EP 7
「教練――金食い虫を精鋭に変える」
「遅い! 遅い! 遅いッ!」
早朝のポポロ村広場に、俺の怒号が響き渡る。
目の前には、息を切らせて膝に手を突く自警団の男たち。そして、不満げな顔で大斧を引きずるモウラがいた。
「なんだって朝っぱらからこんな……! アタシらの戦い方は『気合いで殴って、根性で耐える』なんだよ! こんなチマチマした動き、やってられるかい!」
モウラが地面に唾を吐く。
俺は冷ややかな目で彼女を見下ろし、手に持った指示棒(ガンツに作らせた教練用バトン)で自分のブーツを叩いた。
「気合いと根性? 結構だ。だが、それではゴブリン相手に勝てても、オークの集団にはすり潰される。
いいか、よく聞け、お嬢ちゃん方」
俺は自警団員たちを見回した。
「俺たちの弾丸は有限だ。お前たちの命もな。
だから今日から、お前たちには『死なない軍隊』になってもらう」
***
俺が教え込んだのは、SWATの基本戦術だ。
個の力に頼るのではなく、**「フォーメーション(陣形)」と「射線」**の管理。
「前衛、盾を隙間なく並べろ! 『シールド・ウォール』だ!
後衛、クロスボウ装填! 合図があるまで撃つな! 無駄矢一本につき腕立て10回だ!」
俺の指示に合わせて、自警団員たちが動く。
最初はバラバラだったが、反復練習を繰り返すうちに、少しずつ形になってきた。
盾部隊(ライオット・シールド役): 大盾を持った男たちが壁を作る。
槍部隊(刺突役): 盾の隙間から長槍を突き出し、敵を寄せ付けない。
射撃部隊(スナイパー役): 敵の指揮官や後衛を狙い撃つ。
理屈はローマ軍団やファランクスに近いが、俺たちが教えるのは**「室内掃討」**の応用だ。
「モウラ! 突出しすぎるなと言ったはずだ!」
模擬戦の最中、モウラがまた一人で突っ込んでいった。
彼女の剛力なら、仮想敵など一撃で粉砕できる。だが、それでは意味がない。
「うるせぇ! 敵がいるならぶっ叩く! それが一番早いだろうが!」
モウラが俺に食って掛かる。
俺は溜息をつき、ニコラスに目配せをした。
「……ニコラス。教育的指導だ」
「へいへい、ボス。……痛いのは嫌いじゃないっしょ? 姐さん」
ニコラスがニヤリと笑い、訓練用のゴム弾を装填したベネリM4を構えた。
俺は盾を構え、モウラと対峙する。
「アタシを止めるってのかい? 面白い!」
モウラが赤い闘気を噴出させ、猛牛のごとき突進を見せる。
真正面からの激突。普通なら俺ごとき吹き飛ぶだろう。
だが。
「――閃光!」
俺は腰のポーチから、『閃光石』を取り出して投げた。
キャルルに頼んで用意してもらった、魔力を込めると強烈な光を放つ石だ。スタングレネードの代用品(コスト1個500円)。
「なっ、目がぁ!?」
視界を奪われ、たじろぐモウラ。
その隙を見逃すはずがない。
俺は盾の縁を、彼女の顎下へ強烈に叩き込んだ(シールド・バッシュ)。
「がっ……!?」
「制圧!」
仰け反ったモウラの膝裏を蹴り飛ばし、うつ伏せに地面へ押さえつける。
同時にニコラスが銃口を彼女の後頭部に突きつけた。
「チェック・メイトだ、姐さん」
一瞬の出来事だった。
村一番の怪力自警団長が、魔法も使わない男二人に、手も足も出ずに制圧されたのだ。
静まり返る訓練場。
俺はモウラの拘束を解き、手を差し伸べた。
「……力任せの突進は、視界を奪われればただの的だ。
だが、お前が盾の後ろにいれば、俺たちが隙を作るまで力を温存できる。
そして、ここぞという時にその『魔牛流』を叩き込めば、どんな敵も砕ける」
モウラは砂を吐き出し、俺の手を払いのけて立ち上がった。
だが、その目に以前のような反発心はない。あるのは、負けを認めた戦士の悔しさと、新しい強さへの渇望だ。
「……チッ。分かったよ、鬼教官。
あんたの言う通りに動けば、もっと上手く暴れられるってんだな?」
「あぁ。約束しよう。お前の斧が届く距離まで、俺たちが道を作る」
モウラはニヤリと獰猛に笑った。
「上等だ。……おい野郎共! さっさと整列しな! 次のセット行くよ!」
***
夕暮れ時。
泥だらけになった自警団員たちが解散していく中、俺とニコラスは訓練日誌をつけていた。
「ボス、今日の訓練……実弾射撃ゼロっすよ」
「あぁ。ガンツの作った訓練用模擬弾と、閃光石だけで済んだな」
ニコラスが電卓を叩く。
「通常なら弾薬費で3万円は飛んでたところが……本日の経費、閃光石代の500円のみ!
差し引き29,500円の黒字っす!」
「悪くない成果だ。浮いた金で、今夜はトライバードの肉をダブルにできるな」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
自警団の練度が上がれば、俺たちが撃つ弾の数も減る。
彼らが強くなることは、そのまま俺たちの「家計の防衛」に直結するのだ。
ポポロ村自警団。
後に大陸最強の「鉄壁部隊」と呼ばれる彼らの第一歩は、こうして俺の財布事情と共に始まったのだった。




