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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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おまけ:乱闘・酔っ払いブラザーズ

*お酒は20歳になってから。

 この話に出てくるのは全て魔法薬です。


 思った以上に酔っ払いって難しいですね…。

 さて、一昨日生まれた妹の名前が決まった。

 ルイリーネ。略してルリだ。

 俺、エリシア、リリー、父さん、母さんが一文字ずつ考えたという、なんとも―――愛情がこもった決め方だな。いや、ただの手抜きだと思うが、この世界的にはこれが愛情がこもっているらしい。兄さんは愛称を考えた。仲間はずれじゃない。



 そんなわけで、誕生会をすることになった。

 

 ウチのひろーい庭にテーブルが並び、今回は使用人たちにも手伝ってもらって豪華な料理が並んだ。ホントはエリシアが魔法をフルに使えばなんとかなったりするのだが、やっぱりパーティは準備から楽しまないとな。



 ……料理のほかに魔法薬(以下、ジュース)も樽でいくつも置いてある。

 だめだ、ものすごく嫌な予感しかしない。




 ちなみに、このジュースは十五歳未満は飲んではいけません。

 しかし、魔力を回復する効果があることから長寿とか無病息災を祈る大切な飲み物でもあり、十五歳以上はめでたいときには必ず飲む。


 まぁ、中毒とか依存性とか肝臓に悪いとかないしな。

 酒乱の人がいると危ないだけで。

 15歳未満がダメな理由は酔っ払って暴れると危ないから。いや、なんだその基準はって感じだが、これはあくまで法律ではなくローカルルールなのだ。





 今回の誕生会に来ているのは、ごく限られた知り合いだけだ。



 皇様、学園長、フィリア、ローラ、フェミル。

 後は俺、エリシア、リリー、父さん、母さん、兄さん、シルフ、ルリと。



 皇様と学園長は父さんと母さんが。

 フィリアとローラは当然呼ぶ。

 フェミルは俺が万が一に備えて呼んだ。怪我人が出そうだと言ったら来てくれた。





………




そんなこんなで夕暮れ時。全員そろってパーティが始まる。

まずは父さんの挨拶からだ。




「えー、本日はめでたく、次女のルイリーネが誕生しました!

 その誕生を祝って、誕生会を開催させていただきます!

 それじゃ、かんぱ~い!」



「「「「「かんぱ~~~い!!!」」」」」



 最後は適当な感じな気がしたが、みんなでグラスを高く上げ、近くの人とグラスを合わせてみたり。


「アルっ!」

「おう!」



 白くてふわふわしたドレスを着ていつも以上に可愛いエリシアがにこにこしながらグラスを掲げ、俺はグラスを合わせる。


 軽くぶつかったグラスが小気味いい音を奏で、俺とエリシアは微笑みあって一口飲んだ。

 

 うん、美味しい。

 さすがに父さんはいい物を揃えるなーと感心しつつ辺りを見回して俺は愕然とした。





 早くもローラが暴走してフィリアを拘束してガバガバ飲ませている。

 父さんと兄さんと皇様と学園長は一気飲み大会を開催中。


 シルフとフェミルは二人で楽しそうに飲んでいるが、それくらいだ。

 

 俺は呆然としながら、慌ててエリシアの顔を覗き込む。



「ア、アル? どうかしたんです…?」

「…はぁ、大丈夫そうで何よりだ」



 エリシアは急に顔を覗き込まれて顔を赤くしたが、それだけだ。

 よかった……。エリシアが暴れたりしたらほんとに困る。


 エリシアも周囲を見渡し、一瞬驚いてから俺に囁いた。




「…アル、ちょっと静かなところにいきませんか……?」

「……そうだな」



 そんなわけで、俺とエリシアは酔っ払いに絡まれないように慎重に移動し、静かな芝生地帯に移動して二人で並んで座り込んだ。



「あー、予想通りのカオスだよ……エリシアが酔ってなくてよかった…」

「……アル、私はもう酔ってますよ…?」



 言われて、思わず高速離脱しようかと思ったが、エリシアはほんのり上気した頬と潤んだ瞳で幸せそうに俺をみつめてくるだけだ。



「……そんなに酔ってるようにはみえないけどな?」


 そう言うと、エリシアはくすりと笑った。


「…わたし、アルに酔ってます……」



 そんな恥ずかしいことが言えるなら確かに酔ってるなと思ったら、エリシアが目を瞑って顔を近づけてきたので、俺とエリシアはそっと唇を合わせた。






 さて、そろそろ荒れたパーティ会場をなんとかしないといけないだろう。

 俺は、しばらく静かに寄り添っていたエリシアをそっと離し、立ち上がった。



「エリシア、そろそろ戻って――――」

「――――いやっ!」



 ……はい?

 なんかエリシアの声ではっきりした拒絶が聞こえたんだが…あれ?



「……えーと、エリシア?」

「………アルはわたしといっしょにいるのっ!」



 エリシアの瞳がギラリと赤く輝き、俺は咄嗟にバックジャンプして抱きついてきたエリシアを避けた。

 エリシアの顔は酔いが回って真っ赤になり、目は茫洋としている。

 ……完全に酔ってやがる!? なにこの時間差攻撃!?



「とりあえず落ち着け、エリシア!」

「――――やだっ、<サンダーボルト>!」



 エリシアの右手から、なんと銀の雷が放たれる。

 咄嗟に迎撃しようとしたが、狙いは俺ではなかった。



「<ブリザード>!」



 金の氷が放たれて銀の雷と相殺する。

 銀の髪をなびかせたローラが、樽を担いで現れたのだ。

 絶対にあの樽の中身は魔法薬だ。



 エリシアとローラが睨み合い、火花を散らす。


「アルはわたしのものですっ!」

「アルを独り占めなんてさせないんだから!」



 瞬時にエリシアの背から竜の翼が現れ、さらに全身が銀に輝く。

 同時にローラの髪と瞳が黄金の光を放ちだし、魔力が膨れ上がる。



「<トールハンマー>!」

「<アブソリュート・ゼロ>!」



 拳を振り下ろすエリシアの動きに同期して、天空から雷槌が出現し、ローラを叩き潰さんとする。対するローラは自分の周囲に絶対零度の結界を張って防ぐ。


 術が激突する余波で芝生が抉り取られて宙を舞う。

 俺は、止めようと思ったのだが――――。



「<インフェルノ>!」

「<ニブルヘイト>!」



 焦熱地獄と氷雪地獄が激突して大爆発し、そのまま爆煙を切り裂いてエリシアが飛び上がり、空から流星のように大量の銀雷を放ち、ローラは天まで凍れとばかりに金の吹雪を巻き起こす。




 …正直、止められるレベルじゃない。

 この二人なら直撃しても大丈夫そうだし、そもそも二人のターゲットは俺なわけで…。

 俺は、そっとその場を抜け出した。

いや、何かあったら魔力が減るから魔力探知で分かるし。




 俺は、諦めて自分の部屋に帰って寝る事にした。

 一応言っておくが、俺よりエリシアのほうが強いから。

 俺が持ってる全ての術をエリシアは使えるが、逆はない。




 そんなわけで、なるべく気配を消しつつ、俺は屋敷に急いだ。


 

 しかし――――。




「アル、どこにいくんですかぁ~?」



 俺は声に瞬時に反応してその場を全力で離れようと足に力を込めるが間に合わず、足を払われて草地に倒れこみ、その上に柔らかい体がのしかかってきた。


「――――フィリア!?」

「……アル~、にげちゃいやですよ~」



 できあがってしまったらしい皇女様フィリアは、何を思ってか俺に思い切り抱きつき、そのとても柔らかい胸が俺に思い切り当たるのだから精神衛生上かなりまずい。



 それに、フィリアが着てる白いドレスは胸元が見えるデザインなので、この姿勢だとモロに見えて……。



 とりあえず、この胸がモロにあたる状況を打開せねば。

 俺は、とりあえず話し合いで穏やかに解決できないか試してみる。



「フィリア、ちょっと離れてくれないか…?」

「アル、もうちょっとくっついてください~」



「…いや、離れよう? な?」

「だめです。もっとくっついてください」




 ……なんでみんな酔っ払うと迷惑な性格になるんだよ!?

 フィリアはきっぱりと拒否し、交渉は決裂。

 むぅ……。



「フィリア、ごめん。俺はエリシアが――――」

「……知ってますよ」




「――――えっ?」


 酔っていると思ったフィリアからハッキリとした返事が返ってきて、俺は思わず間抜けな声を出してしまうが、フィリアは俺の胸に顔を押し当ててして、表情は見えない。



「……知ってます。アルがエリシアを好きなのも。エリシアが本当にアルを好きなのも」

「……フィリア…?」



「それでも……。それでも、私がアルを好きな気持ちは変わらないんです……」



 静かに顔を上げたフィリアの頬を涙がつたって―――――。



 そのとき、巨大な魔力が二つこちらに向かってくるのを感知し、あわてて体を離して身構える。エリシアとローラに気づかれたっぽい。


 フィリアは涙を拭ってから、近くの木の根元の辺りに隠してあった<シリウス>を取り出して鞘から引き抜く。


 フィリアは打って変わって真剣な表情で口を開いた。



「……ローラ、凄く酔ってました。エリシアはどうでしたか?」

「…エリシアは……かなりヤバそう」



 そうしていると、先に銀の竜の翼を広げたエリシアが物凄い速度で向かってくるのが見えた。



「アル、エリシアをお願いします! 私はローラを引き付けます!」

「――――分かった!」



 先ほどは2対1状態(?)だったが、今はフィリアがいる。

 俺も、止められるなら止めたいと思っているので、エリシアを無力化する覚悟を決めた。

 エリシアならそんなに酷く攻撃はしてこない……はず。


 

 半泣きでこちらに突っ込んでくるエリシアを迎撃しようと――――。

 え、半泣き?



「――――アルのばかーーーー! <サンダーボルト>!」



 エリシアの両手から銀の雷が俺とフィリア目掛けて放たれ、フィリアは<シリウス>をつかって弾き、俺は魔力を右手に集めて迎撃する。


「落ち着け! <サンダーボルト>!」



 俺の手から放たれた銀雷はエリシアの銀雷と全く互角で、相殺する。

 空気中に残る雷の残滓を切り裂いて、エリシアは一直線に俺に突っ込んでくる。



「アルのばか!」

「落ち着けってのに!?」



 翼を消したエリシアは地面を抉りながら急停止しつつ俺に向かって回し蹴りを放ち、じゃがんで避けた俺の後ろにあった木が一撃で粉砕された。

 粉砕だ。折れたのではなく爆破されたみたいになっている。



「落ち着けってのに!?」

「いやっ! フィリアと抱き合ってた!」



 完全に酔っていらっしゃるエリシアはそのへんの木の枝を拾って魔力を流して振り回す。

 魔力を流された木の枝は、銀色に輝いてめちゃくちゃ痛そうだ。

 なにこれ、まさかヤンデレ…!?


 俺が木の後ろに隠れると、エリシアが再び木を粉砕。

 俺は転がるように木からはなれて、咄嗟に木の枝を二本掴んで魔力を流し、エリシアに対抗する。


 エリシアも二本目の木の枝を拾って、俺とエリシアは枝を構えて向かい合った。



「エリシア、話せば分かる!」

「アルはやっぱり、わたしのちいさいむねはいやだったんです!」



 いや、そんなことないんだけど、ここでそんなことないって言うと変態だよな。

 エリシアが酔ってるくせに鋭い動きで枝を縦横無尽に振り回しながら叫び、俺は最低限の動きで受け流しつつも、徐々に押されて後ろに下がる。



「いや、大事なのは性格だから! 俺はエリシアが大好きだぞ!」

「アルはどうせみんなだいすきなんです!」



 む、ちょっと今のは傷ついた。そんなに信用ないのか俺は。

 先ほどから溜めてある魔力を確認し、俺は反撃を決意した。



「《イクスティア》!」

「《イクスティア》!」



 俺とエリシアから眩い銀の光が放たれ、二つの銀の閃光が絡み合いながら上空へ駆け上がって分かれ、激突し、空中に無数の銀の光が煌いた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――





 フィリアは<シリウス>を構えているが、これで切り掛かるつもりはない。

 単純にローラの方が強いため、<シリウス>の力を借りて互角に持ち込もうとしているだけだ。


 金に髪を輝かせて異様にご機嫌なローラは、背後に3つのジュース樽を魔法で浮遊させ、放たれる圧倒的な魔力は驚嘆に値した。

 ローラの望みは唯一つ。



「フィリアもいっしょにのみましょう♪」



 これだ。これだけなら別にいい。しかし、先ほど飲まされた時に感じたが、ローラは手加減を知らない。先ほども一樽まるごと飲ませようとしてきて、アルがいないことにローラが気づかなければ確実に泥酔させられていた。



「ローラ、私はちょっと飲み過ぎちゃってもう飲めないんです」

「大丈夫、魔力薬だから飲み過ぎても明日になればすっきりしてるよっ!」



 確かにそうなのだが、泥酔すると何が起こるか分からない。皇女としてそれはやってはいけない行為なのだ。



「――――ごめんなさい、ローラ。<シリウス>! お願い!」

『任せろ、傷つけずに無力化すればいいのだな…!』



 フィリアの前に魔方陣が現れ、トラックよりも巨大な犬―――というか狼が現れる。

 星の如く輝くシリウスは、出てくるなり咆哮した。



『喰らうがいい―――――! <ヒュプノ・ブライトネス>!』



 シリウスの眼から催眠効果のある光がローラに向けて放たれ、ローラに直撃する。

 ローラはまるで彫像になったかのように動かなくなり――――。



『ふむ、これで――――』



「―――邪魔すると凍っちゃうゾ♪ 《エターナル・ゼロ》!」



「―――――シリウス!?」



 シリウスの背後に突如としてローラが現れ、シリウスが一瞬で細かい氷の粒となって消滅する。フィリアの目には楽しげに微笑むローラと、彫像のように動かないローラが同時に存在していて――。


 ―――彫像のように?

 

「ふふっ、あっちはただの氷」



 ゆっくりローラが近づいてきて、フィリアは咄嗟に逃げようと魔力を集め―――。

 ようとしたが、魔力が練れない。


「――――ど、どうしてっ!?」

「だめ。フィリアもちょっとは羽目を外して楽しんだほうがいいよ」



 酔っているはずのローラはフィリアを静かに見据えて労わるような表情で言った。

 それでタイミングを逃したフィリアは、ジュースをたっぷり飲むことになった。


「いっき! いっき!」

「――――うむぅ~~!? ローラ、ちょっと待って――――!」



「フィリアもはじけちゃえ~~~!」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――





「む、お主の主人が困っておるようだが、よいのか?」

「ご主人様なら大丈夫ですよ。痴話喧嘩の邪魔をするほど野暮じゃありません♪」



 フェミルとシルフは、二人でのんびり飲んでいた。

 皇様、学園長、父さん、兄さんの飲み比べ大会は、全員酔いつぶれて終わった。

 

 と、顔を少し赤くしたリリーが微妙にふらつきながら歩いてくる。


「フェミルっち~、酔い止めとかないの~~?」

「誰がフェミルっちじゃ。一応あるが、バカにやる薬はないぞ?」



「いや、そろそろ限界かなぁ~って?」

「む? ……なんじゃ、あれは?」





―――――――――――――――――――――――――――――――――




 これは後から聞いた話だが、今日父さんが用意したジュースはとても魔力回復量の多いヤツで、アルコール度数高めみたいな感じだったらしい。

 そんなわけで、俺も酔ってたんだ。




 《イクスティア》による全身体能力強化により、スローモーションのように見える景色の中で、唯一自分と同じ速度で動くエリシアに向かって俺は叫んだ。



「覚悟しろ、エリシア! たっぷりと可愛がってやる!」

「わたしだってアルをかわいがりたいんですっ!」



 当初の趣旨はどこへやら。俺たは木の枝を無駄に魔力で強化して打ち合い、相手を無力化するために無駄に強力な術を撃ちまくる。無論、絶対に相手が防ぐと互いに確信しているため、一切の手加減はない。



「<ガトリング・サンダーアロー>!」

「<ガトリング・サンダーアロー>!」



 俺とエリシアが同時に数十本の雷の矢を乱れ撃ち、全て相殺する。

 そう、エリシアは俺の術を全て使える。そして、エリシアのほうが魔力は多い。

 このままではジリ貧だと悟った俺は、一気に加速し、地上に向かう。



 エリシアも翼を使って俺以上の速度で追撃してくる。速度でも勝てないらしい。

 ならば、残された手段はただ一つ。不意打ちだ。

 俺は地上付近で一気に減速してから魔法を全て解除して緩やかに落下しつつ、その術を発動する。



 一瞬、あの恥ずかしい仮の術名を叫ぼうかと思ったが、俺は気がつくと全く違う術名を叫んでいた。



『集え―――世界に満ちる根源たる生命の力! 《ティアーズ・ブラスター》!』



 何かに導かれるように、術の構成がエリシアを真似ただけのものから全く未知の構成に組み変わっていく。

 上空のエリシアに向けた俺の両手に周囲から色とりどりの光の粒―――マナが集まり、俺の両手が透明な光を放ちだす。




『常夜の天空を照らす白き宝玉よ―――――! 《ムーンライト・ブラスター》!』



 エリシアの体が眩い純白の光に包まれ、俺が地面に落着する寸前、俺たちは同時に術を放った。


 互いに殆ど魔力を溜めていないものの、俺の手から放たれた透明な光も、エリシアの手から放たれた純白の光も凄まじい衝撃波を放ちながら激突する。

 

 そして、俺が放った透明な光はエリシアの純白の光を『吸収』してエリシアに直撃した。




「――――――――な…!?」



 お互いに術の溜めに使った時間はほぼ同じ。

 相殺するか、そうでなくとも威力の大半を失うはずだった。

 互いに大技の後の一瞬の隙を突こうとしていた。

 しかし『吸収』というありえない現象が起こってしまった。




 傷一つないように見えるエリシアが落下してくるのが、やけにゆっくり見えた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――




 アルが見たことのない術を使うのが見えた。

 どことなく《ムーンライト・ブラスター》に似ていたので、相殺して隙を突くことにした。アルもそのつもりだろうけど、負けるつもりはない。私だってたまにはアルを好きなだけ可愛がってみたい。



 しかし、間違いなくアルと同等以上の魔力を込めた私の術は一瞬で吸収され、少し白っぽい色になった純白の光に、私は飲み込まれた。




 咄嗟に目を瞑って痛みに備えるが、恐れていた感覚は来なかった。

 逆に、なにかとても暖かいもの包まれた私は、そのあまりの心地よさに全身の力を抜いて落下してしまった。




 そのまま意識を半分とばして落下していると、暖かい腕に抱きとめられた。

 ぼんやりと、これはアルの腕だなーと思って更に幸せな気分になっていると、そのまま唇にとても柔らかいものが――――。



 アルの魔力が口から流れ込んできて、私に異常が無いか探ってきた。

 それは異常が無いか確かめる最も確実で迅速な方法なのだが―――。



 とにかく恥ずかしい。

 体の状態を全て把握されてしまうわけであり、裸を見られる以上に恥ずかしい。

 しかも全身まさぐられる感覚つきなので、アル相手じゃなかったらそのまま憤死する。

 しかも、その感覚を私がどう思ってるかまで逐一相手に伝わっているはずだ。恥ずかし過ぎる。





 私の顔は、瞬く間に真っ赤になってしまった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――





「はぁ、よかったぁ……」

「…あぅ……」



 結論から言うと、エリシアは無傷だった。むしろ回復していた。

 精密検査(?)をさせてもらったが、酔いが直ったくらいしか変わっていない。

 あとは妙に眠そうな感じだったが。


 まぁ、精密検査(?)のせいで完全にノックアウトのようで、今は耳まで真っ赤にして俺の胸のあたりに顔を押し当てて表情が見えないようにしているが。



 まぁ、嫌がってるわけではなかったし大丈夫だよな。恥ずかしがってはいたけど。



 そうだ、フィリアとローラは――――。




「「ふふっ、ア~ル♪」」



 俺は動物的勘によって、咄嗟に逃げようとした。しかし、いつかの時のように魔力が練れなくなっていた。

 そして、すごくジュースの匂いがするフィリアに羽交い絞めにされ、ローラが樽を持ってにこやかに微笑んでいた。



「……えっと、トイレに行きたいな?」


「「だ~め♪」」



「ちょ、まって――――――んぐぅっ…!?」



「「いっき! いっき!」」





 フィリアに羽交い絞めにされたまま(すごく胸が当たる)、ローラにジュースを口から流し込まれ、俺にはジュースを飲み干す以外の選択肢はなかった。






…………






「よっしゃ~~~! どんどんもってこいや~~~!」


 完全に酔っ払った俺が叫ぶ。エリシアも再び酔っているが、俺が離れようとしなければ物凄く大人しいようだ。膝の上で幸せそうにまどろんでいる。



 ローラは俺の右腕に抱きついて、そんな俺に次々とジョッキを渡す。

 フィリアはその胸を俺の左腕に押し付けて熟睡している。




 そして―――――。




「ご主人様にお酌をしてさしあげるのもメイドの務めです♪」

「お兄ちゃんズルい! 私も飲むっ!」

「やれやれ、結局参加するんじゃの……」




 そのやたら和やかな雰囲気にのせられてシルフとリリーも参戦することになり、なんだかんだ言いつつ、フェミルも参加する。






 とても幸せそうに眠るフィリアは俺の心も和やかにしてくれて。


 無邪気に笑うローラを見ていると、自然と俺も笑っていて。


 やたら元気なシルフを見ていると、俺も元気付けられる気がして。


 小腹が空いたと思っていたら、テーブルから料理を取ってきてくれた心得てるリリーがとても有難くて。


 フェミルは一歩引いて見守ってくれていて心強く。




 遠くでルリを可愛がる父さんと母さんもとても幸せそうで。


 こんなときでもテーブルの料理を食いまくる兄さんに苦笑して。


 皇様に学園長が絡んでいるのを見て笑いを堪えて。




 ホントに、俺の周りには楽しい人ばっかりだよ。

 微笑んでる俺に気づいたのか、エリシアが酔って更に凶悪な上目遣いで俺を見つめてきた。



「アル、たのしそうです?」

「そうだな。すごく幸せだよ」



 ふと思いついて、ローラに抱きつかれて若干動かしにくい右腕を動かして口にジュースを含んでエリシアに顔を近づけた。



「あぅ……アルがよっぱらいです…」



 エリシアはなんだかんだ言いつつも口移しを受け入れ、俺はエリシアの柔らかい唇を堪能してから口を離すと、エリシアが真っ赤になって恥らっていた。



「……アルがへんたいです」


 ポツリとつぶやいたエリシアに、俺は意地悪な笑みを浮かべてやった。



「俺はエリシアからすると『みんな大好き』らしいからな。疑う余地が無いように、これからは手加減なしで可愛がってやろうか検討中だ」



「……え、えっと…。どんなかんじです…?」


「もう俺の部屋から出られないくらいかな」



 ニコリと笑ってやると、エリシアは俺が本気だと悟ったらしい。

 一瞬「それはそれで…」と考えたようだが、思い直したようだ。



「……ごめんなさい」


 素直に謝ったエリシアはとても可愛らしかったので許してあげよう。




「わかればよろしい」



 俺が偉そうに言うと、なんだか無性に笑いたくなって、エリシアと一緒に笑った。

 酔っていたからだろう。その後、気がつけばみんなで意味も無くで笑っていた。




 そう、この頃はとても平穏しあわせだった。







アル 「いや、なんというか……」

ユキ 「中途半端です?」


アル 「…でもこれが限界だな。なぜなら俺にはエリシアがいるから!」

リリー「そういえば、なんか不穏な伏線がいくつか紛れてるけど…」

ユキ 「絶対、アルには何か秘密があります!」


アル 「……さ~て、どうだろうな?」

リリー「ところでお兄ちゃん、糖度控えめは実装されますか!?」


アル 「とりあえず、Yesだな。小説情報でも7章から真面目に…って書いてるし」

ユキ 「地味に今回の話は対象外だと責任逃れです」

リリー「おおー。エリーの毒舌って何話ぶり?」


アル 「…これで毒舌か?」

リリー「エリーがお兄ちゃんに言うなら破格の毒舌だよ!」

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