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二人の世界 

駅前からは少し離れた、知る人ぞ知る隠れ家的な居酒屋。


佐織と勇太はカウンター席に並んで座っていた。


佐織は生レモンサワー、勇太は生ビールをジョッキで飲んでいた。


「……で、どうだったの?隼人君と結衣ちゃんの二人の再会シーンは?」


佐織は、サワーにレモンを絞りながら勇太に聞いた。



「それがさぁ、いつ来るのかと思って待ってたらね、結衣ちゃん、今日卒業式だったみたいで真っ赤な顔して息切らしてカフェに現れたんだ。」


「えっ、卒業式だったんだ。」


「うん。」


「結衣ちゃんは、可愛かった?」


「うん、凄く可愛かったよ。目が大きくて、髪の毛サラサラで。」


「へぇ、そうなんだ。勇太君、よく観察してるね。」


「観察って、ただありのままを述べただけで。別に変な意味じゃなくて、可愛い子だったから……。」

勇太は、慌ててビールを一口飲んだ。


佐織は、運ばれてきた焼き鳥の串を黙って外しながら、勇太の方をチラッと見た。


「結衣ちゃん、先着20名様を信じていたから、もう、マドレーヌはなくなっていると思ってたんだよ。

そこに隼人が彼女のためにとっておいたマドレーヌの袋をさっと目の前に置いたから、結衣ちゃん、感激しちゃってさ。」


佐織の動きが止まる。


「……隼人君が、自分からそんな気の利いたことを? 誰に教わったのかしらね。」


「誰だと思う?」

勇太はジョッキを置くと、佐織に向き直った。


「えっ、誰よ。」


「それがさ、俺なわけ。」


得意気に勇太が言うのを佐織は聞いて

「たまには勇太君もやるじゃない。」と勇太を褒めた。


「たまにはって。それは余計だよ。」

勇太が口を尖らせている。


勇太が拗ねているのには佐織は気を留めず、一番聞きたかったことを聞いた。


「その時、咲耶はどうしてたの?」


「えっ、咲耶?」

焼き鳥を串ごと食べていた勇太は複雑な表情を浮かべた。


「正直に言うけど、あの場にいて……ちょっと不安になったんだ。」


「不安って?」


「咲耶は良い妹だけど、絶妙なタイミングでおしぼりは出すし、メニューをすっと差し出すしで……。

あの二人の『阿吽の呼吸』、見たことあるだろ?

咲耶が、隼人の考えてることが手に取るように分かっちゃう感じ。」


「やっぱり、そうなったか……。」

佐織は落ち着かない様子でサワーの入ったグラスをマドラーでぐるぐるとかき混ぜている。

中の氷がカラカラと音を立てた。


「結衣ちゃんも仲間に入れてもらって嬉しそうだったけどね。

結衣ちゃん、咲耶のことは綺麗だって言ってみとれているし、咲耶も結衣ちゃんを可愛がっていたし……。

でも、なんて言うか、あの二人の完成された世界に、外から一歩踏み込むのは、相当きついぜ。」


「二人の世界は、凄く美しい世界、崇高な世界よね。魂が響き合うようなそんな世界。」

佐織は虚空を見つめて呟いた。


「まっ、そんな世界だよな。

しかも、あの二人無自覚だからさ。いつも当たり前のように二人の世界に入りこんでる。

容姿さえ、気にしてないしな。二人ともかなりのイケメンと美人なのに。あの二人に今まで何人の人が泣かされてきたか……。」


「そうそう。被害者、続出だよね。」

佐織はそう言うとふふっと笑った。 


二人の前にだし巻き玉子と揚げ出し豆腐が運ばれてきた。

佐織がだし巻き玉子を勇太の取り皿に一つ置いた。


「結衣ちゃん、いつかあの二人の特別な関係に気がついちゃうだろうな。」


佐織の言葉に勇太も

「そうだろうな……何だか気の毒になるよ。」と頷いた。


「でも、結衣ちゃんがもしかしたら、隼人を変えるかもしれないけどな。」

佐織が取り分けてくれただし巻き玉子をもぐもぐ食べながら勇太が言った。


「どうなるかなぁ。

あっ、もう飲み物がないね。次、何頼む?」

佐織がメニューを勇太に見せる。

ここからは、二人きりのデートを楽しもうと佐織と勇太は、メニューを覗き込んだ。


勇太たちが居酒屋にいた頃ーー

結衣は自分の部屋で隼人からもらったマドレーヌの袋を見つめていた。


隼人さんのマドレーヌ、今、食べちゃおうかな。

結衣は袋をそっと開け、マドレーヌを一つ口に運んだ。


まわりは少し固くてサクサクとした食感だが、中は柔らかくバターの風味が口一杯に広がる。


凄く美味しい。

隼人さんのような優しい甘さ。

胸がいっぱいになる……。

隼人さん、私のために焼いてくれたんだよね。


結衣はまた、隼人に会える日を楽しみに生きていこうと思った。

この恋は大切にしたいなーー

結衣はそう思った。





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