第十五話:それはとても……プライスレス
最近設定が迷子ですね。
そろそろ帰ってこないと……。
『さーて次の問題です! 審査員が羨ましくなるような恋愛話を語ってください!
なおこの問題はsnowdropさんからいただきました! ありがとうございます!』
『それではアルネア君どうぞっ!』
羨ましくなるような恋愛話なんてないぞ!?
せいぜい前世から好きだったくらいだが、そんなの話すわけにもいかない。
というわけで、俺は咄嗟に思いついたエピソードを話してしまった。
アル『…えーと、実は夏休みのとき俺が風邪をひいて、それで彼女が付きっ切りで看病してくれたんだ。ご飯を何故か口移しで食べさせようとしてきたり、俺が汗をかいたら全身くまなく拭かれたりとか……。でもお陰ですぐに俺は良くなったんだ。
で、すぐに彼女が風邪をひいた。今度は俺が徹底的に彼女を看病してあげた』
『ちょっ!? アルネアくんが急に壊れた!? と、得点どうぞっ!』
エリシア『う、羨ましいですね…!? 10点です…!』
フィリア『エリー、バレてますよ? 10点です』
レイラ 『甘ったるい……。8点』
ローラ 『……羨ましくなんてないもん…。10点…』
アイナ 『…ローラさん、矛盾してますよ? 10点ですっ』
『…もうなんか、いいのかこれで? 次ルイス君、頑張ってください!』
ルイス『……実は私は、昔から心惹かれている女性がいた…。その女性は清楚で凛々しく、初めて見かけたときは声もかけられなかった…。もう二度と会えないのだろうと思っていたのだが、この学校でまた会うことができた。少しずつでも、彼女に話しかけることができたらと思う…』
『おおっと!? 想定外の話がきた!? 得点をどうぞっ!』
エリシア『……8点です』
フィリア『頑張ってくださいね。9点です』
レイラ 『はっ、女々しいわ! 8点!』
ローラ 『女々しいって言ってる割に高得点。9点』
アイナ 『はい、私も気持ちはよくわかります! 9点ですっ!』
『おーっと、遂に出ました43点! おめでとうルイス君! 次リック君どうぞ!』
リック『俺がアイナに出会ったのは2年の春だった…。いつものように学校の周りを10週走っていた俺は、ガラの悪いギルドの男たちに絡まれるアイナを見つけたんだ』
……………
アイナ「は、離してください…っ」
男A 「いいじゃねぇかよ~、一緒に遊ぼうぜ~」
男B 「俺ら、【ブルーケイロンズ】のメンバーなんだぜ?」
リック「おい、お前ら! 可愛い少女へそれ以上の狼藉は許さねぇぞ!」
男A 「はっ、なんだクソ餓鬼? 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
男B 「やっちまえ、お前ら!」
リックに向かって無数の魔法弾が放たれる。
そして、すさまじい音と共に爆発した。
アイナ「い、いやぁぁぁぁ!?」
男A 「な、何が起こった!? あんな爆発するわけが――――」
リック「あれくらい効かないぜ! とりあえず鉄拳制裁!」
男A 「ぎゃぁぁぁ!?」
男B 「く、くそっ!? 俺たちにこんなことしてタダで済むと思うなよ!?」
リック「―――この家紋が目に入らねぇか!」
男B 「そ、その紋は、十二家の!? し、失礼しましたっ!」
…………
リック『というわけで、後日お礼に来たアイナが弁当をくれてな。あんまり美味かったから感動してたら毎日作ってくれるようになったんだ…。そして今に至る』
『おーっと、なんか予想通りの出会いですね。得点どうぞっ!』
エリシア『どうして爆発したのか気になります…。10点です!』
フィリア『いいですね…。羨ましいです。10点です』
レイラ 『まー、典型的よね。8点』
ローラ 『うん、そういうのは感動すると思う。10点』
アイナ 『ちょ、ちょっと恥ずかしいですけど、10点ですっ!』
『おーっとまたも高得点! しかしルイス君も覚醒したので、ここからどうなるのか楽しみですね! 次の問題は『主の命令には必ず答えるべしっ!』
この問題はハルさんにいただきました! ありがとうございます!
で、今回は主役の学園長の命令に従ってもらいます!』
学園長『どうも、私が学園長だ』
アル 『いや、皆知ってるでしょ』
学園長『うむ、そうだな。それでは命令だ。えー、この問題の趣旨は、執事とは遥か昔は貴族の長男しかなれなかった職業で、紳士の嗜みらしい。受け売りだが。
というわけで、お前たちに執事の素質=紳士の素質を見せてもらう。
そして執事には、主の欠点をしっかり把握することも求められる。
私の欠点は分かりにくいだろうから、審査員全員の欠点と、その説明をあげること。それが納得のいく説明でなかったら0点でいいぞ。ただの侮辱だからな』
『おっと、欠点ですか。それではアルネア君どうぞっ!』
な、なんという問題を!?
とにかくなんとかしなくては…。
アル『…エリシアは俺の評価が甘くなる。俺に…えー、好意を寄せてるから。
フィリアはなるべく自分の感情は出さずに審査しようとしてるけど、無理してると少しだけ顔に出る。
レイラさんは……面白いかどうかで決めてる気がする。
ローラは……ちょっと声が小さいから聞き取りにくい人がいるかも。
アイナさんは、頑張ってるけど少し兄さん関係の評価が甘いと思う』
エリシア『…はい、そうです…。10点です…』
フィリア『さすがに良く見ていらっしゃいますね……10点です』
レイラ 『まぁ、私もちょっとやりすぎたかなとは思ってるわ。9点』
ローラ 『うん、私も少し気になってた。10点』
アイナ 『えへへ、ごめんなさい。10点です』
『おーーーっと、出ました49点! 次、ルイス君どうぞ!』
ルイス『エリシアさんはアルネア君に評価が甘い。
フィリアさんも。ローラさんも。
レイラさんは魔法生物の話に目がない。
アイナさんはリックさんの評価が甘い』
ルイスはここぞとばかりに溜め込んだ鬱憤を吐き出した。
ちょっと言い方が乱雑だったので俺はイラッときたのだが――――。
エリシア『そうですね。10点です』
フェリア『……そうですね、確かに私も甘かったかもしれません。10点です』
ローラ 『フィリアはしっかり頑張ってた。謝るべき。あと私はアルの評価が高いんじゃなくて貴方が嫌いなだけ。リックさんの点も高い。だから5点』
レイラ 『あと魔法生物の話に目がないのが欠点ですって? 明確な侮辱ね。0点』
アイナ 『欠点を優しく指摘してこその紳士です。思いやりが欠如しています。5点』
いや、なんというか……。
ルイスさんがちょっと可哀想になった。
とりあえずローラを怒らせると怖いのは分かった。とんでもない魔力のプレッシャーが放たれていて、ルイスからそこそこ離れてる俺でもちょっと冷や汗をかきそうだった。
最早殺気である。
あわててジョージが仕切る。
『さ、さーて、次はリック君です。どうぞ!』
リック『エリシアの欠点は、俺たちが話してるときでも幸せそうな顔でアルを見てるから正直ちゃんと見てくれてるのか少し不安になることだな。
フィリアさんは途中でくしゃみを堪えてるのがすごく気になって…。気にせずしちゃっていいですよ?
レイラさんは何かを期待したような目で俺を見るのを止めてください。マジで心臓に悪いんで。俺は狙ってるんじゃなく、本気なのに笑われるだけなんで。
ローラさんは回答した俺を可哀想な人を見る目で俺を見るのを止めてください…。
アイナは……トイレに行きたそうなのがすごくさっきから気になってるんだが』
エリシア『…その、あんまり見てなかったです…。ごめんなさい…。10点です』
フィリア『…ほ、本当に良く見ていらっしゃいますね…。10点です』
レイラ 『故意じゃなかったっていうの!? それはごめんなさい…。10点』
ローラ 『うん、ごめん。ちょっと見てたと思う。10点』
アイナ 『い、言わないでよぉ……。9点ですっ! あと失礼します…っ!』
アイナさんはお手洗いの方へ走っていかれました…。
そして数分して、恥ずかしそうに戻っていらっしゃいました。
『えー、それでは最終問題です。この問題は匿名希望さんからいただきました!
自分の愛する人のためならどこまで恥ずかしいことができるか実際にやってください』
『なお、最終問題なので今度は順番を逆にしてみましょうか。
準備時間は20分です! それではどうぞっ!』
ま、またとんでもない問題が…。
急にそんなことを言われても何かできることは……。
エリシアの為にひたすら愛を叫ぶとか?
…いや、それは兄さんに使われるな。同じ答えだとどうしても今回は後に答える俺が二番煎じみたいになってしまうだろう。
他には…ないこともないが……それはすごく、終わってる気がする。
けどこれでお茶を濁すようなことをしたら、エリシアの為にはその程度しかできないってことで……。
……悲しむだろうな、エリシアは。
―――仕方がない……エリシアの為ならプライドも捨てよう…。
いや、あれってもう魔法で消し飛ばしたからこの世には存在してない…!?
ま、まずい。このままだと――――。
その時、ちょうどローラが目に入った。
『ローラ! ちょっとヘルプ!』
『…? 今行く』
―――――――――――――――――――――――――
『さーて、20分立ちました。それではリック君どうぞっ!』
私は、ぼんやりと審査員席に座っていた。
そして、アルの言葉を思い出していた。
『…俺だって、他人の幸せだけじゃ生きていけない。
……灯、お前と一緒にいたときの俺は、お前がいてくれたから。
それだけでよかったから他人の幸せでも笑えたんだよ』
さっき誠司が……アルが言った言葉。
アルが誤解だって言って、ローラも笑っていたから忘れていたけれど、あれはやっぱり私が死んだ後に誠司が灯さん…? ローラと付き合ってたってことで…。
さっきアルがローラを呼んで、そのまま二人でどこかに行って…。
もしかしてアルはやっぱりローラの……灯さんのほうが好きなんじゃないかって思った。
怖かった。アルが離れていって……いなくなってしまうかもしれない。
泣きたいほどに怖かった。
先に戻ってきたローラは何故か笑顔で、私に『すぐ分かるから気にしなくても大丈夫』と笑いかけてくれたのだが、それでも不安は消えなかった。
『好きだアイナ! お前の瞳が、髪が、声が、お前の全てが愛しい――――ッ!』
リックお兄さんの魂の叫びもなんとなく聞き流し、『9点です…』と得点だけ言う。
10点でもいいかもしれないが、最初に10点を出してしまうと後でそれよりいい答えがあったときに困るから……。
でもアルが、ローラへの愛を叫んだりしたら私はどうすればいいのだろう……。
アルを憎むことなんてできない。私の傍にいてくれることが奇跡みたいなことなのだ。
ローラだってそう。ローラのほうが私よりずっと魅力的なのだから、アルがローラに惹かれるのだって無理はない……。
流れそうになった涙を堪えて前を向き、あのキザな男が水着で登場したのを見て目を逸らした。全然恥ずかしそうじゃない。むしろ楽しそうだ。
そう言って4点にする。
そう、趣旨に反してるんだからこれでもいいだろう。
最後にアルの番になった。
例えアルがローラを好きになっても、それでも私はアルを見ていたい…。
アルと一緒にいたい。アルに抱きしめてもらいたい、キスしてほしい。
アルに、大好きだって言ってもらいたい……。
そして、気づいた。
いつもアルに抱きしめてもらったり、キスしてもらったり、一緒にいてもらっている。
『好きだ』といわれれば『私も大好きです』と返すが、いつもアルにしてもらっているばかりで、私からアルに抱きついたり、好きだと言ったことがあっただろうか……?
……無い。
最近は私からアルに甘えたことなんてほとんどない。
いつも恥ずかしがってばかり。
そんなことでは、アルに愛想を尽かされても仕方がない……。
そして、今更後悔してももう遅いかもしれない…。
そう思うと、遂に堪えていた涙が溢れ出してしまった。
怖い…。今すぐに逃げ出してしまいたい……。
そのまま私が俯いた時に歓声が上がり、アルが登場したことを悟った。
それでも私は顔を上げられず、するとスピーカーから大きなアルの声が聞こえた。
『エリシア――――ッ! 好きだぁぁぁ―――ッ!』
……え?
なんだかアルの声を可愛くしたみたいな声が聞こえた。
一瞬自分の耳が信じられずに顔を上げると――なんだか信じられないものが見えた。
黒色ながら可愛らしい意匠のワンピースに白いエプロンを合わせたエプロンドレス。
白くて可愛らしいカチューシャがついている髪はなんと可愛い桜色でしかもロング。
薄くお化粧までしたその人は、どう見ても可愛いメイドさんで。
でも、私の大好きな人だった。
『なんかプライドかなぐり捨てて女装したらエリシア泣いてるし…! ローラに色々頼んだら代金だって言って好き勝手に化粧させられたし! しかも服を借りる代わりに声を可愛くすることを強制させられたんだぞ!』
『ア、アルはローラが好きなんじゃ……?』
『……確かに好きか嫌いかで言われたら好きだけどな、俺は、エリシアが好きなんだよ! お前のためならプライドくらい全部捨ててやる! 徹底的にやってやるよ!』
ちょっと怒ったらしいアルはかなり不機嫌な顔になったあと一瞬無表情になり、それから輝くばかりの笑みを浮かべて言った。
『お帰りなさいませ、ご主人様☆ 当店のオススメはハートオムライスですっ♪』
アルは可愛らしくウィンクまでして、その予想外すぎる可愛さに会場は歓声に包まれた。
『さーて! プライドを全部捨てたというアルネア君の得点をどうぞっ!』
私は得点なんてすっかり忘れて、みっともなく涙を流しながら叫んだ。
『アル……! 私も……私もアルが大好きです…っ! ごめんなさい、アル…! 好きですっ…! 大好きです……っ!』
『ふふっ、10点です』
『まぁ、私もこれの熱意は認めるわよ。10点』
『うん、頑張ってる。アルも泣きそうだし。10点』
『か、感動しました…。10点ですっ』
『えーと、どうやら文句なしの満点ですね。総合得点は350分の334点!
というわけで、優勝はアルネア君に決定――――!」
次回予告!
アル 「遂に始まるカップルコン! しかもなんとバトル!」
エリシア「アル……疑ったりして本当にごめんなさい……」
アル 「まぁ気にするな。……というか元々悪いの俺だし」
リリー 「そうだよお兄ちゃん。デリカシーなさ過ぎ」
エリシア「アルは悪くないです…!」
リリー 「…というわけで次回は久々にバトルだよっ!」
アル 「君は生き延びることができるか―――?」
エリシア「次回、『カップルコン、サバイバルバトル!』です!」
エリシア「アル、晩御飯はカレーとお肉、どっちがいいです?
それとも……私…です?」
アル 「もちろんエリシ――」
リリー 「てーい! まだカメラ回ってる!」
エリシア「あぅ!?」
アル 「やべっ、それでは皆さんまた明日~~!」
ちなみに、アルが最初にクラスで着せられた女装の服はアルが魔法で焼き払いました。そのため服がなく、サイズの近いローラにメイド服を借りました。
ローラは制服に戻ってるんですが、エリシアは気づきません。