春の昼下がり
日差しが明るくなり、春を感じさせる。
そんな昼下がりーー。
咲耶と佐織はいつものイタリアンレストランで食事をしていた。
「ねぇ、咲耶。」
「えっ?何?」
パスタを食べる手を止めて、咲耶が佐織を見る。
「昨日の日下部さんとの夕食、どうだったの?」
「あぁ。昨日の夕食ね。
美味しかったよ。日下部さんのおすすめの和食屋さんで食べたけど……。」
のんびりとした咲耶の口調に
「いや、そういうことじゃなくて。」と佐織がちょっとじれったそうに言う。
「じゃあ、どういうこと?」
咲耶は美味しそうにまた、パスタを口に運ぶ。
「何かさぁ、日下部さんに付き合おう的なこと、言われなかった?」
「別に……。また、一緒にご飯行きましょうとは言われたけどね。
あと、日下部さん、写真が好きみたいで写真展に誘われた。
自分が撮った写真が展示されてるとかで。」
「それって、デートだよね。」
興奮気味の佐織を見ながら咲耶は首を傾げた。
「デート……なの?」
「そうだよ。」
「ふ~ん。」
咲耶の怪訝そうな態度に呆れたような佐織の顔。
「咲耶ってさ、高校時代も大学時代も特定の人を作らなかったよね。
たまに同級生や先輩に誘われて、映画に行ったりしたけど毎回、一度きりみたいな……。」
「そうだね……。
だって、話も合わないし。
別に隼人や佐織がいたから、話す人いたし。」
「隼人君?」
「うん。気を遣わないで話せるよ、隼人とは。」
「そ、それはそうだろうけど。」
「隼人とは、いくらでも話ができるし、感性が合うっていうか、楽しいんだよね。
話していて……。」
「咲耶……。」
隼人君は、兄妹でしょうという言葉をやっとの思いで飲み込んだ。
考えてみれば、咲耶と隼人は赤ちゃんの頃に生き別れて……また、高校生になって再会した。
まぁ、他人に近かったかもしれない。
でも、恋人にはできないんだよなぁ。
お互いに……。
佐織は美味しそうに食べる咲耶をじっと見つめていた。
実は、日下部に佐織は咲耶について、色々聞かれていたのだ。
食べ物は何が好きかとか、どんな所に連れて行ったら喜ぶかとか……。
でも、付き合って欲しいとまだ言えないのは、日下部の自信の無さ故のことかもしれない。
日下部さん、誠実で良い人そうなのに可哀想だな……。
佐織の頭の中には、日下部の人の良さそうな顔が浮かんだ。
「どうしたの、佐織。食べないの?」
咲耶の不思議そうな顔を見て
「ううん、食べるよ。大丈夫。」
佐織が精一杯の笑顔で答える。
「早く食べないとお昼休み、終わっちゃうよ。」
「そうだね。」
佐織と咲耶は急いでパスタを平らげ、席を立った。
「そういえば……。
昨日勇太君から聞いたんだけど隼人君、バレンタインデーにチョコをもらったんだって。」
レストランから会社へ向かう道で佐織が咲耶にバレンタインデーの話をし始めた。
「えっ、そうなの?誰から?」
「それがさぁ、女子高生からなんだって。」
「女子高生?
隼人はどこでそんな若い人と知り合ったのかな?」
「お店に来ていたお客さんみたいよ。」
「そうなんだ。」
「隼人君、手作りチョコに驚いて、ホワイトデーのお返しを考えているようで……。
でも、まだその子の連絡先も知らないみたい。」
「ホワイトデーねぇ……。」
咲耶はしばらく考えていたが、
「私、良いこと思い付いたかも。」と言い出した。
「良いこと?どんな?」
「後で話す。勇太君にも協力してもらわないと……。」
「え~っ、勇太君に?ますます聞きたい。
今、聞かせて~っ。」
佐織がお願いモードになったが、
「仕事が終わってからね。」と咲耶は笑いながら歩いている。
しばらくして、「わかったよ。」としぶしぶ答える佐織。
二人は、会社の入り口まで戻ってきた。
花壇に咲く色とりどりのビオラが、日差しを浴びて賑やかに二人を迎え入れてくれた。
「一体、咲耶は何を思い付いたんだか……。」
咲耶の横顔をそっと見ながら佐織は一人思いを巡らせていた。




