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雨の帰り道

雨足が次第に強くなる中、とぼとぼと歩きながら結衣はふと、今日何でカフェに行ったのかを思い出した。


結衣のトートバッグには、隼人のために作ったエプロンが入っていた。

それは、キャンバス地で作ったモスグリーンのエプロン。

胸にはペンを挿せる小さなポケットもつけた。


生地選びから裁断、ミシンで縫うところまで丁寧に心を込めて作ったエプロンだった。


一見地味でシンプルに見えるかもしれないけれど、大人の男性に相応しいものに仕上がったと思う。

華やかな顔立ちの隼人を際立たせる自信があった。


結衣は自宅で自分の作ったエプロンを身につけてカフェの仕事をしている隼人の姿まで想像してうっとりしていた。


でも、結局……渡せなかったなぁ。

隼人の体調不良、咲耶や家族の登場。

とてもエプロンを取り出して隼人に渡すことなんてできなかった。


あのエプロンを作っていた時間は自分にとって一番幸せな時間だったのかもしれない。


結衣は、傘の柄をギュッと握る。

不意に涙がこぼれてきた。

隼人さんは、いつも優しく接してくれる。

けれど私の存在なんて、彼にとってはちっぽけなものにのすぎないのだろう。


そう思うと次々と涙がこぼれ落ち、止まらなくなってしまった。


「森咲さん?」


紺色の傘を持った人が結衣の側に近づいてきた。


「えっ?」

結衣が顔を上げるとそこには、直也が立っていた。


「もしかして……森咲さん、泣いてたの?」

直也が結衣の顔を覗き込む。


「ちが……違うから。」

結衣は急いで涙を拭おうとするが、傘を持っていて上手くいかない。


「泣いている理由は、無理に聞かないけど。」


直也の言葉に結衣は黙って俯く。


「今日は日曜日だし、大学はないから、カフェ・エスポワールに行ってた?

俺は今、駅ビルに入っている本屋に来てたんだ。」


「理由は無理に聞かないんでしょ。」

結衣は直也を責めるように言った。


「あぁ、ごめん。ただ……君のことが気になるからさ。

あそこの店主の隼人さん絡みかなぁって何となく思ってしまって。」


「……だったら、何?」


「あの人は魅力的で凄い人だけど……皆の隼人さんであって、なかなか誰か一人のものにならなそうな気がしたよ。実際この間会ってみて。」


「私は、ただ……。隼人さんの顔を見ていたかっただけで。」


雨音が大きくなり、結衣の声もすぐにかき消されてしまう。


「森咲さん、俺ならいつも君の側にいてあげられる。」

直也の声が大きくなった。


結衣が直也を見上げる。


「俺じゃだめかな?」


すぐ側を車が水飛沫を上げて通り過ぎた。


「えっ?何て言ってるの?」


「俺じゃだめかって言ってるんだよ。」


車がいなくなり、やっと直也の声が結衣に届いた。


「私は……隼人さんが好きなのよ。

それなのに、そんなこと言われても。」

すっかり涙が乾いた結衣が驚いたように直也に言った。


「わかってるよ。

だけど俺のことも少しは考えてみて。

別に今すぐ返事しなくて良いからさ。」


結衣は困惑した表情で直也を見る。


「秒速で振らないでよ。

ゆっくり考えて。俺、いつまでも待ってるよ。」


直也は、笑顔でそう言った。


「引き止めてごめん。じゃあね。

気を付けて帰って。」


直也はそう言うと雨の中を駅の方に去っていった。


結衣は呆然と直也の後ろ姿を見送っていた。



その時……

そんな二人の様子を遠くから見ていたカップルがいた。


「ねぇ、あれは結衣ちゃんじゃない?」

佐織がすぐに気がついて言った。


佐織は、結衣にまだ直接会ったことはなかったが、彼女のInstagramを覗いたことがあり、顔を知っていた。


「うん。そうだね。相手の男性は誰だろう?」

勇太が見たことがない人物に興味を持ったという感じで佐織に語りかけた。


「さぁ……。

結衣ちゃんの大学の友だちかな?

結衣ちゃん、もしかしてカフェに行ってたのかもね。」


「えっ、隼人の所に……。

何か今の二人、意味深だったよな。」


「そうねぇ。よくわからないけど。」


「メガネをかけてたあいつ、結衣ちゃんのこと、好きなんじゃない?」

勇太が確信を突く。


「え?でも、結衣ちゃんは、隼人君が好きなんじゃ……。」  


「そうだよな。だから、あいつの片想いかもしれないよ。」


「あぁ……。」 


「結衣ちゃんも恐らく隼人に片想い状態だろ?」


「そんな……。片想いの人ばかりがいて、大変なことになってるよ。」


「だよな。」


「会社の先輩の日下部さんも咲耶に片想い中だし。」

佐織がため息をつく。


「えっ、あの人、やっぱりダメそうなの?

咲耶とデートしたって佐織から聞いてたけど。」


「咲耶がね、デートだとは思ってないわ。」


「そんな……。隼人の奴、その日下部さんの写真展に行って咲耶のことよく頼んできたとか言ってたけどな。

もしかして、無駄足だったのか?」


「えっ、そうなの?」


佐織と勇太は顔を見合わせた。


「と、とにかく隼人の様子を見に行こうぜ。

咲耶から連絡入ってるし。」


「うん。何か潤さんがカフェを回しているみたいよ。

珈琲淹れたりして。あと、由紀さんや真紀さんも来てるみたい。」


「そうなんだ。それは、もう、強力な助っ人たちだな。

チーム隼人だろ?名付けて。」


「チーム隼人か。そうだね、何と言っても咲耶がいるしね。」


「あぁ、咲耶ちゃんがチーム長だな。」


「なるほどね。咲耶がチーム長ね。」 


二人は雨の中を歩きながら、笑っていた。


「隼人が熱出したって聞いて驚いたけど何か安心したよ。」


「うん、もう、熱も下がってそう。」


「多分な。」


勇太たちが笑いながら隼人の話をしていた頃……


隼人は、体温計を見て

「あっ、熱、下がってる。薬、効いたのかな?」

と呟いていた。


カフェ・エスポワールは、チーム隼人によってピンチを救われた模様--。


咲耶はカフェの扉を開けて、佐織と勇太を招き入れた。


「二人とも、来てくれてありがとう。」

咲耶のとびきりの笑顔に癒された二人だった。















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