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『無作法な異世界にSWAT流の鉄槌を ―弾丸一発一千円、女神と契約した俺たちの戦術防衛記―』  作者: 月神世一


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EP 9

外交ポリティクス――招かれざる徴税官」

 平和な午後を打ち砕いたのは、地鳴りのような蹄の音だった。

 村の入り口にある警鐘が激しく打ち鳴らされる。

「敵襲! 南から騎兵隊だ!」

 見張りの自警団員が叫ぶ。

 俺とニコラスは、食いかけの月見大根を置いて即座に詰め所を飛び出した。

 南――つまり、ガルーダ獣人王国の方角だ。

 土煙を上げて現れたのは、重厚な鎧を纏った虎耳族タイガー・イヤーの騎士たち。

 跨っているのは馬ではない。二足歩行の地竜、ジオ・リザードだ。

 その数、およそ20騎。完全武装の正規軍だ。

「……チッ。オークより厄介な連中が来やがった」

 俺は舌打ちし、Korthの撃鉄を起こした。

 正規軍相手に正面から撃ち合えば、俺たちの弾薬(資金)は一瞬で底をつく。

 騎士団は村の広場で停止し、先頭にいた巨漢の男がジオ・リザードから降り立った。

 虎の耳と尻尾を持つ、威圧感の塊のような男だ。

「我はガルーダ獣人王国、第三騎士団隊長、ガオウである!

 ポポロ村の代表を出せ! 貴様らは今日より、我が国の直轄領となる!」

 ガオウの声がビリビリと空気を震わせる。

 一方的な併合宣言。村人たちが恐怖に凍りつく中、俺はシールドを構えて前に出ようとした。

「ニコラス、俺が注意を引く。お前は屋根の上から隊長の眉間を狙え」

「ラジャ。……一発1,000円の警告射撃ウォーニング・ショットっすね」

 俺が踏み出そうとした、その時だ。

「――待ってください、サメジマさん」

 凛とした声が俺を制した。

 キャルルだ。

 彼女はいつもの村長の服だが、その瞳には、戦場の俺たちと同じ「覚悟」の光が宿っている。

「弾がもったいないです。……ここは、私に任せてください」

「……相手は正規軍だぞ? 言葉で通じる連中じゃない」

「ええ。だからこそ、『損得』で話ができるんです」

 キャルルは俺の前に立ち、武装した騎士団の前に堂々と進み出た。

 身長差は倍以上。だが、彼女は一歩も退かない。

「ようこそ、ガルーダの騎士様。ポポロ村村長、キャルルです」

「ほう……。貴様が噂の脱走……いや、村長か」

 ガオウが目を細め、キャルルを値踏みするように睨む。

 おそらく彼女の素性(元近衛騎士候補)を知っているのだろう。

「単刀直入に言おう。この村は要衝だ。我らが管理し、税を徴収する。

 拒否すれば武力制圧も辞さん。……後ろの奇妙な黒装束の用心棒ごときでは、我らジオ・リザード部隊は止められんぞ?」

 ガオウが剣の柄に手をかける。

 一触即発。俺の指がトリガーにかかる。

 だが、キャルルは涼しい顔で微笑んだ。

「制圧……ですか。それは『ルナミス帝国』と『ワイズ皇国』への宣戦布告と受け取ってよろしいですね?」

「……なんだと?」

 キャルルは、まるで世間話でもするように続けた。

「ポポロ村は三国の緩衝地帯です。ここを貴国が占領すれば、パワーバランスは崩壊します。

 明日にはルナミスの魔導飛行船が空を覆い、ワイズの死霊騎士団が国境を越えるでしょう。

 ここが焦土になれば、貴国が得ていた『関税なしの交易ルート』も消滅します」

 彼女は一歩、ガオウに近づく。

「たかだか人口300人の村一つを得るために、三国全面戦争ワールド・ウォーの引き金を引くのですか?

 そのコストと責任……隊長殿の首一つであがなえるとは思えませんが?」

 ガオウの表情が強張った。

 武力で脅せば屈すると思っていた田舎娘から、国家レベルの戦略論を突きつけられたのだ。

 痛いところを突かれた、という顔だ。

「ぐっ……! だ、だが、我らも手ぶらでは帰れん! 王への報告が必要なのだ!」

「ええ、分かっておりますとも」

 キャルルはパチンと指を鳴らした。

 待機していたニャングルが、恭しく木箱を差し出す。

「こちらは当村からの『友好の証(寄付金)』です。

 正規の税ではありませんが、道中の警備に対する感謝のしるしとしてお受け取りください」

 ニャングルが箱の蓋を開ける。中には銀貨と、希少な月見薬草が詰められていた。

 面目を保ちつつ、実利を得る。ギリギリの妥協点だ。

 ガオウはしばらく箱とキャルルを交互に睨みつけ、やがて大きく鼻を鳴らした。

「……フン。賢しい真似を。

 いいだろう。今日のところは、この『厚意』に免じて引いてやる」

 彼は部下たちに撤退を命じ、ジオ・リザードの手綱を引いた。

 去り際、ガオウは俺の方を向き、ニヤリと笑った。

「黒い用心棒よ。……その嬢ちゃん、ただの村長にしておくには惜しい器だぞ」

 地響きと共に騎士団が去っていく。

 砂煙が晴れると、キャルルはその場にへたり込んだ。

「はぁぁ……こ、怖かったぁ……!」

 震える足を手で押さえ、涙目で俺を見上げるキャルル。

 さっきまでの女帝のような威圧感はどこへやら。ただの小動物に戻っている。

「よくやった、キャルル」

 俺は彼女に手を貸し、立ち上がらせた。

「弾丸一発も使わずに、正規軍を追い返したんだ。大したもんだよ」

「そ、そうですか? サメジマさんの弾代を節約しなきゃって必死で……」

「……あぁ、助かったよ」

 俺は苦笑した。

 この村長は、俺たちが思っている以上に「大物」かもしれない。

 あるいは、守るべきもののために化けるタイプか。

「ボス。……あの騎士団長、最後の一言、意味深でしたね」

 屋根から降りてきたニコラスが、バイザーを上げて呟く。

「あぁ。奴らは一度引いただけだ。次はもっと厄介な『理由』をつけて来るかもしれん」

 外交勝利の余韻に浸る間もなく、俺のSWATとしての直感が警鐘を鳴らしていた。

 そしてその夜、ガンツから「例のブツ」が完成したとの連絡が入る。

 嵐の前の静けさは、これで終わりだ。

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