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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第八章:帝国侵攻編 Ⅰ
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第七話:乱入者

「うぉぉぉぉ――――ッ! <黒桜>!」



 俺は、闇魔力を込めた剣で防御壁を形成する剣技<黒桜>を発動。

 周囲の空間をドーム状に闇で侵食して、紅蓮の炎をなんとか押しとどめる。


 しかし、何秒経っても炎の勢いが収まる気配がない。




「くそぉぉぉっ! 目を覚ませよ、ミリア……ッ!」

『クハハハッ、無駄無駄! 意識はあるかもしれんが、最早その体は存在しないのと同じこと! 意識があるだけ辛いだろうなぁ!』




「―――ミリアを解放しろよ……ッ! さもないとテメェを……!」


『残念だが、無理だな。殺した人間が生き返らないのと同じこと。その上、私を殺せば最後に残った彼女の意識も消滅する。まぁ、そのほうが幸せだと思うが?』




「……くそっ!」

『ハハハッ! さぁ、殺して解放してやれよ。きっと感謝されるだろうよ!』




 このままじゃジリ貧で負ける。

 ……殺すしか…ないのか? 俺が、ミリアを……?



 いや、まだ……まだアイツが本当の事を言ってるとは決まってない…!




「――――力を貸せ、エレボス…ッ!」

『……おい、もうドラゴン娘は殺すしかないぞ』



「―――っ!? なんだよ、さっきまで黙り込んでたくせに急に…!」

『悪いが、相性が悪い。俺もヤツに喰われる対象だからな』



「なんだよ、その喰われる対象ってのは!」

『体の構成がほぼ100%マナであることだ。人間は70%はマナだが、残り30%はエーテルという物だな。似ているがこれは大きな差がある』



「……ミリアは、どうなったんだよ……」

『マナを侵食された。エーテルなら変換が効かないのだが、竜族は全身をマナ化する能力者もいるような種族だ。まぁ、魔獣の殆どの種族も全身がマナで出来ているのだがな』



「……本当に、治せないのか?」

『マナを逆侵食する方法もあるが、我々には手段がない。せめて人型なら無理矢理マナを直結させて変換することもできるが』



「なら、なんとかして人型に……!」

『あの男もわざわざ弱体化させるほどお人よしではなかろう。それと、そろそろ<黒桜>が破られるぞ』





 その言葉と共に、ドーム状の闇にヒビが入り―――。



「ぐぁぁぁぁぁ――――ッ!?」



 全身を焼け付く痛みが襲い、必死で結界を張る。

 しかし、それもあっけなく破られそうになり―――。





「<メイルシュトローム>ッ!」




 碧色の斬撃が唐突に床ごと炎を切り裂いて現れた。

 そして現れたのは輝く金の髪。眩く輝く碧の剣を携え、ノエルがその穴から飛び出して―――。



「――――きゃぁ!?」



 ……着地に失敗して尻餅をついた。



 一瞬の沈黙の後、ノエルは何事もなかったかのように立ち上がり、言った。



「すみません、ギニアス。妙な結界に手間取りました。大丈夫ですか?」

「……俺は平気だが、ミリアが……」



 歯を食いしばりつつ、ミリアだった竜に目を向ける。

 ノエルはそれを見て一瞬だけ悲しそうな顔をして、呟いた。



「……そう、喰われてしまいましたか。……今、楽にしてあげます」

「――――おい、ノエル…っ!?」



「……切り裂け、碧の斬撃! <メールシュトローム>ッ!」

「ノエルっ!?」




 ノエルは目にも留まらぬ速さで飛び上がり、竜の脳天目掛けて突きを放つ。

 剣の先から碧の衝撃波が放たれ、脳天を突き貫こうと――――。




『《ローズレッド・ブラスター》……!』




 竜の口から放たれるのは紅蓮の炎。

 二つの強力な魔法の激突で膨大な衝撃波が発生し、塔が激震。亀裂が入る。

 フードの男はそれでも微動だにせず、楽しそうに笑った。




『クックック、酷い酷い。完全に殺す気だったなぁ』

「助からないのなら、せめて安らかに逝ってもらいます。ミリアはギニアスを傷つけることなど望んではいません」



『ふーん、そっちの男だって傷つけることを望んでないだろうよ』

「……それだからこそ、私が勝手に決着をつけます」



『酷いねぇ、さっき助かるかもーってその男が話してたんだけど?』

「貴方は本当に意地が悪いですね。ありもしない希望にすがる以上に大切なのは、生き残れるものが生き残ることです」




 その言葉と共にノエルが剣を構えなおし、剣が更に輝きを増す。

 より大きな碧の光に。




「……天、空、地、この一刀に絶てぬ物無し。切り裂け……!

               《ブルーム・ディバイダー》……ッ!」



 目も開けられないほどの碧い光を放つ剣が振り下ろされ、それでもフードの男は不敵に微笑む。

 そして、碧の衝撃波が竜に当たる直前。その姿が掻き消えた。



 目標を失った碧の斬撃はそのまま直進。

 遥か彼方に見えていた山を半分叩き割った。




 そして、ミリアは――――。




「――――ミリア…ッ!」

『……悪趣味だな』



 ミリアは、人型に戻って斬撃を回避していた。

 そう、これならミリアを治すチャンスが――――。



「エレボス、どうすればいいんだ!?」

『……明らかに罠だぞ』



「そんなの関係ない……!」

『……はぁ、キスして魔力を流し込んで繋げ。下手するとお前も食われるが?』




「――――っ、待て! ギニアス!」




 ノエルの静止を無視してミリアに駆け出した瞬間、全身を嫌な感覚が襲った。

 そして、全身のあちこちの骨が砕ける激痛に襲われた。




「ぐぁぁぁぁぁ!?」

『ふむ、やはり罠か』




 体を支えることもできず、床に倒れた。

 咄嗟になんとか頭と胴は守ったものの、両手両足がやられた。

 そして、死人のように無表情なミリアが俺の前に立ち―――。



 その剣を振り上げ、振り下ろす。




 思わず目を閉じ、カキンという小さな金属音が耳を打つ。

 一向に新たな痛みは来ず、恐る恐る目を開けると、目の前、頭の真横にミリアの真紅の魔法剣が突き刺さっていた。




 初めて、焦ってると分かるフードの男の声が聞こえる。




『―――何故だ、早く止めを刺せ! くっ、なら戻れっ! 何故戻らない…!?』



「……ミリア…?」


 残った魔力を必死でかき集め、動かない脚を無理矢理動かして立ち上がる。

 そして目に入ったミリアの顔は―――。


 泣いていた。



『……ごめん、ギニアス……殺して……』



「……んな…。 ふざけんなよ…! 勝手に好きだったとか、殺してくれとか……! 俺も、俺もお前が好きなんだよ……ッ!」




 焼け付くように痛む腕を無理矢理動かし、ミリアを抱きしめる。

 フードの男が何を喚いてもミリアの涙は止まらず、ミリアは嗚咽交じりに囁いた。




『……ギニアス……っ、死にたくない……一緒に…一緒にいたいよぉ……』

「……今、助けてやる。だから、ずっと一緒だ……」




 唇を繋ぎ、魔力を繋ぎ、心を繋ぐ。

 それと同時に、俺の心も蝕まれるのを感じる。それでも……!

 ミリアに巣食った暗い闇を蹴散らして――――。




『――――貴様如きに、俺の復讐を邪魔されてたまるかよ……ッ!』

「――――くっ、ギニアス、危ない!」



 ノエルが碧の斬撃を放って、敵の見えない攻撃を蹴散らすのが分かる。

 しかし、フードの男が邪悪な光を放つ魔法剣を引き抜き、人間とは思えない凄まじい速さで突っ込んでくる。


 しかし、今ミリアを離したら二度と掴めない。そんな気がした。

 だから、俺は―――。



『……ギニアス…っ、ダメ……っ!』

『――ミリアは……俺が、守る…ッ!』




 その剣先が、俺とミリアを貫こうと迫り、俺はせめてミリアだけでも逃がそうと自分の体を盾に――――。





「<サンダーボルト>ッ!」




 銀の雷が閃き、フードの男を吹き飛ばす。

 そして、銀の光が一直線に男に向かって突進した。





――――――――――――――――――――――――――




 遠目に見てもマナがおかしくなったミリアと、それを治そうとするギニアス。

 そして、妙な歪みを切り裂くノエルとフードの男。



『――――貴様如きに、俺の復讐を邪魔されてたまるかよ……ッ!』

「――――くっ、ギニアス、危ない!」



 そうか、あの男がエリシアを襲った犯人か……。

 同時に、エリシアの魔力異常に何かしら関係しているかもしれない男。

 そう思うと、全身の血が煮えたぎるかのようだった。


 フードの男の剣がミリアと、ミリアを守ろうとするギニアスに迫る。

 俺は何も考えず、ただ怒りのままに叫んだ。




「<サンダーボルト>ッ!」




 右手から放たれた銀の雷は、こちらに気づいていなかったフードの男の脇腹に直撃。

 しかし、どうやら男のフードつきローブには魔法防御効果があるらしい。

 あまり手ごたえを感じなかった。




――――なら、切り裂いてやる……!




 駆けつけた勢いをそのままに、飛行魔法に込める魔力を増やして速度を上げる。

 右手で<天照>、左手で<アウロラ>を引き抜き、フードの男に突進する。




 <サンダーボルト>に弾き飛ばされたフードの男は、受けたダメージをほとんど感じさせない動きで即座に体勢を立て直し、こちらに不気味な魔法剣を向ける。



『貴様ァ! よくも俺の邪魔をしやがったな……ッ!』

「……黙れよ、エリシアを傷つけた報いを受けろ……ッ!」




『死ね…ッ!』



 フードの男が左手を振るい、目に見えない魔力の歪みが俺に襲い掛かってくるの感じる。

 だが、甘い。怒ってるのは俺だけじゃない。




「……凍れ。《エターナル・ゼロ》……!」



 俺のすぐ後ろに控えていたローラが、前方の空気中の魔力全てを凍らせる荒業で攻撃する。フードの男は必死で歪みを集めて対抗しようとするが、物理的な干渉力を一切持たない歪みでは、いくら集めても冷気の侵食を遅くするだけで防ぐことなどできない。



 それに、まだ終わってなどいない。




「<シューティング・スター>…ッ!」




 シリウスを駆るフィリアが、既に敵の真上に回りこんでいる。

 フィリアの手から放たれる、正しく流星の如き光の奔流が、フードの男に襲いかかった。




『――――そんな下らない攻撃が、俺に効くわけねぇだろうがよ!』



 フードの男はその剣を振り上げ、光の奔流を容易く防いで見せ―――。




「……そうかよ、じゃあこれならどうだ?」

「……100倍返し」



 凍った歪みを<天照>で容易く切り裂いた俺とローラが、剣を振り上げて術を防ぐ男の目の前で剣を突きつけた。




「うおぉぉぉぉ…ッ! <サーマルブラスト>……ッ!」

「……凍えろ。<アブソリュート・ゼロ>……!」




 ほぼゼロ距離でプラズマ加速された<天照>は、一撃で男のローブにこめられた防御魔法を破壊。男の腹を貫通してその奥、塔の壁も破壊して遥か彼方へ飛んでいく。

 そして、魔法防御を失ったの首から下を魔法の氷が一瞬で凍らせ、拘束する。



「……戻れ」



 俺が小さく呟くと銀の光の粒が俺の右手に集い、ものの数秒で<天照>を形作る。

 そして俺は、歯軋りしてるのが見えるフードの男に話しかけた。



「……答えろ。お前がハズレだと言って襲った少女が魔力異常を起こしている。お前が原因なのか?」

『……ちっ、あのハズレの仲間かよ、そうだな、テメェからもハズレ臭が―――』



 俺は、ただ黙って男に右手を突きつけた。



「<サンダーボルト>」

『……手荒だな、おい』



 男のこれまでの動きから、ただの人間ではないとあたりをつけていた俺は、一切手加減せず<サンダーボルト>を放った。

 案の定、男は僅かに顔をしかめただけで特に反応しなかった。



「……答えろよ」

『ハッ、それならそれ相応の頼み方ってもんが―――』



「……《ムーンライト・ブラスター》」

『………』




 俺はありったけの魔力を集め、男に突きつけた双剣が激しい銀の光を放つ。

 古来より魔力の源であるとされる月から魔力を集めるこの術は、起動用のある程度の魔力さえあれば後は時間と月さえあれば俺の体が耐えられる限り魔力を集められる。


 銀の光は徐々に強く、大きくなり、剣先から刀身、柄を通って俺の手も輝かせる。




『……そうか、アイツはテメェの女だったか。俺に答えてやる義理はねぇな。せいぜい大事な女が苦しむ様を見てるがいいさ!』



「――――っ!? アル、破られる!」



 突如として男の魔力が膨れ上がり、氷が砕け散り、男はなんと翼を生やして舞い上がる。

 しかし俺は動じず、即座に剣先を逃げた男に照準し直し、叫んだ。




「――――喰らえ…ッ!」



 魔力充填率、およそ30%。

 双剣の剣先から眩い銀の閃光が放たれ、一直線に男を狙い撃つ。

 その威力に空間が裂けるかのような凄まじい音が響くが、フードの男は笑った。




『――――望みどおり、喰らってやるよ! 《ディストーション》ッ!』



 男の前で空間の歪みが口を開け、銀の光を飲み込もうとする。

 しかし激突した瞬間、凄まじい音と共に空間に亀裂が走り、男の口元が苦痛に歪む。



『――――ば、馬鹿な!? なんだこれは……!?』

「うおぉぉぉぉぉぉッ!」




 出力の問題なのか何なのか、どうやら上手く吸収できないらしい。

 亀裂は瞬く間に広がり、そして――――。



『ぐぁぁぁぁッ!?』




 遂に歪みを破り、銀の閃光が男を貫いた。

 更に歪みは大爆発を起こし、男は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、墜落する。



「――――逃がすか! <サンダーミグラトリィ>ッ!」



 俺は銀の閃光となり、吹き飛ばされる男を追撃。

 逃がさないために翼を切りおとそうと<天照>で切り掛かり―――。




『―――っ、そこまでよ……!』

「―――なっ!?」



 突如として目の前に現れた黒いローブで顔を隠した少女が両手を広げて俺を押しとどめようとしていた。



「……そこを退け、俺はアイツに用がある」

『……ごめんなさい、それはできません』



 くっ、厄介な……。

 それなら――――。



「――――フィリア、ローラッ!」

「……了解。<アブソリュート・ゼロ>!」

「分かりました! <ジャッジメント>!」




 俺の右側からローラが金色の氷結光線を放ち、上空からフィリアが何本もの光の柱を放ちつつ二人で男を追撃する。

 ローブの少女はそれを見て慌てて男を助けに行こうとする。

 が、振り向いたその瞬間に俺が少女を取り押さえた。



「……動くな」

『……っ』



 <天照>を少女の首に、<アウロラ>を胸に突きつける。

 先ほど溜めたエネルギーがまだ残ってる双剣は、銀の閃光を放ちつつスパークしている。

 少女は腰の剣の柄に手をやろうとしているところで静止する。



 しかし少女はそれに動じることなく、呟いた。



『ギル、来てッ!』

「――――ちっ!」



 その言葉に言いようのない嫌な予感を感じた俺は仕方なく少女に、ただし急所は外して剣を突き刺す。



『きゃぁぁぁっ!?』

「盟約の精霊、我が元に来たれ! <シルフィード>!」



 剣に溜まっていた雷魔力を流された少女が気絶したことを確認し、残った魔力の大半を費やしてシルフを呼ぶ。

 すると即座に周囲の風が集まり、緑の髪を、そして何故かメイド服を形作り、ものの数秒でシルフが具現化する。



『呼ばれて飛び出て緊急スクランブル! シルフ只今参上ですよ、ご主人様♪』

「シルフ、これ頼む! 厳重に拘束しといてくれ!」





 言うが早いか、少女を押し付けて俺はローラとフィリアの後を追いかける。

 取り残されたシルフは少女を見て溜息をついた。






『……なんというか、ご主人様ってトラブル体質ですね。また厄介なもの捕まえてますし。というか、普通逆ですよね。私が敵を追うほうですよね』




 これだけなら、わざわざ魔力消費の多い私を呼ばなくても適当に魔力鎖で縛って転がしとけばいいのに。と呟きつつ、紳士なのかなーとか思ってみたりする。

 それとも、コレの危険性をなんとなく察してるのだろうか。




『……う~ん、ご主人様も謎が多いなぁ。魔力量を15%だけ使った分身のハズなのに普段と同じだけの出力ですし。とっくに普段の20%くらいの魔力は使ってると思うんですけどね』




 とりあえず、仕事はきっちりやらないといけない。

 手当たり次第に封印術や拘束術を重ねがけしていく。

 あと嫌味なトラップとかダミーもしかけて……。




『拘束もできてこそ真のメイドというもの! こういうのもお任せですよ♪』



 そう、たとえエリーでも抜け出せないようにガッチガチに拘束しておこう。

 ご主人様がエリーを拘束してみたくなる日がくるかもしれないですからね♪





……………





「……ごめん、アル」

「すみません、奪われました……」

「いや、気にするな。……これがギルか」



 ローラとフィリアの間に着地した俺の前方にいるのは、黒い鷹だった。

 ただし、物凄くデカい。

 フードの男を右手に掴み、なんと羽ばたいてホバリングしている。



『―――――キュアァァァッ』



 ギルが一層強く羽ばたくと、凄まじい魔力の込められた風が吹き荒れ、俺たちは吹き飛ばされないように踏ん張るのが精一杯だった。


 しかもギルは、一直線にシルフのほうに向かって行った。



「―――しまった!」

「……すぐ追う」

「シリウス、お願いします!」




 俺たちはギルを追って即座に飛び上がり―――。

 ありえないレベルの突風が突如として吹き荒れ、一気に吹き飛ばされた。




「うおぁぁぁっ!? 掴まれ、ローラ、フィリアッ!」



 ローラが必死で俺にしがみつき、シリウスから叩き落されたフィリアが俺の後方に吹き飛ばされそうになるのをなんとか掴んで―――。



「……アル」

「ひぅっ!? ア、アル!?」


「わ、悪いっ!」



 俺はフィリアの胸を鷲摑みにしてしまった。

 相対速度がそこまで変わらなかったから良かったものの―――って良くないが、その隙にローラがフィリアの手を掴んだので結果オーライ……であってほしい。



 しかし、そんな微妙な空気が吹き飛ばされるような光景が見えた。

 ギルが逆風を押し切ってシルフに襲い掛かり――――。




『――――ひっさーつ! メイドパーンチ!』



 何故か真紅の輝きを放つシルフの拳がギルの脳天に直撃。

 ギルが凄まじい勢いで叩き落された。




『グギャァァァ――――ッ!?』

『……フフフッ、メイドを舐めたらいけませんよ♪』



「……ローラ、フィリア、何だアレ?」

「……すごいね?」

「この国に伝わる伝説の精霊って話、本当なのかもしれませんね……」



 逆に今までフィリアは信じてなかったんだな!?

 とツッコミを入れたくなったが、フィリアの気持ちもひじょ~によく分かるので俺も黙って頷き、ローラは苦笑いした。




『―――――キュアァァァッ』



 しかし、そんなことを話してる間にギルが男を掴んで西のほうに物凄い勢いで飛んでいってしまった。



「し、しまった――――!?」



 エリシアの異常な状態に関わってるかもしれないのに、逃がしてしまった。

 と思ったのだが、ローラが呟いた。



「……アル、待って。多分あの男、エリーの魔力異常は知らないと思う」

「……へ?」




「……あの程度ならエリーなら返り討ちにできる。そうでなくてもそんな簡単には負けない。エリーはあの男に会った時点で魔力異常だったかもしれない」



 言われてみれば、あれくらいのに簡単にエリシアが負けるなんておかしい。

 ミリアも負けたとはいえ、エリシアが倒れていたあたりに争った形跡がほとんどなかった。エリシアが戦えば一面焼け野原でも違和感ないのに。

  でもエリシアは何も――――。




「……あ、俺まだエリシアに何も聞いてないし言ってない」





 とりあえず、一回エリシアから話を聞いたほうがよさそうだった。





次回『尋問』



アル  「というわけで、エリシアの罰は『エリシアの男から言ってもらいたいセリフランキング』を言うに決定!」



エリシア「結局すごく恥ずかしいのになってます…っ!?」

アル  「まぁ、罰だしな?」



エリシア「あぅ……」

アル  「んじゃ、まず第3位!」



エリシア「え、えっと……作ったご飯を『美味しい』って言ってくれると嬉しいです……」

アル  「意外と地味なところ来るな。2位は?」



エリシア「……その、名前を呼んでもらえると」

アル  「……えーと? それだけでいいのか?」



エリシア「アルに呼んでもらえると、すごく嬉しいです……」

アル  「……よ、よし、それじゃあ第1位!」



エリシア「そ、その……『好きだ』って……」

アル  「……えーと、エリシア? 普通に言うだけでいいのか?」



エリシア「………?」

アル  「もっと、こう。『もう絶対放さない! ずっと一緒にいる!』とか、そういうセリフってエリシア的にはどうなんだよ」



エリシア「……!? そ、そのっ、分不相応というか……」

アル  「へー」


エリシア「あぅ……アルは、アルはどんな言葉が好きなんです…?」

アル  「エリシアの寝言とかかなり可愛いと思うぞ」



エリシア「……ふぇっ!?」


続…かないかな?

次話以降を再編集しているので、更新が滞る可能性があります。

ご了承下さい。

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