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希望が満ちる場所 -五月の空へ-

新緑が眩しい五月の土曜日。


カフェ・エスポワールの入り口には、白いバラと繊細なレースのデコレーションが施され、街ゆく人々が足を止めて中を覗き込んでいる。


「直也君、司会の原稿、最終チェック終わった?」


「うん、大丈夫。

何度も見直したからね。」

野崎がそう言うと今日のクリーム色のドレス姿の結衣を

眩しそうに見た。


「何だか……いつもの結衣ちゃんと違って見えるな。

ドレス、よく似合ってる。」


「本当に?ありがとう。」

野崎の褒め言葉に驚いた様子の結衣だったが、素直にお礼を言うと、

「さあ、直也君、私たちの出番よ。」と身を引き締めるように直也を見つめた。


少し大人びた表情の二人が、緊張気味の勇太と佐織をリードして、式が始まった。


バイオリンとピアノの生演奏が流れる中、佐織が勇太の肘に手を添えて、人々の間をゆっくりと歩く。


佐織は自分でデザインし、縫い上げたウェディングドレスを身に纏っていた。

胸元にレースをあしらい、所々に光るビーズが縫い込まれているドレスは、佐織が動く度にキラキラと輝いて見えた。

手には、咲耶が作った白いバラとカスミソウのブーケが握られている。


咲耶の母、真紀が結婚式に着ていたドレスに憧れて服飾関係の仕事に進んだ佐織だったが、ついに自分の結婚式に自身でデザインしたドレスを着る夢を叶えたのである。


新郎新婦が席に着いた頃--

キッチンでは、隼人と近所のフレンチレストラン『ラ・セーヌ』の原田シェフが、阿吽の呼吸で料理を盛り付けていた。

「隼人君、メインのソース、いくよ。」 


「はい、シェフ。お願いします。

珈琲の抽出もベストです。」

二人のプロが作り上げる香りが、キャンドルの灯った店内を幸せそうに満たしていく。


カウンターの隅では、壮一と潤が肩を並べて座っていた。

「壮一さん、隼人君、あんなに良い豆を本当に上手に淹れるようになりましたね。」

潤が、壮一が世界中から厳選して仕入れた豆を見つめて呟く。


「そうですね。潤さんが愛したこの店で、私が選んだコーヒー豆を隼人が最高の一杯にする。これ以上の幸せはないですよ。」

二人の父親は、静かに笑い合い、カップを合わせた。


披露宴のクライマックス。

勇太と佐織のプロフィールムービーが流れる。

幼少期の二人の可愛らしさに自然と注目が集まった。


「あれ、勇太君?今より小柄な感じで可愛いね。」


「佐織ちゃんも活発そうで笑顔がチャーミングね。」


付き合い始めてからの幸せそうな二人の様子には、皆が目を細め、笑顔で拍手を送った。


こうして、映研の佐々木と阿部は、音響や映像の明るさを調節しながら、心を込めて二人のプロフィールムービーを人々の元に送り届けることができ、安堵した。


窓の外からは心地よい春の風が吹き込んできた。


日下部さんは、カフェに集まった人たちのあらゆる光景を逃さずシャッターを切り続けている。

その表情には、自信が漲り、人々の大切な1日を切りとろうとする優しさに溢れていた。


「隼人、ありがとう。」

タキシード姿の勇太が、固い握手を求めてきた。


「お前がこんな素晴らしい結婚式を用意してくれて、俺と佐織は、最高のスタートが切れたよ。」


「こちらこそ、勇太。エスポワールで式を挙げてくれて。俺は、新しい希望をもらえたよ。」


隼人も勇太の握手に応え、親友同士、じっと見つめ合った。


咲耶は受付から、誇らしげに隼人の姿を見ていた。

「隼人、やったね。素敵な式になったよ。」

そう一人で静かに呟いた。


「隼人……世界で一番美味しい珈琲と、最高の結婚式ね。」

祖母、光恵の目には涙が溢れていた。


真紀が佐織に歩み寄り

「佐織ちゃん、凄く素敵なドレスね。

あなたの手作りなんでしょう?とても美しい花嫁さんよ。」

と言うと佐織は「ありがとうございます。」と真紀の手をとって、涙を流した。


それらすべてが、隼人の胸を熱く満たしていった。


式が終わる頃には、店の外に勇太の教え子たちが先生を一目見ようと集まってきていた。


「お前ら、来てくれたんだ!」

勇太が生徒たちに気がついて笑顔で声をかける。


「わぁ~、先生、タキシード似合ってる。」

「先生の奥さん、綺麗ですね。」

生徒たちは、外に出てきた勇太や佐織を取り囲んではしゃいでいた。


行き交う人たちは、そんな新郎新婦の様子を微笑ましそうに眺めては通りすぎていく。


カフェ・エスポワール。

かつて先代が守り育てた場所。

潤はこのカフェで働きながら自分と向き合った。

時は流れ、今では壮一や由紀に支えられ、隼人がここで新たな『希望』という花を咲かせている。


新しい季節が巡るたびに、この店はまた、誰かの大切な物語を包み込んでいくのだろう。



結婚式が無事に終わり、カフェに日常が戻ってきた。


誰かが今日もカフェの扉を開ける。


「いらっしゃいませ。カフェ・エスポワールへ。」

隼人の柔らかな声が、五月の空に優しく溶けていった。


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