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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
断章
105/155

三:皇女と少女

小話ですね。

他のキャラ視点もほしいというご要望をいただいたので頑張ってみました。

……かなり難しかったですが。


「はぁ、どうしましょう…」



 フィリアは溜息をつきつつフォーラスグルグ家の庭を歩いていた。

 もう日は落ちて薄暗いが<光>を司るフィリアには明りをつくるなど朝飯前。右手に白い光をつくっている。



現在夏休みのお泊り会ということでフォーラスブルグ邸には私とローラが宿泊しているのだが、この前の誕生日会でアルに告白してみたものの断られてしまって、「それでも貴方のことが好きです」と言ったはいいものの私もエリーの邪魔をするのは気が引ける。




 なんといってもエリーのアル依存は半端ではない(念のため言っておくとアルコール依存ではない)。「アルが幸せなら私も幸せです」と素で言うくらい。

 多分無理だと思うが、そんなエリーからアルを奪ったら正直どうなるのか想像できない。

 


 この国だと上位貴族は普通一夫多妻なのだがアルはそんなつもりはなさそうだし…。

 私は皇女として十二貴族に嫁ぐのが決定事項だし…。(他国にはフィリアのような直系の姫は嫁がない。<光>属性の関係で)


 正直アル以外の十二貴族の男の面々は傲慢な人間ばかりだ(アルのお兄さんは別だがそれは色々と間違っている気がするので却下する)。



 かといってずっと独身でいるのは許されない。

 「遅くても20歳には結婚」というのが暗黙の了解になっている。

 あと5…いや4年あるけれど、結婚相手の選択肢は十二貴族から動かないし。百歩譲って優秀な上位貴族の嫡男でもいいらしいけど、それでも状況は好転しない。



 アルは舞踏会などには99%出席しないが、ほかの十二貴族とは何度も顔を合わせている。私を欲にまみれた目で見る人がほとんどで正直出席したくない。


 そうでなくともおべっかを使われるのは当たり前。仕方の無いことだとは思うけれど本心から会話できない人と結婚して何になるのというのか。いや、私に求められているのは皇族の子どもを生むことだけだと分かってはいる。



 それでも私はアルに出会ってしまった。初めて家族以外で立場なんて考えずに話せる相手ができてどんなに嬉しかったか…。

 今ではエリーもローラもリリーも大切な友人だし、それでもアルと一緒にいたいのは我侭、贅沢だと思うけれど他の人を好きになる、好きになれるとは思えなかった。



 

 そういうわけで私は夜の庭をあてどなく彷徨っているのだった。

 のだが、前方になにやら白い光の玉が―――!?



「…フィリア?」

「ひぅっ!?」



 火の玉!? と驚いて腰が抜けそうになったが、聞こえたのは確かにローラの声だった。

 おそるおそる前方を照らしてみると、眩しそうに目を細めるローラが私と同じように右手に白い光を生み出してベンチに座っていた。


 私はホッと胸をなでおろしつつ、ローラの隣に腰を下ろした。


「びっくりした……。こんばんは、ローラ」

「…こんばんは。どうかしたの?」



「おばけかと思って…」

「…大丈夫、この屋敷の外の結界は霊体系魔物も通さないみたいだから」



「…え、霊体系魔物?」

「……知らない?」



 フィリアがおばけ嫌いなのは家族全員の知るところであり、フィリアが怖がらないように「おばけは実在しないんだよ」というスタンスで教育してきたのだ。


 フィリアは突然の真実に驚き―――何も聞かなかったことにした。



「…えっと、ローラは何かしていたの?」

「…ううん、何も。強いて言うならあそこの亀を見てたけど」



 言われてローラの視線を辿ると、確かに池の岩の上で亀がのんびりしていた。

 亀はじっと動かないが、ときたま頭を動かしたりしている。


 …和むかもしれない。

 フィリアとローラはしばらく無言で亀を観察し、しばらくしてローラが急に口を開いた。



「…フィリア、何かあった?」

「―――えっ?」



 驚いてローラの顔を見ると、普段無表情なローラの顔に心配そうな色が見えた気がした。

 あんまり話したくはなかったけど、誤魔化すのはなにか嫌だった。



「…私ね、好きな人に振られちゃったんだ」


 私はわざと明るい声を出して言った。

 なんて返ってくるのかなぁと思っていると、意外な返事が返ってきた。




「…でも、諦められない?」

「うん…そうだね」



 私が呟くと、ローラはちょっと不満そうな顔になった。



「…意外そう。私だって女の子なのに…」

「……ごめん」



 若干落ち込んでる感じのローラを見ると申し訳なくなった。

 素直に謝ると、ローラは今まで見たことのない寂しげな表情になって言った。



「……本当に好きになったら、忘れられないから。フィリアも後悔しないようにやりたいようにやっていいと思う」


「うん、そうだね……。ありがと、ローラ」



 お礼を言って微笑むとローラも少しだけ笑い、空を見上げて呟いた。



「……こっちでもモテモテだからなぁ…」



 そのローラの顔も声もいつもの冷たさはなく、普通の少女そのものだった。

 何のことを言っているのかさっぱり分からなかったが。




 そのとき、見知った気配が近づいてくるのを感じて二人で屋敷の方を見た。



「お、いたいた。フィリア! ローラ! みんなで卓球やろうぜ!」



 アルが何故かぶん投げたラケットをキャッチした私はローラと顔を見合わせて苦笑いすると、小走りでアルのところに向かった。


 ついでにローラと二人で気になったことを聞いてみる。



「どうして卓球なんですか?」

「なんとなくだな」


「…投げた意味は?」

「ない!」




「ふふっ、わざわざ呼びに来てくださってありがとうございます」

「…ありがと」


「ふふっ、あと俺が勝ってないのはローラとフィリアだけだぞ…!」



「それで呼んだんですか…!?」

「…台無しね」



「どうとでも言うがいい……勝つのは俺だっ!」



 何故か走り出したアルを二人で追いかけて、絶対にアルを撃破しようと誓い合った。


 …結局アルが勝ったのだが、他の(ほぼ)全員が「勝ち逃げは許さない!」と負けず嫌いな性格を遺憾なく発揮したので、みんなで朝まで卓球することになった。






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