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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第七章:文化祭編
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第十一話:先生、それ初恋とはちょっと違うッス!

 俺のせいで誰かが泣くのは……何度目だっただろうか。

 泣きながらなんとか笑おうとして、それでも泣いてしまっているフィリア。


 一瞬、なんとかしてあげたいと思った。

 俺はそんな馬鹿な自分に少し絶望した。


 俺はフィリアを選ばなかったんだし、今もそうだ。

 確かにフィリアのことは好きだし、一緒にいるのは楽しいと思う。

 それでも俺はエリシアを選んだ。


 下手な同情なんてフィリアを傷つけるだけだし、エリシアも傷つく。

 そう……もう俺にはどうすることもできないんだ。

 こればかりはフィリアが立ち直ってくれるように祈るしかない…。







――――――――――――――――――――――――――――





『……というわけで、町で怖い人に困ってる私を助けてくれたのがリックで、それが私の初恋でしたっ!』



「うらやましいぞ、コラー!」

「リック爆発しろー!」



 いつの間にかアイナさんの話が終わり、会場が歓声に包まれた。

 …先ほどよりちょっとしんみりしているが、また徐々に盛り上がってきただろうか。



『ではでは、この調子で次はレイラさん。どうぞっ!』


『いいわ、貴方達に話してあげましょう……私の初恋というものをね…!』




『……あの日は、少し天気が悪く、空はどんよりとしていた…。

 そう、気温15度、湿度60%といったところだったわ。

 私は研究に必要な薬草を取りに、森の中に入っていった…。


 けれど、いつもなら容易く見つけられたその薬草が、その日ばかりは何故か見つからなかったのよ…。

 それでもどうしても必要だったから、私は町に出て買い物をすることにしたのよ。

 

 そして町に出た私は、まずフランクフルトと焼きトウモロコシを買った…。

 そう、その日はお祭りだったの…。

 


 見渡す限り人、人、人! その中で私は――――――。

 酔ったわ。もう人が多過ぎて気持ち悪いのなんの。



 結局、祭りで薬草店はお休みで、病院に殴りこみをかけようかと思ったけれど後処理がめんどくさそうだったから止めたわ。

 で、その日は帰って寝た。



 そして次の日。

 まだ太陽が昇りきらないうちに目が覚めた私は、なんとなくまた森に薬草探しに出た。

 その日は湿度100%…霧が出ていたわ。


 そして出会ったの…。

 霧で視界が悪い中、妙な気配を感じて後ろを振り向くとそこには――――ッ!』




『それ初恋話じゃないだろ!? というか、前振り長すぎだろ! 前振りのほうが長かったぞ! 本来なら3行分の話じゃねぇか! 湿度の情報とか要らないんだよ!』



 俺は思わずツッコんでしまった。

 いや、俺のツッコミ魂が熱く轟き叫んでいたんだ…。



『甘い、甘いわ。若造! ギルナンタ・キスモドキは高湿度でしか出現しないのよ! そしてこれは私の変な魔法生物への紛れも無い初恋! あの時吸血されて死に掛けて大変だったのよ!? そして私は決意した! 研究しつくして撃滅し、あの時の借りを100万倍にして返してやるとね…ッ! そして、それからヤツのことを考えると血が熱く燃えたぎるようになった…これは正しく愛だ…ッ!』



『ジョージさん、次行きましょう』

『はいはーい。それじゃあ次、エリシアさんどうぞ~?』



『くっ、待て! この私を無視するというの…!?』

『…とりあえず冷却』


『ぐわはっ!?』



 レイラさんはローラ(微酔い)に氷漬けにされました。

 ――完――



……………





 というわけで、エリシアの話が始まる。

 未だに巫女装束のエリシアは、緊張した面持ちでマイクを握り締めた。



『……みなさんも聞いたかもしれませんが、私は本当は十二家の生まれではありません。

 私はもっと…田舎のほうで生まれたのですけど、ある日お父さんとお母さんが…悪い人に殺されてしまって、私も深い傷を負って死に掛けていました。


 そんな時、ある人が命がけで戦って、私を助けてくれたんです。

 魔法で私の傷を治してくれて、でもその時の私はまだまだ子どもで、今よりもっと人見知りで、どうしていいかわからなくて…。


 そうしたらその人が……ご飯をくれました。

 …最初の出会いのときに、私は餌付けされたんです。




 そこでエリシアはちょっと間をおいてマイクを握りなおす。

 ……餌付けとか言われるとかなりアレな感じがするんだが。

 後でエリシアとみっちり話し合う必要がありそうだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――




 ドラゴン関係の話がバレないように随所をぼかして話しながら、エリシアはその時のことを思い出していた――――。



 そう、あの頃の私は白竜族の皇女として、そして次代の竜族族長を生むだけに相応しい者になるために厳しい教育を受けていた。

 といっても、治癒と結界を得意とする白竜族は竜族の中で最も戦闘に向いていない種族で、そのためか性格も(竜族にしては)温厚な者が多かった。


 お父さんとお母さんも優しくて……。

 でも、どうしてあんなことになってしまったのだろうか…?



 その時、私は唐突に思い出した。

 小さな私が、ベッドでお母さんと一緒に寝ているのだが、何か話をしている。

 (竜族は力の消費を抑えるために人型をとるのであり、日常生活は人型)




『お母さん、私ね。夢の中でいつも同じ男の子に会うんです!』

『そうなの? それは凄いわね…。どんな男の子なの?』



『えっと…。目も髪も真っ黒です。でも黒竜さんみたいに怖くなくて、とっても優しいんです…!』

『…エルは、黒竜さんはあんまり好きじゃないの?』



『…あぅ……ごめんなさい…』

『…いいのよ。私だって嫌いじゃないけど、好きじゃないわ…』



『……お母さんもです…?』

『ふふっ、エル。これは内緒よ?』



『はい、ないしょです…!』

『…そうね、黒竜さんは好きじゃないわ…』



『…お母さん、お母さんはお父さんとどうして結婚したんです?』

『あら、エルもそういうことを気にするようになったの?』



『えっと、皇女としての『せきにん』です!』

『そう…エルは偉いわね』



 お母さんは私を褒めてくれたが、その時の顔はとても寂しそうだった。

 その時の私が『責任』なんて分からずに使っていたからかもしれない。



『…お母さん、どうして結婚したのか聞いてないです…』

『あらあら。ごめんね? そうね…私があの人に会ったのは前回の魔族討伐戦の時だったわ。一目見たら胸がドキドキして、そのままあの人に声を掛けられて恋に落ちちゃったの』



『…はやいです!?』

『ふふっ、恋は落ちるものだから、あっという間なのよ?』



『いいなぁ…』

『…エルは、誰かにドキドキしたことはある?』



『……あります!』

『…えっ、あるの!? ちょっと待って、お母さん心の準備が……』



『夢の男の子に会うと……すごくドキドキします…!』

『ゆ、夢かぁ……よかった』



『うぅ~~、よくないです……。さみしいです…』

『…さみしいの?』



『……会えると嬉しいですけど、起きたらいなくなっちゃます…』

『…そうね。…ずっと、一緒にいたいの?』



『…はい。お母さん、夢で会った人と会える魔法はないんです…?』

『それはちょっと無理かな…。でも、その夢はいつかきっと会えるってことかもしれないわね…』



『ほんとですか…!? はやく会いたいです……』

『……そうね。会えるといいわね…』





 その数ヶ月後、私は寝ている間に口論する音で目が覚めた。


『…おか~さん?』



 いつも隣で寝ていて、私が起きると微笑んでくれるお母さんがいなかった。

 そして、私はドアに近づいて隣の部屋の音を盗み聞きしてしまった。




『……今の竜族が後継がいない危機に瀕していると、そして私の子を生めるだけの可能性があるのが姫だけだと、分かっていて言っているのだな?』


『…まだ赤の一族の姫がいらっしゃるでしょう。エルシフィアが予知夢を見ている可能性がある以上、渡すことはできないと言っているのです』




『赤か……確かにあの姫も優秀なことは認めよう。だが次代の魔族の侵攻を防ぐには不足だ。魔族は年々強くなっている。それは分かっているのだろう?』


『…族長様こそ、一族に伝わる予知夢をご存じないわけではないでしょう? 予知夢を見る子どもがいれば、可能な限り従うことと規約にもあるでしょう』




『今は可能な状況ではない。今、私が死んで、この竜族を率いるだけの人材がいない。そこらの竜では、私の子を生むことに耐えられない』


『……いずれにせよ、今のエルシフィアでは耐えられないでしょう。せめて成人するまでは私たちの元で――――』




『もう失敗するわけにはいかない。また……暗殺されるようなことになっては堪らない。今度こそ厳重な監視下の元に置く』


『―――っ!? あの子の自由を奪うような事は許しません!』




『ならば決闘で決めるか? 私は構わないぞ。貴女と白の族長と同時にでもいい。竜族のためにも、貴女方のためにも、どちらがいいかは明白だと思うがな。3日後までに結論を出してもらおうか』


『――――まだ、まだあの人が遠征から帰ってきていないのにですか…!?』




『ふむ? ああそうか、失礼。忘れていた。どちらにせよ結果は変わらないと思うが、白の族長が帰還してから3日を期限にする。今からよく考えておくのだな…』







 予定ではお父さんは明日にも帰ってくる。

 私はそのまま呆然と立ち尽くし、疲れた顔で戻ってきたお母さんと遭遇してしまった。



『…エル!? 聞いて…たの?』

『……わ、わたし…ごめん、なさい……』



 そう、私のせいでお母さんを苦しめている。

 私のためにお母さんは最強と謳われる黒の族長と口論になって…。


 挙句の果てに、私を渡さなければあの黒の族長と決闘になるという。

 ……あの黒竜相手では、二人掛かりでも勝てるはずがないと、私も思った。



『……お母さん、わたし、行きますから…』

『エル、夢で会った男の子が好きなんじゃないの…!?』



『………でも、私の、皇女の『せきにん』です…』

『あなたに……エルに責任なんて無いっ! エルは何も悪いことなんてしてない! 何も悪いことをしてないのにとらなきゃいけない責任なんて間違ってるの…!』



『でも…っ、でも、お母さんもお父さんも、死んじゃ嫌です…!』



 私が叫ぶと、お母さんは苦しそうな表情になり、少し目を瞑ってから何かを決意したような表情になり、いつものように私に優しく話しかけた。



『………エル、私の目を見て?』



『…お母さん?』




 言われ、素直にお母さんの目を見ると、お母さんの目が不思議な白くて暖かい光に包まれていて…。

 私は急に激しい眠気に襲われ、意識が混濁した。





『エル、今日はあなたは普通に寝て、男の子とお話する夢を見て、明日はいつも通りに起きるの。さっき見たことは悪い夢で、起きたら覚えていない。


 そして、お父さんとお母さんがもし決闘することになったら、その理由は……そうね、黒竜さんとお父さんとお母さんが喧嘩したから。誰も悪くないの。


 エルは決闘が始まることになったら、ベッドの下の荷物を持って、この前教えた隠し通路から外に出て、逃げるのよ。


 ……そう、そして…ディグリスおじさんところの、入っちゃ行けないって教えた部屋に行きなさい。そうすればおじさんがきっと助けてくれるから…。



 ……もし、これで反逆者扱いになったらごめんなさいね…。

 エルが誓い破りをしたんじゃなくて、私がやらせただけだから…。

 …ちゃんと、私が死ぬ前にこの話はするつもりだけれど…。

 

 夢の男の子にはきっと会えるから…。

 必ずエルの恋は叶うから…。

 だから、幸せになってね。エル…』









*黒竜さんの一人称が気持ち悪かったので『私』に変更しました。


*エルシフィアの『誓い破り』は、竜族の領域からの脱走。

 禁止事項の一つです。

 ついでに、決闘の賞品なのに逃げ出したのでそれも。

 あと、皇女としての責任放棄でしょうか。


*エルのお母さんの固有魔法は目を合わせた相手に催眠をかけることです。


*あと、予知夢はそのままの意味です。

 始祖の白竜が予知夢をよく見たことで有名です。

 エリシアのはただの前世の記憶の残骸で、予知夢じゃないですが。


*結局、エルのお母さんは瞬殺されてしまったのでエリシアが勝手に脱走したことになりました。


アル  「…あれ、簡潔に纏めるんじゃなかったっけ?」

エリシア「……ふ、不可抗力です…!」


アル 「まぁ、またいつもの暴走かーと生暖かく見守っていただけると幸いです!」


アル  「というわけで次回、『俺たちの出会いは餌付けだった?』」

エリシア「…ア、アル? 怒ってます…?」


アル  「……エリシアが餌で俺に懐いたんだと思うと虚しくなっただけだから」

エリシア「あぅ…そ、その、次回でちゃんと説明しますから……」




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