今日からやっと泣けます
今日からやっと泣けます
今日からやっと泣けます
「僕は学び舎のちいさな階段。毎日、たくさんの生徒たちの足音を聴きながら、みんなの心の成長をずっと見守ってきたんだ。今日はいっぱい涙を流して、胸の奥に一番温かい光を見つけた、真面目な男の子の物語だよ」
しとしとと静かで温かい雨が降る、ある秋の夜のことです。
男の子のタツオは、静まり返ったお部屋の机の前で、一枚のちいさな古い紙切れを両手で大切に抱きしめながら、大粒の涙をぽろぽろと流していました。
その紙には、かつてタツオを誰よりも愛し、優しく包み込んでくれた大好きなお母様のユカリと、いつも静かに見守ってくれたお父様のシゲルが残してくれた、綺麗な文字で書かれたメッセージが残されていました。
『タツオくん、今まで本当にありがとう』
お母様もお父様も、今は遠い星の国へと旅立ってしまい、このお家に残されたのは、その温かい言葉のメモだけでした。タツオはインターネットの検索画面をいくら探しても、もう大好きな二人の新しい画像や姿が出てこないことに、胸が張り裂けそうなほどの寂しさを感じていました。
「新聞の記事のマイクロ保存(過去の記録)には二人の名前があるけれど……こればっかりは、僕のちいさな力ではどうにもならない現実(社会の仕組み)なんだなぁ……」
実はタツオには、ずっと誰にも言えない心の苦労がありました。
朝、新聞を開いて「ご逝去の欄」の文字を目にするたびに、自分の今いる場所と、胸の奥からあふれ出す激しい感情がうまく合わなくなってしまい、頭のねじが緩むような、生きた心地のしない強い不安に襲われていたのです。
けれど、タツオは決して間違った方向へは進まず、街の優しい主治医の先生のもとへ通い、心を穏やかにしてくれるお守りのお薬(処方箋)を毎日真面目に飲みながら、今日という日々をなんとか一生懸命に乗り越えてきました。
「……でも、もう無理に強がらなくていいんだね。これで僕は、お部屋の中で思いっきり、心の底から涙を流して泣くことができるんだ」
タツオがお布団に顔をうずめて、これまでの涙の苦労を全部吐き出すように声を大にして泣いていると、窓の外からさらさらと穏やかで優しい風が吹き込んできました。その風は、お母様のユカリが優しく頭を撫でてくれているかのように、タツオの涙をそっと拭いました。
受話器の向こうから、いつものようにしっかり者のサリナや、お友達のケンジ、キヨコたちの優しい声がそれとなく届くような気がしました。
「タツオさん、たくさん泣いていいのよ。あなたの心の中には、お父様とお母様と一緒に分かち合った温かい光が、いつでも消えずに優しく灯っているんだから」
「全くだ! タツオ、お前は本当に立派に二人を支え抜いた、本物の強者だよ! わっはっはっ!」
仲間たちの温かい笑顔や豪快な笑い声が、タツオの胸の曇り空を、実に見事な力技ですうっと静かに晴らしていきました。
タツオは涙を拭い、温かいジャスミン茶を一口飲んで、深く、深く深呼吸をしました。
「すう……はあ……。すう……はあ……」
お薬とみんなのぬくもりが体中に広がると、タツオを苦しめていた後悔の波や強い不安は消え去り、胸の奥はぽかぽかと最高のぬくもりで満たされていきました。繋いだ手を決して離さない二人の暖かな愛が、今も自分の両手にしっかりと残っていることを、タツオは静かに心得たのです。
夜空には、驚くほど大きくて綺麗な満月がぽっかりと浮かび上がり、お父様とお母様のいる星の国まで続くように、光の道をまっすぐに優しく照らしていました。
タツオはお母様の運転する優しい車に守られているような、深い安心感に包まれながら、明日からはまた自分の歩幅で、一番高い木を見上げて笑顔で一歩ずつ歩んでいこうと誓い、穏やかで深い眠りへと落ちていくのでした。
今日からやっと泣けます




