繋がる想い-広がる夏の輪-
勇太と隼人が夏のイベントについて話をした後……
数日経って、カフェ・エスポワールの扉を開けたのは、結衣と野崎だった。
「こんにちは、隼人さん。」
結衣が先に声をかける。
「お久しぶりです。」
野崎が結衣の後をついてカフェに入ってきた。
「いらっしゃい。二人とも待ってたよ。」
隼人の穏やかな声が二人を迎える。
「どうぞ、今日はカウンターに座ってもらえる?」
隼人に促されて、結衣と野崎がカウンターに並んで座った。
「何にする?今日は僕が二人を呼んだから、奢るよ。」
隼人がおしぼりを置いた後、メニューを渡す。
「本当ですか?じゃあ、私、アイスカフェ・オレで。」
「俺は……アイスコーヒーで。」
二人はオーダーした後、仲良さそうに目を合わせ、何の話だろうと隼人の方を見上げている。
隼人はまず、氷を入れたガラスのカップにドリップしたばかりの濃いめの珈琲を注ぎ入れる。
出来上がったアイスコーヒーを野崎の前へ。
結衣には、同じく氷を入れたカップにまずは牛乳を入れ、その後ドリップした珈琲を氷に当てるように丁寧に注ぎ入れて、アイスカフェ・オレを作った。
「わぁ~っ、ミルクと珈琲が二層になっていて綺麗。」
結衣が見とれている。
「さぁ、どうぞ。」
隼人が二人に微笑みかける。
「いただきます。」
結衣と野崎の声が重なる。
「……美味しい。」
結衣がストローでミルクと珈琲を軽く混ぜてから一口飲んで、呟いた。
「うん。珈琲が濃くて美味しいね。」
野崎も冷たさと珈琲の渋みを感じて満足そうに飲んでいる。
「良かったら、これもいっしょにどうぞ。」
隼人はラム酒入りの生チョコレートも出してくれた。
早速チョコを一つ、つまんで食べた結衣は
「これは、大人の味ですね。野崎君も、食べてみて。」
と野崎にもチョコを勧めた。
「珈琲に合うね。美味しい。」
野崎もチョコを食べながら顔を綻ばせた。
「それでね、今日、二人に来てもらったのは……。
頼みたいことがあったからなんだ。」
隼人が話を切り出した。
「私たちにできることですか?」
結衣が少し心配そうに聞く。
「うん、実はこのカフェで夏のイベントを開こうと思うんだけど…。
夜カフェをするんだ。
そこで二人には、朗読をしてもらいたい。」
「朗読ですか?」
野崎が隼人を真剣な面持ちで見る。
「夜カフェかぁ。素敵なイベントですね。
朗読は、どんな物を朗読すれば良いんですか?」
結衣も興味を持って聞いてくる。
「誰かの小説の一説でも、詩でも……
二人の好きなもので良いよ。自由に選んでくれて。」
「そうですか。直也君、声も良いし、朗読上手だからやったら?」
「えっ、俺?」
「そう。良いと思うよ、私は。」
結衣が明るくそう言うと野崎は一瞬、戸惑いの表情を見せたが、すぐに決心したように言った。
「それでは、やらせてもらいます。」
「本当に?ありがとう。協力してくれて。」
隼人は嬉しそうに野崎を見た。
「隼人さん、イベントでは他にどんなことをするんですか?」
結衣の問い掛けに隼人はすぐに答えた。
「お客さんたちの音楽の演奏。
あと短編の自主映画の上映とか、写真のスライドショーなんかを考えているんだ。」
「へぇ。盛りだくさんで、とっても楽しそうですね。」
結衣はワクワクしたように隼人を見ている。
「自主映画については、これからSNSで作っている人を探そうとは思っているんだけど……。」
「そうなんですね。」
結衣がしばらく考えていると
「結衣ちゃん、それならうちの大学の映研なんかどうだろう?」
と野崎がふと思い付いたように結衣を見た。
「映研?あぁ、映像研究会のことか。
この間、校内で撮影してたね。そう言えば。」
「うん。俺、友だちいるんですよ、映研に。
どんな映画作っているのか、聞いてみましょうか?
発表する場があれば喜ぶかもしれない。
過去に作った作品ならすでに何本かあるだろうし。」
「えっ、野崎君、聞いてくれるの?」
「はい。隼人さんが良ければですが……。」
「ありがたいよ。そうしてもらえると。
このカフェのすぐ近くに野崎君たちの大学があるし。
地域との関わりがより深くなるきっかけにもなるから。」
「わかりました。じゃあ、俺、友だちに聞いてみます。」
隼人の嬉しそうな顔を見て、野崎も張り切ってそう答えた。
そんな野崎や隼人のやり取りを結衣もニコニコしながら聞いている。
「夜カフェではね。ライトも舞台以外は消して、テーブルのキャンドルの灯りだけで過ごせたらと思っているんだ。」
「それは、素敵ですね。」
結衣が想像してうっとりとしている。
「これ、全部勇太のアイディアなんだ。」
「えっ、勇太さんの?」
「うん。」
「あの勇太さんが……。勇太さんってアイディアマンなんですね。」
「そうなんだよ。」
「勇太さんって誰?」
野崎が結衣に聞くと
結衣の代わりに隼人が答えた。
「俺の高校時代からの親友。このカフェも時々手伝ってくれるんだ。
今は、俺たちの母校の体育教師をしてる。」
「えっ、先生されているんですか?」
野崎が反応する。
「うん。」
「すっごく、気さくで良い方よ。」
結衣も思い出したように野崎に言った。
「俺、その勇太さんに会ってみたいな。」
「彼は、夜カフェも手伝う予定だから会えると思うよ。
今は、高校で担任も持ってるそうだ。」
「そうなんですね。色々勇太さんと話をしてみたいです。」
「あぁ、野崎君も教育学部だから、先生になりたいんだよね。」
「はい。まだ、実習にも行ってないし、自分に向いているかはわからないんですが、教師には憧れていて……。」
「そう。勇太も君みたいな人に会ったらきっと喜ぶよ。」
隼人は、優しい笑みを浮かべて野崎を見た。
あっ、この笑みはドキッとするな。
男の俺でも……。
隼人さん、人気なのわかるよ。
そんなことを思いながら隼人を見る野崎。
結衣は野崎の横顔を見ながら、彼が隼人さんと仲良くなるのは、嬉しいなと思っていた。
自分の好きな人がまた、好きな人と繋がっていく--。
勇太さんも面白くて温かな人だって私にもわかるよ。
直也君、勇太さんと会ったら話が弾みそう。
夜カフェ、楽しみだな……。
結衣は、カップに残ったアイスカフェ・オレを飲み干した。
その後も溶けかかった氷をストローでシャリシャリかき混ぜていると……
「結衣ちゃん、何かもう一杯飲む?野崎君も。」
隼人が声をかけた。
「えっ、いいんですか?」
ぱっと結衣の顔が輝いた。
そのあまりに嬉しそうな結衣の顔に隼人も野崎も可笑しそうに笑った。
こうして、カフェ・エスポワールの夜カフェ開催に向けて準備は、着々と進められていく。
ここに集う人たちにとって心に残る楽しい一夜にしたいな。
隼人の夢は広がっていった。




