EP 3
「接触――ウサギと警官」
目の前で炸裂したゴブリンの頭部。そして、連続して響く雷鳴のような轟音。
戦場の空気が一瞬で凍りついたが、自警団長のモウラだけは、その機を逃さなかった。
「な、なんだか分かんねぇけど……今が好機だ! 野郎共、押し返せぇぇッ!!」
モウラの檄が飛び、呆気にとられていた自警団員たちがハッと我に返る。
彼らは一斉にクロスボウを構えた。この世界の人間は、6歳から戦闘訓練を受けている。その動きに淀みはない。
ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!
放たれた矢が、パニック状態のゴブリンたちの手足を正確に射抜く。
統率を失った強盗団は、もはや烏合の衆ですらなかった。
「逃がすな! ……クリア!」
「クリア!」
俺とニコラスは、逃走を図る個体を的確に処理していく。
ニコラスのショットガンが広範囲を薙ぎ払い、俺は盾で死角を潰しながら、致命的な一撃を眉間に撃ち込む。
ほんの数分の出来事だった。
30匹いたゴブリンは、一匹残らず地面に転がり、動かなくなった。
***
戦闘終了。
森に静寂が戻る。漂うのは、濃厚な硝煙と血の匂いだけだ。
「……ふぅ。片付いたな」
俺はKorthのシリンダーを開放し、熱を持った空薬莢を排出した。チャリン、という金属音が妙に大きく響く。
スピードローダーで再装填しながら、相棒に声をかける。
「ニコラス。弾の残りは?」
「……ボス。聞かない方が良いですぜ?」
ニコラスが引き攣った笑みを浮かべた。
今の戦闘で奴は10発以上撃っている。つまり、日本円にして5,000円以上の出費だ。
女神への借金が増えたことを悟り、俺たちは同時に溜息をついた。
「……ッ! お前ら、何なんだ!?」
鋭い怒号と共に、ジャラリと鎖の音が鳴った。
モウラだ。彼女は鎖付きの戦斧をこちらに向け、全身から赤い闘気を立ち上らせている。
それを合図に、自警団員たちが俺たちを取り囲んだ。クロスボウの切っ先が、俺たちの黒い装備に向けられる。
「魔法使いにしちゃ杖を持ってない。騎士にしちゃ剣がない……。その妙な筒と、とんでもねぇ音……どこの国の密偵だい?」
モウラの目は本気だ。未知の脅威に対する警戒心。
俺はゆっくりと手を挙げ、敵意がないことを示すポーズを取った。銃口は地面に向けたまま(ロー・レディ)だ。
「銃を下ろせ、ニコラス」
「へいへい。……撃たないでくれよ? このスーツ、高いんだから」
ニコラスが肩をすくめるのを確認してから、俺はモウラを見据えた。
「我々は『SWAT』。特殊武装戦術部隊だ。……もっとも、所属していた国はもうないがな」
「スワット……? 聞いた事ない名だな」
「だろうな。だが、こちらに敵意はない。市民を守るために手を貸しただけだ」
俺はヘルメットのバイザーを上げ、自分の顔を晒した。
嘘偽りのない視線を送る。
モウラは鼻を鳴らし、少しだけ鎖を緩めたが、警戒は解かない。
「……ふん。確かに、お前らが助太刀しなけりゃ、アタシらは全滅してた。だが、信用するには情報が足りないね」
「ならば、責任者と話をしたい。この村の代表に会わせてくれ」
俺の要求に、自警団たちが顔を見合わせ、ざわめきと共に道を開けた。
その奥から、一人の少女がおずおずと歩み出てくる。
「わ、私が……村長のキャルルです」
現れたのは、銀色の髪に長い耳を持つ、小柄な少女だった。
年齢は20歳前後か。整った顔立ちにはまだあどけなさが残っているが、その紅い瞳には、村を守る責任者としての芯の強さが宿っている。
だが、その腰には不釣り合いなほど無骨な、特殊合金製のダブルトンファーが提げられていた。
(……ウサギ耳の村長、か)
ファンタジーここに極まれり、といった光景だ。
俺は小さく息を吐き、敬礼を送った。
「ポポロ村村長、キャルル殿とお見受けする。――俺の名はサメジマ。こっちはニコラス。しがない傭兵崩れだと思ってくれていい」
俺たちの異世界でのキャリアは、この奇妙な出会いから始まった。
弾丸一発の借金と、ウサギ耳の村長と共に。




