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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第七章:文化祭編
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第三話:ウスターソース、暁に散るッ!

「アル、ご飯は学食にしますか? それとも私が作りましょうか?」



 放課後まで文化祭の準備をして、現在は午後5時半くらい。

 俺はエリシアと一緒に俺の部屋で紅茶を飲みつつのんびりしていた。

 なんというか、家にいるのと大差ないな。



「ん、余裕があるならエリシアが作ってくれたほうがいいな」

「はい、それじゃあ作ってきます! 何か食べたいものはありますか?」



「ん~、肉類?」

「えっと、ハンバーグにでもしましょうか?」



「お、いいね」

「じゃあ今日は和風ハンバーグにしますね!」


「ああ、こないだウスターソースだったもんな」

「はい。マンネリ阻止です!」



 エリシアは「お肉にタマネギもあるし、卵もありますね…」と呟きながら、楽しそうに俺の部屋の冷蔵庫―――備え付けではなく持ち込んだ、勿論電気ではなく魔法石で動くもの―――から楽しそうに材料を取り出して腕に抱え、スキップしそうなくらい軽い足取りで部屋を出て行った。



 この学校は国内トップの魔法学校だけあって設備も最新鋭かつ豪華なのだが、貴族の生徒が9割近いというか10割近いので、台所は寮に1箇所しかない。

 だってみんな料理しないというかできないし。


 というか学食が美味しいので、むしろ台所が存在しているだけでも凄いのかもしれない。



 ただ、エリシアの料理はそれ以上に美味しいので作ってくれるなら俺も嬉しい。

 エリシアも料理が大好きなのか、最近はやけに作りたがる。


 夏休み中に一度、エリシアが大変なのではと遠慮してみたのだが、そうしたら凄く悲しそうな顔をされて困った。

 ……そんなに料理が好きだとは知らなかったぞ。美味いから構わないというか嬉しいけども。もし不味い上に食べないと不機嫌になるとかだったら目も当てられないしな。



 なにはともあれ、作りたくて作ってくれてるみたいなので俺も遠慮なく毎日作ってもらっている。

 …学校でも作ってくれるとは思わなかったけどな。




 俺はとりあえず剣の手入れでもして待つことにした。




…………



「アル、お待たせしました!」

「おお、美味そうな匂いが…」



 制服にエプロンをしたエリシアが戻ってきた。

 俺は持っていた<天照>をそっと机に置いて、素早くテーブルにつく。

 

「「いただきます!」」



 というわけで、二人で談笑しながら晩御飯を食べる。



「エリシア、そういえばフィリアとローラのクラスは何をやるんだろうな?」

「えっと、確か同じように飲食店だって聞いた気がします」



「へー、明日見に行ってみるか? 暇があったら」

「そうですね。明日はメニューの案を一人一個出すって言ってましたから、私とアルならすぐ終わりそうです」



「そうだな。……でも、エリシアは料理好きだろ。無理に付き合わなくてもいいぞ?」



 俺としては気を遣ったつもりだったのだが、エリシアは悲しそうなような拗ねたような微妙な表情になって小声で呟いた。



「アルだから食べてもらいたいんです…」

「…え? 悪い、聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」



「え、えっと、独り言です!」

「……俺だから食べて欲しい?」



「き、聞こえてます…!? どうして聞き返したんです!?」

「いや、聞き間違いだったら恥ずかしいから。…そっか、料理が好きなわけじゃなかったのか」



「え、えっと…好きですよ? でもその、アルに食べてもらえるのと、知らないお客さんに食べてもらうのだと……」

「やる気が出ない?」



「…はい。我侭です…?」

「いや、嬉しいよ。別に料理人じゃないんだしいいだろ?」



 よくよく考えると、なんでこんなに好かれてるんだろうか…。とか思いつつ絹のように滑らかなエリシアの髪を撫でると、エリシアは目を細めて気持ちよさそうに―――なったのだが、チラチラとしきりに俺の顔色を窺ってくる。



「…どうした?」

「え、えっと……まだ髪の毛洗ってないから汚いかもしれないです…」



「大丈夫、エリシアに汚いところなんてないぞ。エリシアの髪が汚かったら兄さんなんて常に体中汗まみれでデンジャラスだ」

「…最近、リックお兄さんはちょっとヘンな匂いがしないです?」



 おっと、話が思わぬ方向に。

 

「汗の臭いじゃなくてか?」


 エリシアはちらりと俺の皿を見て、既に食べ終わっているのを確認してから口を開いた。


「汗と何か……刺激臭です」

「…下痢気味だったんじゃね?」



「リックお兄さんがお腹を壊す食べ物が想像できないです」

「それは確かに」



 その後もリック兄さんが何故臭いのか談義は十分ほど続き、さすがに可哀想だったので話題を変えることにした。


「そういえば、エリシアはリックお兄さんって呼ぶよな」

「あ、そうですね」



「エリシアは誕生日はいつなんだ?」

「えっと……こっちだと1月6日です」



「ああ、ユキはクリスマス生まれだよな」

「はい! 覚えていてくれたんですね…」



 覚えていたもなにも忘れられそうになかったのだが、嬉しそうなエリシアに水をさすのはよくないと思い、黙っておくことにした。



「アルは誕生日はいつなんです…?」

「ん、一応12月8日ということになってる」



「えっと…? あっ、ごめんなさい…」

「いや、気にしなくていいぞ?」



 そう、俺の両親が不明―――母親は既にいない以上、本当の誕生日は分からないのだ。

 で、預かったときまだ乳飲み子だったことから、0歳でリリーと同い年だろうということで双子ということで育てられ、同じ誕生日ということになっているのだ。

 つまり、12月8日はリリーの誕生日であり、俺の仮の誕生日でもある。


 まぁ、あんな愉快な父さんと母さんがいるのだから気にする必要は全くないのだが、エリシアはまだ申し訳なさそうだった。



「でも……」

「よし、ならとりあえず俺がエリシアより年上なのは間違いないんだから、試しに兄として呼んでみてくれ。面白そうだし」



「わ、わかりました…! ……アル…お兄ちゃん?」

「…アリだな」



 意識してるのか無意識なのか、恥ずかしそうに上目遣いで言うから破壊力抜群だった。

 リリーとはまた違った良さがあるというか。

 


「……よし、エリシア。別バージョンだ」

「ええっ!? えっと……アルお兄様…?」



「おおー、新感覚」

「…アルお兄様が変態です……」



「変態じゃないぞ。新たなエリシアの良さを発見できないか試してるだけだ」

「それは嬉しいですけど……私もアルの新しい良さを見つけてみたいです」



「えー…。……お嬢、調子はどうですかい?」

「ええ良好よ、アルおじ様」



「……おじ様かよ」

「えっと、名作映画です」



 せっかくなので、俺はとっつあんっぽい声にしてセリフを言ってみる。


「ヤツは大変なものを盗んでいきました……あなたの心です!」

「それだと盗んだのがアルじゃなくて違う人になっちゃいます……」



「…ああ、俺がとっつあんだから? 別によくね?」

「よくないです。大事です…!」



「……エリシアって『君を攫いにきた』とか言われると嬉しいタイプか?」

「アルになら嬉しいです」



「んじゃ、もし俺がいないと仮定して、特に好きでも嫌いでもない人に言われると?」

「好きな人に言ってもらえるから嬉しいんだと思います…」



「んー、それはそうなんだが…。まぁいっか」

「はい、アルお兄ちゃん…?」



「……やばい、何かヘンなものに覚醒しそうだ」

「ええっ!?」





…………



 で、食後二人で大規模魔法について語っていたらあっという間に8時くらいになった。

 そろそろ風呂に入って寝る準備をしておこうかなーという時間帯である。

 俺は早めに寝ないと起きられないからな。



「そろそろ風呂いこうかなぁ…」

「はい、沸かしておきました」



「お、ありがと。んじゃ着替え着替え」


 タンスを開けて適当に着替えの用意をして、護身用に懐に隠し持った<アイテール>を外して、バスタオルを持って、あとエリシアも持ってと。




「ア、アル…!?」

「大丈夫、ちょっと全身ピカピカに磨き上げるだけだ」



 エリシアは軽くて小さいのでちょっと魔力で補助すれば簡単に小脇に抱えられる。

 


「ぜんぜん大丈夫じゃないです…!?」

「平気だって、優しく洗ってやるから」



「いやな予感しかしないです!」

「俺に洗われるのは嫌なのか~?」



「……ぐすっ、アルがすっかり変態です…」

「男なんてみんな人の皮を被った狼なんだよ。本気で嫌なら改めてもいいけど」



「そういうわけじゃないですけど……」

「よし、俺はエリシアをピカピカにしたい。エリシアは嫌じゃない。完璧だな」



「でも、恥ずかしいです…」

「悪い、実はそんな恥ずかしがってるエリシアを見るのが俺の楽しみだ」



「そんな真実は知りたくなかったです…!」

「なんだかんだ抵抗しないエリシアにも問題があると思うぞ。よし、レッツゴー!」



 というわけでエリシアを抱えて、なんと各部屋に用意されている風呂に向かった。

 …まぁ、貴族に風呂は共用とか言ったら大騒ぎになりそうだからな。



…………



「いい湯だなぁ~」

「…あぅ~……どうして足の裏をあんなに熱心に洗うんです…?」



 髪の先から足の裏までピカピカにされて真っ赤になったエリシアを膝の上に乗せ、二人で湯船につかる。

 こうしているとエリシアの髪の毛からいい匂いがするし、あったかいし柔らかいので幸せである。湯たんぽ兼抱き枕のような。



「いや、可愛かったから」

「……アルの好みが分からないです…」



「よく言うだろ、『可愛い子には試練を与えろ』って」

「『旅をさせろ』です…」



「いや、その言葉の意味は『可愛い子は甘やかしがちだけど世間の辛さをしっかり教えてあげないと』という意味だったはず。エリシアに世間の狼っぷりを教えてやらないと」


「…世間知らずなのは認めますけど…」



 そう、エリシアは前世では病弱で、こっちでは秘境にすんでいる竜族の元皇女で、現在は貴族の養女ということで外に出ることはほとんどないのだ。


 まぁ、エリシアは常識人だと思うのだが…。ローラみたいにツッコミで氷像にしたりしないし。いや、一度共和国の貴公子を蹴飛ばして殺しそうになったっけ。

 そう、確か手の甲にキスされそうになって…。



「アル、言わないでください!」

「あ、声に出てた?」


 

 そういえば常識人だと思う~あたりから声に出してたかもしれん。

 


「…だって、あの時はまだ一度もキスされたことなかったんです…」

「……ほほぅ、それじゃあファーストキスは?」



「えっと……アルに決闘を挑んだあたりです…?」

「あー、あったな。なんだっけ? 『自分も救えない人に――――』」



「あぅ!? ごめんなさい、許してください…!」

「いやいや、前世でやり残したことについて後悔してた俺にとっていい励ましになったぞ」



 そう、きっと灯も理香も父さんも母さんも元気に暮らしてるだろう。

 …いや、暮らしてただろうになるのか?

 あまりの恥ずかしさに逃げ出そうとするエリシアをがっちりホールドしつつ宥める。



「…今思うと、ドラゴンってすごく凶暴です…」

「ん、ユキの記憶が戻ったからか?」



「はい。……あの時はアルが立ち直れないで苦しむくらいなら、アルを殺して私も死のうって考えてた気がします…」

「ヤンデレ!? ちょっと違うか。…というか危うく殺されるところだったのか」



「ごめんなさい……」

「…フェミルもドラゴンは手に負えないって言ってたっけなぁ~」



「あぅ……」




 あの時は痛かったなぁとか思ったらちょっとからかいたくなったのだが、エリシアにこの世の終わりみたいな声を出されてしまった。しかも泣きそう。

 まずい、なんとかせねば…!?



「そ、そうだ! カップルコンテストだっけ? 一緒に出るか!」

「えっ、いいんですか…?」



「いいぞ。入賞すると来年同じクラスになれるんだっけ? ちょっと気が早い気もするが、一緒にいたいもんな」

「…はい!」



「よし、そうと決まれば特訓だ!」

「…え?」



「カップルコンテストなんだから、カップル力が勝敗を分けるだろ?」

「…そ、そうなんです!?」



 俺もそもそもカップルコンテストはどうやって勝敗を競うか知らないのだが、エリシアがあっさり騙されてるので問題ない。



「そう、だからこの後たっぷりエリシアを可愛がろうと思う」

「……な、何か違う気がします…!?」



「これも勝って同じクラスになるためだ、頑張れエリシア!」

「そ、そうですね…! 頑張ります!」




 というわけで、夜更かししてエリシアを可愛がった。






♪~チャラッチャラララ~


次回予告!


アル「今ある世界は終わり、新たなる世界が始まる…。学園長から宣告されるまさかの覗き穴。4話目の黙示録。俺は学園の天井裏に潜り込み、ローラとフィリアの店がついに明かされる…。偽りと誤りの狭間で、俺達は進化することはできるのだろうか――」



エリシア「次回、『俺達は忍ぶことを強いられているんだ』です!」

アル  「罪の王冠が、俺を試す…」

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