第二話:新たな仲間たち
「―――――えいっ!」
「寝袋ディフェンス!」
間一髪、寝袋ディフェンスが間に合い、俺の寝袋が剥がされるのを阻止。
合宿まで来てなにやってんだろうなぁ・・・
ついこのあいだ寝坊をやめようと決意したんだがなぁ・・・
てか、寝袋ディフェンスってなんだ?
「―――くっ、やはり起きてたのねお兄ちゃん!」
そ、犯人はリリー。
「ふっ、俺は寝ている。これは寝相が悪いだけだ!」
俺は転がって、テントを縦横無尽に跳ね回り、リリーの攻撃を防ぐ。
「なら、今日こそは5分以内に起きてもらうわっ!」
リリーも毎朝元気だよなぁ・・・俺も他人の事は言えないが。
「クハハハ!合宿の俺は一味ちがう!」
なんか、起こされるからムキになって起きない気がしてきた。
「すぐに引ん剥いてあげるから覚悟して、お兄ちゃん!<荒波式・布団剥ぎ!>」
―――荒波式・布団剥ぎ――――
力において、俺に劣るリリーが編み出した必殺技!
単調に引っ張るのではなく捻りを加える<ローリング布団剥ぎ>強化版!
「ぐおおお~~~~」
俺は荒波に揉まれる小船の如し。
揺さぶられて、寝起きの頭が気持ち悪い。
ちょっとやばいかも・・・
「くっ、早く布団を放して!お兄ちゃん!そのままじゃ貴方の体が持たない!」
「ぐあぁっ―――!いいんだ、リリー・・・俺の・・・ことはもう、いい。」
「そんな!?お兄ちゃん!寝袋を放せば今なら――――!」
「ダメなんだ・・・ぐぁっ―ッ!寝袋が、離れない・・・!」
「そんな!そんなの!お兄ちゃんの意思でどうにでもなる!」
「リリー、エリシアの・・・あいつの事は・・・頼んだ!」
「お兄ちゃん!ダメ!そんなの嫌だよ!」
「ごめんな、リリー。こんな駄目な兄貴で・・・でも、ここは俺に任せて行くんだ・・・!」
「嫌だぁっ!お兄ちゃんじゃなきゃ嫌なのっ!」
「ぐあぁっ!・・・我侭を言わないでくれ、リリー。さあ、行くんだ!」
「嫌だ、よぅ」
「お前が行かなきゃ誰がいくんだ・・・とっとと行けぇぇぇぇ!」
「お兄ちゃぁぁ―――――ん!」
「えっと、リリー、アル、なにしてるんです?」
いつの間にかエリシアが来ていた。
仕方ない、起きよう。
でも、もう寝坊は俺の中で、俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。
って言うと死んじゃうのと同じ・・・仕方ないんだ。そういうものなんだ。
―――さて、俺は着替えて外出て、湖の水で顔を洗った。
「うおっ、冷たい!」
湖の水は冷たかった!俺に50ダメージ!
さて、昨日も言ったが、合宿本拠地は、この湖・・・え~と、名前なんだっけな?
たぶんハルト湖?のそばにあり、テントがいっぱい。壮観だな。
テントは全部で100ちょいある。1年生100人に小型の一個ずつと、
あと引率の先生たち。
皇立学校だからか、一人1テントは太っ腹だと思う。
そうそう。1年生は100人いるが、5クラスあって、1クラス20人だ。
引率の先生は、学園長と、各担任と、戦闘の得意な実技の先生数名だ。
んで、今、俺が同じクラスで仲がいいのが、
エリシア、リリー、エリス、ジョンである。
さて、ジョンを覚えている方はどれほどいるだろうか・・・
ジョンはいつかの村にグレーフェンリルが来る前に、かけっこ?で遊んだジョンだ。
あれからも、たびたび会ってる俺の大事な男友達だ。
まあ、ジョンは豪快というより繊細な性格だが。
んで、エリスは色々あって、ジョンが惚れてる女の子だ(俺主観)
この国の筆頭貴族十二家(通称十二家)の娘で、身分は高いのだが、
丁寧で優しそうな感じ。ちなみに黒髪黒目でなんか懐かしい。
俺も前世は日本人だったからな。
あ、忘れてると思うので言っておくと、ジョンは茶髪(天然)に茶色の目だ。
「あ、アルさん。おはようございます」
噂をすればエリスである。アルさんって、バル○ンみたいだよな。
「おう、おはよー」
俺はもう一度自分の顔に湖の水をかけ、頭を完全に覚醒させた。
「冷たそうですね・・・大丈夫ですか?」
俺の横に立って、エリスが湖を覗き込む。
「ん、まあ。冷たいほうが目が覚めるしね」
ほんとに冷たいのが嫌なら、火魔術でお湯にできるしな。
と、エリスが何か悩んでる模様。
ふむ。
「土よ、その姿を変えよ<アース・トランス>」
「水よ、<ウォーター>」
「火よ、<ファイヤ>」
さて、俺の三連術で土の器ができ、水が入り、あったまってお湯になった。
「よし、できたー。エリスー、使っていいぞ~。んじゃな~」
若干呆然としてるエリスを尻目に、俺は自分のテントに歩き出す。
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言うエリスに振り返らず手を振り、俺はそのままテントに戻った。
おお、なんか俺、珍しくカッコ良くなかったか?
・・・自分でそんなことを考える時点で終わってるか。
俺は、テントに入って、「封印」しておいた<アウロラ>と<アリアティル>を手に取った。
「封印」と言うと大仰な感じだが、要は盗難防止の結界だ。
俺が結界に使った以上の魔力を掛けないと破壊できない。
一々そんなことするぐらいなら持ち歩けよ!って普通は考えるが、例外もある。
俺は、その例外の理由である、青い宝玉(見た目ビー球にしか見えない)を手に取る。
これは、魔法玉と呼ばれるもので、ある程度、魔法を維持できる優れものだ。
まあ、一個につき一個しか魔法を記録できず、上書き不可だし、
攻撃魔法なら、基本的に一回で壊れるし、あんまり容量が必要(つまり複雑)な術は無理。
でも、結界などにはとても便利なのだ。まあ、結界を破られると壊れるし、値段が高い。
一個でノートパソコンを一台買うくらいの気分だな。
前世の俺なら無理だったなぁ・・・
さて、俺は腰に2本の剣を下げ、制服の上に黒いコート(防御魔法付加)を着た。
ラルハイト校の制服は、皇国のカラーであるところの、
白地に青いラインがあしらわれたなんか騎士っぽいデザインだ。
男子はズボン。女子はスカート。
なんか、ラルハイト魔法学校は、魔法学校だが、騎士的要素もあるところらしい。
まあ、卒業生の進路の99%が騎士団だから、当然のなりゆきか。
18歳で卒業して、騎士団は18歳から。
しかもラルハイト校の卒業生は若干優遇され、
騎士はこの世界的にもっとも高貴な職業とされている。子どもがなりたい職業第一位だ。
体力の無い優秀な魔法使いも、騎士団の中にある、魔法部隊に入れば全く問題無い。
まぁ、両方無いと入れない魔術騎士団より若干立場が低いが。
ちなみに俺は何も考えてない。
まあ、お金は稼がないといけないけどなー、とは思ってるが。
さて、俺は身だしなみが完璧なのを確認して朝食へ。
これでも俺は貴族であり・・・というか、父さんと母さんの顔に泥を塗るわけにはいかない。
あんなんでも、すばらしい両親なのだ。
『―――アル、ごめんな。今まで黙っていたが、私たちは本当の両親じゃないんだ』
そう、俺なんかを引き取って育ててくれた。いつか恩返しをせねばなるまい。
とりあえず優秀な成績を取って安心してもらわないとなー。
今日も魔獣狩りかなー。
なんて思いつつ、朝食会場の広場へ・・・
「って、なんだよこの焦げ臭いにおいは!?」
思わず叫んでしまうくらい焦げ臭かった。
「いいか!肉焼きもできないヤツにハンターの資格はない!
しゃべれる猫に一括して焼いてもらおうとか、生焼け肉でもいいだろー。
とか思ってるヤツは自分が食ってみるがいい!」
学園長が朝食を食べたい奴全員に、自分で肉を焼かせていた。
てか、俺たちはハンターじゃないんだが・・・
さて、この国では、魔力が高い(つまり仕事ができる)
人間が身分が高く、貴族になった建国時の事情がある。
昔のこの国の貴族は周辺国一、立派だったらしいが、建国700年で、大分酷い。
なんか悪い貴族のイメージそのままだ!
いや、父さん母さんやリリーや兄さんやエリス等は立派だ。礼儀を弁えてるし。
おっと、本来の趣旨からずれた。
まず、魔力が高い人が貴族になった。
次に、長年貴族同士の結婚とか、魔力が高い平民を貴族にしたりした。
で、魔力が高い人は8割がた貴族である。
そして、この学校は学費いらずとはいえ、名門校。魔力量は大事。
あ、忘れてた。魔力量とかは遺伝がかなり強い。
んで、この学校の生徒の8割は貴族であり、自分で肉を焼いたことなど無い。
そのため、この焦げ臭い惨状である。
生焼けでなんとも言えない顔をしてる生徒もいる。
この世界は、こんがりな肉が好きな人が多いのだ。
というか、いい肉ばっか食ってる貴族には超苦行。
さて、肉は学園長が直々に手渡す模様(絶対不正を防ぐ気だ)
まあ、俺もエリシアほどじゃないが肉焼きは得意だ。
エリシアの焼いた肉は反則級に美味だ。
リリーは調味料を持たせなければ料理も上手い。(ただしお菓子は例外ですごく美味しい)
「おはようございます、学園長」
俺は一礼しつつ、挨拶した。
「きたか、アルネアよ。貴様の父の壮絶な料理を思うとかなり不安なのだが・・・平気か?」
なんか学園長に心配された!?
この人を不安にさせる料理って何!?
「む、聞きたいのか・・・アルベルクは、料理当番の日に壮絶に辛いご飯を炊いた。
そして、それで全員が悶絶している時に魔獣に襲われてな・・・」
父さん!ご飯を炊く時に何をしたのさ!?
「まあ、それは良くってだな」
いいのか!?良くないだろ学園長!
「問題は、ヤツがスープを作った時だ。何を入れたかしらんが、
鍋から7色の煙が出てきて、気がつくと全員眠っていたという・・・」
学園長は、あれは酷いにおいだった・・・と、言いつつ遠い目をしている。
俺は血が繋がってないが、兄さんは平気なのだろうか・・・
いや、兄さんが料理上手なのってイメージできないし、ダメなんだろうなぁ・・・
「えー、まあ俺は料理は大丈夫ですよ」
俺はそういうが、学園長は疑わしそうな目で見てきた。
「まあいい、ほら、お前の分だ」
学園長から生肉の塊を受け取り、空いてる場所を探す。
と、嫌なヤツと目が合った。
金髪でキザそうな顔の男。やたら豪華なコートを着てる。
「おや、誰かと思えばフォーラスブルグじゃないか。
なんだそのボロいコートは?名誉ある十二家の自覚はあるのか?」
えーと、十二家のどっかの家の長男らしい。名前は忘れたが。
「―――俺の名前は、ガルシア・ハイラスブルグだ!」
そうそう、ガルシアだった。
ん、俺声に出してたんだな。はっはー。
「くっ、生意気な!俺は昨日、<ヘル・スネーク>を狩って合計15点獲得したんだぞ!」
と、お怒りのガルシア。
ちなみに、<ヘル・スネーク>は、巨大な蛇。魔力装甲を使い、獲物を絞め殺す。
毒は無いのがせめてもの救いか?ランクC+。学生としては立派だな。
ま、俺は23点だが自慢する趣味は無い。
なので――。
「そっか、肉焦げてるぞ?」
俺はそう言って、場所探しを再開。
「ば、馬鹿な―――――!?」
ガルシアの悲鳴が響き渡った。
しばらく歩くと、無表情で肉を見つめつつ焼く銀髪の女の子を発見。
なんか、焦がしそうだな。
エリシアという達人・・・達竜?の肉焼きを何度も見てるので俺も肉焼き名人なのだ。
ガルシアみたいな馬鹿はともかく、真面目に焼いてる女の子が肉を焦がすのは忍びない。
「そろそろいいんじゃない?」
声を掛けてみた。
すると、こっちを振り返る。
「・・・わたし?」
若干小首を傾げつつ、少女は言った。碧のきれいな瞳だった。
「そう、お肉こんがりいい感じ。」
俺はとりあえず状況説明。
女の子は火から肉を外し、息を吹きかけて冷ましてから、一口かじった。
「・・・おいしい。ありがとう。」
うん、女の子にお礼を言われると悪い気はしない。
いや、男相手でもお礼を言われればそれなりに嬉しいぞ?相対的にアレだが。
「おう、どういたしまして~。んじゃな~」
俺はそのまま湖側へ歩き、いい感じの場所を発見。
そこで俺も無事に肉を上手に焼けました~!
で、しばらくして学園長より召集がかかった。
「さて、お前たちは肉焼きの難しさを経験しただろう。
これは騎士になった私が、野営で肉も焼けない騎士に失望したため、考案した。
食料が尽きて、頑張って動物を狩って食べようという時に、
肉が焦げる!生焼け!しかも文句ばかり!
そんなことでは立派な騎士にはなれん!
自分の食事すら作れなくては、生き残れない時もある!
別に騎士になるつもりじゃないとか思った奴!
今年から募集要項に騎士の訓練をすると記載されてる!
確認しない奴が悪い!
あと、まだ話してなかったが、この合宿の期間は無制限だ!
私が納得するまでやる!
そして、明日になったら此処のキャンプは撤去し、サバイバルを開始する!」
・・・とんでもない人だと思っていたが、学園長は俺の予想以上だった。
期間無制限?サバイバル?
「どうなんのかなぁ」
俺は、周囲の愕然とする生徒たちを尻目に、呟いた。
本来の1章は色々あって封印したので、もうストック0です・・・
なので、余裕が無いので誤字・脱字などありましたらごめんなさい。