第二話:「似合ってる」は褒め言葉とは限らないッ!
「……空が青い」
俺は学園にある物見の塔の屋上に来ていた。
高さは……50メートルとかだろうか?
正直よく分からないが、けっこう高い。
石造りに見えるが、魔法でかなり補強されている。
この屋上は風が気持ちいい上に景色もいいので俺のお気に入りの場所である。
この前、エリシアと一緒にここで昼飯食べたっけなぁ。
今、エリシアは一人になりたい俺の気持ちを察してリリーと食堂に行っている。
そんなに嫌なコスプレなのかと言われれば答えはYesだ。
口に出すのも気が進まない。
「はぁ~…」
俺が塔の端にもたれかかって、とびきり重い溜息をついたその時、いきなり背後から声がした。
「……どうしたの?」
「――――うおっ!?」
驚いて落ちそうになった俺の腕を華奢な手が掴み、難なく引き戻される。
俺もどちらかといえば痩せてるほうだが…。力、強いな。
「…というか、ここで何してるんだ?」
「…ん、アルを見つけたから。食べる?」
声の主―――ローラはフライドチキンを差し出してきた。
チョイスがかなり謎だが、ありがたく受け取る。
「ありがとな。お、美味い」
「うん。…お茶、飲む?」
「ん、ありがたく頂戴する」
で、渡された水筒は白色で小さな可愛らしい水筒だった。
少し飲んで返却すると、どこからともなく二本目のフライドチキンを取り出して食べていたローラも何食わぬ顔で一口飲む。
何食わぬ顔で間接キス…だと…!?
とか若干思ったりもしたが、ローラも気にしてないし別にいいか。
二人で黙々とフライドチキンを食べ、すぐに食べ終わった。
とりあえず手に浄化魔法をかけて油を落としているとローラが話しかけてきた。
「…それで、何があったの?」
「へ?」
「アルもエリーも妙に暗い。フィリアも心配してた」
「あ~…」
「……文化祭がコスプレ喫茶なんだけどな」
「うん?」
「俺のコスプレが最悪なんだよ…」
「…着てみれば意外となんとかなる」
「……いや、確かに俺もそう思ってた。でもアレは無い!」
「…何?」
「……笑わないか?」
「うん」
なるべく口に出したくないので、耳打ちでローラに伝えた。
で、ローラは相変わらずの無表情で一言。
「…意外と似合いそう」
「―――似合っちゃ困るんだよ! 嫌味か、嫌味なのか!?」
「大丈夫、アルならいける」
「くっそ、他人事だからって……って、無表情かと思ったら微妙に笑ってやがる!?」
無表情に見えたローラだが、若干口元が緩んでいた!
「裏切り者…!」
「…ごめん、想定外」
「…むぐぐ、ご馳走様!」
「お粗末様」
悔しかったので俺はそのまま塔からダイブ。
平然と手を振るローラに見送られ、風魔法で軟着陸。
そのままなんとなく中庭を全力疾走した。
…………
で、午後の文化祭準備の時間になった。
文化祭はなんと1週間後で、それまでは全ての授業を返上して準備にとりかかることになってる。
期間は短いが、魔法を使えば大掛かりな仕掛けなんかも簡単につくれる。
正直気が重いのだが、全力で隠蔽魔法を使えば通常レベルの学生からは発見されないくらいのことはできるはずだ。
そう、妙な格好をさせられていても見られなければどうということはない…!
という感じで無理矢理自分を納得させて教室に戻った。
のだが、教室に戻ったら妙に楽しそうな女子数名に捕まった。
「アル君、早速衣装をつくっちゃいましょう♪」
「うふふ~、楽しみですね」
「わくわく」
「……俺は最後で一向に構わないというか、自分で作れるんだが」
俺は一応自分で作ることを提案してみたが、両腕を左右からガッチリ掴まれて逃げられない。逃げようとすると掴んでるほうの腕がポッキリいきそうなのだ。
「だめだよ~。せっかく楽しそうなんだから!」
「…逃げていいか? いいよな?」
クラス行事だし逃げるのはまずいと思っていたのだが、『楽しそう』とか言われて大人しく従うほど俺は利口じゃない。
適当に気絶させて逃げようかとか考えたが、さすがにそれはまずいよな。
隙があり次第逃げようと思ったのだが――――。
…………
空き教室にカーテンを張って即席衣裳部屋としてつかっている。
その一角に俺は連行され、既に数時間が経った(俺の感覚では)。
「おぉ~、似合ってますね!」
「完璧な出来栄えだわ…!」
「作戦成功ですね!」
結局、最後のほうまで腕をガッチリ掴まれたままだった……。
魔法で服を作るのはかなり簡単にできるのだ。
服に特殊効果をつけたりするのは専門家じゃないと無理だが。
むしろ鎖で縛ってくれれば粉砕して逃げられたのに…とか非現実的なことを考えつつ俺はガックリと項垂れた。
さすがに女の子の腕をへし折って逃げるのは俺には無理。緊急事態なら別だけどな。
一応ダメもとで一つ聞いてみる。
「…なぁ、着替えていいか?」
「「「だめ!」」」
鏡が無いのでどんな感じか分からないが―――いや、あっても分かりたくないのだが。
自分が着ている服を見るだけで泣きたくなってくる。
これなら魔獣退治に行かされるほうが100倍マシだよ…。
「あっ、お兄ちゃん…!」
「…元気そうだな、リリー」
妙に楽しそうなリリーがやってきた。もうリリーも衣装を作ったらしい。
ハリキリすぎだろこのクラス。
「うん、どう? 似合うでしょ?」
「そうだなー…」
リリーはその場でクルッと一回転。
けっこう露出が多く、尻尾と羽がついている。いわゆる小悪魔だ。
…ヘソが見えてるが、いいのか?
「むぅ、気のない返事。お兄ちゃんも似合ってるよ?」
「……お世辞をどうもありがとう」
「む、ならお世辞が言えない人を連れてきてあげる!」
「おいこら!? いらないぞ!」
俺の制止を聞かず、リリーは小悪魔な微笑を浮かべつつ出て行った。
後先考えずに着替えを取って逃げようとしたがその前に気づかれ、近くの机に置いてあった俺の服は奪われてしまった。
そして諦めの境地に達してしまった俺は、とりあえずイスに座って解放される時を待つことにしたのだった。
…………
「……ア、アル…?」
「…似合ってるぞ、エリシア」
「あ、ありがとうございます」
リリーが連れてきたのは、よりによってエリシアだった。
エリシアの衣装も既に完成していたらしく、神秘的感じに紋様とか入ってる白い服に背中には天使の羽―――シルフの魔法の指輪のヤツな感じもするが―――があり、完璧に天使だった。
目の色をいつもの緑から(基本的に目立たないように緑色にしている)から黄金色に変えていて、なんか雰囲気が違う。
リリーはニヤニヤしながらエリシアに話しかけた。
「エリー、このお兄ちゃんの感想は?」
「か、可愛いです…!」
「――――ぐはっ…」
俺に(精神的に)1万ポイントくらいのダメージが入り、机に突っ伏した。
前から思ってるんだが、エリシアって客観的に俺を評価できないのではなかろうか。
そうだ、そうに違いない。
エリシアにも「可愛い」と言ったせいで俺が大ダメージを受けたのは伝わったらしく、慌てて駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさい…!? アル、大丈夫です…!?」
「…エリシア、俺もう疲れたよ…」
「あ、これ見てお兄ちゃん」
「…なんだ?」
リリーに言われて顔を上げると、どこから持ってきたのか鏡があった。
で、俺は鏡に映った自分の姿に激しく自己嫌悪。
ガツッと音を立てて再び机に突っ伏した。
リリーはそんな俺を見て楽しそうに言った。
「せっかく似合ってるのに。お兄ちゃん――――あ、そうだ。お姉ちゃんって呼ぶ?」
「…リリー、後で覚えてろ…!」
―――そう、俺は女装させられていた…。
……………
「……もう文化祭なんて破滅すればいい」
「で、でも……似合ってましたよ?」
エリシアが心配そうにフォローしてくる。むしろ逆効果なのだが。
ようやく自分の制服に着替えられた俺は、今度は校舎の屋上に来ていた。
「全く嬉しくない。エリシアは俺にカッコイイって言われて嬉しいか?」
「あぅ……ごめんなさい」
「…ようやく伝わったようで何よりだ」
「アルは例え女の子の服を着ててもカッコイイです!」
「…女装させられてる時点で色々終わってるからな? 男としてのプライドとか。自分から女装するならまだしも、俺はそんな趣味ない!」
「…えっと、じゃあアルも楽しく女装すれば……」
「エリシア、俺がオカマになってもいいのか?」
「……ごめんなさい、嫌です」
どうしたものか。やっぱり文化祭から逃走するのが手っ取り早いのだが、他の人もコスプレさせられているのに俺だけクラス行事を抜け出すのはまずい。
学園長に相談に行っても「フハハ、面白そうだな! 私も是非見に行こう」とか言われる気がする。悪夢だ。
「……あ、そうだ。エリシア、天使可愛かったぞ」
「ほんとですか…!? ありがとうございます!」
急に話を変えたのだが、エリシアは心底嬉しそうに笑った。
癒される…。
さっきも一回『似合ってる』って言ったのだが、あの時はそれどころじゃなかったし。
俺はその後しばらくエリシアを可愛がって英気を養った……。
♪~チャラッチャララ~
次回予告!
??「皆さんお待ちかね! 1日目の準備を終えたアルとエリシアは、アルの部屋でのんびりと過ごすのです…! そして作り出されるは和風ハンバーグ! 次回『ウスターソース暁に散る!』に、レディィィィィッゴォォォォッ!」
エリシア「アルー、ご飯できましたよ~?」
??「おー、すぐ行く~!」
エリシア「…アル、ところで何をしてたんです?」
??「次回予告。Gガン○ムのパロディも是非!って要望があったから」
エリシア「えっと、いつでもアイデア募集中です!」
??「ただし、筆者の知識は穴のあいたバケツ並みですので悪しからず。あと、宛先はこちら↓の感想です!」