EP 13
「月夜の超電光流星脚――安全靴という名の最終兵器」
満月が、ポポロ村を真昼のように照らし出していた。
オーク・ジェネラルと対峙する小さな背中。
村長キャルルは、震えることなく、凛とした声で宣言した。
「……私の村で、これ以上好き勝手はさせません。
――誰も、傷つけさせません!!」
その言葉と共に、キャルルの全身から真紅の闘気が噴き上がった。
彼女はゆっくりと腰を落とし、両手を地面につく。
それは武術の構えではない。陸上競技の『クラウチングスタート』の姿勢だ。
「……ガンツさんの靴、使わせてもらいます!」
バチィィィィンッ!!
キャルルが踵に力を込めた瞬間、純白のブーツ――『機動防衛靴』のソールが悲鳴を上げた。
埋め込まれた雷竜石が起動し、紫色の稲妻が激しくスパークする。
強烈な磁場と反発力。地面の石畳が、そのエネルギーに耐えきれず亀裂を走らせる。
「……いっけぇぇぇぇッ!!」
ドンッ!!
爆音と共に、キャルルの姿が消えた。
いや、目に見えない。
地面がクレーターのように抉れ、紫電の残像だけが一直線に伸びている。
通常時、彼女の足は100mを5秒台で駆ける。
だが今、満月の魔力と雷竜石の推進力を得た彼女は、生物の限界を超えた。
キィィィィィン!!
甲高い音が鼓膜を打つ。
衝撃波。
彼女は――**音速(マッハ1)**を超えたのだ。
「な、何だと……!?」
オーク・ジェネラルが反応する暇さえなかった。
認識できたのは、目の前で閃いた紫の雷光のみ。
「私は……音速を超える!!」
キャルルはトップスピードのまま地面を蹴り、高く跳躍した。
背景には、巨大な満月。
その光を背に受け、彼女は空中で前方宙返りを決める。遠心力と重力、そして全闘気が右足の一点に収束していく。
それはまさに、天空から堕ちる雷の流星。
「でええええい!!
超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)!!」
キャルルの踵が、紫電の奔流と共にジェネラルの顔面を捉えた。
バリバリバリバリ!!
ドガガガアアアアン!!
落雷のような轟音と、肉が砕ける鈍い音が重なった。
ジェネラルの鋼鉄の兜が紙のようにひしゃげ、その下の顔面が黒焦げになりながら粉砕される。
「グオォォォォッ……!?」
断末魔すら上げる間もなく、巨体は砲弾のように吹き飛ばされた。
地面を数メートル削り取り、民家の壁を突き破ってようやく止まる。
ピクリとも動かない。完全に沈黙した。
土煙が舞う中、キャルルがふわりと着地する。
安全靴からは、まだバチバチと余剰電力が放出され、紫の煙を上げていた。
「……ら、雷神の……」
俺は呆然と呟いた。
あんなもの、SWATの装備でどうこうできる次元じゃない。戦術核に近い。
「……月兎……マジかよ……」
ニコラスも口をポカンと開けている。
ショットガンのスラッグ弾すら弾いた怪物を、たった一撃で消し炭にしたのだ。
「はぁ……はぁ……やった……」
キャルルは肩で息をしながら、勝利を確信してその場にへたり込んだ。
紅い瞳から闘気の光が消え、いつもの愛らしい村長の顔に戻っていく。
その時、周囲を取り囲んでいた残りのオークたちが、恐怖に顔を歪めた。
最強の将軍が、ウサギ一匹に瞬殺されたのだ。戦意は完全に喪失していた。
「……逃げろ! 化け物だ!」
「ブヒィィィッ!」
オーク軍団が蜘蛛の子を散らすように森へ逃げ帰っていく。
俺とニコラスは、逃げる敵を追う気力すらなく、ただ目の前の「最強の村長」を見つめていた。
(……おいガンツ。お前、とんでもねぇ兵器を作りやがったな)
俺は心の中で、あのドワーフの職人魂に戦慄しつつも、深く感謝した。
ポポロ村には、俺たちの銃よりも頼もしい守護神がいたのだ。




