番外編 残響事案総合報告書──世界は既に書き換えられている」
県警内部資料
取扱注意・関係者限定閲覧
記録者:高峰修一(県警サイバー対策室)
本書は、近年発生した一連の異常事案について、捜査過程で確認された共通要素を整理し、今後の対応指針を構築する目的で作成されたものである。
なお、記載内容の多くは科学的・法的に分類不能であり、通常の事件記録には残されていない。
本資料においては、これらの現象を総称して「残響」と呼称する。
残響とは、過去に人間が抱いた強烈な感情──祈り、怨恨、執着、恐怖、信仰──が、情報構造のような性質を獲得し、現代の現実世界へ干渉する現象である。
残響には以下の特徴が共通して確認されている。
・物理法則のみでは説明不能
・音声、映像、記録といった情報媒体に欠落や改竄が発生
・特定の心理状態、土地、文化行為、人間関係を媒介に侵入
・被害者の人格、記憶、存在感が段階的に削られる
・完全な幻覚ではなく、複数人への同時侵食を伴う
これらは単一の異常現象ではなく、同一原理に基づく複数の発現形態である可能性が高い。
以下、判明している各事案を整理する。
⸻
file:1
団地消失エリア
分類:空間侵食型・集団記憶改変
老朽化した団地の一角が、住民の記憶および行政記録から段階的に消失した事案。
建造物の物理的崩壊ではなく、「存在していたという事実」そのものが上書きされていた。
居住者自身が喪失に気づけない点が特徴。
⸻
file:2
発電所跡・時間遅延事案
分類:時間認識歪曲型
廃発電施設周辺で、時間感覚の遅延および循環が発生。
被害者は行動の記憶を保持できず、現実感を喪失。
一名が重度の精神崩壊(幼児退行)に至った。
強制的排除は人格破壊のリスクが極めて高い。
⸻
file:3
受胎型連続殺人模倣事件
分類:受胎型(人格置換)
過去に死刑となった連続殺人犯の思念が、優等生高校生に侵入。
当初は模倣犯と判断されたが、宿主の人格が段階的に置換されていた。
自我の境界が侵され、最終的に殺人衝動が“本人の意思”に見える点が危険。
⸻
file:4
恐山関連事案
分類:自己侵食・精神共鳴型
調査協力者自身が精神領域に侵入し、残響と直接対峙した事案。
この件を境に、残響は単なる敵性存在ではなく、
世界の一部として存在し続けている可能性が示唆された。
⸻
file:5
病院・記録上書き事案
分類:記録改竄型・死者回収
病院内において、患者の生死・カルテ・存在記録が不整合を起こした。
死亡は否定されるのではなく、「回収」される形を取る。
医療記録という高密度情報空間が侵食を増幅させた。
⸻
file:6
影の消える交差点
分類:影喰い型・存在侵食
特定の交差点において、被害者の「影」が不定期に消失。
影を失った者は次第に自己認識が希薄化し、高熱と昏睡に至った。
精神世界では、影を食らう存在が確認されている。
影とは単なる遮光ではなく、
存在がそこに立っている証であるという仮説が有力。
⸻
file:7
響かない叫びの町
分類:情念侵食型・火性残響
一帯の住民が“叫べない”“声を上げられない”状態に陥った集合住宅事案。
強い情念、恋慕、焦燥が共鳴点となり侵食が拡大。
火災イメージと未成就の恋情が重なった残響が確認された。
被害者は激情を内側へ押し殺し、
結果として多数が精神崩壊、または自傷行為に至った。
⸻
file:8
神意同調圧力事案
分類:権威侵食型・神託依存
願いの「対価」交換による記憶上書き事案。
被害者は願いを叶える代わりに精神障害を起こし、記憶の欠損が発生した。
信仰と政治が結びついた思念の再生と見なされる。
⸻
file:9
眠りを奪う回廊
分類:熱侵食型・支配思念
短期間に九十名近い被害が発生。
不眠、発狂死が連続。
眠りを弱さと切り捨てる価値観が侵入。
極めて強力な残響と判明したが、再調和により沈静化。
⸻
file:10
声を喰う獅子
分類:文化侵食型・存在剥奪
能楽堂にて声および存在感が段階的に奪われた。
芸の完成度を価値基準とする思想が独立行動を開始。
音を介さない修正技術の必要性が明確になった。
⸻
現時点で確認される残響分類は以下。
・空間侵食型
・時間歪曲型
・受胎型
・記録上書き型
・影喰い型
・情念侵食型
・文化侵食型
・権威侵食型
これらはすべて、
人間が積み重ねてきた歴史・信仰・文化が歪んだ形で再起動した結果と考えられる。
⸻
個人的所感を最後に記す。
残響は排除すべき敵ではあるが、
同時に、人間社会が生み出した影でもある。
消すことは容易でも、
戻すことは難しい。
修正という選択肢が失われたとき、
次に上書きされるのは、
我々自身の存在だろう。
以上。
県警サイバー対策室
高峰 修一




