病弱な妹ばかり優先する婚約者なんていりません!と言って婚約破棄しようとしたらみんなが不幸になった。
「と、言うわけで婚約をそちらの有責で破棄させていただく」
私の父の言葉に、私は頷いた。
私はハンナ・ユークリア子爵令嬢。
そして、今婚約破棄を突き付けた相手はゴードン・グリード伯爵令息。
私の婚約者だ。
もっとも、すぐ元婚約者になるが。
私が婚約破棄を父に頼み、父もそれを了承した理由。
それは、ゴードンが病弱の妹のアンを優先し、私をないがしろにするからだ。
デートの約束当日に妹が体調を崩したからとキャンセルするのは当たり前。
貴族が婚約者と出席するパーティですら妹を優先して出席せず、私はいつでも壁の花。
しまいには、必ず婚約者と出なければならない学園の卒業パーティですら急に体を崩した妹の為に欠席した。
その度に私は婚約者から大切にされない令嬢と馬鹿にされているのだ。
今まで我慢した私は、とうとう卒業パーティをきっかけに限界が来たのだった。
そもそも、この婚約はグリード伯爵家からお願いされたものだ。
現在グリード伯爵家は落ち目であり、そして我がユークリア子爵家は逆に上り調子。
グリード伯爵家は私に家を建て直して欲しいと頭を下げて頼み込み、私達は婚約したのだ。
だから、いくら子爵家が伯爵家より格下だからってないがしろにされていいはずがない。
大体、あの自称病弱な妹は私とゴードンが用の有る時に限って体調を崩すのだ。
どう考えたって病気は嘘だ。
そんな妹を優先する婚約者はいらない。
そして今日、私と父は婚約破棄を宣言する為に、ゴードン・グリード伯爵令息とその父グリード伯爵を呼び出したのだ。
そして、しばらくの沈黙が流れる。
どうせ彼は私に泣きつくだろう。
だが、私の愛は既に尽きている。
元々あったかもわからないが、私は少なくとも心を近づけたいと思っていた。
ないがしろにしたのは彼だ。
婚約継続はあり得ない。
そして、ゴードンは口を開いた。
「いや、君が彼女を優先しろと言ったんじゃないか」
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僕は、ゴードン・グリード伯爵令息。
僕には、はた迷惑な妹がいる。
あいつは、いつもいつも病気だ、体調崩したと言って伯爵家の面々を困らせる。
勉強しろ、と言っても体調崩した、と大泣きして教師を困らせる。
彼女は僕にとって迷惑な存在だった。
で、つい先日婚約者になったハンナ・ユークリア子爵令嬢にその話をすると……。
「なぜ、そんな彼女を置いておくのですか?」
彼女は少し怒りながらそう言った。
「いや、あいつはいつも病気だからといって勉強しないんだ」
「病気なら、勉強できなくて当然です」
「勉強の時とかだけなるんだよ。パーティの時なんかはいつも元気なんだ」
「やりたくない、と言う想いが体に影響を及ぼしているかもしれません。病は気から、と言うではないですか。心の病かもしれませんよ」
「だけど……」
困った僕は今朝の妹の行いを口に出した。
「今日なんか、体調悪いから傍にいてくれって言うんだ。婚約者と定期的に会うのは貴族の義務のような物だろう?それなのにキャンセルしろって言うんだ」
「当たり前です!あなたは、病気になったときの心細さが分からないのですか?」
「いや、でも今朝妹に伝えたら急に体調が悪くなったんだよ。それまで元気だったのに。婚約者に会いに行くと言った瞬間に体調が悪くなったんだ」
「それほど彼女はあなたを心の支えにしているのです!それが分からないのですか!」
ハンナはカンカンになって立ち上がった。
「今日は帰りなさい。そして、妹の傍にいてあげなさい。心細くなっている病人の傍にいてあげる、そういった常識が無い人とは、婚約を考え直さなければなりません」
「そ、そんな……それだけは……」
彼女との結婚は伯爵家にとって大切な事。
だから、婚約破棄だけは避けなければならない。
「なら、約束しなさい。病人の心に寄り添い、大切にする、と」
「でも、今後も病気を言い訳にして君と会う事を邪魔す……」
「いい加減にしなさい、心寂しくなっている病人の想いを邪魔などと、不愉快です!」
「す、すみません」
怒りのハンナに僕は頭を下げる。
「いいですか。もし妹が病気なら、彼女を優先しなさい。私との約束は、キャンセルして構いません。心が弱まっている病人より大切な仕事なら、こちらから連絡します。それ以外はキャンセルして構いません」
「わかりました」
こうして、僕は婚約者より妹を優先する事になった。
僕の想像通り、妹は僕が婚約者に会おうとするとすぐ体を崩し邪魔した。
ハンナに会いたい。
でも、ほかならぬハンナの意思だ。
だから、僕は妹を優先した。
なのに……
なぜか婚約破棄を言われたのだった。
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「あ……」
私、ハンナ・ユークリアは彼の言葉とその時の話を聞いて全てを思い出した。
確かに言った。
妹を優先しろ、と。
ダラダラと冷や汗が流れる。
そんな私の表情をみて、父もゴードンの言葉が真実であると悟ったようだ。
「しかし……彼が娘をないがしろにしたのは事実で……」
「いや、息子が説明しましたよね。そうしろと言ったのはハンナ嬢である、と」
私の父が何とかひねり出した言葉も、彼の父グリード伯爵に簡単に反論される。
困った。
今まで私がすっぽかされた中で最も重要な卒業パーティだって、婚約者と出るのは当たり前だが何があろうと絶対に出なければいけない物ではない。
それに、私達ユークリア子爵家だって何が会っても来いと言ってない。
つまり、彼は約束を守っている。
これでは明らかに私が有責だ。
「グリード伯爵家としては、今後も婚約を続けていきたいと思っています。ですので、今回の件は無かった事に」
「そう言っていただけると助かる」
私の父とグリード伯爵との話で、この婚約破棄は無くなった。
というか、この婚約破棄騒動は無かったことになった。
でも……私の心はそうではなくなっていた。
ミカエル・カール公爵子息。
彼は自身の婚約者を病気で亡くし、今は婚約者探しの真っ最中。
学園で私と彼は同学年で、いつも私と一位を争っていたのだ。
そして、妹ばかりを優先してないがしろにされていた私(実際は自業自得だが)を、常に気にかけてくれたのだ。
そして、今回の婚約破棄の為に、色々と相談に乗ってくれて……。
婚約破棄後は自分と婚約して欲しい、と彼から言ってくれたのだ。
私の答えはもちろんYES。
正式に婚約破棄してから父に言おうと思っていたのだが……。
婚約破棄は無かった事になったので、当然ミカエル様との婚約も無くなった。
だけど、私の心は既にミカエル様の物だった……。
それから数年後。
私とゴードンは結婚した。
私は、社交界での立場を失くしている。
ミカエル様は私との婚約を両親である公爵夫妻に相談していたらしく、彼らは私の婚約継続に激怒。
ミカエル様も真実を知り、私との関係を切ってくれた。
それ以降、私とミカエル様が会った事は一度もない。
だけど……今回の婚約破棄騒動とミカエル様との関係がどこからか漏れ、私は婚約者を嵌めて上位貴族と結婚しようとした悪女と言われるようになってしまった。
ちなみに、ミカエル様は悪女を見抜けない、見る目が無い、騙されやすい男と思われ、新たな婚約には相当苦労し、想定よりはるかに格下の令嬢と婚約した、と聞いた。
そして、あの自称病弱な義妹アンは、修道院に送られた。
今でも病気だと言って周囲を困らせているらしい。
そして、上り調子だった私の実家ユークリア子爵家は、現在急速に没落していっている。
婚約破棄騒動で信頼を失くしたのが原因だ。
一方で私が嫁いだグリード伯爵家も、没落を食い止める事が出来たが、落ち目である事は変わっていない。
現状維持が精いっぱいだ。
そして、ゴードンとは。
私達は夫婦になったが、完全に冷え切っている。
私の心は一度ミカエル様に奪われた。
そして、一度奪われた心は、結局元に戻す事が出来なかったのだ。
ゴードンと一緒にいてもいつもミカエル様と比較してしまう。
そんな私の心境を、彼は見抜いたのだろう。
必要な時以外、私と彼は話す事が無くなった。
それでも、夫の仕事上一緒にパーティに出なければならないこともある。
だが、今更どの面下げて出ろというのだ?
私は悪女として噂され、夫は私に見向きもしない。
そして、私は夫の全てがミカエル様より劣っているという現実を見なければならないのだから……。
だから、私はいつも夫にこう言って断っている。
「体調がすぐれないので、参加しません」と。
お約束の病弱な妹の話です。
主人公がザマァされる展開を考えたらこうなりました。
お楽しみいただけたら幸いです。
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