EP 12
「弾丸の効かない悪夢――赤字確定の敗走」
「クソッ! クソッ! 死ねよ豚野郎ォォッ!」
ニコラスの怒号と共に、ベネリM4が連続して火を噴いた。
装填しているのは、散弾ではない。一発の巨大な鉛玉を撃ち出す『スラッグ弾』だ。
熊すら一撃で仕留める威力。しかも一発あたりのコストは、散弾の倍近い800円。
ドォン! ドォン! ドォン!
三発の轟音。計2,400円分の破壊力が、オーク・ジェネラルの胸板に吸い込まれる。
だが。
ガィィン! ガィィン!
硬質な音が響き、ひしゃげた鉛の塊が地面に転がった。
ジェネラルの全身を覆う赤黒い闘気が、物理エネルギーを完全に相殺しているのだ。
「嘘だろ……!? スラッグ弾だぞ!?」
「無駄だ、ニコラス! 下手に撃つな、金ドブだぞ!」
俺は叫びながら、Korthのリボルバーを構え直した。
正面からの火力勝負では分が悪い。狙うなら、闘気の薄い関節か、あるいは――。
「――小賢しい羽虫どもが!」
ジェネラルが吠え、丸太のような腕で巨大なバトルアックスを振り上げた。
ただの横薙ぎ。だが、その風圧だけで周囲の松明が消える。
「回避ッ!」
俺とニコラスは左右に飛び退いた。
一瞬前まで俺たちがいた場所を、轟音と共に斧が通過し、背後の民家を豆腐のように両断した。
ズガァァァァンッ!!
家が倒壊し、土煙が舞う。
これが、レベルの違いだ。俺たちの世界には存在しない、質量と魔力の暴力。
「ボ、ボス……! これ、シャレになんないっすよ!」
ニコラスが顔を引きつらせて後ずさる。
「下がるな! 俺たちが引けば、後ろの避難民が皆殺しにされる!」
俺は盾を構え、前に出た。
恐怖を押し殺し、冷静さを保つ。
奴が大振りの攻撃をした直後、その一瞬の隙。
「今だッ!」
俺は踏み込み、ジェネラルの懐に潜り込んだ。
Korthの銃口を、奴の脇腹――鎧の継ぎ目に押し付ける。
ゼロ距離射撃。
ズドンッ!!
手首が折れそうなほどの反動。
マグナム弾が至近距離で炸裂した。
……手応えはある。だが。
「……鬱陶しい」
ジェネラルは表情一つ変えず、俺を盾ごと裏拳で殴りつけた。
ゴガッ!!
「ぐあぁっ!?」
視界が明滅する。
俺の体はボールのように吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
激痛が全身を走る。左腕の感覚がない。
見れば、頼みの綱である特殊合金製の盾が、ひどくひしゃげていた。
(……盾が……俺の資産が……!)
修理費いくらかかるんだ、と益体もない思考が頭をよぎる。
「ボスッ!!」
ニコラスが駆け寄ってくるが、ジェネラルは既に次の標的を俺たちに定めていた。
「脆い。あまりに脆いな、人間。
貴様らの武器は、音ばかり大きくて中身がない。まるで貴様らの命そのものだ」
ジェネラルが一歩、また一歩と近づいてくる。
その背後では、連携を崩された自警団員たちが、次々と雑魚オークたちに組み伏せられていた。
全滅。
その二文字が脳裏をよぎる。
弾薬は残りわずか。
盾は破損。
モウラは沈黙。
「……ニコラス。最後のスタングレネード(閃光手榴弾)は?」
「……さっきの雑魚散らしで使っちまいましたよ!」
「そうか……。なら、残りの弾を全部ぶち込むぞ」
俺は震える手でKorthを起こし、残弾を確認する。あと2発。
これが尽きれば、俺たちはただの無力な異邦人だ。
ジェネラルが斧を高く振り上げる。
その刃が、月明かりを反射して鈍く光った。
「死ね」
振り下ろされる死の刃。
俺は歯を食いしばり、トリガーに指をかけた。
その時。
――私の村で、好き勝手しないでくれますか?
鈴を転がすような、しかし氷のように冷徹な声が戦場に響いた。
直後。
上空の雲が裂け、満月の光がスポットライトのように戦場を照らし出した。
ヒュンッ!!
風を切り裂く音。いや、それは音速を超えた衝撃波。
ジェネラルの巨大な斧が、見えない「何か」に弾かれ、火花を散らして軌道を逸らされた。
「……な、何奴だ!?」
ジェネラルが驚愕の声を上げて後退る。
俺たちの目の前に、一人の少女が音もなく着地した。
銀色の髪が月光に輝き、紅い瞳が夜闇の中で燃えるように光っている。
その足元には、バチバチと紫電を放つ白いブーツ。
「……キャルル……?」
俺が知る村長の顔ではない。
そこに立っていたのは、かつて「最強」と謳われた、月兎族の戦士の姿だった。




