EP 6
「鉄と火薬のハイブリッド――予算削減のための技術革新」
カンッ、カンッ、カンッ!
ポポロ村の一角にある鍛冶場から、リズミカルな金属音が響いている。
炉の熱気が充満する作業場で、俺は腰のホルスターから愛用のサバイバルナイフを抜き放ち、作業台の上に置いた。
「……ガンツ。頼みがある」
「あぁ? なんだい、この奇妙な形の短剣は」
煤だらけの顔をしたドワーフの鍛冶師、ガンツが太い眉をひそめた。
俺が差し出したのは、前世から愛用している『ストライダー・ナイフ』。極厚のブレードを持つ、頑丈一点張りの無骨な刃物だ。
「俺たちの『筒(銃)』は強力だが、弾がかかりすぎる。雑魚相手に毎回撃っていては、来月の飯が食えなくなる」
「世知辛い話だねぇ、神の使い様よ」
「そこでだ。このナイフを、着脱式の『槍』に改造してほしい」
俺はナイフの柄を指さした。
銃剣のように、必要に応じて長い柄の先に取り付けられれば、弾を使わずにリーチのある近接戦闘が可能になる。
「……ふん、なるほどな」
ガンツは無愛想にナイフを手に取り、ルーペを目に当てて刃先を覗き込んだ。
次の瞬間、ドワーフの目が驚愕に見開かれた。
「な、なんだコリャアアアッ!?」
ガンツが大声を上げ、ナイフを舐めるように凝視し始めた。
「ミスリルじゃねぇ……オリハルコンでもねぇ! なんだこの均一な組織は!? 不純物が一切ねぇぞ! それにこの硬度……こいつぁ『神鉄』の類か!?」
「ただの特殊ステンレス鋼だ。錆びにくく、硬いだけが取り柄だがな」
「錆びねぇ鉄だと!? そんなふざけた金属があってたまるか!」
興奮して鼻息を荒くするガンツ。
この世界の鍛冶技術は高いが、現代科学が生み出した合金の品質は、彼らにとってはオーパーツ(ロストテクノロジー)に等しいらしい。
「気に入った! こんなすげぇ刃物をいじれるたぁ、鍛冶師冥利に尽きるわい!
柄には、鉄より硬くて軽い『アイアンウッド』を使ってやる。接続部はガタつき一つねぇ最高精度で仕上げてやるからな!」
「頼む。……それと、もう一つ注文がある」
俺はニコラスに目配せをした。
ニコラスが「へいへい」と言いながら、紙に書いた簡単な設計図を差し出す。
「……なんだいこりゃ。靴か?」
「あぁ。『安全靴』だ」
俺は答えた。
村長のキャルルは、戦闘時に裸足にサンダル履きのような軽装で戦っている。獣人の身体能力が高いとはいえ、あれでは足先に物が落ちてきただけで怪我をする。
労働災害を防ぐのも、管理者の義務だ。
「村長の足を守るための靴だ。つま先に鉄板を仕込んで、衝撃から指先を保護してやってくれ」
「村長の……足を……守る……」
ガンツが設計図を見つめ、低い声で呟く。
その目つきが、先ほどのナイフを見た時以上に鋭く、真剣なものに変わっていく。
「……そうか。あの嬢ちゃんは、いっつも無茶な蹴り技ばかり使いやがるからな。いつか足を砕くんじゃねぇかとヒヤヒヤしてたとこだ」
「だろう? だから頑丈なヤツを頼む」
「分かった。……任せときな。わしの秘蔵の素材を使う時が来たようだ」
ガンツは作業場の奥にある、重厚な鎖で封印された木箱を開けた。
中から取り出したのは、紫色の雷光を帯びてバチバチと音を立てる、拳大の奇妙な石だった。
「おい、なんだそれは。放射能でも出てるんじゃないだろうな」
「馬鹿言え。こいつぁ『雷竜石』だ。昔、俺のじい様がドレイクの巣から命懸けで拾ってきた代物でな」
ガンツはニヤリと笑い、その危険そうな石を愛おしそうに撫でた。
「衝撃を与えると、強力な雷と反発力を生む。こいつを靴底とつま先に埋め込めば、嬢ちゃんの足は『最強の盾』になる……!」
(……いや、俺は単に、タンスの角に小指をぶつけても痛くない靴を頼んだだけなんだが)
若干の認識のズレを感じたが、ガンツの職人魂に火がついている今、口を挟むのは野暮だろう。
それに、キャルルの安全が確保されるなら文句はない。
「……コストは大丈夫なのか? 俺たちは金がないぞ」
「かまわねぇ! 嬢ちゃんのためだ、素材費はサービスしてやらぁ! その代わり、そのナイフの削りカスが出たら、全部俺にくれ!」
「商談成立だ」
こうして、俺たちの「弾薬節約作戦」は動き出した。
最強の槍と、最強の安全靴。
だがこの時の俺はまだ知らなかった。
ガンツの作った「安全靴」が、労働災害を防ぐどころか、災害級の破壊力を生み出す兵器になることを。
「へっ、槍働きかよ。SWATの面目丸潰れだな」
隣でニコラスがぼやく。
「諦めろ。一突き0円だ。……浮いた金で、来月はコーヒー豆が買えるぞ」
「マジっすか! よっしゃ、穂先磨いときます!」
鉄と火薬、そして魔法素材。
無作法な異世界の技術が混ざり合い、PMCシャークの装備は着実に強化されていた。




