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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
断章
103/155

一:兄と妹と

リリーの出番が少ない+人気投票の影響でリリー視点で書いて見ました。

投票期間終了まで穴埋め話ですね。

…視点がリリーなだけなので、リリーのための話にはなってないんですが。

「暇だぁ~……」


 リリーは自分の部屋のソファに倒れこみつつ嘆息した。

 全くすることがない。


 今までならお兄ちゃんを起こしにいくところだが、どうせエリーと一緒に寝てるので起こしに行くと思わぬハプニングに見舞われる可能性がある。

 というかエリーが起こすハズなので、もう起きて剣術の特訓でもしてるだろう。




 それにしても、エリーがお兄ちゃんにデレデレなのはいつものことだが、お兄ちゃんもあんなに溺愛するならもっと早く気づいてあげろよと思う。



 というかもっと甘酸っぱい恋人期間はないのか。面白くない。

 仲直りしたと思ったら唐突に砂糖を吐きそうなくらい甘ったるくなるので驚いた。

 二人で常にイチャイチャして、お兄ちゃんはエリーに構いっぱなしだし、エリーはお兄ちゃんが半径1メートル以内にいれば幸せオーラ全開だし。




「う、うらやましくなんかないぞ~!」




 一人で叫んで自己嫌悪に陥った。なんだ私は、ツンデレのなりそこないか?

 とりあえずソファから起き上がり、なんとなく窓の外を眺めると本当に剣を振り回すお兄ちゃんが見えた。

 しばらく、目で捉えきれない速さで振るわれる銀の閃光をぼんやり眺めていた。




 遠い。お兄ちゃんは遠い。

 私じゃあれにはついていけない。



 でも、エリーなら。

 


 …私じゃお兄ちゃんの隣には立てないのだ。



 あるいはローラにも可能かもしれないし、シルフもああ見えてかなり強い。

 フィリアだって<シリウス>という皇国随一の精霊剣がある。

 でも、私にあるのはせいぜい秀才クラスの魔力と<治癒>魔術くらい。



 どうして揃いも揃って天才クラスが集まるのやら理解できない。

 私だけ仲間はずれみたいなのは地味にきつい。


 


「お兄ちゃんの人徳かなぁ…」



 お兄ちゃんは鈍かったくせに要所は押さえていたし、顔もどちらかというといいし(顔だけなら共和国の貴公子のほうが上だろう)、困っていると問答無用で助けてくれるけど余計なことはしないという便利屋さんだった。




 稀にエリーを孤児だといって拾ったりとかとんでもないことをやらかすけど。

 あ、ちなみにそれはお兄ちゃんが今までしたなかで一番の功績だと我が家では意見が一致している。私にとっても最高の親友だし、お父さんもお母さんも賑やかで嬉しいと何度も言っている気がする。



 というか、エリーの出身とか未だに聞いてない。思い出したくない可能性を考慮して聞いてないのだが、あんなに幸せそうならいいんじゃないかと思ってしまう。

 エリーが持ってる魔力量はどう考えても多い。どこかの国の皇女だったりするのではないだろうか。



 考え出したら気になってしまった。

 あんまり知りたがるのは良くないことだが、義理の姉妹みたいなものだし。

 …というかエリーがお兄ちゃんと結婚すると、私が義妹なのか。

 なんか納得いかない。



 というか、もしエリーに子どもができたら私は叔母さん…!?

 読み方「おばさん」だよ!?

「おばさん」は地味にきつい。歳をとったみたいじゃないか。

 まだ15歳の乙女なのに…。



 いや、貴族なら15歳で結婚も普通なのだが、あのお兄ちゃんとエリーがねぇ…。

 この前なんてお風呂からお兄ちゃんがのぼせたエリーを背負って出てきたからね。

 慌てふためくエリーと対照的に何食わぬ顔で「今風呂あいてるぞ~」とか言ってさ。

 


 「一体なにしてたの!?」と激しく問い詰めたかったのだが、エリーが「おねがいします、何も聞かないでください…」という感じの目で必死に見てくるので諦めた。

 

 よし、お兄ちゃんがいない隙にエリーを問い詰めよう。

 お兄ちゃんを問い詰めると虚偽と真実を織り交ぜた奇想天外な話で丸め込まれるし。

 意外と食えないのだ、お兄ちゃんは。


 私は恐らくエリーがいるだろう台所に向かった。





…………





「エリー、たまねぎお願い」

「はい、わかりました」



 トントントンと軽やかな音を立てて包丁がたまねぎを切る。

 私も手早くルイネの実の皮を剥いていく。


「…あぅ~……」


 エリーは涙を流しながらたまねぎと格闘する。

 私が切ったほうが良かったかな? と思いつつルイネの皮むきに集中する。

 綺麗に皮を剥き終わると、はらりと落ちたリボン状の皮を見て私は満足げに頷いてから隣を見る。


 エリーはそのまま目を擦ってしまったらしく、号泣していた。

 必死で顔を洗っているが、なかなか止まらないらしい。


「リリー…、たすけてください……」

「むぅ、治癒魔法は?」


「…あっ」



 エリーが手を白銀に光らせつつ目にあてると、一瞬で真っ赤になった目が元に戻った。

 そんけーの眼差しでエリーが見つめてくる。



「さすがリリーです…!」

「ふふっ、任せてちょうだい」



 というか治癒魔法くらい気づいてもよさそうな気がするのだが、エリーは最近「なるべく魔法には頼らない」スタンスをとっている気がする。

 まぁ、一途なところとか必死なところとかとあいまって放っておけない感じがするんだけど。


 

 …って、私はなにをしにきたんだっけ?



 確かエリーのの秘密的なものを聞きたかった気がするのだが、いつの間にか朝食の準備を手伝っている。

 というか、幸せそうに鼻歌を歌いながらサラダを作っているエリーを見てるとどうでもよくなってきた気がする…。

 まぁいっか。他の気になることを聞いてみよう。



「ねぇエリー?」

「はい、なんです?」



「お兄ちゃんのアレって激しいの?」



 エリーの包丁が的をはずし、トマトががすっ飛んで積んであった皿をなぎ倒し、けたたましい音と共に皿が大量に割れた。



「だ、大惨事です…!?」

「…うん、ごめん」



 調理中に言うことじゃなかったと反省しつつ慌てて破片を拾おうとしたが、エリーが手を振ると魔力が放たれ、割れた皿が次々くっついて元通りになった。


「…すごっ」

「えっと、治癒魔法の応用です。魔力で損傷してないものなら簡単に直せると思います…」



 エリーはさっきの質問のせいで顔が真っ赤だったが丁寧にやり方を教えてくれた。

 試しに一枚割ってみると、見事に元通りにできた。



「おー、ありがとエリー!」

「……わざとお皿を割るとは思わなかったです」



 若干呆れたような目で見てくるが、非難めいた感じはない。


 うんうん、エリーは優しいからね。ある程度仲のいい相手には。

 エリー曰く「知らない人は怖いです」とのことで、自他共に認める人見知りなのだ。

 前に共和国の貴公子に迫られて恐慌したのもそのへんが原因らしい。


 昔からそんなに他人と接する機会なんて無かったしね…。

 基本的に屋敷の中でリック兄ぃと、お兄ちゃんと、私とエリーで色々やって遊んでたから。たまに村に出かけても、エリーはお兄ちゃんの後ろに隠れてたし。



 それにしても―――。



「そんなに激しいの?」

「た、たぶん普通です……」


 顔が真っ赤だし目が泳いでいるのだが…。

 というか、この前歩けなくて背負われてなかったか?



「そう、この前歩けなくなるまで―――」

「だ、だめです違いますそうじゃないです!」



 とは言うものの、エリーの顔には「恥ずかしいから嘘をついてでも乗り切らないと」と書いてある気がする。どんだけ顔に出るんだ。


 エリーはとっても華奢なんだから気をつけてもらわないと…。



「お兄ちゃんにエリーをもっと大事に可愛がれって言ったらどうなるかな…」

「リ、リリー…!? だめです、これ以上はむりです…!」



 ああそうか。「大事に可愛がる」わけか。

 「お手柔らかに」の意味で使ったつもりだったのだが、「もっと激しく」という意味になってしまうらしい。


 というかこれ以上は無理なのか。


 なおさらお兄ちゃんをからかっ―――警告しないと。

 というかエリーが妊娠したらどうする気だ。ちゃんと聞いておかないと。

 私だって、エリーは可愛い妹だと思っているのだ。



「よし、エリー残りよろしく。ちょっとお兄ちゃんおちょくってくる!」

「えっ…!? ま、待ってください…!」



 気配を探ると、どうやらお兄ちゃんは自室にいるようだ。

 急いで朝食を完成させて追いかけようとするエリーを尻目に、私は突撃した。




…………




「たのも――――っ!」



 ドーカンという音を立ててお兄ちゃんの部屋の扉を開くと、机のイスに座ったお兄ちゃんが呆れたような目で私を見てきた。



「おいリリー、ノックなしで他人の部屋に入るなよ……今度お前の部屋にも入るぞ」

「うん、ごめん! でもそんなことよりお兄ちゃんに大事な用があるの!」



「…はあ?」



 お兄ちゃんは呆れたような顔をしているが、目は真剣になった。

 なんだかんだ優しいんだよなぁと思いつつ、笑顔で切り出してみた。



「もうちょっとエリーを優しく可愛がってあげられないかなーと」

「…はぁ?」


 お兄ちゃんの顔から感情を読み取るのは容易ではないが、警戒が不審に取って代わったような気がする。お兄ちゃんは「う~ん」と唸ってから苦い顔になった。



「…そっか。エリシアが辛かったんだな。教えてくれてありがとな、リリー」



 …ちょっと待て、なんか違う気がする。

 お兄ちゃんは指でペンを上手に回しつつ溜息をついた。



「エリシアは辛くても言ってくれないからな。俺が気をつけないといけなかったのに…」

「ちょ、ちょっと待った! タイム!」



 …これは、誰だ?

 お兄ちゃんってこんな感じだったっけ?

 私は頭を抱えつつ壁に寄りかかって脳神経をフル稼働させた。


 お兄ちゃんなら「あー、気をつけるよ」的な回答が返ってくると思ったのだ。

 正直これでは私が悪者ではないか。

 な、なにかこの状況を打開する方法は…。



「そ、そう! エリーがお兄ちゃんにメロメロすぎて大変なの!」

「…はぁ?」



「ご飯つくってるときも指輪を見て嬉しそうに微笑んだりしてて危なっかしいからちょっとお兄ちゃんからそれとな~く注意してほしいな、なんて?」


「…確かに。ありがとな、注意しとく」



 だ、誰だぁぁ!? 

 こんなのお兄ちゃんじゃない! とまではいかないが、別人だと言われれば信じる。

 お兄ちゃんはもっと鈍くて、つかみ所がない感じだったのに。

 完全にデレデレではないか。


 私はしばらく茫然自失してしまったが、本来の目的を思い出した。

 そうだ、お兄ちゃんをからかったりしようとせずに大人しく目的を遂行すべきだった。

 私は真剣な顔になると、お兄ちゃんの目を見つめて言った。

 


「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん、なんだ?」



「エリーに子どもができたらどうするの?」

「む…」



 お兄ちゃんはペンを机の上に置くと、立ち上がって正面から私と目を合わせ、力強く断言した。



「育てる。エリシアがルリを見て『いいなぁ…』って呟いてたし」

「……それだけ?」



「むぅ、それだけといえばそれだけなんだけどさぁ…。なんだろうなぁ、エリシアの子どもってだけで可愛いんだろうなーって感じがしないか?」



 真面目な顔で言われ、私も真面目に想像してみる。

 確かにちっちゃいエリーがいたら抱きしめたいくらい可愛いだろう。



「…うん、確かに」



 私が頷くと、お兄ちゃんも満足そうに頷いた。



「だろ? まぁ、それだけなんだけどそれが幸せなんじゃないかなって思うんだよ」

「……お兄ちゃんが真面目に色々考えてたなんて…」


 思わず声に出た私にお兄ちゃんは意味深な笑いを浮かべた。



「こう見えても色々経験してるんだよ。って言っても収入0だし、父さんと母さんに頼りきりみたいなのは嫌だったんだけど、うっかり母さんに言ったら『くだらないことを気にする暇があったらエリーを幸せにすることだけ考えなさい』って怒られた」


「え、お母さんに怒られたの!?」



 私はお母さんが本気で怒るのを見たことが無い。

 というか、既にお母さんともこの話をしたのか。

 お兄ちゃんはバツの悪そうな笑みを浮かべて言った。



「正直かなり驚いた。リリーも気をつけたほうがいいぞ」

「りょ、了解」



 密かに戦慄していると、エリーの気配がこの部屋に向かっているのを感じた。

 私はちょっと溜息をつきつつ呟いた。



「…いいなぁ、エリーはいい相手がいて」


 思わずもれた私の本音に、お兄ちゃんはちょっと微妙な顔になってから言った。



「……リリーもまだ15だろ。リリーくらい可愛ければいい相手が見つかると思うぞ?」



 わざと空気を軽くするように言ったその言葉の中に、どこか申し訳なさそうな響きを感じて私は驚いた。

 ……お兄ちゃんは私の気持ちに気づいてる?

 もしそうなら、下手に謝ったりされなくてよかったと思う。そんなことをされたらみっともなく泣いてしまったかもしれない。怒ったかもしれないけど。




「ふふっ、私にかかれば恋人くらいイチコロだもん」

「えー」



「むぅ、何よその顔は~…」

「…リリーがイチコロになるような相手が見つかることを祈ってるよ」



「…そうだね、ありがと」


 ほんのり笑ってお礼を言った私に、お兄ちゃんはなんともいえない顔になって言った。


「素直で怖い…」

「む、お兄ちゃんこそエリーにデレデレで怖いくらいだよ!」



 そのまま二人で何故か笑いあって、駆け込んできたエリーも巻き込んで、私たちはそのままよく分からない話で盛り上がったのだった。





票数的には次はシルフの小話でも書こうかと思ってます。

と言ってもエリシア以外は僅差なんですが…。


でも、他のキャラの視点で書こうとすると実力不足を痛感しますね…。

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