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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第七章:文化祭編
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第七話:抱き枕か膝枕か、それが問題だッ!

 ――――そう、変に気にするからバレるのだ。

 というわけで俺は何食わぬ顔でカレー二つを持ってローラとフィリアの席に向かった。



「お待たせいたしました、カレー二つです。以上でご注文はお揃いですか?」

「はい、揃いました」

「……ぷっ」



 フィリアは気づいてないのか笑顔で答えてくれたのだが、ローラが俺の顔を見て一瞬驚いた顔になった後、少し吹き出し、笑いを堪えて肩を震わせはじめた。

 慌ててフィリアが謝ってくる。



「ロ、ローラ!? ごめんなさい、ちょっと酔ってるみたいで…」

「い、いえ、お気になさらず…」

「……アル、凄く似合ってる…ふふっ」




 速攻でバラしやがった!?

 フィリアは周囲を見渡して俺がいないことを確認してから、「まさか!」という顔で俺のをまじまじと見てきた。



「――――ああっ!? ええっ!?」

「先に言っておくが俺の趣味じゃなく強制されただけだぞ!」

「…アル、凄く似合ってるから一瞬分からなかった」



「嫌味か? 嫌味だろ! なんでローラは酔ってるんだよ!」

「…ん、私のクラスでジュースを売ってる。あと嫌味じゃなく褒めてる」

「本当に似合ってますよ、アル!」



 ローラは口元が笑っているが真剣な目で言い、フィリアは何故か感激したような声をあげている。

 ……俺の周囲の人はなんで俺が女装を褒められて喜ぶと思ってるのだろうか。

 というか文化祭で魔法薬きけんぶつを売ってるのか!?




「……とりあえずローラもフィリアも、この話は極秘で頼む…」

「は、はい。分かりました!」

「……ん、分かった」



 とりあえず料理は運んだ…。

 俺は疲れてがっくりと肩を落としつつ仕事に戻った。



「…あんなに似合うなんて予想外」

「可愛かった…!」



 なにやら背後からローラとフィリアの声が聞こえたが、俺は何も聞かなかったことにして、この苦行が終わることだけを望んでいた。





…………




 あの後もリック兄さんが彼女連れ(俺にはそう見えた)で来店して女装が兄さんに一瞬で見破られたり、学園長がニヤニヤしながら俺を見てたりとか色々あったが、なんとか交代の時間になってエリシアと料理係をやり、ようやくお昼過ぎに自由時間になった。




「…疲れた…。精神的に疲れた…。そしてストレスがやばい…」

「アル、お疲れ様です…」



 俺はエリシアと中庭のベンチに座っていた(当然ながら制服に着替えている)。

 

「え、えっと。でもその……アル?」

「…ん、どうかしたか…?」



「…は、恥ずかしいです……」


 エリシアが真っ赤になりつつそう言うのも無理はなく、中庭というそこそこ人目につく場所で、俺はエリシアを俺の膝に座らせつつ抱きしめていた。

 若干異様な光景かもしれないし、かなり目立っていたのだが、もう俺は疲れきっていたので何も考えていなかった。



「……もう眠いんだよ、エリラッシュ…。抱き枕になってくれ……」

「あぅ…。そ、そうです! それなら膝枕にしませんか…?」



……………




 というわけで膝枕。

 異様な光景ではなくなったが、それでも目立つことに変わりは無く。


 まあ、俺としては目立っても関係ない・・・。

 とりあえず柔らかくていい匂いのするエリシアの太ももを堪能してやる…。



「え、えっと、アル…? どうして顔が下なんです…?」

「…俺は枕には顔をうずめる主義なんだ……」



「……いつも横向きに寝てます!」

「あ~、それはエリシアを抱き枕にしてるからだろ…。エリシアを下敷きにして寝たら潰れそうだし、上に乗せるのもいいけど……そうだ、今度やってみよう…」




 話が聞こえてしまったのか、周囲から「…だ、抱き枕!?」とか驚きの声が聞こえてくるが(俺は耳がいいのだ)、エリシアにも恐らく聞こえている。

 


「ア、アル…」


 エリシアが困ったような声をあげるが、疲れていた俺の耳には届かなかった。

 ちょっと寝苦しかったので顔の位置を少し変える。



「んぅ…っ!?」

「…どうかしたか?」



「アル…、顔の位置がおかしいです…!」

「ぐぅ…」



「あと息がくすぐったいです…」

「zzz……」



「アル……」

「……んぁー、エリシアの匂いがする」



「えっ!? …くさいです?」

「うんにゃ、いい匂い…。お休み……」



「……はい、おやすみなさい…」




 諦めたっぽいエリシアの声を聞きつつ、俺は眠りに落ちていった…。





…………




 目を覚ますと真っ暗だった。

 単純にエリシアのスカートしか見えなかっただけだけども。


 というわけで起き上がると、空はまだまだ明るく時計を見ると午後2時。

 俺とエリシアの周りに強力な結界が張ってあり、エリシアも幸せそうな顔で熟睡していた。



「エリシアー、そろそろ一緒に回るか?」

[んぅ……アル~、もうムリです~…」



 ……妙な寝言が返ってきた。

 なにが無理なのやら。幸せそうな顔で言ってるということは「もう食べられないよ」的なニュアンスだな。



「エリシアー、文化祭デートだぞ~」

「わぁ~……アルとデートです~……」



 まだ寝てるっぽいのだが、何故か寝言に反映された。

 とりあえずこのまま寝せとくとエリシアが後で「せっかくの文化祭が…」と落ち込みそうなので起こしたほうがいいだろう。


 とりあえずエリシアの頬を突っついたり引っ張ったりしてみる。

 むぅ、柔らかい。



「エリシア~」

「……んぅ~…アル、らめぇ~……」



「……起きない」



 頬を弄るだけでは起きないようだ。昨日寝たの遅かったしなぁ…。

 一体どんな夢を見ているのやら謎過ぎるのでさっさと起こそう。

 エリシアの弱点の一つである耳元に息を吹きかけてみた。



「――――ふひゃぅ!?」

「あ、起きた」



 飛び起きたエリシアは耳を手で押さえて周囲を見渡し、俺を見つけるとちょっと拗ねた顔になった。


「……もっと優しく起こしてほしかったです…」

「まだ優しいぞ。これで起きなかったらエリシアの―――」



「い、言わなくていいです…!」

「そうか? ……それじゃ、そろそろ一緒に回るか」



 俺がベンチから立ち上がってエリシアに手を差し出すと、エリシアは嬉しそうにその手を掴みつつ答えた。



「はい!」




…………





「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」



 ……メイド喫茶だった。

 俺は隣で何故か楽しそうなエリシアを見つつ嘆息する。

 いや、俺だってメイド喫茶は男女のカップルで来る場所じゃないことくらい知っている。

 ただ、メイド喫茶について何か知っているかと聞かれれば「…秋葉原とかにある、店員さんがメイドのコスプレをした店だろ?」と答える。その程度だ。

 


 ただこの、なんとも居心地が悪い感じは一体なんなのだろうか。

 周囲から一部「うわぁ、なにアイツ」的な視線も感じなくは無いが、文化祭だけあってけっこう女子も来ているので気にしなくていいと思うのだが…。



「ご主人様、お席へご案内いたしますね」

「はい…」



 とりあえず来てみて分かった。俺には向いてない。

 特になにが向いてないのかよく分からないが、何故か居心地が悪い。

 隣に座ってメニューを眺めるエリシアは楽しそうだったが。



「アル、アルのオムライスにケチャップをかけてみたいです…!」

「エリシア、それだと俺が嫌味なヤツだと周囲に思われるから今度にしてくれ…」



「…ごめんなさい」

「…はぁ」


 途端にものすごく寂しそうな顔をされてしまったので、仕方なくエリシアの頭を撫でる。

 エリシアは今度はすごく幸せそうになって俺のほうに少しだけ肩を寄せようとして――やめた。



「…エリシア?」

「だ、だいじょうぶです! アルが嫌味な人だと思われないように頑張ります…!」




 これは迂闊だった…。

 



「……よし、どうせエリシアと一緒にいたら嫉妬されるし、こうなったら徹底的にイチャイチャしてやろう!」

「えっと……こ、恋人みたいにデートできるだけで私は嬉しいです…」



「…エリシア、その左手の指輪は何だ?」

「こ、婚……エンゲージリングです…!」



婚約指輪エンゲージリングな。なのにただの恋人でいいのかエリシア…!?」

「よ、よくないです!」



「父さんと母さんを見ろ! お客さんが来ても二人でイチャイチャしてるだろ…!?」

「し、してます…!」



「あれがこの世界の標準なんだ。エリシアもあれくらいできないと結婚できないかも…」

「そ、そんな…!? やります! やらせてください…!」



 エリシアを論破することに成功した。

 こんなに乗せられやすくて大丈夫なのか最近不安になるが、恥ずかしそうに肩を寄せてくるエリシアを見ると凄く幸せだった。



 


「……ご主人様、ご注文はお決まりですか?」

「あ、ローラ」

「――――あぅっ!?」



 完全に無表情のメイドローラが注文を取りに来ていた。

 そういえばこの衣装は嫌いなんだっけか…。なんだかいつもよりまとう雰囲気が不機嫌だ。

 エリシアは驚いて俺から肩を離そうとしたが、さっきの脅し(?)を思い出して思いとどまったようだ。縮こまりつつ、それでも肩は俺にくっついたままだ。



「ローラ、似合ってるぞ」

「……ご注文は?」



 先ほど俺も言われたのでローラにも言ってあげた(本当に似合ってると思っているが)のだが、ローラは相変わらずの無表情で注文を催促してきた。



「んー、ローラが一番いいと思う料理ってどれだ?」

「…これ」



 そう言ってローラが指差したのは―――。

 <魔法ジュース・Sブレンド> 一杯で素敵な気分になれます。飲みすぎ注意!



「あからさまに危険だぞ!?」

「大丈夫、アルなら逝ける。イイところに」



「何の魔法薬だよ!? お酒みたいなものじゃないのか!?」

「うん、お酒みたいなもの。だから今のは冗談」



「冗談なら冗談っぽく言ってくれ…。ならオススメは?」

「……今の時間なら、オムライスがフィリアの手作り」



「へー、じゃあオムライス1つ」

「あ、私もオムライスがいいです!」

「…かしこまりました、少々お待ちください」




 ローラは恭しく一礼すると去っていった。



「う~ん、魔法ジュース頼んでみようかな…」

「…えっと、アル? ここにできるって書いてありますし、お持ち帰りのほうが…」



「お、いいな。夜にエリシアと二人で飲むか」

「わ、私もです…?」



「勿論。そのほうが面白そうだし」

「……いやな予感がします…」








次回予告!


シルフ 「寝ちゃったご主人様に代わってピンチヒッター、私です♪」

エリシア「アルの為にも、やりとげてみせます…!」


シルフ 「拝啓、ついにミスコンが美味しい季節になりました♪」

エリシア「……手紙じゃないです! あとそんな季節ないです!」


シルフ 「血沸き肉踊るミスコンの地にて、ご主人様は何を見るのか…」

エリシア「…次回はいよいよミスコンが始まります!

     カップルコンテストに出場するために会場に向かう私とアル

     の前に現れた学園長…! 波乱の予感です!」


シルフ 「今、ご主人様が果て無き銀河ミスコンを駆ける…!」

エリシア「更新は明日の正午の予定ですが、遅れる可能性があります!」


シルフ 「……エリー、もうちょっと喋らせてください」

エリシア「ダメです! もうちょっと真面目にやるならいいですけど」


シルフ 「むぅー、ご主人様が何しても何も言わないくせに~…」

エリシア「アルが起きてるときにやってください…」


シルフ 「あ、そういえば緊急事態でしたね」

エリシア「…アル、はやく起きてください…」

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