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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第七章:文化祭編
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第六話:一番いい料理を頼むッ!

*登場人物紹介にジョンとエリスを追加しました。

 同じクラスなのに完全に忘れられるなんて…。

 遂にここまで薄くなってしまったか、ジョン!

 

 ご指摘ありがとうございました!

――――文化祭、当日。




 このクラスの混沌ぶりを再現したかのようなカオスな装飾が施された1-Aの教室で俺たちは円陣を組んでいた。



「俺たちの怒涛の接客と料理で! 客どもの度肝を抜いてやろうぜぇぇぇッ!」

「「「「おっしゃぁぁぁぁっ!」」」」




 カイルの意味不明な号令で一斉に大声を張り上げる。

客の度肝を抜いてどうするつもりなのか分からないが、とりあえず異様にテンション高いことは分かった。



 ――――が、その中にテンションが高くない人間もいた。俺だ。


 無論理由は衣装。


 唯一救いがあるとすれば、俺の外見も転生してファンタジーになってることか。

 前世で女装させられたらもっと悲惨だったかもしれん。

 大体の雰囲気とかが同じなだけで前世とは細かいところが違うのだ。肌の色とか鼻の高さとか色々。



 というか、フリルとかレースとかついた服を着てテンションが高い男がいたら変態かオカマか酔っ払いかヤケクソだと思う。





 ……いや、よく考えたらカイルも女装させられてるのにテンション高いな。

 あいつはヤケクソというより開き直ってる感じだし……これはまさかカイルがオカマに転職ジョブチェンジするフラグ……!?




「アル、大丈夫です…?」

「何が? 全てが大丈夫じゃない気はするけども」


「えっと……すごくブルーな顔になってました」

「…心配してくれてありがとな。魔力で声も変えられるし、なんとかなるといいな……」



 魔力で声の高さは調整可能だ。下手すると合成音声みたいになるけど。

 ただ、完全に女の子声にすると色々終わる気がするから、声変わり前くらいの高さに戻す感じで。



「―――あー、テステス。いらっしゃいませー」

「あ、昔のアルです!」



 試しに変えてみると、エリシアからは高評価っぽい。少なくとも合成音声っぽくはない…んだよな?




 と、そこで10時になり、学園長による全校放送が流れた。


『―――これより、ラルハイト学園による文化祭を開催する! 今日まで努力してきた成果を存分に発揮しろ!』



 この合図で校門と一部の結界が解除され、生徒の親戚もしくはこの国のお偉いさんの親戚もしくは国内・同盟国の魔法学校の生徒がお客としてやってくる。

 一般人はセキュリティとか国家機密の関係で入れないのだ。


 ……父さんと母さんがきたら俺はどうすればいいのだろうか。

 バレないことを全力で祈っておく。



 とりあえず、俺たちのクラスの喫茶店は午前と午後で交代してやることになっており、俺とエリシアとリリーは午前のシフトになっている。

 …ローラとフィリアは午後のシフトらしく、一緒には回れない上に俺の姿が見られてしまう可能性がある。最悪だ。



「…まあいい。とりあえず今できることをするだけだ…」

「頑張りましょうね、アル…!」





 で、記念すべきお客様第一号は―――。



「たのもー! 料理長を呼べー♪」

「コスプレか。楽しみだな、母さん」

「そうね、私もなんだかコスプレしたくなってきたわ」



 ……シルフ、父さん、母さんがいきなりご来店だった。




…………




「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」



 とりあえず天使の格好のエリシアがにっこりスマイルでお出迎え。

 ちなみにメニューは店の外に置いてあるので。

 意外と人見知り(?)するエリシアは頑張って挨拶と笑顔の練習をしたのだが、流石にこの3人は緊張する相手ではない。

 3人の反応も―――。



「くっ、この私が気圧されるとは、なかなかのスマイルですね…!」

「お、さすがに可愛いな」

「エリー、よく似合ってるわよ~」



 上々だった。シルフは相変わらずだったが。

 注文が取れないのでエリシアはちょっと苦笑したが、もう一度挑戦した。



「えっと、後でもう一度お伺いいたしましょうか?」


「おっとすまない。私は決まってるが、母さんとシルフはどうだ?」

「私は大丈夫よ~」

「私も決まりました~♪」



「うん、それじゃあカレーで」

「私はパンで」

「私はこの忍者蕎麦がいいです♪」


「辛ぇライスと天使パンと忍者蕎麦がお一つずつですね。畏まりました。少々お待ちください」



 エリシアはサラサラと伝票にメモして、そのまま伝票を窓から外に落とした。

 …一応補足しておくと、効率化のために伝票を調理室に魔法で飛ばしてるのである。

 さすがに紙を飛ばすくらいならラルハイト校の生徒なら全員できる。



 ただ、さすがに料理を飛ばすのは危ないし失礼なので調理室まで取りにいく。

 ちょうどパンとカレーが注文されているのでエリシアと一緒に取りに行くことに。



「エリシア、上手だったぞ」

「そ、そうですか…!?」



「ああ、あの調子なら今日はバッチリだ」

「はい、頑張ります!」



 という感じで話しながら調理室の前に到着。

 衛生面の問題から料理を作る人と運ぶ人は分けられており、作る人はひたすら作り、それを調理室の前で受け渡して運ぶ人がひたすら運ぶ。


 というわけで調理室の中にいる料理係からカレーとパンと蕎麦を受け取り、カレーは俺、パンはエリシア、蕎麦は忍者コスチュームのクラスメイトに渡して教室に戻った。



「お待たせいたしました!」


 というわけでエリシアを先頭にして、俺はその後ろからコソコソっと行って素早く父さんの前にカレーを置いて、不審にならないギリギリの速さで急速離脱した。


 で、教室の端でようやく一息。



「はぁ…。エリシア、バレてないよな…?」

「た、たぶん大丈夫だと思います…!」



 というわけで、聞き耳たてて父さんご一行の会話を盗み聞きしてみた。



「んー、母さん。アルが見当たらないんだが」

「ほんとね~。ひょっとして調理係とかなのかしら?」

「ずずず~~(シルフが蕎麦をすする音)」



「…バレてないみたいだな」

「やりましたね…!」



 というわけでエリシアと小さくガッツポーズを交わしていると、急にシルフがこっちをガン見し始めた。蕎麦すすりながら。

 で、なんとこっちに歩いてきて俺の前に立った。



「…どうかなさいましたか?」

「ど、どうしたんです? べ、別に怪しいことなんて何一つないですよ…!?」



 若干顔が引きつってた気もするが、俺はなんとかそれだけ聞いてみた。

 残念ながらエリシアがかなり不審だけども。

 シルフは無言で俺の周りを一周してから呟いた。



「何してるんですかご主人様…」




……………




 というわけで、仕方ないのでシルフにも事情を説明した。



「なるほど…。ご主人様も仕事は選べないんですね…」

「…シルフ、これは内密に頼む」



「任せてください。私の記憶の中の秘密フォルダにだけしまっておきます♪」

「すぐに削除しろ」



「えー。……消せねぇ思い出ってのも、あるんですぜ…?」

「いいから忘れろ。それか剣に戻れ」



「戻れないから楽しんで―――もとい、困ってるんじゃないですか」

「……エンジョイしまくってるよな。この前なんて酔って――――」



「はうぁっ!? 忘れます! すぐ忘れますからご主人様も忘れてください…!」

「よし、交渉成立だ。とりあえずシルフも俺も何も見ていないということで」



「わかりました。それじゃあ頑張ってくださいね、ご主人様♪」

「ああ、シルフも楽しんでけよ」



 シルフは「美味しかったですよ」と言いつつ珍しく無邪気に微笑み、ちょうど食べ終わった父さんと母さんと一緒に店を出て行った。





……………





 とにもかくにも、第一の関門は去った…。

 俺は適当にお客を捌きつつちょっとホッとしていた。

 父さんと母さんにはバレてないみたいだったし、シルフも意外と義理堅い(?)し。


 あと非常に不本意だが、女装がそこまでヘンではないので知らないヤツにはバレないっぽい。まぁ、周囲のインパクトが強過ぎるのが最も大きな要因だと思うけどな。

 ゾンビがカレーを運んでたり、メイドがケチャップかけてたり、忍者が何故か匍匐前進で料理を運んでたり。一体忍者をなんだと思ってるんだ。

 そして一体この店は何の店なんだ?



 そんなわけで開店からおよそ一時間、心理的にも若干の余裕が生まれたころだった。

 エリシアから魔声で通信が入った。



『アル、フィリアとローラが来ました!』

『……ちょっとトイレに逃げようかな』



『…アル、その格好で男子トイレに入って大丈夫です…?』

『いや…大丈夫だろ?』



 流石に男子トイレに入ったら『あれ、なんでだ…!? あ、女装か』ってなると思うんだよ。…いや、それだと女装がバレるのか。



『あー、確かに女装がバレるのは嫌だな…』

『えっと、そうじゃなくて…。アルは凄く似合―――上手く女装してますから危ないです…!』



『……エリシア、今なんて言った?』

『…の、のーこめんとです!」




 ……聞き間違いでなければ、凄く似合ってる…だと…?

 ―――いや落ち着け、エリシアが俺を客観的に評価できない感じなのは以前からだ!

 きっとエリシアの中の俺には妙な補正がかかってるんだよ。きっとそうだ。そうに違いない。というかそうであってくれ…。




 そんなこんなでトイレに逃げるのは断念。

 他に仕事をサボるいい理由が思いつかず、仕方ないのでローラとフィリアが俺の担当であるカレーを注文しないように祈ることしかできなかった…。






…………




「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりです?」

「ん、フィリアがまだ」

「…えっと、オススメとかありますか?」



 偶然エリシアの手が空いていたので、ローラとフィリアもエリシアが注文を取りに行った。…というか、ローラとフィリアはまだメイド服だった。


 で、オススメを聞かれたエリシアは困った顔に。

 味だけならカレーとパンとプリンが美味しいのだが、カレーだと俺が運ぶことになるし、エリシアとしては自分の料理は人に薦めるほどのものではないらしい。

 ということはプリン一択なのだが、デザートだよなーという。



「え、えっと、プリンが美味しいです…」

「…エリー、実はフィリアはお腹が空いてる。プリンだけだとフィリアの胸には栄養が足りないわ」

「ロ、ローラ!?」



 ……酔ってるのか!? まさか酔ってるのか!?

 ローラは物凄く深刻そうな顔で言うが、何かがおかしい。

 フィリアが真っ赤になってオロオロするのだが、エリシアもすっかり騙されて(?)しまった。



「そ、そうですね…! 私には分からないですけど、きっとたくさん栄養を取らないといけないんですよね……!」

「そう、フィリアは通常の3倍の栄養が必要」



「―――3倍です!? …そうですよね、私の3倍以上ありそうです……」

「エリー、とりあえずアルの料理なら栄養もバッチリだと思う」



「……どうしてこんなに違うんです…?」

「…エリー? 大丈夫?」



「………はっ!? そ、そうですね! ならカレーがオススメです! …あっ!?」

「それじゃあフィリア、二人でカレーにする?」

「そ、そうですね!」




 …そんな妙な心理戦をしなくとも、エリシアなら聞かれたら答えると思うんだが。

 満足げなローラと、ようやく胸の話が終わってかなりホッとした様子のフィリアのテーブルから、しょんぼりした様子のエリシアが伝票を飛ばしてから俺のところに来た。



「…アル、ごめんなさい……」

「気にするな、どうせ聞かれたら素直に教えちゃうだろ? 結果は同じだ」



「……そうですね」

「カレー以外に俺の料理があるか、俺がカレー担当じゃなければよかったんだが……」




 今更言っても仕方が無い。

 俺は諦めてカレーを受け取りに調理室に向かった。








次回予告!


アル  「zzz…」

エリシア「…アル? 寝ちゃってます…」


エリシア「えっと、次回『抱き枕か膝枕か、それが問題だ』です。

     タイトルからして嫌な予感がします…」


アル  「んぁ~~、ジエン・モー○ン亜種が倒せない…zzz」

エリシア「ふふっ、がんばってください、アル……。

     次回の更新は今日の23時ごろを予定しています。

     もしよろしければ、見てくださいです」

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