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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第2章 殺すことを選んだ祓い

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第20話 喰われる塔、飢えの手足 その4 手長、足長―籠城の亡霊

最初の一撃で、結衣は悟った。


――これは、斬り合いじゃない。


視界の外側から、腕が伸びてくる。

空間を掴むように、逃げ道そのものを絡め取る動き。


避けたと思った瞬間、距離はもう無い。


長い。

異常なまでに。


腕というより、間合いが伸びている。


結衣は八咫刀を振るい、断祈を叩き込む。

紫電が走り、肉を裂く。


だが止まらない。


裂かれたはずの腕は、別の角度から再び迫る。

一本ではない。

重なり合い、包囲する。


「……っ!」


後退した瞬間、床が沈んだ。


上だ。


結衣は反射で身を捻る。


次の瞬間、脚が落ちてきた。

踏み潰すための、真っ直ぐな落下。


衝撃が空気を叩き潰し、床が割れる。

一瞬遅れていれば、骨ごと砕かれていた。


(……連携!?)


腕が捕らえ、脚が殺す。

偶然じゃない。

何度も繰り返された動きだ。


結衣は息を詰めたまま、再び腕を斬る。

だが、その先に必ず脚の影が重なる。


逃げる方向を、完全に読まれている。


その時、腕の内側から声が滲んだ。


《……腹が、減った……》


掠れ、重なり、飢えだけが残った声。


《兵糧は尽き……それでも、城は……》


結衣の背筋が粟立つ。


声が、続く。


《我は――山 善左衛門(やま ぜんざえもん)


名を名乗った。


誇りでも威嚇でもない。

ただ、思い出しただけのような声。


直後、天井側から別の声が応じる。


《喰わせろ……まだ……終わっておらぬ……》


脚が、床を砕きながら迫る。


「我は――大矢野 松右衛門(おおやの まつえもん)


《……二ノ丸……!》


《……挟め……逃がすな……!》


動きが、さらに洗練される。


腕が退路を封じ、脚が落とす。

逃げ場を潰す配置。


(……戦場の動き)


結衣は歯を食いしばる。


後退するほど、空間が狭まる。

壁が近い。

逃げ切れない。


背後から、腕が絡みついた。


「……っ!」


拘束。


同時に、脚の影が落ちる。


(――まずい)


結衣は八咫刀を逆手にし、床を斬る。

紫電が走り、空間が歪む。


辛うじて抜け出すが、体勢を崩した。


膝をつく。


息が荒い。


攻める余裕がない。

零域を使う隙も無い。


完全な防戦。


《……まだ喰える……》


《……まだ生きている……》


二つの声が重なる。


その瞬間――

空気が、僅かに変わった。


冷たい線が走る。


腕の動きが、一瞬だけ鈍る。

脚の落下が、わずかにずれる。


「……?」


結衣が顔を上げる。


青白い光。

結界。


「……遅れました……!」


必死に抑えた声。


真名井梓だった。


八鍵を構え、修正を走らせている。

完全ではない。

だが、連携が一瞬、噛み合わなくなる。


それで、十分だった。


「……今だ……!」


結衣は立ち上がる。


梓が足長――大矢野松右衛門を引きつける。

完全には止められないが、進路を狂わせている。


結衣は、手長へ向き直った。


拘束の要。

連携の起点。


《……まだ……城は……》


山善左衛門の声が揺れる。


断祈。


紫電が、腕の根元を貫いた。


《……あ……っ!》


初めて、手長が大きく体勢を崩す。


「結衣、今のうちに……!」


梓の声。


結衣は迷わない。


二太刀、三太刀。

逃げる暇を与えない。


最後は、中心。


一閃。


山善左衛門は、音もなく崩れ落ちた。


同時に、足長が暴れる。


《……松右衛門……!》


梓の結界が軋む。


「……っ、抑えきれない……!」


結衣は走った。


断祈。


脚を裂き、体勢を崩す。


梓が一瞬、足を止める。


その隙を、結衣が逃さない。


刃を深く突き立てる。


紫電が、内側から爆ぜた。


大矢野松右衛門は、声を上げる暇もなく霧散した。


静寂。


結衣は、肩で息をする。


「……助かりました」


梓が呟く。


結衣は刀を下ろしたまま答えた。


「……助かったのは、私」


二つの名が消え、

それでも――


残響は、確実に強くなっている。


その事実だけが、

胸の奥に重く残っていた。

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