第十六話:カップルコン、サバイバルバトル!
さて、場所を移して体育館に来た俺たちは、カップルコンが始まる時を待っていた。
体育館には結界が張られ、何故かある客席には大勢の観戦する生徒。
ルールは簡単で、あらかじめ先生たちによって張ってもらった防御結界が破られるか、危険な攻撃をしたりしたら負け。
まさかの『強いカップル決定戦』である。
ただし、一つだけ条件がある。
「……あぅ…、歩きにくいです…」
「エリシア、無理しなくていいからな?」
必ず正装すること。
俺はとりあえずタキシードで、エリシアは可愛らしい白のドレス。
エリシアは慣れないハイヒールでかなり歩きにくそう。
でもまぁ、エリシアと一緒なら相手がリック兄さんでも負ける気はしないのだが。
周囲には同じく参加者のカップルたち。
ざっと見たところ100人はいるだろうか。
中には、ジョンとエリスのカップルや兄さんとアイナさんもいる。
ルイスはいないようだ。そういえばあいつは片思い中なんだっけか。
一応客席にフィリアとローラを見つけて少し安心する。
あの二人は強敵過ぎて戦いたくない。というかあの二人相手だと攻撃しにくいし。
リリーもその隣にいて、手を振ってくる。
リリー相手ならいつものじゃれあい感覚で攻撃できそうだが、やっぱり戦わないにこしたことはないな。
そこでジョージの声が魔法で拡声されて響いた。
『さーて、それでは始めましょう! ラルハイト・カップルコンテスト!
カップルファイトォォォ~~~、レディィィーーーゴォォォッ!』
「いくぞ、エリシア――――って、何だ!?」
「はい――――ア、アル!?」
開始と同時に付近の参加者が一斉に俺とエリシアに向き直り、攻撃してきたのだ。
色とりどりの魔法弾が飛んできて、どう防ごうか少し逡巡すると、エリシアが魔力を集める気配を感じた。
とりあえず防御はエリシアに任せ、俺は周囲の状況を探る。
「うおおぉぉ! 落ちろ、アル!」
「これ以上いい格好させてたまるか!」
「お前は強過ぎなんだよ! とりあえず脱落しろ!」
なんか、最初に強いやつを落とすことになったっぽい。
リック兄さんも遠くの方で集中砲火を喰らってるし、他にも十二家出身の有名どころは完全に包囲殲滅される形になっている。
「白き竜の加護! 万物を拒絶する光の平線! 《リミット・ホライズン!》」
エリシアが呪文を唱え始めると同時に圧倒的な濃度の魔力が撒き散らされ、術が完成していないにも関わらず魔法弾が弾き返され、術を放った人間を吹き飛ばす。
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「な、なにが起こったの!?」
エリシアが呪文を唱え終わっても、視覚的には何の変化も見られなかった。
エリシアの術への魔力供給もストップしている。
ただ、俺とエリシアを囲むドーム状に超高濃度の魔力が集まっているだけ。
魔法を反射され、それでもなんとか防いだカップルたちが怪訝そうに見てくるが、俺も全く同じ心境だ。
とりあえずエリシアの横にしゃがんで話しかける。
「エリシア、何これ?」
「……新しい術…です。ただ、これを使ってると……うごけない…です…」
口を動かすのもきついらしい。
ただ、魔力を消耗する様子はないから、何か術の条件的なものなのだろう。
ただ―――。
「エリシア、きついなら大丈夫だぞ? 俺とエリシアなら普通に勝てる」
「…ありがとうございます。でも、きつくは…ないんです」
その間も、「なら強力な術で結界を破ろう」と考えたカップルによる複合魔法や連続魔法が雨霰と降り注ぐが、全て弾き返して返り討ちにする。
エリシアの体からは、衝突した魔法と同じだけの魔力が消耗されるようだが、ドラゴンなのでそもそもの魔力量が違う。
人間100人が一斉に全ての魔力を放っても恐らく叶わないだろう。
エリシアはどうも戦いが得意ではないと前から思ってたのだが(身体能力や魔力量の割りに。恐らく経験や感情的な問題)、魔力量は圧倒的というのも馬鹿ばかしいレベル。
そのあたりを考えると、この術はちょっと強過ぎないだろうか?
そう思って聞いてみたのだが、エリシアは小さく横に首を振った。
そして少し慣れたのか、つっかえながらも普通に話せた。
「動けないので、食事もできないです。持久戦なら負けます」
「あー、なるほど。じゃあ俺が食べさせてあげるとか?」
「それより、アルはだいじょうぶ、です?」
「…へ? 何が?」
「私の魔力で、かこってますから、普通の人だと、30秒持たないです」
「……持たないってどうなるんだ?」
「えっと…、魔力汚染で大変です?」
「なにそれ、怖いんだが。なんか前兆みたいなのあるのか?」
そんなことを暢気に話してる間にも、結界に気づかず攻撃したカップルが吹き飛んだ。
この結界、普通の結界と違って目に見えないからなお性質が悪い。
「えっと、まず頭痛がします」
「あー、全然平気だな」
そんなことを言っていると、岩の弾丸が飛んでくるがそのままの勢いで返る。
そして、撃った男子生徒に直撃。男子生徒の結界が破れて失格になる。
「ぐあぁぁぁ!?」
「な、なんだよ、アレ!?」
騒がしいがとりあえず無視。
魔力汚染とかのほうがよっぽど怖い。
「次に、吐き気がします」
「ほほぅ」
「くそっ、お前らも協力しろ! あの結界を破るんだ!」
「わ、わかった!」
巨大な炎の槍が飛んでくるが、あっさり跳ね返る。
そして、大技の後なので動けず、あっさり自滅する。
「それで、魔力が変になったら、すぐ出ないと危ない、です」
「なるほど。エリシアは大丈夫なのか?」
それならエリシアも危ないのではないかと、ちょっと不安になって聞いてみると、エリシアは嬉しそうに笑った。
「…ありがとうです、アル。だいすきです…」
エリシアはぎこちなく屈んで俺の顔に自分の顔を近づけ、俺の頬にとても柔らかい唇が一瞬だけ当たった。
エリシアは恥ずかしそうに微笑んでから、俺の反応がないので不安そうな顔になる。
「…えっと、アル…、嫌…でしたか? ごめんなさい…」
「―――はっ!? 嫌じゃない、驚いただけ! 嬉しい!」
エリシアから俺にキスしてくれるなんて(頬だけど)、決闘のときの誓い? 以外にあっただろうか、いや無い!
だから、そのままエリシアを思い切り抱きしめて唇にキスしたのは不可抗力だと言っておきたい。
「……んぅ…アル…」
「…俺も大好きだよ、エリシア」
が、これはものすごく目立った。
体育館の中で、バトル中なのに固く抱き合ってキスする俺とエリシア。
しかも一見、何も防御してないように見えるおまけつき。
残ってるカップル30人ほどの内、近くにいた10人くらいが一斉に攻撃してきた。
「何バトル中にイチャイチャしてんだ!」
「破廉恥ですわ!」
「なんであいつらあれで生き残ってるんだよ!? 喰らえ!」
「<ファイヤー・エクスプロージョン>!」
……そして、全員返り討ちになった。
なにこの術、怖いんだけど。
で、数分後。
結局残ったのは俺とエリシア、そして体育館の中を爆破しまくって生き残った兄さんとアイナさんの2カップルだけだった。
で、とりあえず兄さんを挑発するべくエリシアとイチャイチャしてみる。
「やっぱりエリシアは可愛いなーーー! 可愛さならエリシアが一番だなーー!」
「あぅ…、ア、アル!?」
エリシアは嘘が下手のなので説明せずに、兄さんに聞こえるように大声でエリシアを可愛がる。これなら「アイナのほうが可愛い!」と怒って攻撃してくるだろう。
エリシアは真っ赤になるが、頭を撫でまくると幸せそうに目を細めて、完全に体から力を抜いて幸せオーラ全開である。
ちょっと術の維持が不安だったが、なんか大丈夫そう。
兄さんは怒ったのか、肩をプルプル震わせている。
そして兄さんは、俺をビシッと指差して叫んだ。
「―――――さすがアル! 我が弟だッ!」
「さすがですねっ!」
「は?」
「あぅ~」
俺は思わず間抜けな声を出してしまうが、エリシアは聞いてない。ただただ幸せそうに目を細めて俺の手を満喫している。
「愛のないカップルなどナンバーワンのカップルに非ず…! アルはそのことを俺たちに伝えようとしてくれていたんだ! 俺は、感動したっ!」
「私も感動しましたっ!」
兄さんは熱く拳を握り締め、涙でも流しそうな勢いである。
そして、大声で宣言した。
「だがな…! 俺はアイナと俺のカップルが劣っているとそう簡単に認めるわけにはいかない! だからな……俺もアイナとイチャついて、俺たちのほうがラブラブだとお前たちに認めさせて勝利してみせる! お前たちも俺たちを認めさせてみろ!」
『おーーっと、まさかの展開だ! どうしますか学園長?』
『面白そうだから許可だっ!』
『というわけでルール変更! 相手が降参するまでイチャつくバトルになりました!』
う、嘘だろ…!?
後悔するが、時既に遅し…。
……………
とりあえず戦闘は無しになったので結界を解除。
もうなんか、ヘンなスイッチが入った俺は、ハイヒールで足元がおぼつかないエリシアをお姫様だっこしつつ兄さんと向かい合う。
兄さんも即座にアイナさんをお姫様だっこする。
なお、会話は魔法で観客全員に聞かれている。
『アル……はずかしいです…』
『リ、リック、ちょっとコレは無茶だったかも……』
俺は兄さんと一瞬だけ視線を交換し、視線で語り合った。
(兄さん、もう勝負は始まってるね。ここでいかに緊張をほぐすか…)
(……ふっ、その点エリシアは恥ずかしがりだからアルは不利じゃないのか?)
兄さんは余裕の笑みだが、甘いな兄さん!
エリシアは確かに恥ずかしがりではあるが――――。
『エリシア、周囲の視線を気にするんじゃない。……俺だけを見ていてくれ』
『アル……はい、だいすきです…』
先ほどから頭を撫でられまくって蕩けてるエリシアならこれくらい余裕。
むしろ俺がものすごく恥ずかしいという最悪のデメリットがあるが、ぽわ~っとしてるときのエリシアは基本的に周りを見ていない! よって恥ずかしいとか思わない!
兄さんも一瞬だけ驚いたようだったが、即座に優しい表情になり、イケメンボイスでアイナさんに語りかける。
『大丈夫だ、アイナ。俺たちの愛の強さを見せてやろう…。な?』
『う、うん、わかった…!』
というわけで、これだとキリがないので、俺と兄さんで交互にお題を出してできなかったら負けということになった。
そして、じゃんけんで兄さんの先攻が決定。
兄さんはしばらく考え込んだ後、言った。
『よし、相手の体で一番好きな場所を言う』
『リ、リック!?』
むしろアイナさんが動揺してるが、いいのだろうか。
エリシアは早くも「全部です~」と呟いてるし。
が、兄さんは急には止まれない。
『俺は……アイナのうなじが好きだ……ッ!』
『そ、そうだったの!? 私はリックの背中が好きだよっ!』
『私はアルの全部が好きです~…』
『エリシア、問題の趣旨にのっとってちゃんと1個に絞ってくれ』
エリシアは少し考え込んで、蕩けた声のまま言った。
『私はアルの手が好きです……優しくて、あったかいです…』
『俺は声が好きだけど……場所ならやっぱり手かな。エリシアの手も温かいし』
そう言ってエリシアの手を握ってやると、エリシアは嬉しそうに笑った。
兄さん、この程度の攻撃とは甘いな…。
面倒なので、次で勝負を決めよう。
俺は懐からリンゴを取り出して、食べやすいサイズにカットした。
不思議そうに見てくる周囲の視線を全て無視して、一切れ食べる。
そしてそのままエリシアにキスして―――。
『ちょっ!? アル、今なにやった!?』
『えっ、えっ、ええっ!?』
慌てふためく兄さんとアイナさん。
会場も悲鳴やら歓声やらで凄いことになっていた。
『なにって、口移しだが』
『んくっ、おいしいです~…』
【なお、実は巧妙に魔術を使ってガードしたリンゴだけ口移ししているので、エリシアが食べたリンゴに俺の唾液その他一切は含まれていませんのでご承知ください】
エリシアは気づいているのかいないのか、とりあえず幸せそうだった。
ついでに頬を擦り付けてねだってくるのでもう一個あげる。口移しもどきで。
ちなみにこれは、エリシアの魔力が多過ぎてリンゴにかかった魔法を探知するのは至難の技である。
あと、光景が衝撃的すぎてみんなそこまで気が回らない。
俺は優しく微笑んで、兄さんに半分のリンゴを投げ渡す。
『どうぞ兄さん。俺だってナンバーワンカップルの座は譲りたくないし、これでダメならもっと凄いのあるけど……どうする?』
『くっ……』
兄さんはそっとアイナさんを見て、アイナさんの表情が硬いのを見て両手を挙げた。
『…降参だ。アイナを苦しめてまで勝つ意味は無い……だけどな、いつか追いついてみせるぞ、アル!』
『……受けて立つよ、兄さん』
『ここで決着がついたーーーー! カップルコンテストの優勝は、アルネア&エリシアのカップルだーーー! みんな、惜しみない罵声を送ってやれ!』
「ちくしょーーー! 爆発しろーーー!」
「ちくしょー! 俺だってこの後のダンスパーティで…!」
「この変態―――!」
『それでは表彰式の後、ダンスパーティに移ります!』
罵声が飛び交う中、そのまま俺たちは表彰式に出るのだった。
観客席にて。
フィリア「……うぅっ…もうアルとエリーはあんなに……」
ローラ 「……あ、しまった」
リリー 「…? どうしたの、ローラ?」
ローラ 「実は、アルはフィリアのオムライス食べてる」
フィリア「…え? あれって魔法ジュース入ってましたよね…?」
リリー 「…ええっ!? な、なんで入ってるの!?」
ローラ 「クラスの方針。祭りなんだから皆酔わせようっていう」
フィリア「…ウェイトレスが説明することになっています」
リリー 「……え、お兄ちゃんわかってて食べたの?」
ローラ 「……ウェイトレス、私だったけど、うっかり…」
フィリア「……ど、どんまいですね」
リリー 「大丈夫、うっかりなら誰にでもあるよ!」
ローラ 「うん、ありがとう……でも私もちょっと寂しい…」
フィリア「…え?」
リリー 「むむっ?」
ローラ 「……なんでもないよ?」




