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夏の始まり

梅雨が明け、眩しい日差しに咲耶は思わず目を細める。


空には真っ白な入道雲が見え、夏の到来を告げていた。


咲耶と佐織は、中華料理店の前に立った。

自動扉が開くとひんやりとした空気が流れてくる。


「あ~っ、涼しい。生き返るわぁ。」

店内に入った佐織がハンカチで汗を拭いながら言った。


「本当に。梅雨が明けた途端にこの暑さだものね。

参っちゃう。」

咲耶も暑さで顔を真っ赤にしていた。


スタッフに二人掛けのテーブルに案内され、咲耶と佐織は席についた。


メニューを開いて

「何にする?」

「どうしようか?」と迷っていた二人だが……


「私、暑いから冷やし中華にする。」という佐織に

「じゃあ、私もそれで。」と咲耶も同じものを頼むことにした。


店内はクーラーがほどよく効いていて、佐織の汗もひいてきたようだ。

「そういえば……最近、結衣ちゃんはどう?

隼人君と仲良くしてる?」


「えっ、結衣ちゃん?」


「うん。」


咲耶は、メニューから少し視線を上げて

「結衣ちゃんには、野崎君って人が現れたのよ。」とさらっと言った。


「野崎君?誰、それ。」


「彼は結衣ちゃんの大学の同級生で同じサークルに所属してるのよ。」


「そうなんだ。」


「この間のカフェの子ども向けのイベントにも手伝いに来てくれて。

結衣ちゃんと一緒にね。」


「えっ、カフェのイベントに?

まさか、隼人君が呼んだの?」


「そうなのよ。隼人が自分より結衣ちゃんには、野崎君がふさわしいって言って。」


「結衣ちゃんは隼人君が好きなのに?」


「……うん。」


「隼人君も結衣ちゃんには、特別な感情がなかったってことか。

それにしてもねぇ。」

佐織は、少し呆れたという顔をして言った。


しばらくすると、冷やし中華が二人のテーブルに運ばれてきた。


「いただきます。」

手を合わせると、佐織が箸を取った。


咲耶も食べ始める。


「ん?さっぱりしていて美味しいね。」

佐織が顔を綻ばせた。


「うん、やっぱり夏には冷やし中華だね。」

咲耶も甘酢が効いた冷やし中華を美味しそうに食べている。

胡麻油の香りが食欲をそそる。


「結衣ちゃんは、その野崎君と付き合ってるの?」


「さぁ……そこまではわからないけれど。

イベントの後に二人が仲良さそうにカフェに来てたって隼人が言ってたから、うまくいったんじゃないかな。

結衣ちゃんと野崎君。」


咲耶の話を聞いて、佐織はまた、隼人君は一人でいることにしたんだと思った。


咲耶も隼人君も誰も選ばない。

いや、誰も必要ないのかもしれない。

お互いがいれば、ただそれで良い。

何の不足もない。

そんな二人--。


佐織は、そんなことを考えながら麺をすすっていて、少しむせてしまった。


咳をして、コップの水を飲む佐織を心配そうに咲耶が見ている。


「佐織、大丈夫?」


「うん、大丈夫、大丈夫。」


佐織は自分の考えていたことが、咲耶には知られないよう、そっと胸の内にしまった。


「咲耶は、寂しくない?」

ふっと佐織が聞いた。


一瞬箸を持つ手が止まったが、咲耶の表情には何の波も立たなかった。


「うん、全然。

何?急に……。」

咲耶が不思議そうに佐織を見た。


「そっか。じゃあ、いいよ。」

佐織は咲耶の顔を見て、安心するように言った。


咲耶が幸せなら、それでいい。

別に誰かと付き合わなくったって……。

隼人君もそうだよね。


佐織はそう思ったら自然と笑みがこぼれた。


「えっ、どうして佐織は私を見て笑ってるの?」


「笑ってなんかいないよ。微笑んだだけでしょ。」

佐織が可笑しそうに言う。


「絶対、笑ってたよ。」


ちょっと怒っている咲耶も可愛いなと思いながら、佐織は親友を見つめた。


「もう、お昼休み終わっちゃうよ~。こんなゆっくり食べてたら……。」

咲耶は、急いで冷やし中華を頬張っていた。


「また、外に出ると思うと嫌になっちゃうね。」


佐織は、まばゆい光に溢れた窓の外を見て、大きなため息をついた。


今年も天気予報によるとこれから数ヵ月、この暑さと闘うことになりそうだ。


社会人の夏は、学生の頃の夏とは全然違う。


ちょっぴり学生時代に戻りたいな思う佐織だった。






 



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