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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第2章 殺すことを選んだ祓い

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第17話「救われる側の席」 その4 祈りが拒絶される場所

 空間が、明確に二つに割れた。


 集会所の中央。

 柔らかく包み込んでいた気配が、糸を断たれた布のように裂ける。


 梓が立つ場所は、静かだ。

 言葉が通じる余地が、まだ残っている。


 その反対側。

 影が、鋭利に凝縮していく。


 そこに、佐々木結衣が立っていた。


 いつからいたのかは分からない。

 気配は、最初から“無かった”。


 結衣は、周囲を一瞥する。


 椅子。

 影。

 床に残る、座っていた痕跡。


「……気持ち悪い」


 短く吐き捨てる。


「座らせて、

 動けなくして、

 選ばれた気にさせる」


 視線が、梓に向く。


「……まだ、話してた?」


 梓は、結衣を見る。


「……はい」


 声は、落ち着いている。


「戻れる可能性が、あります」


 結衣は、鼻で笑った。


「……無い」


 即答。


「戻らなくていいって言われて、

 座った時点で終わり」


 影が、ざわめく。


《……違う……》


《……ここは……》


 結衣は、影に視線を向けない。


 見ない。

 聞かない。


 それが、彼女のやり方だ。


「……梓」


 名前を呼ぶ。


「どかないなら、

 巻き込む」


 梓は、八鍵を下ろさなかった。


「……待ってください」


 敬語だが、

 声は、強い。


「この残響は、

 “救い”を餌にしています」


「知ってる」


「ですが、

 全員が、

 切られる必要はありません」


 結衣の指が、わずかに止まる。


「……甘い」


 低い声。


「救われる席を用意した時点で、

 これはもう、

 人を壊す装置だ」


 影の中央が、

 再び、形を持ち始める。


 人の輪郭。

 だが、顔は無い。


《……争わないで……》


《……ここにいれば……》


 梓は、一歩前に出た。


「……戻れます」


 影に向けて、はっきり言う。


「完全ではありません。

 傷も残ります」


 一拍。


「それでも、

 “生きている側”に戻れます」


 結衣の目が、細くなる。


「……それで、何人戻った?」


 梓は、答えなかった。


 答えられなかった。


 その沈黙が、

 結衣の答えだった。


「……だから、私は斬る」


 結衣は、構えた。


 滅殺用の祓詞が、

 八咫刃の奥で展開される。


 空気が、凍る。


 影が、悲鳴のように揺れる。


《……嫌だ……》


《……戻りたくない……》


 梓は、結衣を見た。


「……結衣」


 名前を呼ぶ。


「それでも、

 “選ばせない”ことはできます」


 結衣は、一瞬だけ、動きを止めた。


 ほんの一瞬。


 だが、その間に、

 影が、結衣に縋る。


《……助けて……》


《……ここに、いたい……》


 結衣の顔が、歪む。


「……離れろ」


 声が、低く震えた。


 影が、さらに近づく。


 その瞬間。


 結衣の中で、

 何かが、完全に切れた。


「……邪魔」


 祓詞が、放たれる。


 空間が、

 紙を破るような音を立てて裂けた。


 影は、

 悲鳴を上げる暇もなく、

 一気に削ぎ落とされる。


 座席。

 椅子。

 影。


 “救われる場所”そのものが、

 崩壊していく。


 梓は、目を閉じた。


(……間に合わなかった)


 世界が、反転する。

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