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AI精霊と始める迷宮再建 〜落第管理者ですが、運用改善で最強ダンジョンを作ります〜  作者: 結城ログ
第1章:廃迷宮のトリアージ ―― まずは「初心者が死なない入口」を再建せよ
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第6話:即死罠を「警報装置」にデチューンする

迷宮の第一層、入口から続く光の帯が途切れるその先に、灰霧迷宮で最も「悪名高い」場所があった。


「ここだ。新入り……いや、レイン管理者。俺たちが『首切り坂』って呼んでる難所だよ」


ガルムが松明を掲げ、足元を照らす。そこは、緩やかな下り坂の途中に、不自然に滑らかな石床が広がるエリアだった。一見すればただの通路だが、ガルムの顔は苦々しい。


「ここ数年だけで、何人の新人がここで足を滑らせたか。滑った先には、あの壁から飛び出す『振り子刃』が待ってる。魔力不足で動きが鈍くなってるせいで、かえって予測不能なタイミングで襲ってくるんだ。避けるのは至難の業だぜ」


レインは慎重に歩み寄り、壁の隙間に組み込まれた錆びついた巨大な刃を観察した。

 本来なら、侵入者を一瞬で両断する古代の防衛機構。だが今は、魔力回路の不調でギィギィと嫌な音を立て、不規則な痙攣を繰り返している。


(……最悪の壊れ方だ。完全に沈黙しているならまだしも、中途半端に動いているせいで、ここは『事故が起きるのを待つだけの場所』になっている)


レインは端末をかざし、AI精霊たちに診断を命じた。


『解析完了。物理的な駆動系が歪んでいます。元の殺傷能力を維持したまま修復するには、第二層から希少な潤滑油を回収し、さらに中枢魔力を三パーセント投入する必要があります』

 セレスが無機質に告げる。魔力三パーセント。現在の全残量に近い数字だ。


『無理無理! そんなの予算オーバーよ!』

 ミストが光を激しく明滅させて反対する。

『第一、こんなボロい刃を直したところで、今の入口付近のデザインには全く馴染まないわ! 美しくない、ただの野蛮な装置だもの!』


『……安全基準の観点からも、修復は推奨しません』

 厳格なノアの声が続く。

『今の不規則な動作は、監査を通りません。撤去するか、あるいは――』


「撤去も、修復もしません」


レインが静かに言葉を挟むと、現場にいたガルムと精霊たちが一斉にこちらを見た。


「ガルムさん。あの刃の『重り』を外して、代わりにこのガラクタ……鉄板を数枚、刃が壁に叩きつけられる場所に固定できますか?」

「はあ? 重りを外す? そんなことしたら、刃に力が伝わらねえぞ。ただの、ゆっくり動く鉄の板になっちまう」

「それでいいんです。殺すための力を奪い、代わりに『音』を出す機能に特化させます」


レインの狙いを察して、黄色い光のルカが「あはっ!」と跳ねた。

『なるほど、デチューンだね! 管理者様、それなら回路を少し弄るだけで「踏んだら鳴る」仕組みに直せるよ! 殺すのを諦めれば、魔力消費は百分の一以下で済む!』


「そういうことだ。ルカ、制御プロトコルを書き換えろ。ノア、作動の確実性だけは担保してくれ」

『了解! お安いつもりだよ!』

『……承知しました。致死性の削除を確認。暫定安全装置としての再定義を開始します』


作業は、ガルムの力仕事と、ルカによる魔力的な「機能制限」の並行作業で進んだ。

 ガルムは首を傾げながらも、レインの指示通り、致死的な速度を生んでいた重りを外し、刃が当たる壁面に、倉庫に転がっていた真鍮の板を何枚も重ねて打ち付けた。


一時間後。

 レインが端末の「テスト作動」ボタンを押す。


――ガコンッ!


壁から飛び出したのは、かつての死を運ぶ刃ではない。重さを失い、ひょろひょろと力なく動く、ただの錆びた鉄板だ。

 それが、壁の真鍮板に勢いよくぶつかった。


――キィィィィィィィン!!


迷宮の通路に、鼓膜を震わせるような高く鋭い音が鳴り響く。

 その音は反響し、数階層先まで届きそうなほどの存在感を放っていた。


「……なんだ、こりゃ。耳が痛てえ」

 ガルムが耳を塞ぎながら顔をしかめる。


「これでいいんです。この音が鳴れば、本人は自分が『死ぬはずだった罠』を踏んだことに気づく。同時に、周囲の冒険者にも仲間の異常が伝わります」


レインは、満足げに頷いた。

「さらに言えば、この音は魔物を驚かせ、一時的に遠ざける効果もある。……ガルムさん、ここを通る新人は、もう足を切られることはありません。代わりに、大きな音で『自分の未熟さ』を突きつけられるだけです」


「……殺すための牙を抜いて、鐘に変えちまったってわけか」


ガルムは自分の手で重りを外した装置を、不思議なものを見るような目で見つめた。


「罠を直す予算がないなら、使い道を変えればいい。管理者の仕事は、既存の設備を現場のニーズに最適化することですから」


レインが淡々と語るその背中は、かつてガルムが見てきた「理想を語る管理者」たちとは、決定的に違っていた。

 目の前の男は、美学や名誉のために迷宮を直しているのではない。

 ただ、この場所を「回る仕組み」に変えようとしているのだ。


「ルカ、残りの同型罠もリストアップしろ。魔力が許す限り、すべて警報装置へコンバートする。セレス、この警報の音が届く範囲を地図に反映し、効率的な『安全ネットワーク』を構築しろ」


『了解しました。管理区域の可視化を更新します』

『あーあ、せっかくの殺戮装置が、ただの呼び鈴になっちゃった。でもまあ、これはこれで「仕組み」としては面白いかもね!』


AI精霊たちの賑やかな声を聞きながら、レインは第一層の地図に新しい緑色のマークを書き込んだ。

 「理不尽な死」が、また一つ、この場所から消えた。

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