EP 2
「猛牛、花に目覚める――SWATのファッションチェック」
大根の葉っぱ生活二日目。
俺とニコラスは、村の広場のベンチで、虚空を見つめながら胃袋をさすっていた。
「……ボス。俺、もう緑色は見たくないっす」
「奇遇だな。俺もだ。……タンパク質が欲しい」
そんな俺たちの前に、巨大な影が差した。
自警団長のモウラだ。
彼女はいつものプレートアーマー姿だが、今日はなぜか鎖付き斧を持っていない。その代わり、顔を真っ赤にして、モジモジと指を組み合わせている。
「あ、あのさ……サメジマ、ニコラス……」
「ん? どうした姐さん。ゴブリンの群れか? それとも新しい筋トレの勧誘か?」
ニコラスが力なく尋ねる。
モウラはブンブンと首を横に振り、蚊の鳴くような声で言った。
「そ、そうじゃなくて……。アタシも、たまには……その……」
「その?」
「……か、可愛い服とか、着てみたいんだよぉッ!」
ドガッ!
羞恥心に耐えきれなくなったのか、モウラが地面を思い切り踏み砕いた。石畳にヒビが入る。
「……なるほど。状況は理解した(コピー)」
俺は冷静に頷いた。
彼女は22歳。戦いに明け暮れてきたが、年頃の女性だ。着飾りたいと思うのは自然な感情だ。
だが、今の俺たちに服を買う金はない。
「……キャルルに相談しよう。あいつなら何か持っているはずだ」
***
「わぁっ! モウラさんがお洒落!? 大賛成です!!」
村長宅を訪れると、キャルルは目を輝かせて手を叩いた。
彼女は早速、奥の部屋からクローゼットの中身を引っ張り出してくる。
「ちょうどよかった! ルナミスの商人から仕入れた新作のドレスがあるんです!
さあ、モウラさん! あっちで着替えましょう! サメジマさんたちは審査員をお願いしますね!」
俺とニコラスは、リビングのソファに座らされた。
目の前には即席のランウェイ(ただの廊下)。
「ボス……これ、どういう顔で見ればいいんすか」
「真剣に見ろ。女性が勇気を出して着飾るんだ。敬意を払え」
数分後。
カーテンが開いた。
【エントリーNo.1:純白のフリルワンピース】
「ど、どうだい……?」
現れたのは、フリルとリボンがたっぷりついた、アイドル風の白いワンピースを着たモウラ。
……正直に言おう。
彼女の鍛え上げられた上腕二頭筋と広背筋が、今にも繊細な布地を引き裂きそうだった。
「……うーん」
ニコラスが口元を押さえて震えている。笑いを堪えているのか、恐怖しているのか。
「……タクティカルな観点から言わせてもらえば」
俺は顎に手を当てた。
「その服は君の『強さ(長所)』を殺している。筋肉の陰影とフリルの相性が悪い。次だ」
モウラはガックリと肩を落とし(その拍子に袖が「ビリッ」と音を立てた)、再び奥へ消えた。
***
数回の試行錯誤を経て。
キャルルが自信満々に送り出した最後のコーディネート。
【エントリーNo.Final:真紅のイブニングドレス】
「……こ、これは……派手すぎないかい?」
モウラが恥ずかしそうに頬を染めて現れた。
深い赤色のドレス。背中が大きく開き、スカートには深いスリットが入っている。
大胆な露出だが、それが彼女の均整の取れた肉体美――鋼のような腹筋や、しなやかな脚のラインを完璧に引き立てていた。
「おおっ……!」
ニコラスが思わず身を乗り出した。
「すげぇ……! 姐さん、マジでカッコイイっす! ハリウッド女優みたいだ!」
俺もまた、感嘆のため息を漏らした。
野獣のような強さを秘めた美女。まさに『美女と野獣』を一人で体現している。
「……悪くない(ノット・バッド)。いや、最高だ」
俺はサムズアップを送った。
「君の纏う赤い闘気と色が合っている。
防御力はゼロだが、敵の目を釘付けにする破壊力はSランクだ。
戦場に咲く一輪の薔薇……と言ったところか」
「ば、薔薇だって……!?」
モウラはゆでダコのように顔を赤くし、嬉しそうに体をくねらせた。
「そ、そうかい? 似合ってるかい? ……へへっ、なら、これにするよ!」
その瞬間。
空気を読まない音が、部屋の隅から響いた。
パチパチパチッ!
「へい毎度! お目が高い!
そのドレスはルナミスの王室御用達ブランド『ベル・ローズ』の特注品!
お値段、勉強させてもろて……**金貨10枚(10万円)**になりまっせ!」
ニャングルが影から飛び出し、値札を突きつけた。
「じゅ、10万!?」
モウラが硬直した。
自警団長の給料でも、一括で払うには厳しい額だ。
「……うぅ。やっぱり、アタシには高嶺の花か……」
諦めかけて、ドレスを脱ごうとするモウラ。
その悲しげな背中を見て、俺の中の「男」が叫んだ。
ここでスマートに「俺が払う」と言ってこそ、SWAT(紳士)だろう。
俺はポケットに手を突っ込んだ。
指先に触れたのは……数枚の銅貨と、ゴブリン狩りで得た800円のレシートだけ。
(……クソッ! 金さえあれば!)
俺が歯噛みしていると、ニャングルがニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「おやぁ? 旦那方も姐さんも、先立つものがお困りのようで。
……なら、ええ話がありまっせ?」
「……ええ話だと?」
ニャングルは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、テーブルに広げた。
「ゴルド商会の極秘依頼や。
ポポロ村から帝都ルナミスまで、商会の売上金を運ぶ『魔導現金輸送車』の護衛。
危険度は高いが……報酬は100万円。即金払いや」
「ひゃ、100万!?」
ニコラスとモウラが同時に叫んだ。
100万円。
それがあれば、モウラはドレスが買える。
俺たちは借金を返済し、弾丸とタバコが買える。
そして何より――今夜の夕食が「肉」になる。
「……乗った」
俺は即答した。
ニコラスもモウラも、ギラついた目で頷く。
「やってやるよ! あのアカいドレスのためなら、ドラゴンだって殴り倒してやる!」
「へへっ、久々にデカイ仕事っすね、ボス!」
欲望(ファッションと食欲)に火がついた猛牛と野良犬たち。
俺たちの次なる戦場は、欲望渦巻く**「帝都への街道」**に決まった。




