか、こっちにも日本語っぽい名前の国ってあったんだなー。

 峯はどっちかというと中華な感じを受ける気がするが。


 というか、西宮さんって呼ぶと目の前のファンタジー全開の美少女にはまるで似合わない……それはもう悲しいほどに。

 それに、『もしかして同郷!?』みたいなキラキラした目で見られてるし。




「あー、悪い。俺はラルハイト出身だよ。……いや、そういえば生みの親はどこ出身なのか知らないけど」

「……生みの?」



「ん、なんか生まれてすぐの俺を今の父さんが瀕死の女性から託されたとかなんとか」

「……ごめんなさい」



「いや、気にするなよ。桜――じゃなくて、西宮さん」

「ありがとうございます…。それと、桜でいいですよ」




 「なんだか凄く言いにくそうですから」と言って桜に笑われた。

 くっ、そっちが似合わない苗字してるのが問題なんだが……。

 桜のほうはピンク色だから似合ってるな。うん、桜のほうが言いやすい。




「……というか、なんか自己紹介した相手を磔にしとくのって凄く嫌なんだが」

「でも、捕虜ですよ? 私が言うのもなんですけど、これでもかなりいい待遇ではないでしょうか?」




 って言われてもなぁ……。

 そもそも少女を磔にしておくという状況が嫌だ。

 悪い奴じゃないならなおさら。




「とりあえず、俺の仲間に手を出さないって約束してくれないか? 逆に俺の仲間も桜を襲わないって条件で」

「……仲間の定義はどうするんですか?」




「とりあえず今この家にいる人間と、ラルハイト学園の人間。あとラルハイトの皇族と灰エルフの議長一家の人と、オーランドのギニアスとミリアとノエル……くらいかな?」


「……わかりました、約束します。でも、随分顔が広いんですね?」




「ん、顔だけは広いかもな。シルフー、解除頼むー」

『はい、了解しました♪』

「ど、どこから? きゃっ!?」




 もしかしていけるかなーと思いつつ魔力を声に若干込めつつシルフを呼んでみると、どこからともなくシルフの声が聞こえ、桜を拘束していた魔法が消滅。

 俺は、拘束魔法が上のほうから消えたせいで前のめりに落下した桜を慌てて受け止めた。




「悪い、こんないきなり消えるとは思わなかった」

「い、いえ……でもその、離していただけると……」




 言われ、改めて自分たちの状況を見てみると、まるで抱き合ってるようにも見える。

 ……まぁ、長く続けるべき状況じゃないな。不可抗力だから慌てたりしないが。

 とりあえず、桜をゆっくり地面に下ろしてから手を離した。




「……よっと、立てるか?」

「はい、大丈夫です。……でも、すごく淡々としてますね」




「へ、何が?」

「……別になんでもないですけど」




 なんだよ、逆に気になるじゃないか。

 ……まぁ、本当はわかってるのだが。



「いや、普通の人間なら緊張するだろうけどさ。婚約者が3人いるし」

「……3股ですか?」




 桜に急激に冷めた目で見られた。

 うわぁ、なんか悲しい……。



「……そうだな、3股だな」

「それって、まさか黙ってやってないですよね?」



「それなら桜にも言わないだろ」

「そうですね。……ちなみに、どうして3股なんてしようと思ったんですか?」




 桜は何気ない口調で聞いてきたものの、目が笑ってない。

 これは下手を打つと最低の男の烙印は間逃れない……!

 って言っても、実際最低だからあんまり気にすることないのだが。



「3人とも好きだったから。かなぁ……」

「………それじゃあ、その人たちのどこが好きなんですか?」




 や、やけに食いついてくるな…・・・。

 あれか、女の子だから恋愛トークに目がないのか?

 いや、単純に桜が恋愛話を好きなだけか?




「……フィリアは、いてくれると落ち着く。ローラがいると楽しい。エリシアは……なんというか…………エリシアだな」

「……すみません、最後のだけ意味がわからないです」




「奇遇だな、俺も全く同じことを思ってたよ」

「というか、誰でもそう思いますよ」




 とはいっても、エリシアは………。




「……ダメだ! 適切な表現が浮かばない……」

「実はそんなに好きじゃな―――」



「それはない」

「そ、即答なんですね……」




 ならなんで浮かばないんですか? と目で問いかけてくる桜だが、俺はそれどころじゃない。これは風雲急だ。絶体絶命だ。




「―――そうだ、エリシアに聞いてみよう!」

「えっ、逆にその人に聞くんですか!?」



「あー、桜も来い! こっちだ!」

「ま、待ってください!」





…………




「――――エリシア、俺のどこが好きだっ!?」

「ア、アルっ!? どうしたんです!?」




 というわけで、俺の部屋に突撃。

 俺(本体のほう)は、桜について軽く他のみんなと話してるので今はいない。



「いや、参考までに聞かせてくれ」



 俺が真剣にエリシアを見つめつつ聞いてみると、エリシアは真っ赤になって目を逸らしつつ答えた。



「……それは、その……全部、です?」




「……それだ! というわけで、俺もエリシアの全てが好きだ」

「あぅ……えっ、お客さんです…っ!?」

「それって、質問の意味が無い気がするんですけれど……」




 桜に呆れられた。

 まぁ確かにそうなんだが。

 ついでに、桜に気づいたエリシアに『お客さんの前でそんな恥ずかしいことを言わせないで欲しいです……っ!』みたいな目で見られた。




「……んじゃ、エリシアはいないと困る―――ああ、お客さんだな。こっちは桜。桜、エリシアな。」

「は、初めまして……!」

「はい、初めまして。エリシアさん」




 エリシアが若干大げさなくらい頭を下げると(顔が赤いのを隠したいから)、桜が微笑ましそうな目で見つつ軽く頭を下げた。

 うん、なんか恨みとかあんまり感じないな。




「で、エリシア。桜は魔族なんだけど」

「そう、なんです? えっと……その、私は追放された身なので……」

「大丈夫ですよ、アルと戦わないように約束してますから」




 やっぱり敵意とかと無縁だったエリシアに桜も微笑み、エリシアもつられて微笑んだ。

 そう、長年の恨みなんて関係はない。

 きっと、きっかけがあれば上手くやれるハズなんだ――――。




「そういえば、そろそろ飯だな……なぁ、桜も飯食ってかないか? 食ってけよ」

「えっ?」




……………




「いやぁ、久しぶりに食卓が賑やかだな!」

「ふふっ、そうね。サクラちゃんも遠慮なく食べてね」

「あっ、ありがとうございます……」




 ご機嫌の父さんと母さんにつられて、桜も微笑む。

 俺の右隣に―――というか、右側に密着しているローラも呟いた。



「……私たちも食べていい?」

「当たり前じゃない! ローラちゃんもウチの子よ?」



 若干心配そうだったローラに母さんが微笑みかけ、ローラも嬉しそうに笑った。

 でもウチの子って……。一応まだ付き合い始めた段階なのだが。




「もちろん、フィリアちゃんもしっかり食べてくれよ。私がアイツに怒られてしまうからね」

「はい、ありがとうございます」



 ……皇女を『ちゃん』付けとは、さすが父さんだな。

 呼び捨てにしてる俺が言えた事じゃないが、父さんが言う『アイツ』って皇様のことだよな。多分。

 何はともあれ、フィリアも嬉しそうだった。





……………




 一方その頃。

 俺(本体のほう)とエリシアはご飯を食べ終わってのんびりしていたのだが……。

 エリシアがふとこんなことを言い出した。



「……アル、お風呂……ダメ、です……?」

「ダメだ。絶対安静」



「で、でも……ちょっと汗くさいような気がするんです……っ」

「……そうか? 別に臭くないけど」




 とりあえずエリシアの首元の匂いを嗅いでみると、いつもどおりのハーブっぽい匂いがした。臭いどころかいい匂いだろ……。

 とか思ってると、エリシアが逃げた。ベッドの上だけど。



「そ、そんなところ……嗅いじゃだめです……っ!」

「じゃあ髪の毛は?」



「そ、それもダメですっ!」

「冗談だって。でも、浄化魔法……は血行が良くなるからダメだな」




 血の巡りが良くなると、魔力の巡りも良くなる。(らしい)

 容態が悪化する可能性があるとかで、フェミルから禁止されているのだ。

 と、いうことは――――。




「エリシア、身体を拭かれるなら俺とローラとフィリアとシルフ……誰がいい?」

「……じ、自分で……」



「それは却下。もしものことがあったら困る」

「……アルが、いいです」




「………へ?」

「………私、アル以外に見せたこと、ないです……」





……………





「ひゃぁ……っ。……アルっ、そこは……っ」

「ちょっ、動くなって……」




「ひゃふぁっ!? あぁっ、あぅぅっ……」

「……そういえば、熱すぎたりしないか?」



「だ、だいじょうぶです……。きもち、いいです」

「………」



「んぅっ……はぁんっ………ぁ、ぁんっ…」

「………なぁ、エリシア?」



「ぁっ、は、はい……っ?」

「動かないように頑張ってくれてるのは、よく分かる。でもな、わきの下を拭いてるだけでそんなエロい声を出されると非常に困るんだが……」




 なんか、明らかに誤解を招きそうな声だよな。

 これって腋より敏感な場所を拭こうとすると更に大変だよな。

 すっかり真っ赤になっているエリシアは、濡れたような瞳で囁いた。



「だって、アルが触るから、です……っ」

「………誘ってるのか?」



「―――ふぇっ!?」



 どうやら自覚はないらしい。

 ……いや、俺は体調不良のエリシアに手を出したりしないぞ!



「……とりあえず、治ったら覚悟しとけよ」

「や、やさしくしてください……です」





 エリシアじゃなかったら、絶対に故意だと思う。

 ひょっとして、エリシアを看病するのって地味に苦行なんじゃなかろうか。






――――――――――――――――――――――――――




 結局、アルに隅々まで磨かれてしまった。

 その後、私はアルにお願いしてローラとフィリアと3人で話をすることにした。




「……エリー、話って?」

「何か悩み事なら、遠慮なく相談してくださいね?」




 ローラもフィリアも、本当に優しいと思う。

 アルが私に付きっ切りになってしまっているのに、二人とも気にした素振りも見せずに私を心配してくれる。そう思うと、涙が溢れてきた。




「エリー、どうしたの……?」

「もしかして、何かあったんですか…!?」




「……私、ローラとフィリアにお願いがあるんです…」






次回は、更新未定です。


アル  「あ~…、エリシアをどうしていいのか分からない……」

リリー 「主にお兄ちゃんが原因だと思うけど」


アル  「……なんというか、声がエロい」

リリー 「……まぁ、うん。そうだね」


アル  「あと、無自覚にとんでもないセリフ言ってるよな」

リリー 「お兄ちゃんも負けてないけどね。無自覚なら」


アル  「……もしそうなら、反省したほうがいい気がしてきた」

リリー 「頑張れ、お兄ちゃん!」



もしかするとエリシアとイチャつくの(変態方面)はこれが最期かもしれないので、見逃してあげてください……。

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