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眩しすぎる人

写真展、最終日。


午後1時過ぎのギャラリーには、十数名のお客さんが来ていた。


日下部は、来場してくれた友人や職場の先輩にギャラリーに飾られた自分の写真を説明していた。


一緒に写真展を主宰していた江口が、ギャラリーの入り口をふと見るとーー


ある青年が立っていた。

春の光を背に浴びて、逆光のためよく顔が見えない。


入り口近くの芳名帳に身を屈めて記帳した後、その人はギャラリーの中を歩いてきた。


江口は息を飲んだ。

誰だ?

あの特別なオーラを放っている人は?

まるで俳優のような顔立ち、品の良い身のこなし……。

彼は、展示してある作品、一つ一つを熱心に見ていた。


「日下部さん、あの人……日下部さんの知り合い?」 

江口に肩をたたかれて


「えっ?」と日下部は江口の方を振り向いた。


「どの人?」

江口の指差す方を見た日下部は、その顔立ちに見覚えがあり、はっとした。

彼は、咲耶によく似ていたのである。


「あの……」

日下部がその青年に近寄っていく。


作品を見ていた彼はゆっくりと顔を上げた。

「あぁ……もしかしたら日下部さんですか?」


「はい。」


「私は、咲耶の兄の竹村隼人です。

初めまして。

いつも妹と父がお世話になっています。」

笑顔で隼人が挨拶をした。


「どうも、初めまして。

お名前はいつも咲耶さんから伺っていました。

こちらの方こそ社長には日頃から大変お世話になっていて……。

今日はこちらまで足を運んで頂いたなんて、光栄です。」


日下部は、恐縮して頭を下げた。

日下部は、隼人の実の父、潤の会社で働いていた。


「そんな……頭を上げてください。

今日は僕、日下部さんの写真を見せていただくのを楽しみにして来たんですよ。

咲耶が日下部さんの写真展、凄く良いから是非見て欲しいって言っていたんで。」


「咲耶さんが……。」


「はい。咲耶が言った通りでした。

素晴らしいです、どの写真も。

日下部さんの写真を見ていると、ストーリーが自然と頭に浮かびます。」


「本当ですか?」


「はい。特にモノクロ写真。

光と影の対比の巧みさ……そしてそこにある色までが想像できて引き込まれました。」

隼人は嬉しそうに続けた。


「ありがとうございます。そんな風に言って頂いて……。」

日下部は隼人に自分の写真を絶賛され、感激していた。


咲耶さんと同じだ……。

この感じ。


日下部は、改めて目の前にいる隼人を見つめた。

うわべだけでなく、心で自分の写真を見ようとしてくれている。


咲耶と隼人の瞳は、その美しい心を映すように澄んで輝いているように見えた。


姿だけでなく、心まで綺麗な兄妹。


何かもう……感動した、二人に。

日下部は、咲耶が好きな気持ちは確かにあるが、咲耶と隼人の魂の結びつきのようなものに圧倒されていた。


隼人は思い出したように持っていた紙袋を日下部に差し出した。


「これ、良かったらそちらの方と一緒に召し上がってください。

お店で出しているチーズケーキです。

いつも母が作るんですが、今回、自分で作ってみました。」

紙袋の中には、ちゃんとプラスチックのフォークや紙皿、おしぼりまで入っている。


「えっ、それはありがとうございます。」


「写真展、今日までですよね。

途中で甘いものでも召し上がって最後まで走り抜けてください。」

隼人は、微笑みを浮かべながら日下部に紙袋を渡した。


日下部は、隼人にケーキを渡され、彼の細やかな気遣いに胸を熱くしていた。


「あっ、咲耶のこと、今後もよろしくお願いします。」


「いえ、そんな……。こちらこそ、今日はご足労頂きありがとうございました。」


隼人は丁寧に頭を下げるとギャラリーを去っていった。


日下部は、隼人がやって来て空気までが浄化されたような気分になった。

 

江口が隣に来て

「今の人、この間来ていた咲耶さんのお兄さんなんだよね。

何か爽やか過ぎて……しかも良い人で驚いたよ。

本当に綺麗な兄妹なんだね。」

と感心したように言った。


「あぁ……俺も驚いたよ。

実際に会ってみて、何か実感した。

あんな人が存在するんだなって。」


「カフェをやってるとか……繁盛するだろうな。

あの人が店主なら。」


「うん。」

日下部も同意するように頷いた。


咲耶さんは、隼人さんに高校時代に再会したって言っていたな……。

ということは、途中まで一緒に育っていない。

それって、特別なシチュエーションだよな。

咲耶さんにとって隼人さんが特別な存在だというのは、わかる。

わかり過ぎるぐらい……。

あの人を超える人なんているか?

この先ーー。

大変な人を兄に持ったな、咲耶さんは。


日下部の頭の中を様々な想いがぐるぐると巡った。


写真展を訪れる人が途絶えた時間に江口がお茶の用意をしてくれた。

珈琲といっしょに隼人からもらったチーズケーキを食べることにした二人。


ケーキを一口食べた途端、良質なチーズの風味、絶妙な甘味や仄かな酸味がハーモニーを生む。


「こ、これは旨いな。」

「うん。」

二人は、目を閉じてチーズケーキを味わった。


日下部は、あらゆる方面からもう、咲耶に告白する前に自分の恋愛が終わってしまったような気がしていた。


「完璧だ、あの人は。」

思わず日下部が呟く。


「えっ?何?」

江口が聞き返す。


「いや、何でもない。独り言だ。」

そういう日下部の声にはどこか吹っ切れたような響きがあった。


俺は男だけど、男の俺から見ても隼人さんは、良い男だ。

日下部はそう思いながら、チーズケーキを味わっていた。

自分の写真を褒めてくれた隼人を恨む気などない。

寧ろ、好きなくらいだ。


隼人さんという人は不思議な人だ。

会う人、みんなが彼を好きになるんじゃないかな。


日下部は、マグカップに入った珈琲を飲みながら、今日隼人に会えたことを大切に思い返すのだった。












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