EP 15
「給料日の悲劇――女神の強制徴収」
オーク・ジェネラル襲撃から数日後。
ポポロ村は復興作業の槌音に包まれていた。
そして、俺たちPMCシャークにとっても、待ちに待った日がやってきた。
「はい、これが今月分の報酬です! お二人とも、本当にありがとうございました!」
村長室で、キャルルが満面の笑みと共に分厚い封筒を差し出した。
その横では、ニャングルが悔しそうにハンカチを噛んでいる。
「うぅ……わてのへそくりが……。まあ、今回は特別ボーナスも込みや! 持ってけドロボウ!」
俺とニコラスは、震える手で封筒を受け取った。
ずしりと重い。
基本給20万円×2名+特別手当=合計50万円。
「ボ、ボス……! これ、現実っすよね!?」
ニコラスが目を潤ませて俺を見る。
「あぁ。現実だ、ニコラス。
これで……やっと『赤マル』がカートンで買える。コーヒーも、あの泥水みたいな代用茶じゃなく、本物の豆が挽けるぞ」
俺もまた、感極まって声が震えた。
命を懸けた戦いの対価。労働の喜び。
俺たちは英雄として村を守り、そして富を得たのだ。
「へへっ、俺はとりあえず、ベネリのカスタムパーツと……あと、キャルルちゃんに何か美味いもんでも奢りますかね!」
「いい心がけだ。俺はガンツに礼として、日本酒でも取り寄せてやるか」
夢が広がる。
俺たちはホクホク顔で村長宅を後にし、青空の下を歩き出した。
その時だった。
ピロリン♪
脳内に、ふざけた電子音が響いた。
俺とニコラスの足がピタリと止まる。
冷や汗が背中を伝う。この音は、あの部屋で聞いたスマホの通知音だ。
『あ、もしもし〜? 勇護く〜ん? ニコラスく〜ん?』
脳に直接響く、能天気な声。
女神ルチアナだ。
「……何の用だ。報告なら定時連絡で済ませたはずだが」
俺は空に向かって低い声で唸った。
『いや〜、君たちの活躍、天界から見てたよ! 凄かったね〜、あの電光キック! あ、君たちの地味な射撃もよかったよ?』
「……用件を言え」
『あのさぁ……今ね、私のやってるソシャゲで「水着イベント」が始まったの。
で、限定キャラの「サマー・ヴァルキリー」がどうしても欲しいんだけど……石が足りなくてさぁ』
嫌な予感がした。
俺は無意識に懐の封筒を握り締める。
「……それで?」
『単刀直入に言うね。
45万円、課金してくれない?』
「はぁぁぁぁぁッ!?」
ニコラスが絶叫した。
「ふざけんな! 俺たちの給料だぞ!? 命懸けで稼いだ50万だぞ!?」
『え〜? でも君たち、私のコネで異世界に来れたんだよね?
それに、今後の弾薬供給とか、メンテナンスキットの流通ルート……止まっちゃうと困るんじゃないかな〜?(チラッ)』
恫喝だ。
神による、抗えないパワハラだ。
「……45万は高すぎる。せめて半額……」
『あ、もう引き落とし処理しといたから☆ 残りは手数料として天界の口座に入れとくね!』
シュンッ!
俺の手元の封筒が軽くなった。
慌てて中を確認する。
分厚かった札束は消滅し、中にはペラペラの紙幣が数枚、寂しそうに残されているだけだった。
残金……5万円。
二人合わせて、5万円。
『ありがと〜! これで天井まで回せるわ! じゃ、来月もよろしくね〜! お仕事頑張って☆』
プツン。
通信が切れた。
俺とニコラスは、ポポロ村の青空の下で立ち尽くした。
通りかかったキャルルが、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? サメジマさんたち、どうしたんですか? 顔色が真っ青ですけど……」
「……いや、なんでもない」
俺は乾いた笑みを浮かべ、封筒をポケットにねじ込んだ。
「ニコラス」
「……はい、ボス」
「赤マルは諦めろ。コーヒーもだ」
俺は雑貨屋に向かって歩き出した。
「『わかば』だ。……一番安いタバコと、一番安い麦茶を買うぞ」
「……了解っす。うぅ……俺のカスタムパーツ……」
男泣きする相棒の背中を叩き、俺は空を見上げた。
そこには、昼間だというのに薄っすらと白い月が浮かんでいる。
あの月で、クソ女神がガチャを回して一喜一憂しているかと思うと、殺意が湧く。
だが、俺たちは生きていかねばならない。
この無作法な異世界で。
守るべき村と、理不尽な上司(女神)と共に。
PMCシャークの戦いは、まだ始まったばかりだ。
まずは――来月の家賃をどうするか、という戦いから。




