表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無作法な異世界にSWAT流の鉄槌を ―弾丸一発一千円、女神と契約した俺たちの戦術防衛記―』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

EP 10

「嵐の前の月見大根――最強の安全靴と、おでんの味」

 その夜、ガンツの工房から、満足げなドワーフの声が響いた。

「できたぞ! これぞワシの最高傑作……『機動防衛靴ガーディアン・ブーツ』だ!」

 作業台の上に置かれていたのは、一見するとお洒落な白い革のブーツだった。

 キャルルの服に合わせたのか、赤いステッチが可愛らしく施され、内側にはフカフカの毛皮が張られている。

「……おい、ガンツ。俺は『安全靴』を頼んだはずだが?」

 俺は疑わしげにブーツを手に取った。

 見た目は完全にファッション重視だ。これでは落下物から足先を守れるか怪しい。

「安心しな。中身はガチガチだ」

 ガンツがニヤリと笑う。

 俺がブーツのつまトゥをコンコンと叩くと、確かに硬質な金属音が返ってきた。

「つま先と踵には、以前アンタが持ち込んだナイフの削りカス――特殊合金を埋め込んである。ここまでは注文通りだ」

「ここまでは、だと?」

「問題はソール(靴底)よ。……おいニコラス、ちょっと触ってみな」

 言われて、横にいたニコラスが不用意に靴底に指を伸ばした。

 バチィッ!!

「ぎゃあああっ!?」

 派手なスパーク音と共に、ニコラスが弾かれたように後ろへ吹っ飛んだ。

 白目を剥いて痙攣している相棒を尻目に、ガンツが得意げに胸を張る。

「『雷竜石』をソール全体に敷き詰めた。

 普段は絶縁魔法で保護されてるが、履き手が『守る意志(闘気)』を込めると、紫電の反発フィールドを展開する。

 つまり、どんな悪路でも滑らねぇし、高所から飛び降りても衝撃をゼロにする。……どうだ、究極の『安全』だろう?」

「……あぁ。安全すぎて涙が出るな」

 俺は呆れながらも、その技術力に舌を巻いた。

 これはただの靴じゃない。「対人地雷」を履いて歩くようなものだ。

 ***

「わぁっ! 可愛い!!」

 村長宅に届けたブーツを見るなり、キャルルは目を輝かせて飛びついた。

 早速履いてみると、サイズはオーダーメイドのように完璧だ。

「すごい! すごく軽いです! それに、足がポカポカします!」

「雷竜石の微弱電流が血行を良くしてるんだろ。……気に入ったか?」

「はい! ありがとうございます、ガンツさん、サメジマさん!」

 キャルルが嬉しさのあまり、ぴょんと軽くその場でジャンプした。

 着地した瞬間。

 ズドンッ。

 床板が軋み、キャルルの足元から紫色の火花が散った。

 衝撃を吸収したはずなのに、なぜか床に焦げ跡ができている。

「……キャルル。家の中で跳ねるな。床が抜ける」

「あ、あれ? ご、ごめんなさい!」

 俺はため息をつきつつ、彼女の脚力とこの靴が組み合わさった時の「破壊力ポテンシャル」を想像して、少し背筋が寒くなった。

 ***

 その夜、村の広場では「月見大根の収穫祭」さながらの宴が開かれていた。

 大鍋で煮込まれた月見大根の香りが、夜風に乗って漂ってくる。

「ほら、サメジマさんたちも食べて!」

 キャルルがよそってくれた椀には、出汁をたっぷり吸って琥珀色になった大根と、ピラダイのつみれが入っていた。

 俺とニコラス、そしてモウラやガンツ、ニャングルも車座になって鍋を囲む。

「……いただきます」

 熱々の大根を口に運ぶ。

 ジュワリと溢れる出汁の旨味。そして、ピラダイのつみれから出る濃厚なコク。

 これは……。

「……おでんだな」

「オデン? なんですかそれ?」

 キャルルが小首をかしげる。

「俺の故郷の料理だ。……寒い夜に、こうやって鍋を囲んで食うんだ」

 俺は夜空を見上げた。

 二つの月が浮かぶ異世界の空。だが、この温かさと味だけは、懐かしい故郷のものと同じだ。

「へぇ、ボスの故郷にもこんな美味いもんがあるんすね」

 復活したニコラスが、ハフハフと大根を頬張りながら笑う。

「あぁ。……悪くない」

 月給20万円。命懸けの任務。

 割に合わない仕事だと思っていたが、この瞬間だけは、悪くないと思えた。

 守るべき笑顔と、温かい食事。

 SWAT時代には忘れていた「充足感」が、俺の胸を満たしていた。

 ――だが。

 戦場の神は、俺たちに休息を与えるほど甘くはない。

 ズゥゥゥゥン……。

 スプーンを口に運ぼうとした俺の手が止まる。

 地面の底から響くような、重苦しい振動。

 最初は微かだったが、次第に近づいてくる。

「……おい、地震か?」

 モウラが立ち上がり、周囲を警戒する。

 俺は即座に椀を置き、風の匂いを嗅いだ。

 大根の優しい香りが消え失せ、代わりに鼻をついたのは――腐った肉と、強烈な獣臭。

「……総員、戦闘配置バトル・ステーション!」

 俺が叫ぶと同時に、広場の明かりが一瞬にして緊迫の色を帯びた。

 子供たちを避難させるキャルル。武器を取る自警団。

「南の森からだ! 数が違うぞ!」

 見張りの悲鳴のような報告。

 暗闇の向こうから現れたのは、ゴブリンなどではない。

 鋼鉄の鎧を纏い、巨大な斧を引きずった、身長3メートルを超える怪物の群れ。

「……嘘だろ。なんでこんな辺境に……」

 ニコラスがベネリのセーフティを解除しながら、乾いた笑い声を漏らす。

「オーク・ジェネラル(豚鬼将軍)のお出ましだ」

 平和な宴は終わった。

 俺たちの弾薬カネと命を削る、本当の戦争が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ