本の紹介43『処刑前夜』 メアリ・W・ウォーカー/著
タイムリミットは死刑囚の処刑執行まで。犯罪記者が凄惨な殺人事件の真相に迫る。
ミステリーやサスペンスはいかに読者をハラハラさせることが出来るかが大切かと思いますが、本作は死刑囚の処刑執行日までに事件の真相を突き止めなければならないというタイムリミットが効果的に作用しています。本編は600ページほどの大ボリュームですが、ストーリーが中弛みすることもなく、読者を飽きさせない工夫が随所に見られるのが特徴です。
30年以上前の作品ですが、主人公のキャラクターや設定も現代的で、普段この手のジャンルを読まない人にもオススメできる作品になっています。シリーズ物の2作目ですが、独立した作品として読んでも問題ありません。
主人公のモリーは犯罪記者を生業としており、10年以上前に大富豪の屋敷で起きた殺人事件を題材にしたドキュメンタリーの発売を控えています。事件の犯人と目される男性はすでに逮捕され死刑が決定しているのですが、モリーはドキュメンタリー作成の過程でこの男性と面会し、取材を続けるうちに真犯人は別にいるのではないかという疑念を抱くことになります。
モリーは死刑囚の男の言葉をヒントに過去の事件の真相を追うことになるのですが、何が警察や法曹関係者でもない彼女をそこまで突き動かすのか、その動機付けが非常に興味深いです。
犯罪記者として他人の不幸をエンターテインメントに仕立て上げることへの良心の呵責もあるのですが、裁判員制度という仕組みにより市民が死刑という合法的な殺人行為に加担することの是非、誰かの都合で犯人に仕立て上げられた人物を死刑にしてしまった社会の罪はどうなるのかといった問題意識が描かれます。
個人の存在が社会全体から見れば取るに足らない小さな単位であっても、社会と無関係でいることはできないし、傍観者になってはいけないというモリーの正義感は非常にハードボイルドだなと感じました。劇中、モリーは正義や倫理を声高に叫ぶことはしないのですが、その行動、生き様によって誤った道に進もうとする社会にNoを突きつけるのです。
また、死刑囚の男はお世辞にも善良な人間とは言えず、モリーもこの男を最低の人間だと断じているのですが、彼とモリーとのやりとりは非常に骨太で、ヒリヒリとした空気感が上手く表現されています。
また、事件に絡む入り組んだ人間関係も魅力的で、様々な人間の立場や思惑が物語を霧のように覆っているのですが、その中を自らの信念に従って突き進むモリーの姿が鮮烈です。
死刑制度の是非や宗教的価値観など社会問題も取り上げながら、エンタメ作品としても1級品の出来栄えになっていると感じます。
また、モリーが既に成人した子供のいる年齢の女性である点も、物語に地に足をつけた印象を与えています。エンタメ作品だと主人公格のキャラクターは若年層に設定されがちですが、ハードボイルドな雰囲気を仕上げるには、ある程度年齢的な説得力も大切だなと気付かされます。終わり




